ロボットを知能化するコントローラーから完全無人倉庫設計コンサルまで MUJIN滝野氏がロボデックスで講演


2019年1月16日から18日の日程で、「第3回ロボデックス ロボット開発・活用展」が東京ビッグサイト西ホールで開催された。1月16日には「ロボット・IoTを用いた次世代物流」と題した特別講演が行われ、株式会社MUJIN CEO 兼 共同創業者の滝野一征氏が「物流だけでない、ロボット知能化による生産設備自動化と最新の工場物流自動化事例」という演題で講演した。


株式会社MUJIN CEO 兼 共同創業者 滝野一征氏

MUJINは2011年7月に創業した、ロボットコントローラーを作っているスタートアップだ。世界的な自動化需要の高まりを背景に成長を続けている。今回新たに出展されたAGVも組み合わせた同社の展示と合わせてレポートしておきたい。



ロボットをティーチレスにするMUJINコントローラ

MUJINコントローラ

滝野氏は、今は省人化のためというよりも「生産性向上」が世界的な自動化モチベーションになっていると話を始めた。MUJINはロボット本体ではなく、ロボットコントローラー、すなわちロボットを制御する「頭脳」の部分を開発・販売している会社である。そもそも産業用ロボットは、基本的にはロボットアーム部分だけのロボットだ。そして一つのハードウェアにつき、コントローラーが付いていて制御している。産業用ロボットは人を減らすのではなく、人がやらなくても良い仕事から人を解放し、会社のアウトプットを上げるものなのだというのがMUJINの提案だという。

日本は産業用ロボット大国だが、実は活用ということに着目すると、まだ100人にあたり一台くらいしかロボットは普及していない。なぜ広がらないのか。「理由は4つある」と滝野氏は続け、以下の4点を挙げた。

1)メーカーによって操作方法が違うこと
2)ロボットに動きを教えるティーチングが難しいこと
3)センサーと連携する知能化が難しいこと
4)ソフトウェア開発が難しく新規ロボットメーカーになるのは難しいこと

この4つの課題があるためにロボットの市場は伸びない。これらはロボットのハードウェアの問題ではなくソフトウェアの問題だ。滝野氏は「汎用的で知能的なロボットコントローラーがあれば、もっとロボットは普及するのではないかと考えた」とMUJIN起業の背景を語った。


MUJINコントローラを使えばロボットがティーチレスで動くようになる

MUJINコントローラーは、その使い方だけを覚えれば多くのメーカーのロボットを操作できる。一つの操作体系で使えるだけではない。MUJINコントローラーを使えばロボット自体が知能化され、ティーチレスで動けるようになる。認識結果からロボットの動作を実時間生成する独自のモーションプランニング技術によって「ティーチングが簡単になる」のではなく、ティーチング自体が不要な「ティーチレスになる」のだ。設備立ち上げまでの期間も短縮できる。


立ち上げ期間も大幅に短縮化できる

滝野氏は、MUJINコントローラーを使ったバラ積みピッキングの様子を示した。カメラで対象物が見えさえすれば、ロボットのコントローラーがアームの動きを自動で計算してリアルタイムに生成することで、滑らかに動ける。



FAソリューション

工場内にもまだまだ自動化の余地がある

MUJINは、この独自のリアルタイム・モーションプランニング技術を活用して、3つの事業を進めている。1つ目は、FA向けのソリューションだ。工場内は自動化が進んでいるように思われている。だが実は、まだ5%程度しか自動化されていないのだという。代表例がばら積みピッキングだ。ばら積みピッキングは多くの企業が展示会でもデモを行なっているが、よく見ると箱が底上げされていて浅くなっていたり、皿に平置きされた状態でデモされていることが多い。MUJINではシミュレータも用意して、この課題に挑んでいる。

滝野氏は、ばら積みピッキングロボットやワークのローディングロボットが、バルブ製造を行っている株式会社キッツ(KITZ)で導入されている様子を示した。一つのセルで16品種のワークに対応している。障害物を登録すればロボットが干渉回避する軌道を自動生成するため、セル自体もコンパクトになっているという。

