「急がば学べ」、北陸能開大パネルディスカッション「ロボットの進化でものづくりはどう変わるのか」で富山大・不二越・YKKの3氏が講演

2018年9月7日、富山県魚津市にて、北陸職業能力開発大学校・創立40周年記念式典「ポリテックビジョン in 新川」が、魚津市内の新川文化ホールにて行われた。記念式典の主催は北陸職業能力開発大学校同窓会で、後援は富山県や魚津市、地元の商工会議所など。

記念式典のあと、筆者こと森山和道による記念講演に続き、パネルディスカッション「ロボットの進化でものづくりはどう変わるのか?未来を切り拓くエンジニアのために」が行われた。パネリストは、富山大学工学部教授 神代充氏、株式会社不二越 上席執行役員 国崎晃氏、YKK株式会社執行役員 工機技術本部 製造技術開発部APグループ長 澤田喜和氏の3氏だ。

テーマが「ロボット」になった理由は、2018年に北陸能開大の応用課程に「生産ロボットシステムコース」が開設されたこと。

筆者は今回、基調講演のほか、司会としてパネルディスカッションに携わったので、あくまで司会の目から見たレポートということになるが、パネリスト3氏のお話をざっくりまとめておきたい。壇上でのメモを元にした、やや不十分なレポートである点はおわびしておく。



人に優しい動作、自由に動ける移動技術で人と共存するロボット

パネリストの3氏。手前から富山大学工学部教授 神代充氏、不二越・国崎晃氏、YKK・澤田喜和氏

まず富山大学工学部 工学科 教授の神代充氏は、超高齢社会を迎えるこれからのロボットには人間と共存協調しながら作業できる技術が求められていると述べた。そのための技術の一つとして、人に好まれる動作・安全安心な動作を生成するインタラクション技術と、画像処理による自己位置推定を使って自由に移動可能な技術の二つをあげて、人と絶妙なタイミングで握手をしたり、ハグをするロボットを紹介した。円滑なロボットと人とのコミュニケーションに必要な技術だ。


適切な間合いで握手するロボットシステム

これらのような、人間の身体的インタラクション特性に基づいた支援動作生成技術を踏まえて、たとえば握手生成は物品の手渡し動作へ、ハグは車椅子へ人を移乗する抱きかかえ動作へと応用する予定だとのこと。


ハグロボットシステム

移動技術ついては、近年よく使われる「SLAM」よりも「モデルベースド・ビジョン」のほうが有用な場合も多いと紹介。環境の3次元モデルがわかっている場合であれば、カメラからの入力画像とモデルを比較することで自己位置を推定したり障害物を認識できるというわけだ。神代氏は、物流倉庫を想定した現場で障害物を発見して回避する技術や、ディープラーニングと単眼カメラを使って走行可能な領域を検出する技術などを紹介した。


モデルベースド・ビジョンによる障害物検出

車椅子ロボットシステムによる屋外実験の様子


自動化ニーズの変化に対応する不二越

安全性を高めた不二越の協働ロボット

地元出身で工作機械やベアリングなどで知られる不二越に入社して28年だという不二越 上席執行役員 国崎晃氏は、同社に入って「ずっとロボットをやりたい」と言い続けていたと自己紹介した。不二越は1968年から産業用ロボットを開発している。国崎氏は世界のロボット需要が10年で三倍、年平均18%の成長率で伸び続けていることと、2013年以降、中国が最大のロボット市場となっている現状を紹介した。今でも供給元としては日本が最大だが、海外を中心に新しいロボットが出て来始めていることなどから、今後は難しい局面を迎えるだろうと概観した。


急拡大する世界のロボット需要

また、今や世界の工場である中国においても少子高齢化が進行中で、今後は生産年齢人口が減る。だが誰かがモノを作らなければならず、それはロボットであると産業用ロボットの価値を述べた。

いっぽう自動化の進展という観点でロボットを見ると、従来は単純作業を行なっていたが、ロボットは徐々に複雑な作業をこなすようになっている。


これまでの自動化の進展。徐々に複雑な作業も自動化へ

自動化に対するニーズの変化

また、ロボットは、ロボット(アーム)だけでは何もできない。周辺設備は各種センサー、ハンドなどが必要である。使うためには技術的知識とそれを持った人も必要であり、危険性もある。これらがロボットの課題となっている。


ロボット導入の課題

不二越でもこれらの問題を解決するために様々な技術開発を行なっている。国崎氏は、一例として、様々な形状の物体を運んだり使うことができる「フレックスハンド」や、視覚センサーの活用例を示した。また、メーカーが提供するだけでなく、ユーザーが機能追加できる環境も重要であり、ロボット加工センターやオープンネットワークへの取り組みも紹介した。


ロボット活用現場を増やすための努力が続いている。

今後は、各関節軌道を一つ一つ指令するのではなく、「あたかも新入社員に指示を出すように、たとえば、これをこっちへ動かしてと言うだけで」、軌道生成技術を使ってロボットが自律的に考えて動くような技術が必要だろうと述べた。また信頼性ある設備を作るためには様々な技術が必要だと強調し、各種情報工学技術を組み合わせて考えていきたいとした。


