【中国ロボット市場最前線 vol.01】加速する中国ロボット産業の最新事情〜国家政策と優遇措置
中国の産業界は今、製造力のアップグレード、製品品質の向上(均一化、高度化)、人件費の高騰、デジタル化シフトなどの課題に直面しています。
そして自動化、人工知能、機械学習、モノのインターネットなど、テクノロジーの進展に伴って、これらの課題を解決するためのアプローチが広がっていて、「ロボットの利活用」は、有力な手段の一つとして注目を集めています。
短期連載「中国ロボット市場最前線」の第一回は、ロボット産業の国家政策、優遇措置やロボット市場の全体動向について説明していきます。
ロボット産業の発展促進に関する国家政策
中国のロボット産業は、日欧の先進国と比べ、精密減速機、サーボモータ、コントローラなどの技術開発がかなり遅れており、ABB、安川電機、ファナック、クーカなどの外国大手企業にほぼ独占されている状況にあります。
このような状況を変えるため、中国政府は多くの支援政策を打ち出しています。
特に2015年にインダストリー4.0の中国版「中国製造2025」計画を発表後は、ロボット産業が新たな成長領域として期待されています。
2015年以降、国レベルで発表したロボット産業に関する政策の一覧を下記に紹介しましょう。
『中国製造2025』計画
中国国務院は、 「製造大国」から「製造強国」へシフトすべく、2015年5月8日に『中国製造2025』(Made in China 2025)計画を発表し、以下の段階的目標を定めています。
- 第一段階:2025年までに製造強国に邁進する
- 第二段階:2035年までに中国の製造業を世界の製造強国陣営において中堅水準にまで高める
- 第三段階:新中国成立100周年(2049年)に際し製造業大国の地位をより一層固めつつ、総合力で世界の製造強国のトップに立つ
これらの目標を実現するために、戦略的な重点分野の一つとして「高度なデジタル制御の工作機械とロボット」をあげ、「自動車、機械、電子、危険物製造、国防軍需、化学工業、軽工業などの工業ロボット・特殊ロボット、及び健康医療、家庭サービス、教育、娯楽などのロボットの需要に応じて、新しい製品の研究開発、ロボットの標準化・モジュール化を促進する。ロボット本体、減速機、サーボモータ、コントローラ、センサー、ドライバーなどの中核部品及びシステムインテグレーションの設計・製造面の技術ボトルネックを突破する」と強力に推進する方針を定めています。
『中国製造2025重点領域技術路線図』
『中国製造2025』計画を実現すべく、中国国家製造強国建設戦略諮詢委員会は、 2015年9月29日に『中国製造2025重点領域技術路線図』を発表し、2020年、2025年、2030年を区切りとして時間軸で十大重点領域の技術発展ロードマップを示しました。そのうちロボットに関しては、以下の技術発展ロードマップが提示されています。
1.全体的なロボット需要予測と発展目標
2.中核部品(減速機、コントローラ、サーボシステム、センサー)の技術発展ロードマップ
3.中核共通技術(完成品技術、部材技術、集成応用技術)の発展ロードマップ
3.ロボット産業発展計画(2016~2020年)
中国工業情報化部、国家発展改革委員会、財政部は、『中国製造2025』計画におけるロボット産業の重点突破及び健全で持続的な発展を実現すべく、2016年4月27日に『ロボット産業発展計画(2016~2020年)』を発表しました。この計画では、2020年までの五大主要任務と五大重要部品目標を定めています。
これらの目標を実現するためには、以下の10大シンボルロボット製品も提示されています。
- アーク溶接ロボット
- 真空ロボット
- プログラミングスマート産業用ロボット
- 人間支援型ロボット
- 両腕ロボット
- 重量級型AGV
- 消防救援ロボット
- 手術支援ロボット
- 公共サービス用知能ロボット
- 介護用知能ロボット
4.「インターネット+」人工知能三年行動実施方案(アクション・プラン)
中国国家発展改革委員会、科技部、工業情報化部、中央網絡安全と情報化指導グループ弁公室は、人工知能産業の発展を加速すべく、2016年5月18日に『「インターネット+」人工知能三年行動実施方案(アクション・プラン)』を発表しました。
提示された九つのプロジェクトのうち、「知能ロボットの研究開発と応用プロジェクト」が挙げられ、資金供給、標準体系作り、知的財産権保護、人材育成、国際協力、実施体制などの面で支援策を打ち出しました。
具体的には、以下の内容と定められています。
「ロボット領域において、インターネット技術、及び知能センシング、パターン識別、知能分析、知能制御などの知能技術の応用を推進し、ロボット製品のセンシング、インタアクティブ・コミュニケーション、コントロール、コラボレーション、ディシジョンなどの面での性能と知能化水準を高め、コア・コンピタンスを向上させる。高労働負荷、高危険度、高クリーニング生産環境、高柔軟性生産プロセスなどの要求に対して産業用知能ロボット応用示範を支援する。災害救助、暴力・テロ防止などの特殊分野において特種の知能ロボットの応用を推進する。医療、リハビリテーション、教育、娯楽、家庭サービスなど特定の利用場面において知能サービスロボットの研究開発と応用を推進する。」
ロボット産業の発展促進に関する優遇措置
