体験型プログラミング教育「動け!せんせいロボット」村田製作所が渋谷区の小学校で実施!体育館に笑顔があふれる

「動け!せんせいロボット」は、小学校を対象に村田製作所が出前授業をしてくれる体験型の教育プログラムだ。主にタブレットを使ってプログラミングを体験するのだが、ビックリすることに子ども達がプログラミングして動かすのは、段ボールを被ってロボットに扮した、村田製作所の社員の方達なのだ。


ええっと・・もう一回言いますね。
プログラミングで動くのは段ボールを被った人間。しかも段ボールの中の人は笛をくわえていて、ロボットが動くときの「ウィ~ン」って音を笛を吹いて出すという凝りようなのだ。

段ボールの中にはヘルメットとスマートフォンがセットされている

マジックテープで貼り付けてあるスマートフォン。子ども達が作ったプログラミングの指令を受けるための重要なパーツ

シュールさではぶっちぎりだが、将来のサイエンティストやエンジニアを育むため、これまで10万人以上に出前授業をしてきた村田製作所が、考えに考えた最新のSTEM教育プログラムが「動け!せんせいロボット」なのだ。ついにその実際を見ることができた。


渋谷区の小学校で「動け!せんせいロボット」

関東では初となる「動け!せんせいロボット」が、東京渋谷区にある鳩森小学校の5年生を対象に行われた。授業の場所は体育館。市松模様のマットで3つのステージが用意され、子ども達はそれぞれ3チーム、合計9チームにグループ分けして受講する。


ロボットの顔を作ろう

最初に行うのは「せんせいロボット」の顔づくり。段ボールの頭部に、福笑いの要領で思い思いの顔を作っていく。

段ボール箱の頭部と顔のパーツ

子ども達が自由に顔をデザインするところからはじまる

ほんの数分でせんせいロボットの顔ができあがった

デザインしたロボットの顔に満足そうな子ども達


せんせいロボット達の登場、場内はあ然

次に、村田製作所の社員たちがロボットの顔を被って登場する。

子ども達がデザインしたロボットの顔を被って「せんせいロボット」の完成

子ども達の前に登場する「せんせいロボット」。


もちろん、最初はあ然とする子ども達が大半・・

「ろ、ロボット?」「えぇっ!?」


ロボットを動かすにはプログラミングが必要

「せんせいロボット」は市松模様のマットの所定の位置に立つ。電源を入れただけの状態では「せんせいロボット」は動かない。動かすにはプログラミングが必要だ。


子ども達の前にはタブレットが置かれている。これでせんせいロボットを動かすためのプログラムを作る。

「あぁ、そういうことか・・」子ども達はすぐに基本的なプログラミングを学び始める

渋谷区では子ども達ひとり1台ずつタブレットが配布され、授業や宿題等に活用されている。今回参加した生徒たちもタブレット歴は3年め、使い方には戸惑いはない。

最初の課題は、所定の場所、AからB地点へ、せんせいロボットを動かすこと

タブレットの画面ではさまざまなコマンドを選択し、ドラッグ&ドロップで連続した動作を作ることができる。しかし、「右へ向く」「左を向く」「一歩進む」など、あるのは決められた単動作のコマンドだけ。せんせいロボットにさせたい動作を分解し、ドラッグ&ドロップで繋げて「送信」しなければならない。

「まず左を向かせるでしょ、それから何マス進める・・・のかな」

動作をプログラミングしたら、ロボットに「送信」する。

「4マス進めれば・・・OKのはず」

前述のように、せんせいロボットの頭の段ボール内部、ちょうど鼻の下あたりには、スマートフォンが貼り付けられている。子ども達がタブレットから送信したコマンドはスマートフォンで受信し、順番にその画面に表示される。せんせいロボットはそのコマンドのとおりに動作しなければならない。

課題をクリアして成功すれば「せんせいロボット」がポーズを決めてくれる!

今回の授業から、初めて女性のせんせいロボットが登場した

「全然ちがった(笑)」失敗は成功のもと・・


課題はどんどん難しくなっていく

次の課題では目的地までのルートの途中に壁やトンネルが出てくる。


「ひざを曲げる」「一歩進む」「膝を伸ばす」を実行してトンネルをくぐるなど、分解したコマンドを並べてプログラミングする必要がある。


更に難しくなると、荷物をつかんで、所定の位置に移動する、なんて課題も出てくる。

子ども達の表情は真剣そのもの

プログラミングができたら「送信」、せんせいロボットが動き出す。

思ったとおりに動くかな


「やったーっ」成功だ

こっちはどうかな?