ロボット操作をより簡単に


YKK 先進ロボットFAセンターの取り組み

YKKの一貫生産思想

3番目、YKK株式会社執行役員 工機技術本部製造技術開発部APグループ長の澤田喜和氏は、ロボットユーザーとしての取り組みという観点で講演した。YKKグループはファスナーを作っているファスニング事業、窓関連の建材のAP事業、そしてそれらを技術的にバックアップする工機技術本部からなる。

YKKでは内製化にこだわらず外部技術も必要に応じて取り入れているが、いっぽう、時代が変化しても事業の競争力に寄与すると考えられる部分は内製化しているという。ロボットの場合は外部の力を利用しているとし、700台以上のロボットを適材適所に使っていると紹介した。


YKKグループのロボット活用状況

課題はやはり生産変動への対応や人との協調である。高度化やスピードアップに有効なのがロボットだが、従来の延長上ではないロボットの使い方が必要だと考えいてると述べて、YKKが省人化、フレキシブル化、ライン立ちあげのスピードアップを目標として2017年4月に富山県黒部市・栃沢工場に設立した「先進ロボットFAセンター」を紹介した。


YKK 先進ロボットFAセンター

目的は事業に特化したロボット活用技術の強化だ。汎用ロボットをモディファイして現場で活用する技術を開発している。またロボットセンターは人材育成やロボット適用領域の拡大や要素技術の開発など、事業部の横串としても機能している。

取り組みの方向性はセンシング技術の活用で、まだ自動化されていない工程間をつなぎ、ライン全体での自動化を考えているという。また人協働がキーだと述べ、ロボットのポータビリティ、モビリティ機能を高め、ロボットの多能工化を進めたいと述べた。


方向性はセンシング技術と人協働ロボットの活用による一層の自動化

一方、ロボットの技術向上に頼るだけではなく、製品設計やプロセスを改善し、自動化しやすくするアプローチも進めている。また、ロボット運用技術は人に依存するので、社内教育にも力を注いでいるとのことだった。


布地やテープなどをハンドリングする技術は内製で開発

YKKならではのファスナーの布地や、窓につける部品などは形状も材質も異なり、ロボットにはハンドリングがしにくいワークだ。そのハンドリング技術はYKKで内製開発しているとのこと。今後も産学官で開発されている様々な技術を取りこんでいきたいと講演を締めくくった。



パネルディスカッション 原理原則、実地経験、チームワークが重要

パネルディスカッションの様子

このあとは議論となった。富山大・神代氏は主に企業と大学との立ち位置の違いについてふれた。YKK澤田喜和氏は「人とロボットの共存がこれからの流れであることを確信した」と語り、不二越・国崎晃氏も、ほぼ同じ悩みを共有していると述べた。

また実際に手足を動かす実習を重視している北陸能開大の学生たちが学ぶべきこととして、国崎氏は「本当に身になるのはOJT。実地で手を汚す経験なしでは力はつかない」と述べた。YKK澤田氏は、YKKは(海外で製造するアパレル企業に部品を提供するため)海外の拠点が多いと紹介し、「様々な得意分野を持つ人が集まってチームワーキングで仕事をするときにも原理原則を学んでいないとその力を集めらない」と述べて、原則を学ぶことの重要性を強調した。富山大学・神代氏は、いつも「ギブアンドテイク」が重要だと学生たちを指導しているという。ロボットはシステムだ。システムを作っていく上では一人ではカバーしきれない数多くのスキルを持ち寄り、得意不得意を互いに補う必要がある。そのときに「ギブアンドテイク」が必要になるというわけだ。それは社会に出たあとでも重要であり、サークル活動などを通した分野を超えた交流の重要性を伝えているという。

このほか、基礎的な機械工学の重要性や、「答えのない問題」にチャレンジするマインドの重要性、夢を持つことの大事さ、そしてロボットならではの信頼性高いものづくりや、家族の一員としてロボットを迎えられるようになればといった未来の夢など、幅広い話題が展開するディスカッションとなった。



実習ではロボットによる自動化を想定した機材改良も

北陸職業能力開発大学校の教え「急がば学べ」

会場では北陸職業能力開発大学校での総合制作・開発課題実習などによる成果が展示された。いずれも学生たちによるもので、実習を通して機械そのほかへの理解を深めることを目的としている。なおロボットについては、実際の産業用ロボットSIerの仕事に限りなく近いようなカリキュラムを通して学んでいるとのこと。


ロボットハンドリングを想定した、NC旋盤への材料取り付け過程での着座ミスを防ぐためのパワーチャック3爪治具の最適化

CADを使って検討し、3度の傾きが良いと判断したとのこと

くり抜きもできるように工夫したNC発砲スチロールカッター。

将来的には建築用模型を自動で簡単に作れるようにするとのプランで「第10回とやまビジネスプランコンテスト」で学生部門優秀賞を獲得

魚津市民バスロケーションシステム。現在は教員が開発・改良・保守を続けているとのこと

GPSを使ってバスがどこにいるのか、いつどこを通過したのかウェブで閲覧可能にした


システムエンジニアはまだまだ必要、簡単なロボットも

ロボット導入にはシステムエンジニアが必要だ。筆者も出席した懇親会では「省人化・自動化ニーズは高いが、現状のロボット技術では『エンジニアの数=ロボットが導入できる数』になってしまっていて、ボトルネックがある。エンジニアの育成と、誰もが簡単に使えるロボットが必要だ」といった議論が続けられていた。北陸能開大「生産ロボットシステムコース」の学生たちがその一端を担ってくれることを期待している。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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