「好きなことから未来を広げて」AI・ロボット専攻で会話ロボットのプログラミング授業を実践 クラーク記念国際高等学校【教育現場とロボット】

その日、ロボットを使ったプログラミング教育を実践している高校を取材した。
「クラーク記念国際高等学校」は良い意味で異色の学校と言えるだろう。北海道を拠点にして、全国で開校している広域通信制高校で、在籍する生徒数は約11,000名と、実は日本で一番生徒が多い高校だ。



クラーク記念国際高等学校とは

クラーク記念国際高等学校は、「Boys, Be Ambitious」の言葉で知られるクラーク博士の精神を教育理念とし、1992年に開校した。校長は三浦雄一郎氏がつとめる。世界最高齢80歳で3度目のエベレスト登頂達成した冒険家だ。
同校は日本で初めて全日型通信制スタイルを確立した通信制高校として知られていて、通信制でありながら多くの学生達が実際に学校に登校するスタイルは興味深い。全日型通信制とは、朝の1時限目から午後の6時限目まで、平日は毎日、通学することが基本となっている。その点は自宅での通信教育や夜学などの定時制とは異なる。一見して一般の高校となんら違いは感じられない。
一般の通信制は働きながら学ぶ環境を想定しているため、授業やカリキュラムが凝縮されている。そのカリキュラムを午前中の授業に組み込み、午後は生徒が「表現教育」「国際教育」「ICT教育」などの幅広い科目の中から、生徒達が自由に選択できる学習環境を作っている点に大きな特徴がある。



声優、ゲームクリエイター、ロボット工学者…好きがきっかけ

このことは、一部の生徒達にとって将来の仕事を切り拓くことにも繋がっている。例えば、「表現教育」を専攻した生徒が「声優」となってデビューし、今では声優の世界で活躍している実績が多数ある。他には「ゲームクリエイター」「マンガ家やイラストレーター」「ロボティクスやプログラミング教育」などもあり、来年度からは海外ではビジネスとして定着している「eスポーツ」(エレクトロニック・スポーツ)も専攻科目に取り入れられる予定だ。

声優になる夢がかなった卒業生もいる。卒業生が声で出演する作品に触れるのは在校生にとっても刺激になるだろう


秋葉原ITキャンパスのAI・ロボット専攻

取材した秋葉原ITキャンパスの生徒数は約320名。6割程度が男子学生の比率となっていて、秋葉原らしいサブカルチャー的な教科が多いという特色がある。秋葉原ITキャンパスには「AI・ロボット専攻」があり、午後の授業でAIやロボットに関する授業が取り入れられている。


その日、公開されたのはソフトバンクロボティクスの人型ロボット「NAO」(ナオ)を活用し、同社のロボアプリ開発ツール「コレグラフ」を使ったプログラミングの授業。「コレグラフ」は同社のPepperと共通の開発ツールのため、NAOで学習した知識をPepperにも応用できる。実際、秋葉原ITキャンパスの廊下には複数台のPepperが配置されているが、そこで稼働しているプログラム(ロボアプリ)も学生達が行ったものだと言う。

コレグラフの操作画面でプログラミングのコツを解説する講師

授業はプログラミングに触れることを目的としている。しかし、座学や画面の中だけでプログラムを学ぶよりも、プログラミングした内容がロボットの動きとして反映されることが生徒達にとっても楽しく、やり甲斐のあるものになるだろうという考えからNAOを導入している。


カリキュラムは今年の5月から週一回の授業として始まっていて、当初はコレグラフを使用してプログラミングを学習するが、「最終的にはPythonなどの言語を使用して、条件分岐やロジック的なしくみを修得できるようにしたい」とする(講師談)。基礎的なロジック的思考を身につけておけば、将来PythonでもJavaスクリプトでも、言語を問わず活用できるようになるだろう。また、ロボットとクラウドなどとの連携や外部のAPIに繋いだシステム開発も予定されている。
なお、講師の先生はアウトソーシングテクノロジー社のプログラマで、普段はロボットやウェブに関するシステム開発を行っている。アウトソーシングではほかに、NAOを活用して小学校向けの英語の授業も大牟田市と相模原市で展開している。(関連記事「公立小学校でロボット「NAO」を英語教育に活用 〜生きた英語を学ぶ〜 相模原市教委【教育現場とロボット】」参照)



ロボットを動かすための数学や公式を学ぶ

クラーク記念国際高等学校の秋葉原ITキャンパス長の土屋氏に話を聞いた。

編集部

「ロボティクスやプログラミング教育」について、これまでの経緯とNAOを採用した理由などを教えてください。

土屋氏

「プログラミング教育」については、多くの学校で試行錯誤しながら取り入れられ始めています。この秋葉原ITキャンパスには「AI・ロボット専攻」と「ゲーム・プログラミング専攻」があって、「AI・ロボット専攻」では、レゴ(ブロック)のマインドストームなどを教材として、ロボット製作とそのプログラミング教育を行っています(履修生徒数は約20名)。
毎年、レゴの大きな大会「WRO」(World Robot Olympiad)にも出場していて、今年はWROのタイ国際大会に出場できることになりました。そして、更に高いレベルにステップアップすることを目的として、アウトソーシングテクノロジー様にご協力をいただく形で、NAOを導入したプログラミング主体の新たなカリキュラムをスタートさせました。
現在は、ドラッグ&ドロップの操作を中心にNAOをプログラミング操作できる「コレグラフ」を使って授業を進めていますが、今後はPythonなど、プログラミングコードで記述したり、将来的にはAIなどの機械学習にも進めたいと考えています。