アイシン・エィ・ダブリュ株式会社での工場内物流の自動化にも活用されている。重たいパーツの箱入れ替え作業を自動化することで離職率を下げることができたという。滝野氏は「入れ替えやソーティングにもロボットは有効だ」と強調した。



MUJINコントローラーのOEM

MUJINの2つ目の事業が、コントローラーのOEMだ。JIMTOF2018(第29回日本国際工作機械見本市)で公開されたオークマの「ARMROID(アームロイド)」である。これまではCNC旋盤の外に設置していたローディング/アンローディングするロボットを、中に入れた。MUJINの技術を使うことでスピード感を持って開発することができ、アームロイドも1年間で開発したという。




物流ソリューション

従来の物流プロセスの課題

3つ目がMUJINの売り上げの主要部分を占めている物流ソリューションだ。物流は様々な物体を扱う必要があるため、ロボットが入りにくかった。そこにMUJINはティーチレスの技術を使って入り込み、パレットからの荷下ろし(デパレ)、デバンニング(コンテナからの荷下ろし)、多品種ピースピッキングなどの作業を自動化している。滝野氏は「工場内では15kg以上の物体を持ち運んではいけないにも関わらず、物流現場では20kg以上の物体を運ぶことが半ば常態化している」と課題を指摘し、それらを自動化すべきだと述べた。MUJINコントローラーは積みつけやソーターなどにも使われている。

一番の活用例がJD.com(京東)の完全自動化無人倉庫での活用だ。MUJINのロボットが20台入って、ピッキング、整列その他の作業を行なっている。

日本でも新潟のPALTACの倉庫で使われている。多いときには1日1万ケースの出荷を4台のロボットで行なっているという。なおMUJINコントローラーはオンラインでMUJIN社内に繋がっており、リモート保守を実現している。




これからは工場物流がトレンド


滝野氏は「最近は工場物流がトレンドになっている」と述べた。工場でできた部品を、別の工場、あるいは別のラインへと運ぶ作業だ。製造ライン自体は力をかけて無人化しているにも関わらず、フォークリフトで完成品を持っていった後はノーマークという会社が少なくないという。


工場物流にはまだまだ自動化の余地がある

ロボットは単体では仕事ができない。何をするにしてもアームが届く距離に誰かがモノを持ってこなければならない。そのためには自動倉庫のような供給設備が必要になる。だが自動倉庫は数十億円する。仮にロボットが10台で3億円であっても、40億円くらいの自動倉庫も必要です、となると、ロボット導入はなかなか難しいという顧客もいる。

そこで初期投資を下げ、需給の変動に応じるために、MUJINでは今回の「ロボデックス」で「パレットAGV」の活用を提案している。デバレタイズロボットと組み合わせて用いるロボットだ。

シャトルや自動倉庫のような大型設備ではなくAGVを使うことで、大規模投資を行わずに最短3ヶ月で倉庫を立ち上げられるし、拡張や需給変動にも応えられるという。高頻度なワークは平積みにしておいて、必要に応じてAGVがロボットのもとまで持って行き、ロボットがピッキングするようなイメージだ。


月額・年額課金とすることでロボット導入を容易に

なお、MUJINとしてはマテハンメーカーと競合するつもりはなく「あくまで、より手軽にロボットを導入できるようにするためのソリューションとして提供していきたいという考えだ」と滝野氏は強調した。主に大規模投資が難しいサード・パーティー・ロジスティクス(3PL)の顧客をメインターゲットとしたソリューションとし、月額、年額で提供する。棚が動き回るタイプと、棚は動かないタイプ、それぞれを提供する。既に様々な顧客のところで試し始めているという。なおAGVは協力会社の製品であり、MUJINが独自にAGVを作る予定はないとのこと。


ロボットのための物流・システム・マテハン設計のコンサルも行う

最終的にはERPなど上位システムとも接続し、サプライチェーン、生産計画の効率化を目指す。2019年半ばにはMUJINのモデル倉庫を作って顧客提案を進めるという。


MUJINブースは黒山の人だかり

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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