村田製作所「チアリーディング部」ダンス・パフォーマンスを渋谷区の小学校で披露!倒れない、ぶつからないロボット技術としくみ

村田製作所による小学校向けの出前授業、体験型プログラミング教育「動け!せんせいロボット」の様子を前回の記事で取り上げたが、実はその授業の最後に「村田製作所チアリーディング部」のパフォーマンスが渋谷区立鳩森小学校の5年生の生徒達に披露された。そのパフォーマンス披露もSTEM教育出張授業の一環で、モノづくりの楽しさと工夫を伝えるために行われた。

出張授業の最後に「村田製作所チアリーディング部」のパフォーマンスが披露された。写真は子ども達に技術の説明をする村田製作所のプロジェクトリーダー 吉川氏

「倒れそうで倒れない」「ぶつかりそうでぶつからない」、そんな応援ロボットが「村田製作所チアリーディング部」だ。本来は10体(10人)で1グループのチームだが、小学校出張授業ということもあり、限られたスペース用に今回は4体組でチーム・パフォーマンスを披露してくれた。


応援されると言うより、ほんわかしたチアソングに、思わずホッコリしてしまう。村田製作所のホームページによれば「動きが危なっかしくて(チア部がみなさんに)逆に応援されちゃうかも」と書かれているが、ナニナニそんなことはない、チームで揃った見事なチアダンスをしっかり踊ってくれて、子ども達からの大きな拍手が体育館に響いた。


■小学校での村田製作所チアリーディング部のパフォーマンス 技術解説付き

ただ惜しむらくは、この技術の凄さが観客に伝わりにくいこと。
チアチームがフォーメーションを組んでダンスを実現するのは技術的に難しく、ハイテクが使われているのに、観客にはこの技術の高さや難しさが伝わりにくい。例えば、専門用語で言えば、ロボットの「機構・機械設計」、バランスをとったりダンスや移動の「姿勢制御」、複数のロボットの位置を正確に把握してぶつからずに動かす「位置計測」や「群制御」などの要素技術があって初めて実現するシステムなのだ。せっかくの機会なので、ロボスタではどのような技術が使われているかを解説したい。また、これらの技術がどのように活用されていくのかにも触れたい。


チア部のロボットたち

チア部のロボットたちは、身長36cm 体重1.5㎏。最高速度は秒速30cm。4m×4mの範囲でパフォーマンスできる。年齢は好奇心旺盛な小学校高学年という設定だ。手の先などが発光するが、3色のLEDを使っているのであらゆる色を表現することができる。

村田製作所の公式イメージより

■公式PR動画




バランスをとって移動

もしかすると一見してパフォーマンスを見ただけでは気づかないかもしれないが、チアロボットたちは黒い球に乗っている。すなわち、玉乗りをしている状態だ。


直立しているとき既にバランスを保っている。これには「ジャイロセンサー」を用いている。村田製作所が自動車の部品として供給している横滑り防止装置や姿勢制御等に使われているのが「ジャイロセンサー」だ。スマートフォンやゲームのコントローラ、ドローンなど最近は多くの機器に欠かせない技術だ。このセンサーでロボットの身体の傾きを検知してリアルタイムに姿勢を制御してバランスをとる。手を振り上げたり、移動してもバランスは崩さない。

村田製作所の公式イメージより

黒い球は鉄製だが、中は空洞で軽い。球にはゴムのスプレー塗装が施されていて、滑り止めになり、「動く」「止まる」を正確にこなすのに役立っている。


この鉄球を動かすのはスカートの中に内蔵された3つのホイールだ。

バランスを取ったり移動するためにボールを動かすホイール構造




センサーとマイクで位置を取得してフォーメーションを制御

このシステムにはカメラ(ビジョン技術)を使用していない。位置情報や動きの検知にはいわゆる「SLAM」(スラム)技術が使われている。
複数のチアロボットの位置を把握するのは超音波と赤外線センサーだけ。ぶつからないように移動したり踊るための位置情報やフォーメーションは、ひとつのノートPCで管理し、チア部のすべてのロボットの位置制御を行っている。これは顧客の動線管理のためにコンビニで使っているシステムを応用している(来店客がどの棚をどのように通って、どんな商品に興味を持ったか等を調べるシステム)。
村田製作所チアリーディング部は、このように実際に社会や市場で使われている技術を応用して実現したものだ。


ぶつからない技術

SLAMの中にも村田製作所らしいハイテク技術が使われている。
全体の動きと位置を検知し、ロボットに位置情報を送る役目は「空中超音波センサー」が行っている。空中超音波センサーは、超音波を空中に放射し、ロボットからの反射波を検知するしくみ。侵入者警報装置や自動ドアなどの物体検知、あるいは自動車の後方検知装置などの距離計に用いられる。

今回使用した「空中超音波センサー」はこれ

「空中超音波センサー」の通信相手となるチア部のロボットたちの髪の毛はスポンジでできている。スポンジ製なのはこのしくみに関連している。

髪の毛は手作りで、スポンジ素材を使用している

スポンジの奥の頭部には5つの超音波マイク(MEMS)と4つの赤外線センサーが内蔵されている。それぞれのセンサーが受信した電波の時間差、位相差によって距離をつかみ、「リアルタイム」に「正確」に動きを制御している。そのため音や光など電波を通しやすいスポンジ素材が使われている。



少し先の未来を感じて欲しい

自動車関連で実装されている技術が使われているが、「村田製作所チアリーディング部」のパフォーマンスを通して、自動車が一定の車間を保って走る隊列走行をイメージするなど「少し先の未来を感じて欲しい」という。
チームで行動したりフォーメーションの技術は、京都大学とのコラボレーションだ。京都大学では災害時などのレスキューロボットに応用することも考慮して研究をすすめていたもの。例えば災害現場では、瓦礫の下で動けなくなっている人を探索する場合、二次災害の危険があるので人が動き回るのは危険で、ロボットであっても自重が大きいものは要救助者に危険が伴う。そこで、たくさんの小さいロボットがチームで協調して動作する利点が活きてくる。将来、「村田製作所チアリーディング部」で培った群行動の制御技術が、レスキューロボットに活かされるかもしれない。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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