【羽田卓生のロボットビジネス入門vol.2】コミュニケーションロボットの運用実践ノウハウ
前回のコラムでロボットのB向け(ビジネス・法人向け)市場が立ち上がってきたことをご紹介したが、今回はその中でも良い導入事例を「模範事例」としてご紹介していきたい。特に、製造業向けではない一般企業・団体の「対消費者向け」の事例を中心に解説する。
そもそもロボットは不完全
「ロボット」と聞くと、鉄腕アトムのように、パワフルで、会話もちゃんとできて、頭の良いものを思い描く人も多いかもしれない。
そこまで完全なものではなくても、新しい機器ゆえに、期待値が高い方も多いのではないかと思う。しかし、実際のロボットはまだまだ不完全である。
何でもできるロボットなんて万能なものは存在せず、会話の内容も限定的だ。そして運用する環境にも制限があり、尚且つ壊れやすい。雨水なんて全くもってNGだ。
その他にも苦手なものが多い。それがロボットの実態である。
等身大ロボットを管理するときに、介護リフトに吊って管理することもある。介護リフトはちょうどサイズが等身大ロボットに合うこともあって便利だからだ。ロボット自体がまだ「要介護レベル」とも言える。
ロボットにしかできないこともある
一方で、ロボットにしかできないこともある。
決められたことを毎回同じように行うことは得意で、また人間には覚えきれない情報量を暗記することも得意だ。人間のように感情には左右されず、人間よりも忍耐力だってある。
不完全であることをちゃんと認識し、ロボットにしかできないことを活かした「ロボットならではの適材適所」を行うことでロボットの良さを引き出すことができる。
■ ロボットが得意なこと
・正確さ
・暗記
・忍耐
■ ロボットが苦手なこと(もの)
・広範囲への移動
・水、液体
・高温
・雑音(音声認識する場合)
・明るすぎる場所、暗すぎる場所(画像認識する場合)
・故障(ときどき止まる、壊れる)
これらの得手・不得手を考えて、適材適所にいかにロボットを配置できるか。これが今のロボットのB向け運用の重要なポイントだ。
上記を、考えると、
2.外乱(光・音・無線など)が少ない場所での運用
3.万が一、壊れた時のための代替手段の用意
の3つがロボット運用の前提条件になると言える。
1.室内での運用
屋外は雨天のリスクなどもあり基本的に運用には適していない。万が一、悪天候の場合には運用しなくてもいいのであれば、屋外での企画はあり得る。
2.外乱(光・音)が少ない場所
ロボットにさせたい仕事に応じて、排除しなければならない事柄もある。音声認識をさせたいのに、騒音が多い場所に置くのはNG。
そもそも人間だって、騒音の中では言葉を聞き取りにくいこともある。人間にもできないことは、ロボットにはもっと難しい。無線区間(無線LANや、Bluetoothなど)の問題でうまく運用できないケースも多い。通信が必須のケースではこれは致命傷になる。無線区間がうまくいかないことも想定したバックアッププランが必要だ。
私は、ロボットが働きやすいように考慮された場所を「ロボットバリアフリー」と呼んでいるが、運用時には「ロボットバリアフリー」の場所を人間側で用意してあげる必要がある。人よりも働く環境を選ぶのが今のロボットなのだ。
3.万が一、壊れた時のための代替手段の用意
どんなロボット運用でも、当然壊れる可能性がある。うまく運用ができない可能性を考えて「プランB」の準備は必須だ。
プランBとして以下の3つを検討する必要がある。
・部分的な運用を行う代替案
・人による代替運用案
単発イベントや一定期間運用するケースでは対応が異なるが、ロボットに全くトラブルが起きないことは想定せずに、最悪のケースを考えて、上記のようなプランBを準備して臨むことが重要だ。
ロボット運用模範事例
それでは、実際の運用事例の中から、模範となるような事例をご紹介していく。今回は、以下の3つのポイントに注目した。
2.ロボットと接しやすくする工夫
3.ロボットの役割を減らす工夫
1.ロボットの役割を分かりやすくする工夫
人間は、パッと見ただけで、相手の仕事内容を理解できることが多い。ホテルを例に挙げると分かりやすい。ホテルには、ドアマン、ベルボーイ、コンシェルジュ、フロントなど様々な職種があるが、これらの役割をどのホテルスタッフが担っているのかを、宿泊客は一目で理解する。
