リアルな反応のヒューマノイド「mikoto」 「2023年問題」で市場拡大中の医療教育用シミュレーターに挑むMICOTOテクノロジー檜山氏がMEDTECで講演


2018年4月18日から20日の日程で、東京ビッグサイトにて「MEDTEC JAPAN 2018」が行われた。20日には挿管手技トレーニング用対話型シミュレータ「mikoto」のほか医療用ロボットの研究開発を進めている、株式会社MICOTOテクノロジー(http://www.micotech.jp)代表取締役社長の檜山康明氏が講演した。


株式会社MICOTOテクノロジー 代表取締役社長 檜山康明氏


挿管手技の医療教育用シミュレータロボット「mikoto」

「mikoto」の解説を行う株式会社MICOTOテクノロジー檜山康明氏

「mikoto」は、経鼻経口気管挿管、経鼻・経口内視鏡検査、痰の吸引と3つの挿管手技のトレーニングが可能な医療教育用シミュレータ・ロボットである。


3つの挿管手技のトレーニングができる「mikoto」

ユーザーは研修医を受け入れている大学病院、総合病院のほか、看護・介護・救急救命士専門学校

リアルな外観を持っており、鼻や喉の部分に配置されたセンサーを使って、痛がったり嘔吐などのやはりリアルな反応を返すことができる。


mikoto頭部

また気道確保の手技をトレーニングするシミュレーターの「シングルタスクモデル」もある。2017年3月に発表され、ほぼ一年が経過している。


シングルタスクモデル「mikoto ST」


医療教育にフォーカスした株式会社MICOTOテクノロジー

MEDTECでのMICOTOテクノロジーのブース

株式会社MICOTOは福岡のサービスロボット専門企業・株式会社テムザックを母体としている。2013年に経済産業省プロジェクトによって、テムザックが鳥取大学と医療機器の共同開発を開始。その後2014年には、さらに鳥取県、米子市の支援により医療福祉ロボットの開発子会社として株式会社テムザック技術研究所が設立された。

2016年には山陰合同銀行、ごうぎんキャピタル、官製ファンドのREVICキャピタルが出資する「とっとり大学発・産学連携ファンド」の追加出資を受け、鳥取大学との共同開発を進めた。2017年には「株式会社MICOTOテクノロジー」へ社名を変更した。現在、医療介護福祉に特化した会社として鳥取県米子市に拠点を構えている。檜山氏は「社内でも検証が可能な環境を整えている」と紹介した。


株式会社MICOTOテクノロジーの沿革

医療教育、医療、福祉、健康サポート機器・医療周辺機器の開発を手掛けており、特に医療教育にフォーカスを絞っている。

檜山氏は「強みは工学と医学の連携。もともと持っていたロボティクス技術と、医療シミュレーター開発を通して培った樹脂成型技術がある」とアピールし、鳥取大学との連携によって、ニーズに応じた開発やカスタマイズが可能と述べた。



医学教育の「2023年問題」を背景とした教育用シミュレータの市場性

檜山氏は医療シミュレータ市場には大きな可能性があると紹介した。シミュレータ市場は世界全体で見るとアメリカ市場が53.7%を占めているが、日本市場と世界市場、共に成長性が高いという。

日本では従来はシミュレータによる実習教育がまだあまり行われていなかった。だが2023年以降、日本を含む米国外の医師がアメリカで働くために必要な米国医師免許試験(United States Medical Licensing Examination)を受験するには、国際認証に基づいた教育を受ける必要がある。そのなかにはシミュレーター研修も含まれている。この通称「2023年問題」を受けて医学教育カリキュラムが変わりつつあり、シミュレーター市場は広がりつつあるのだという。

また、各メーカーからシミュレーターは販売されているが、生体反応を再現できないという課題がある。リアルな反応を出すシミュレーターがあれば、いきなり人を対象に練習する前に、訓練を積むことができる。これが「mikoto」開発の理由だと述べた。


医療教育課題を解決するためのシミュレータ


早期上市を重要視して、わずか1年間で製品開発

檜山氏はMICOTOテクノロジー社の事業としては、インパクト、現場ニーズ、市場成長性、早期上市の4つを重視していると述べた。教育用シミュレータ「mikoto」については特に早期上市を重視して、わずか1年間程度の短期間で開発したという。

「mikoto」は、もともとは鳥取県の平成28年度「とっとり発医療機器開発支援事業」の委託事業として開発された。助成金は1,000万円だった。さらに開発費だけではなく事業化する必要があるため、「とっとり大学発・産学連携ファンド」のファンド第一号として8,000万円の出資を受けて、開発を続けた。

重視した点は内部の臓器部分を作り込むこと。まずは患者CTデータを使って、3D化。それを軟質造形で再現した。


患者のCTデータを軟質造形で再現

また製品化前からプロトタイプを使って販路開拓も行った。まずは医療関係の関係作りから始め、いまでは200件の関係先があるという。2017年8月には総販売代理店となる医療機器商社・株式会社カワニシホールディングス主催の医療機器商談会などが有用だったと紹介した。

また開発体制として、連携している鳥取大学ではもともと複数診療科の横連携ができており、各専門科の意見をスムーズに取り入れることができたという。

ロボットの発表は昨年3月に行われ(http://www.micotech.jp/wp/wp-content/uploads/2014/03/mikoto-press20170303.pdf)、4月には「Medtec Japan 2017」にも出展。大きな反響を呼ぶことができたとし、実機を使ったデモンストレーションを実施した。




プラットフォームとしての可能性も

ビジネスコンテストにも積極的にチャレンジ

現在、販売は前述のように医療機器商社のカワニシホールディンググループ会社「エクソラメディカ」から行われている。ユーザーフィードバックも受けており、現在販路を拡大中とのこと。また、ビジネスコンテストにもチャレンジ。受賞キャンペーンも行うなどして「1年間で十数台」の販売につながっていると述べた。


mikotoの販路開拓モデル

海外への展開も進めつつある。世界最大級のシミュレーションセンターを持つピッツバーグ大学でデモを行うほか、2018年2月にはチリ大使館からの依頼で、チリの大統領バチェレ氏に大使館でデモを実施。バチェレ氏は自身が小児科の医師免許を持っており、深い関心を持って見てもらうことができたと紹介した。


グローバル展開も視野に

檜山氏は「ベンチャー企業としてやっていくためにはメディアやコンテストに出て認知度を高め、信頼を得ることが重要」と述べ、「mikotoはプラットフォームとして作っているので、オープンイノベーションで各種医療機器メーカーと共同で、さらに販路開拓を進めていきたい」と述べた。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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