物語の力でロボットを導入する環境を整える 「karakuri products」松村礼央氏インタビュー

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フィクションとリアルの循環

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Maker Faire Tokyo 2016に出展された「攻殻機動隊 S.A.C. タチコマ 1/2サイズ・リアライズプロジェクト」

8月6日、7日の日程で東京ビッグサイトで開催された「Maker Faire Tokyo 2016」。8月6日には「”SFにおけるロボット”を活用したMAKE。その現在と未来。 攻殻機動隊 S.A.C. タチコマを活用した創作活動の広がり」と題したパネルディスカッションが行われた。


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パネルディスカッション「”SFにおけるロボット”を活用したMAKE。その現在と未来。」の様子

「タチコマ」とはアニメ作品「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズに登場する思考戦車。ロボットだ。パネルでは「攻殻機動隊 S.A.C. タチコマ 1/2サイズ・リアライズプロジェクト(http://project-tachikoma.com)」で、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT、株式会社DMM.comそして海内工業と共同で1/2サイズの「タチコマ」を制作しているkarakuri products 代表の松村礼央氏が中心となり、アニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズにおいてタチコマのメカデザインを行った寺岡賢司氏、タチコマが好きでスクラッチしたことから模型雑誌にデビューしたむーすけ氏のほか、二次創作として1/5スケールのタチコマを制作しているチーム Partmaton(http://partmaton.org)、おなじく二次創作としてアニメ「攻殻機動隊ARISE」に登場する思考戦車「ロジコマ」を制作しているチーム 青葉山技研など、タチコマをロボットとして具現化しようとしている人々が集まり、SFを活用したものづくりの現状と今後の展望についてディスカッションを行った。


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チーム Partmatonによる1/5スケール「タチコマ」

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チーム 青葉山技研による「ロジコマ」

フィクションを単に消費するだけではなく、現実化したいと考えたファンの二次創作活動。それが広く共有されることで、オリジナルにも影響を与える。両者の循環が興味深い。松村礼央氏に改めて話を伺った。


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松村礼央(まつむら・れお) 氏。博士。karakuri products 代表、株式会社タスカケル 取締役。東京大学 先端研 特任研究員。




ロボット普及の環境づくりには物語も利用できる

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1/2 タチコマ。6月に行われた「日本ものづくりワールド」ストラタシス ブースでの展示風景

攻殻機動隊の世界に登場するタチコマだが、タチコマは劇中ストーリーでは社会に広く普及した存在ではない。また攻殻機動隊の世界では、暗に人より賢い知能を持つ自律ロボットは存在していない設定になっている。

主人公たちが在籍する公安9課には人型ロボットがオペレーターとして存在しているが、彼らは自律して動作する一方、循環し論理矛盾を引き起こす問題(自己言及のパラドックス)は解けないとされている。何らかのかたちで人を超える能力を持つロボットは必ず自律性が制限された非人型となっている。つまり、あの世界で人のようにコミュニケーションできる自律型のロボットはタチコマだけなのだ。


■ タチコマな日々 第1話(バンダイチャンネル)

ユーモラスかつ哲学的な会話はファンを魅了している

街中でタチコマが動きまわるようなシーンはほとんど描かれてない。しかしながらファンたちは「タチコマが街中にいてほしい」と思っている。たとえばカフェでコーヒーを運んできてもらいたいとか、介護してほしいとみんなが言うのだそうだ。介護に関してはタチコマが施設で働く姿は描かれているものの、具体的にどのような介護をしているかは描かれていない。要するに、実際の劇中で具体的なそんなシーンはないにもかかわらず、みんながイメージを膨らませているのである。

松村氏はロボットを社会に具現化して入れていくためには、ロボット本体の機能だけではなく、環境づくりが重要だと考えている。ロボットは実社会ではまだ普及前の段階だ。だがフィクションを通じてユーザーのなかのロボットというイメージは既にできている。「ハード的なインフラではなく、車でいうところのルールであるとか『車ってこういうもんだよね』っていう事前の前提条件の共有は重要」だと松村氏は語る。

そのための「呼び水」としてタチコマを利用しようというのが「タチコマ 1/2サイズ・リアライズプロジェクト」の本当の狙いだ。

タチコマを知っている人であれば、必然的に3つの穴が空いたアイボール部分でアイコンタクトをしようとする。手を動かしていれば手をさわりたがる。つまり、多くの人が思っていたようなものをかたちにすることで、ロボットに向かいあうときの心構えや作法のようなものが共有されるのだ。松村氏は研究者だった時代に手伝ったATRでの実証実験などでも常にこの必要性を感じていたという。

「前提が共有されていれば、相手があわせてくれれば下手に追尾する必要はない。技術的にやらないといけない条件が緩和される。境界条件を緩くしていくことがロボットでは必要です」