理由は「制服」だ。それぞれの職種によって、制服が異なる。その制服の違いで、宿泊客は役割の違いを知ることができるのだ。
ロボットに制服を着せる事例はすでに多い。
・変なホテルのフロントロボ
ココロ製のアクトロイドが変なホテルのスタッフと同じ制服を着用している。ちゃんと名札などの小物もつけており、このロボットがフロント業務をやってくれるのを明示的にしている。
・京急 羽田空港駅のPepper
駅員の帽子をかぶり、制服デザインのデコレーションがされている。これにより、駅員の一部業務をしてくれることがわかりやすい。
ロボットの役割がわかると、その役割に適切な接し方を人間の方がとってくれるもの。それによって、ロボット運用の精度がアップする効果がある。
2.接しやすいロボット
ロボットが店頭や受付などに置いてある。「さぁ、話しかけてください」。それはなかなか難しいものだ。
唐突な「何か喋って」というリクエストはロボットに対しても、人に対しても難しいもの。やはり、接し方がわかりやすいのが重要なのだ。
前提として、ロボットの役割が分かりやすいことが重要となる。その上で、ロボット側から質問する形で、会話を誘導する必要がある。
仮に、八百屋さんの商品説明ロボットという設定としてみよう。当然、八百屋さんの店頭にそのロボットは設置されている。そして、お客様に対して「今日は大根が安いよ。いかがですか?」と投げかける。こういうパターンは接しやすい。
また、この質問に対して、お客様が答えれば、会話を進めれば良いが、お客様もロボットの相手をしたくないことだってある。
そんな、無視をしたお客様に対して、しつこく聞き返してはいけない。「いま、聞き取れなかったよ。大根はいかがですか?」というのは、イラッとくるパターンになる。
適当なタイミングで引いてくれるのが良い距離感だ。
ロボットの接し方にもコツがある。ちょうどいい距離や角度から、うまく話しかけてあげる。某ロボットの作者は、テレビ番組などでも、音声認識を失敗させない。
それは良い塩梅な話し掛け方をされているからであり、偶然ではない。それをロボットに慣れていない方に、覚えてもらうことは難しい。
そこで、ロボットに声をかけるちょうどいい距離に、線を引いたり、足裏マークを描いたりすると、そこに立って話せばいいとわかりやすくなる。そういう小さい工夫がまだまだ必要だ。
3.ロボットの役割を減らす工夫
なんでもかんでもロボットに役割を持たせると、まだまだ上手くいかないことが多い。複雑な業務を安定的にこなすのはまだ先だろう。故障リスクだってある。
それ故に、役割は少ないほうが確実性が高い。例えば、サイネージとの組み合わせや、タブレットなどと組み合わせて業務をさせる方法がある。
ロボットの傍にあるタブレットで情報を表示し、ロボット利用者にはタブレットを操作してもらう。それをインプットとして、ロボットが動作すれば音声認識での失敗はなくなる。雑踏などのうるさい場所で音声認識をさせようとしても、上手くいかないことが多い。
米国・シカゴの博物館では、ロボットの常設展示が行われているが、そこのロボットが故障した場合には、来場者が見える場所で修理を行うこともあるようだ。
博物館のような場所では、修理も展示になるのだろうが、なかなかこのようなシチュエーションは少ない。ロボットが故障すれば、舞台裏や工場で修理を行うしかない。そして、その修理期間の代替手段は必ず必要となる。そのためにも、役割が少ないほうがまだ無難と言える。
まとめると、ロボットの運用に関して重要なことは、まずは適切にロボットの能力を見極めること。そして適材適所にロボットを配置することだ。
ロボットが世の中で希少性が高い今だからこそ、ロボットで生産的な運用方法をいち早く身に着ける必要がある。
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羽田 卓生1998年にソフトバンク入社後、メディアビジネスや通信ビジネスに主に従事。2013年のアスラテックの立ち上げ時より同社に参画。現在、事業開発部門の責任者を務める。任意団体ロボットパイオニアフォーラムジャパン代表幹事。