サービスロボット市場に新たな活路を模索する協栄産業の取り組み 「クラウド」、「案内ロボ」から「点検ロボ」まで

協栄産業がココロと共同開発した案内ロボットシステム「SUR-KY-01」。1月に開催された「ロボデックス」で。

半導体・電子部品販売のほかプリント基板製造や組込みソフトウェア開発などを幅広く手がけているエレクトロニクス関連商社の協栄産業株式会社(東京都渋谷区、https://www.kyoei.co.jp/)。同社は三菱電機株式会社の産業用ロボットの販売事業やシステムソフト構築事業を行なってきたが、サービスロボット事業も開拓しようとしている。

扱っている製品は、株式会社ココロと共同開発した人型ロボットとタブレットシステムを組み合わせた案内ロボットシステム「SUR-KY-01」を筆頭に、株式会社レイトロンのコミュニケーションロボット「Chapit(チャピット)」、株式会社イノフィスの「マッスルスーツ」の販売、そしてトピー工業株式会社の点検ロボット「エニーライト」を使った床下・設備点検ロボットシステムなど、幅広い。

レイトロンのコミュニケーションロボット「Chapit」

同社が産業用ロボット以外の領域に事業拡大を目指し始めたのはおよそ二年半前、2015年ごろから。ちょうど今回のロボットブームが始まった頃である。前述のように同社は基本的に商社であり、売上の8割近くを商社事業が占めている。


協栄産業の売り上げ構成比率。8割近くが商社事業(スマホの方はタップで拡大)

これまで電機、自動車、食品、建設関連などのユーザーに対して様々な商材を扱ってきたが、新規事業を立ち上げる部署内での「次の市場は何か」、「今まで培って来た技術やセールスノウハウを新市場に活かしたい」という議論の中から、サービスロボット事業へのトライという話が出てきたのだという。


サービスロボット市場への挑戦を始めている(スマホの方はタップで拡大)

現在売り上げ規模的にはまだ決して多くはないが、予算を投じて数年かけて育てようとしているとのこと。また既に、ロボット関連で発表を行うたびに同社の株価が変動するなど反響は大きい。バラエティに富んだロボットを扱っている点も気になる。どのような狙いで事業を進めているのか。

「ロボット開発で技術を蓄積し、事業の拡大を図って社会貢献をしたい」と語る、協栄産業株式会社 事業戦略室 室長の横尾吉輝氏と、同 専門課長の佐野智久氏に話を伺った。


協栄産業株式会社 事業戦略室 室長 横尾吉輝氏(左)、同 専門課長 佐野智久氏(右)


システムありきのロボット開発でエンジニアを育成

まず、成田空港のGPA海外旅行保険カウンターで実証実験を行うなど(https://www.kyoei.co.jp/news/news20170301.html)、メディアに取り上げられることも多い人型ロボットを使った案内システムは、いわば同社のフラッグシップである。

女性型ロボットを使った受付システム。ロボデックス2017でのデモ

サービスロボットの開発を進めるということは、顔認証や音声認識・合成、クラウド関連技術、いわゆる人工知能や、対人インターフェース、そもそも設置する場にどんな付加価値を与えられるのかなど各種新技術の活用に取り組むこととイコールだ。運用を行うためには机上の設計だけでなく、どういう状況ではどんなハードウェア/ソフトウェア構成にするべきか、どんなトラブルが起こりがちで、事前対策として仕込むべきものは何かといったノウハウも必要となる。

人型案内ロボットシステムは、開発を通じて、人工知能等の新しい技術を習得し、それらを開発できるエンジニアを内部育成したいという気持ちもあって開発しているものだという。

ココロと組んだ理由は「信頼のおけるパートナーと組むことを方針としているため」だとのこと。「ココロさんはハードデザイン、メカに秀でた世界的ロボットメーカーさんで、当社はソフト開発、電子制御を得意としてるので、素晴らしいロボットが開発できると思いました」(横尾氏)。


協栄産業とココロが共同開発した案内ロボットシステム「SUR-KY-01」

共同開発したロボットは、もともとは空圧で動くロボットとしてココロが開発していた「アクトロイド」の、いわば量産型である。エアアクチュエターをやめて電動化。100V電源で動くようにするなど機能を限定してトータルコストを抑えた。価格は最低限で900万円から。これに年間保守契約料等が別途必要となる。「本体価格1,000万円以下」を望むユーザーの声に応えたものだそうだ。

ロボット開発の経験を積みたい協栄産業と、一品モノでもなく大量生産品でもない「中量品」が欲しいと考えていたココロの思惑が一致したのだという。なお7月に東京ビッグサイトで開催される「第2回広告宣伝EXPO」にも出展される予定だ。

なお「システムとしてのロボットの販売に注力しています」と横尾氏は語る。協栄産業としてはロボットにクラウドを利用した各種サービスを提供する等、ロボットソリューションシステムとしての販売を考えているとのことだ。