技術的に実装しなければならないことが減れば、そのぶん導入側のコストも減る。導入するのであれば、導入側にコストを上回るメリットがないとまったく続かない。「タチコマなら集客できるよねというなら、やろうよ、どうしてやらないの、というのが私の考えです」

「研究だからアニメのキャラが使えないとか、アニメのキャラならロボットじゃなくても集客できるというのは、アカデミアにおいては真だと思います。一方で商業でのロボットの利活用を考える場合、それは言い訳でしかない。キャラを模しているなら商業的には動かさなくてもいい(ハリボテでもいい)というなら、その性質を活かしてインフラのコスト回収を最優先にすればいいじゃないですか」。



タチコマが平成28年度ロボット導入実証事業に採択

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1/2サイズ タチコマ。5月に渋谷IGストアで展示されていたときの様子。

8月5日、経済産業省から「平成28年度ロボット導入実証事業」の二次締切分の採択が発表された(一覧 http://www.meti.go.jp/press/2016/08/20160805001/20160805001-1.pdf)。「タチコマ・リアライズプロジェクト」も、「ロボットによる新たなサービスの実現」の一つ「小売店舗における接客業務にスマホと連携したキャラクタロボットを導入」として、事業者:株式会社ムービック/SIer:karakuri productsとして採択されている。

今後、実証実験を行っていく予定だ。松村氏によれば、経済産業省がキャラクタコンテンツ+ロボットでプロジェクトを採択したのは初めてだという。



「タチコマ」を通した接客が生み出す価値 〜 消費のデザイン

具体的には、スマートフォンのアプリをつかってユーザーがバーチャルな自分だけのタチコマを育て、それを実店舗に設置するロボット実機に憑依させて、ユーザーの購買・来店実績などに合わせて段階的にサービスをうけられるようなものを想定している(このようなエージェントと実機の連動に関しては、小川浩平氏(現 石黒特研)の研究「ITACO:メディア間を移動可能なエージェントによる偏在知の実現(http://www.interaction-ipsj.org/archives/paper2005/pdf2005/interactive/A151.pdf)」に詳しい)。

集客だけでなく接客時間の倍増、顧客に対するリーチバリューの向上を狙っている。

ロボットは自律動作のほか、遠隔操作も行う。「普通のバイトさんが接客してもわくわくしないけど、タチコマというパーソナリティを経由して接客できれば体験としては新しくなる」。

重要なのは「パーソナリティの切り替え」だという。たとえばディズニーランドで人気があるミッキーマウスは、象徴として人気がある存在だ。中身がどうであれ関係ない。そのようなシステムを一般店舗に設置したロボットで構築したいという。安全性の確保を考えても「遠隔操作が現状の局所最適解かなと思っている」(松村氏)。

遠隔操作といっても細かく人が操作するわけではない。事前にスマフォのアプリ上でユーザーから名前などを登録してもらった上で、店員さんは「名前を呼ぶ」といったボタンを押す。すると名前が再生されるといったものだ。予約された商品を店頭で受け渡すといったサービスも考えているという。

単純な作業だが「やってもらって嬉しいかどうかは、誰にやってもらうかが重要。誰でもいいわけではない。この人だから、このキャラクターだからこそ、こういう給仕をしてほしいという部分がある」(松村氏)。

そうなってくると、遠隔操作がうまい店員さんも出てきそうだ。システムが学習すべき部分は複雑な対話文などではなく、どのタイミングでどのボタンを押しているのかといった接客タイミングではないかと考えているという。

「ロボティクスの技術を使って何を消費するのかをデザインすべきです。それは工学的な観点での便利・快適というだけではない」。そのため、松村氏は「なんでも屋」になりはじめていると笑う。「技術だけで人に買ってもらえるわけじゃない。すごいプラットフォームを作っただけで売れるわけではない。どんなロボットにどんな環境でサービスしてもらうべきなのかは考えないといけない」と強調する。



導入コストを上回るコンテンツ性をロボットに持たせることが必須

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ロボット+知能化システム+アルファを目指す

「単純にロボットを作りました、では商売にならない」と松村氏は語る。また、「環境の知能化が研究で成果をあげたにもかかわらず、現状で普及していないのは効果が一過性であるか、誰も得をしないから」だ。ロボットを社会に入れるためには技術(ロボット本体+環境の知能化)だけでは不十分だ。それを維持管理するメリットまで含めてデザインしなければならないし、それを支えるだけのコンテンツ性・消費性がある存在が必要とされる。

松村氏は、自分たちの知能化技術やコンテンツを入れないと、アプリを通じてキャラを育てて実空間で楽しむといったことができないような仕組み全体を作ろうとしている。「PokemonGO」の考え方とも似ている。「知能化システム自体を入れていくことが導入側にプラスになるという仕組みづくりが必要です。価値を作って、その価値で商売しないと意味がない」。最低限、売り上げが担保できるコンテンツを見せて、やれることを増やしていこうとしているという。

