Pepperを使って笑いの研究をする慶應義塾大学SFC白井宏美准教授にお話を伺いました

先日、Pepperを使って笑いの授業を行っているゼミを見学にSFCに行ってきました。

慶應義塾大学SFC白井宏美研究室のゼミに行ってきました。 | ロボスタ

その授業を担当されている白井宏美准教授は、2011年度に慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)に准教授として着任、所属は総合政策学部です。

▽白井宏美研究室 言語とコミュニケーション

専門は大きく言うと言語学で、その中のドイツ語学 談話分析 コミュニケーション論というのを主に専門とされています。

「談話分析」とは、実際の会話や雑談などをデータとしてその中の情報構造や対人関係の言語運用に着目し、傾向や規範を見つけ出していくというもの。そこに日独比較の視点も入っているのが白井先生の研究だそうです。

そんな白井先生がどうしてPepperを使って笑いの研究を行ってみようと思ったのか、色々とお話を伺ってきました。



■今の時代のコミュニケーションの達人とは

2011年SFCに来て研究会(ゼミ)を持った時、学生が「すべらない話はなぜすべらないのか」を解明したいと私に言ってきました。その後、2015年に「何が人を惹きつけるのか」という研究テーマを設定した際、研究対象を誰にしたいか学生にアンケートをとってみたら8割が芸人の方だったんです。

今、人を惹きつけるというコミュニケーションの見本・達人となるものを探すと、どうしても芸人の方になります。具体的には明石家さんまさん、マツコ・デラックスさん、有吉弘行さんなどでしょうか。

学生は談話分析などの理論を勉強して、芸人さんが出ているテレビ番組をデータにして分析を行いました。具体的には、会話スタイルやあいづち、間(ま)などを使い分けて、毒舌なのにどのように人を惹きつけることができるのか、どのように相手の話を引き出すかなどです。

そこから理論的にはこういうあいづちや間がいいっていうのは出てきます。でも、それを実践に移すにはどうすればよいかが大きな問題でした。

芸人さんの分析結果を、私たち一般人のコミュニケーションに直結させるのは難しいですし、プロの芸人同士の漫才で使ってもらうわけにもいかないですし。



■ロボットを使って笑い生み出そうと思ったきっかけ

SFCにはORF(Open Research Forum)という研究発表会が年1回毎年あります。

▽慶應義塾大学SFC研究所|SFC Open Research Forum 2015

東京ミッドタウンを会場にして行われるんですが、白井研の研究成果も毎年発表しています。昨年度も企業の方から高校生まで色々な方が見にこられて、色々なご意見をいただきました。

そこで来場者の方と、石黒浩先生と平田オリザさんによるロボットやアンドロイドを使った演劇の話になったんですね。

参考記事:アンドロイド演劇とは ロボットの演技で人は泣く – ログミー

ロボットやアンドロイドを使った演劇表現をされている方はいるけど、そこに「笑い」は入っていないので、芸人さんの分析結果を活かして、ロボットと笑いをつなげてみてはどうかというご意見もいただきました。

以前から漫才とロボットには興味があって色々と見てきていて、大学でロボット同士の漫才を研究しているのも見たことがありました。正直いうとかなりの労力を重ねても「え?こんなことしかできないの」という感想でした。

そうこう考えていた時にPepperと人間で漫才をしているペッパーズを知りました。

ペッパーズを見て初めてロボット漫才で笑えたんです。間が素晴らしくて面白かったのですぐに会いに行き、どうやってこの間を作っているのかを聞いてみました。操作する人が間をとりながらリアルタイムでPepperを操作していると。人工知能では、まだこのような間を作ることはできないということを知りました。