学校法人創志学園 クラーク記念国際高等学校 秋葉原ITキャンパス キャンパス長 土屋正義氏

編集部

工業高校ではないにも関わらず、ロボットのプログラミングを学習できるのは珍しいですね

土屋氏

私たちの高校では、個人の「好きや得意」を伸ばしていくことを重視しています。また、専攻授業については実際に社会で活躍している方々を講師としてお招きし、最新技術や最新事情を含めて、仕事の現場でいま実践されていることを生徒達に教えていただくようにしています。ただ、就職だけでなく、進学の実績も重視しています。


「ロボット数学」と「eスポーツ」専攻もスタートへ

来年度からは「ロボット数学」という新たな学校設定科目も開講される予定で、秋葉原ITキャンパスでは先行して今年度から導入がはじまった。
数学では計算や公式等を学ぶが、それらが将来どのように役立つのかが見えない場合が多い。「ロボット数学」の授業では、ロボットの機構を動かすために数学や公式を使って実際にロボットアームを動かしたり、モノを運ぶための数式を作って実践してみる、ロボットを通して「体験の中で数学を学ぶ授業」になるという。秋葉原ITキャンパスでは今年から始め、その知見を活かして来年度から他のキャンパスでも実施されていく予定だ。

編集部

将来はロボティクス関連やサイエンティストを目指す学生が履修するとして想定していますか?

土屋氏

ロボット開発だけでなくゲームプログラミング関連の仕事を目指す学生たちも想定しています。これを修了すれば数学Iと数学IIの範囲までカバーできるようにカリキュラムを作っているので大学受験にも役立ちます。

編集部

来年度からは「eスポーツ」専攻も開講するそうですね

土屋氏

「eスポーツ」は海外では既にひとつの学術分野として確立されていて、日本でも「今年がeスポーツ元年」と言う人もいて、これから大きな波がやってきます。eスポーツはプレイヤーだけでなく、それを作るクリエイターや映像を配信するディレクターなど、様々な役割の仕事があり、需要が増していくと考えられています。これから社会にはばたく子ども達はそれぞれに活躍できる可能性を持っています。本校は将来の可能性を拡げ、目指す子ども達を伸ばすことを重視しています。


ロボコンの日本大会で優勝し、今月国際大会へ

クラーク記念国際高等学校の秋葉原ITキャンパスのAI・ロボット専攻に在籍する3年生が結成したチーム「ラムネ部」が、国際ロボットコンテスト「WRO(World Robot Olympiad)」の日本大会で優勝し、国際大会へとコマを進めた。

WROの日本大会を制し、今月の国際大会出場権を獲得したチーム名「ラムネ部」のふたり

サッカー競技を模したロボット競技で、2対2の合計4台の自律型ロボットが、フィールド上にある赤外線ボールを蹴ってゴールした得点を競う競技だ。ロボット自身やボールの位置、味方や相手の位置などを把握して動くことが要求され、リアルタイムで変化する状況に対応する高度なロボット技術で競われる。

WROのFootball(ロボット・サッカー)競技の様子(写真提供:クラーク記念国際高等学校)

進出した「WRO 2018 タイ国際大会」は、2018年11月16〜18日にタイのチェンマイで開催される予定。ふたりの活躍を期待したい。


ラムネ部のふたりは受験勉強をしながら、ロボットの研究を行っていると言う。もともとはレゴを使って作るロボットとプログラミングが中心だった。この日のロボット工房教室にはロボット数学の実習で使っているロボットハンドもあり、思い通りに動かせるようになるために各自が研究に没頭している姿があった。最初は先生による指導が中心だが、自分たちで自由に考えてロボットの研究を行うことができてやり甲斐があるそうだ。

生徒達が自主的にロボットの研究に没頭。小さなロボットハンドが見える

ラムネ部のメンバーのひとりは「ハードウェアを作るのも、ソフトウェア開発で試行錯誤するのも両方ともロボットはとても楽しい」と目を輝かせた。子どもの頃から、買ってもらったおもちゃや進研ゼミで届いた付録をバラバラに分解したこともあって、親御さんからは「遊び方を間違えている」とよく言われる、と語る。


卒業までの目標と将来の夢を聞くと、「まずはWROの国際大会で良い成績が残せるように頑張ります。それから、ジャンケンができるロボットハンドを卒業までに作りたいと思っています。将来は人の生活を手助けしたり、高齢者や介護の支援をするロボットを作る仕事につきたい。また、昔から宇宙や人工衛星が好きなので、宇宙に関連する仕事もしてみたい」と語ってくれた。

日本ではプログラミング教育が必修化となり2020年度から本格的にスタートする。ソフトバンクロボティクスの社会貢献プログラム(スクールチャレンジ)や、今回のクラーク記念国際高校のAI・ロボット専攻のプログラミング教育の活動はその先駆けとなる実践例だ。
今後の日本を背負って立つ若者達にとって、コンピュータ開発やロボット工学、データサイエンスの世界が身近になりそうな予感を充分に感じる取材となった。

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ロボスタ編集部
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