たとえば同社が開発している「SeeRobo(http://www.kyoei.co.jp/seerobo/index.html)」はいわゆるIoT化のための通信ボード(IoT Gateway)を使ったクラウドサービスで、ネットワーク機能を持たないロボットをネット接続できる。

ロボットのモーターの稼働状況の遠隔監視や、それらのデータを使った故障予知などおなじみの用途のほか、受付ロボットにおいて音声認識とタブレット操作、どちらがどのくらい使われたかといったログを全て取ることができる。それらをマーケティングデータとして使ったり、ロボット自体の機能の改善を主眼としている。



新規ビジネスのタネを求めてサービスロボット市場へ

それにしてもなぜサービスロボット事業だったのか。「産業用ロボットソリューションビジネスは、以前より当社のメイン事業で今後も注力していきます。サービスロボット分野は少子高齢化、労働力不足を背景に市場の伸びが期待できると思い参入を決めました。」(横尾氏)


協栄産業による産業用ロボット事業(スマホの方はタップで拡大)

同社は日本ロボット学会や東京都ロボット研究会の他、川崎や埼玉など各地区の団体にも入って情報を集めて、そのなかから少子高齢化問題をどうしていくべきか考えた。その結果、まずはイノフィスによる腰補助用のパワーアシストスーツや、レイトロンのチャピット、トピー工業の床下点検ロボットなどを手がけることにしたのだという。


介護分野で使われるマッスルスーツやコミュニケーションロボットも扱う(スマホの方はタップで拡大)

パワーアシストスーツは数社が手がけているが、なかでもイノフィス(https://innophys.jp)を選んだ理由は「アシスト力が強く信頼性が高かったから」。いまも現場からマッキベン型人工筋肉を使うマッスルスーツは、腰痛が防止でき機構もシンプルで高い評価を得ているそうだ。

イノフィスのマッスルスーツ


点検ロボットシステムではリアルなビジネスを追求

トピー工業株式会社の点検ロボット「エニーライト」を使った床下・設備点検ロボットシステムについては、佐野智久氏から解説してもらった。「もともと以前から協栄産業ではタブレットを使った点検ツールを作っていたという背景があった」という。新築工事の施行完了確認や定期点検などの折に撮影した写真やメモなどの点検データを一元化、エクセルシートで管理するだけでなく、電子図面上で照らし合わせて顧客に見せることができるツールだ(Kit-S2 設備点検支援ツール(https://itunes.apple.com/jp/app/kit-s2-設備点検支援ツール/id1203103433?mt=8))。タブレットならではの使い方として、フリーハンドでの書き込みもできる。


タブレットを使って点検業務を効率化するためのツール「Kit-S2」(スマホの方はタップで拡大)

これまで協栄産業は各種のタブレット点検ツールを販売、タブレットのカメラで点検個所を撮影していた。そのノウハウを活かし、ロボットのカメラで撮影した画像も扱えるようにして、タブレット点検ツールと点検ロボットをセットにしたものが、新しい「床下・設備点検ロボットシステム」だ。


トピー工業の床下・設備点検ロボット「エニーライト」。410mm × 284mm × 220mm、重さ9kg。

6月に発表した最新型(http://www.kyoei.co.jp/uf-fc-robot-system/index.html)は本体の床下・設備点検ロボット「エニーライト」だけなら70万円程度と、100万円を切る価格帯を実現した。この価格も、これまでの業者からの声に応えたものだという。

各種部材の見直しをして低価格にしたが、75mmまでの段差ならば乗り越えられる。動作時間は約1.5時間で、Wi-Fiを使用しタブレットでロボットを操作することができ、簡単に点検レポートを作成してクラウドに保存できる。

なおタブレットを使った点検ツールには年間使用料がかかる。案内ロボットは技術の蓄積も目的としているが、こちらの点検ロボットシステムについては、リアルなビジネスとして売上の拡大を目指していくという。



サービス型ビジネスへの転換を目指す

他社と協業してロボットに取り組んでいる協栄産業。「すべて自社開発するつもりはありません。サービスロボットは一社で全てをこなすの厳しい」と横尾氏は語る。「現在のサービスロボットの市場規模では、各社が得意分野を持ち寄って開発を進めたほうがいいのではと考えています」。

今後は搬送や物流、点検を重視しつつ、さらに案内などのコミュニケーションのほか、介護関連、見守りなどにも展開していきたいと考えている。「日本全体の人手が足らないなかで、ロボット事業を通して少しでも社会に貢献したい。ロボットを核としたソリューションサービス型のビジネスに転換を図り、我々が今まで培ってきた営業力や、細かな部材の提案や様々なソフトウェアの開発などで、総合的に貢献していきたい」という。

サービスロボットは、まだまだ市場自体が立ち上がりはじめたレベルの段階にある。そのため苦戦している会社も少なくない。だが「目先の利益は少ないかもしれない。でも長い目で育てていきたいと考えています」とのことなので、今後の発展に期待している。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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