このような具現化の活動は、作り手にもやがてフィードバックされる。フィクションの作り手側も、「次」をどう描くかという問題を常に抱えている。SF=未来というわけではないが、未来予測ものはこれまでにも何度も描かれていて、ある意味では語りつくされた世界だ。

そこに、現実からフィードバックを受けて新たな未来予測を重ねながら「その次」をどう描くか。そのためにも、フィクション側と具現化側、双方がインタラクションしながら、互いに「その次のイメージ」を重ねていく必要がある。



フィクションには「人の心が動く無茶」を描いてほしい

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フィクションには「人の心を動かす荒唐無稽」を期待するという

では松村氏はフィクションには何を期待するのか。改めて聞いてみた。すると「ちょっと無理なことをフィクションにやってもらいたいなというところはある」と答えが返ってきた。「現実に齟齬がないストーリーはあっていい。だけど、現実にやると、ちょっと、そこはきびしいなと感じるところを混ぜてほしい」という。

たとえば理屈で考えると「タチコマ」のデザインはでてこない。中に人が入ることもあるお尻の部分が大きすぎて、不安定だ。


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大きなお尻はタチコマの特徴の一つ。

だが、ファンは、そこに愛着があるから、どうやって実現できるかを考える。また、ガンダムのプラモデルにもフィクションとリアルの相互作用の面白さを感じたそうだ。

フィクションがちょっと無茶なことを言うことで、技術を次のグレードまで引き上げる。それが良い循環だという。人気の漫画「宇宙兄弟」にもそれは感じるそうだ。「宇宙兄弟」にも月面で活動するロボットが出てくるが、そのロボットのコミュニケーション能力は、ほぼ完全にフィクションの領域だ。

「宇宙兄弟」が連載されている週刊コミック誌「モーニング」(講談社)では、「アイアンバディ」(著/左藤真通)というロボットをテーマにした漫画連載も始まったばかりだ。「アイアンバディ」については「現実に近づけ過ぎないほうがいいんじゃないか」と思っているという。


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週刊コミック誌「モーニング」で 連載中の『アイアンバディ』(著/左藤真通)。ロボットを作るエンジニアたちの姿を描く

「アイアンバディ」第一話(ウェブ上で試読可能 http://www.moae.jp/comic/ironbuddy/1)では、バットで殴っても倒れない二足歩行ロボット「ロビンソン」が登場する。


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「アイアンバディ」第一話 冒頭シーン。© 左藤真通/講談社

「ロボット技術者から見ると『現状では無理だよね』ということも話のなかで出てきて、ストーリー上うまく組み込まれていてほしい。フィクションは『え、できないの?』って煽るくらいで良いんですよ。フィクションには常に、ある程度の無茶をやってもらいたいなあと思います」。

タチコマにも「こういうことをしてほしい」という意見を非常に多くもらうという。たとえばチラシ配りだ。

実はロボットによるチラシ配りはATRがロボビーで実現している(https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research/nenpou/h25/JST_1111071_10101454_2013_YR.pdf)。人の流れをさえぎらずにチラシを配ることで、チラシ配りがうまい人と同じくらいの7割の確率で受け取ってもらえたという実験で、実はすごいことをやっているのだが、非常に地味な技術だ。地味でさりげないが、すごい技術。現実はそういうものなのだ。


■ ロボビーを使ったチラシ配りの実験

フィクションに対しては、「人の心が動く無茶を描いてほしい」という。「それが(松村氏のような技術系読者の)現実に対してフィードバックをかけていこうというモチベーションにも繋がってると思うんですよね」。

大事なことは「無理のいいかた」だ。「荒唐無稽でも、それが人々の心を動かす荒唐無稽ならやればいい」。

映画「インターステラー」に登場したロボット「TARS(ターズ)」は、一見現実的に見えて、映画途中からは技術的には無理でしょとしか思えないような大活躍をする。「あの無茶はここち良い無茶だし、ストーリー上、いい味を出している。そういうストーリーの描き方は重要なんじゃないかなあという気がしてます」。


■ 「インターステラー」トレーラー

できれば、グルメ漫画にたとえると「ミスター味っ子」のようなロボット漫画が読みたいという。「ミスター味っ子はむちゃくちゃだけど、そこが楽しい。フィクションの人たちはゲームデザインをぶち壊す側なんです。無理なデザインをしこんでおいて、何個かの種が、技術的に挑戦しようと思えるタイミングで芽吹く。現実だって、理屈だけできまるわけじゃないですよね。そういったリアルさと荒唐無稽さが欲しいです」。

フィクションと技術。両方に理解を示すデザイナー。両者の相乗効果がないと「次」に進めない。だから十年前のロボットブームは社会への実装がうまく進まなかった。だが、今回のブームではそこを理解している自分がいる—-。松村氏はそんな自負を見せてくれた。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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