参考記事:ロボット漫才「ペッパーズ」にお話を伺いました | ロボスタ

であればロボットの専門家ではない我々でもロボットを使って笑いを表現できるんじゃないだろうか、面白い道が開けるんじゃないだろうかと思いました。

Pepperを使って漫才をやってみるという形で今まで研究してきたあいづちや間の研究結果を表現してみるのはどうだろうと考え始めたのが、今年やっている「Pepperを使って笑いを生み出す」というプロジェクトに至ったきっかけだったんですね。

自分たちの研究してきたことを実践に移すというのは、社会に対して発信をしたり、問題を投げかけていくということですし。



■コミュニケーションロボットと「三ヶ月の壁」

一方、社会の状況ではPepperというコミュニケーションロボットが世に出て、だんだんと店舗や一般家庭に入ってきています。

私の知り合いでもPepperを買った人が何人かいるんですよ。最初はFacebookなどに色々とPepperと何をしていたかをあげていたんですが、三ヶ月も経つとだんだんとあげなくなってきて。いわゆる「三ヶ月の壁」ってあって、コミュニケーションロボットは三ヶ月で飽きるということが言われてきています。

話しかけてもいい間で返答してくれないし、毎回面白い返しはくるわけではないですよね。あいづちや間がうまくいかないから飽きてしまうのかと思っていたので、ロボットの専門家に「ペッパーズの間を人工知能などで実現できるんですか?」と聞いてみたところ、どなたも相手の言ったことにうまい返しや間が実現するのはまだ先になるだろうという答えでした。



■授業でPepperを使う理由

PepperはChoregrapheを使えばプログラミングをやったことがない人でも動かすことができます。私と学生たちは全員アトリエ秋葉原の無料講習を受けて、基本的な発話や動きは作れるようになりました。

漫才というお笑いを研究しても、自分で実践したり体現したりとなると学生同士でいきなり漫才するのも難しいです。そこでPepperを相方にしてChoregrapheを使い漫才をやるとなると、ちょっとハードルが下がって研究結果の実践の入り口になります。学生からはPepperを使っていると面白いという意見もあります。

私はロボティクスやプログラミングや人工知能の専門領域ではなく、言語学が専門です。言語学の領域でもPepperを使わせてもらい、Pepperを通じて表現できるということで、私はPepperに対して本質的なロボットとは違った捉え方をしています。

まだ人工知能で適切な間やあいづちが再現できないのであれば、私たちが研究分析してきた理想的な間、理想的な返しをPepperを使って実際に作ってみてはどうだろうか。理論を実践してみてPepper漫才という形で発信していくことで、こういう時にはこういう間や返しが欲しいんだよという提案にもしたいという思いがあって、今学期はPepperとお笑いをやってみようと思いました。

Pepper漫才が作れたら、それを披露するお笑いライブのようなこと(実証実験)をやってみたいですね。ペッパーズさんとのコラボ漫才もやってみたいです。そこから今後「ヒトとロボット漫才」というジャンルができても面白いと思っています。

また、教育エンタテインメントにも取り入れたいと考えています。現在、教育エンタメに関するプロジェクトは盛んになりつつあり、歌、ダンス、演技などはよく目にしますけど、お笑いを取り入れたものはまだ少ないですから。



■今後のコミュニケーションロボットに期待するもの

私たちが分析した間やあいづちをロボットを使って作って表現してみるので、それを人工知能などの専門家の方に見ていただきたいです。そして、人工知能などで実際にできるようになるのが夢です。

ペットの猫や犬って人の言葉を喋れないけど、飼っていて飽きないですよね。それは非言語行動があるからなんですが、喋ることができるPepperが適切な間やあいづちを使い分けることができるようになれば、ペット以上にかわいくなるでしょうし、飽きないものになるんじゃないかと思います。

お話は以上です。白井先生ありがとうございました。

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北構 武憲
北構 武憲

本業はコミュニケーションロボットに関するコンサルティング。主にハッカソン・アイデアソンやロボットが導入された現場への取材を行います。コミュニケーションロボットがどのように社会に浸透していくかに注目しています。

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