上記国家政策に基づき、国も地方も財政、税金、人材、投資環境などの面で優遇措置を相次ぎ発表しました。特に地方政府は、ロボット企業の地方進出、投資誘致、ロボット産業園区の建設促進に大きな力を入れて取り組んでいます。
例として、北京中関村科技園区管理委員会、北京大興区人民政府、北京経済技術開発区管理委員会が2016年4月25日に共同で発表した『中関村知能ロボット産業の創新発展促進に関する若干措置』によると、北京郊外の大興・亦荘産業園でロボット事業を行う場合は、以下のような優遇措置(一部)を受けられます。
- 企業、研究開発機構の知能ロボット領域における中核技術の突破を支援する。国家・北京市に認定された新技術・新製品(サービス)の研究開発成果に対して、投資コストの20%の比率で100万元以内の金額で補助する。
- 中関村産業園区の知能ロボット企業が研究開発したロボット本体、部品、OS、アプリ、インダストリーソリューションなどに対して、国家・北京市に認定された新技術・新製品(サービス)は、認定後1年間以内、売上高の20%の比率で400万元以内の金額で補助する。
北京市在籍企業が中関村区域内の知能ロボット製品とサービスを利用することを支援し、初のデジタル作業場や知能工場の建設に対して購買額の20%の比率で200万元以内の金額で補助する。 - 国家関連部門の支援のもとで、知能ロボット技術の研究開発、検査・試験、研究成果産業化、工業設計、知財サービス、展示交流、市場応用などの面で、共通的な技術プラットフォーム及び産業促進プラットフォームの建設を支援する。
大興・亦荘産業園に国家ロボット検査と評価センターの支部を建設できるように努力する。各プラットフォームの前年度の建設費用(設備購買、情報化システム建設、オフィスレンタル、人件費など実際に発生した費用)に応じて、費用の50%以内の比率で、1000万元以内の金額で補助する。各プラットフォームが市場化手段で中関村示範区在籍企業に対して協同研究開発、検査・試験、研究成果産業化、協同イノベーション、示範的プロモーションなどのサービスの提供を支援し、その効果に応じて契約金額の30%以内の比率で、600万元以内の金額で補助する。 - 国際トップクラスで業界リーダー的な知能ロボット企業と研究開発機構が大興・亦荘産業園にエリア本部と研究開発センターを設立した場合、投資総額の20%以内で5000万元以内の一括金額で補助する。
- 大興・亦荘産業園に在籍する知能ロボット企業は、実際のオフィスレンタル面積に応じてレンタル総額の50%以内の比率で、単価が3元/平方メートル/日以内、面積が5000平方メートル以内の基準で、会社登録から最長36ヶ月間で補助する。
特色のある知能ロボット産業園区の建設を支援し、国家レベルのグリーン示範園区の建設を承認された場合は、200万元の一括資金で補助する。北京市レベルのグリーン示範園区の建設を承認された場合は、100万元の一括資金で補助する。
上記は、地方による優遇措置の一例ですが、ロボット企業・研究開発機構にとってはかなり魅力的なものではないかと思われます。しかし、これらの優遇措置が実施されるなかで副作用も伴っています。
優遇措置を受けるための補助金目当てに動かしたロボット起業やロボット導入も発生しており、優遇政策によるロボット産業の過熱効果も指摘され始めています。
ロボット市場の動向
ロボット需要の拡大、及び国・地方の支援政策のもとで、ロボット市場が活発化しています。国際ロボット連盟(IFR)によると、中国での産業用ロボット販売台数は2013年以来、国別で世界首位の座を維持してきました。中国ロボット産業連盟(CRIA)は、2016年の工業用ロボットの販売台数は、前年比約20%増の8万台近くになると予測しています。今後10年間もロボット市場が引き続き成長するとの見解です。
未来産業とされているロボット市場には、瀋陽新松(SIASUN)、上海新時達(STEP)、広州数控(GSK)、 安徽埃夫特 (EFORT)、 南京埃斯頓(ESTUN)、哈爾賓博実(BOSHI)などのロボット専門会社のほか、美的(Midea)、格力(Gree)、ハイアール(Haier)、長虹(Changhong)などの家電メーカー、アリババ(Alibaba)、百度(Baidu)などのインターネットサービス大手企業も積極的に参画し始めています。
しかし、高度なロボット領域においては、ノウハウの蓄積、中核技術の突破、専門人材の育成などは依然として中国ロボット企業の重要課題として残りつつ、総合的な競争力を確立するには、長年の蓄積と努力が不可欠だと思われます。ロボットの中核技術やノウハウを持つ日欧企業は、長い間引き続き市場を占有し続けると考えています。
ABOUT THE AUTHOR /
Dequan Tangイーパオディング株式会社代表取締役社長、北京璞華機器人(ロボット)情報技術有限公司CEO。東京・北京にてITシステム化、日中間ビジネス、グローバルビジネスコンサルティング業務に十数年間携わり、いま中国でロボットのメディア、展示、販売、研究開発を行うロボット事業、及び「個客」ビジネスの「自由自在」を支援するグローバルリサーチ、コンサルティング、インターネットサービス事業に従事。IT関連の講演・著書多数。 Email:tang_dequan@epaoding.com 微信(Wechat) ID:tomotogether