あれあれ? 何かおかしいぞ

「うわぁっ、失敗だ」


もの作りには失敗することが大切

この授業で子ども達の失敗はむしろ狙い通り。「どんどん失敗して欲しい」と、このプロジェクトのリーダー、村田製作所の吉川浩一氏はそう語る。「研究開発は正解のない、ゼロからイチを生み出す作業。「失敗」に気づき、「成功するにはどうすれば良いか」を考える。この授業ではたくさん失敗をして、その中から自分なりに答えを導き出すことを重視している」。

「あれ(笑)? なんか変だ」「止まっちゃった」

「しゃがんだまま手を上げたからかな?」(笑)

最後の難関は、「前へならえ」や「腕立て伏せ」。人間なら「腕立て伏せして」だけで通じるが、ロボットには動作を分解して伝えなればならない。そこが難しい。

自分でやってみながら、動作を分解

「しゃがむ」「たち上がる」「ひじを曲げる/のばす」「かかとを上げる/下げる」「うでを90度、内にとじる」などのコマンドを駆使して子ども達はプログラミングする。

ドラッグ&ドロップでコマンドを選択する

「腕立て伏せって・・どうするんだっけ?」

「腕立て伏せなのにしゃがんじゃった(笑)」

周りのグループの失敗も参考に、子ども達は成功する方法を自分たちで探っていく。

「腰を曲げる・・のかな?」

「あ、うまくいきそう」

「できた」

「こっちもできたっ!」子ども達に笑顔が溢れる

やったね、成功!

■動画「動け!せんせいロボット」 渋谷区鳩森小学校 出前授業


思い通りにいかなかったけど楽しかった

授業に参加した松丸翔さん(11歳)に感想や難しかったところを聞いた。
翔さんの将来の夢は宇宙に関係する仕事がしたいのでプログラミングにも興味はあって、画面の中のキャラクターをプログラムで動かした経験はあるとのこと。

翔さん

うまくできなかったところもあったけどとても楽しかったです。プログラミング体験と聞いていたので、最初はタブレット画面の中で何かを動かすと思っていました。でも、人が入ったロボットが出てきたのでビックリしました。タブレットで作ったプログラムで、現実のロボット(人)を動かすのはとても面白かったです。
一番難しかったのは腕立て伏せです。土下座してしまう感じになってしまい、しゃがんで手をついて、膝を伸ばすのを思いつくのに時間がかかりました。やってみて思い通りにいかないところは難しかったけれど、そこが面白いとも感じました。

渋谷区立 鳩森小学校 5年生 松丸翔さんと、校長の鈴木優子氏



また、鈴木校長にも終了時に感想を聞いた。

鈴木校長

画面上で作ったプログラムによって人が動くというのは、実際のロボットの開発やプログラミングに通じるところがあって素晴らしいと思いました。学校では子ども達の成長に応じて教材を用意していきたいと常に考えていますが、ここまで大規模な体験授業は一教員ではできないので、村田製作所さんに来て実施して頂き、とても感謝しています。また、プログラミング授業もこうすれば子ども達がより興味を持つ、といったことも改めて感じることができました。




鳩森小学校、村田製作所の取り組み

体験型プログラミング教育「動け!せんせいロボット」を実施するにあたり、直前に報道関係者向けにブリーフィングが行われ、鳩森小学校のSTEM教育への取り組みや、村田製作所の出前授業の目的や思いに対する説明を受けた。


インクルーシブ教育を推進

鈴木校長は「昨年度はムラタセイサク君の出前授業をして頂き、科学やモノを作ることに対して子ども達の興味・関心が大きく拡がったと感じました。失敗を繰り返しながらもモノを作り上げていく姿勢、難しいことを成し遂げる姿勢に憧れを持った児童が多かったと思います。教育現場では今まで重視されていた知識や学力から、自分たちで考え、表現していく力がより求められています。当校はひとりひとりを大切にするインクルーシブ教育を推進しています。実際にモノを作っている村田製作所さんに行って頂く今日のプログラミング教育は子ども達の心に残るものになると期待しています」と語った。

渋谷区立 鳩森小学校 校長 鈴木優子氏

ムラタセイサク君とは、自転車に乗って超低速で走り、完全に停止してもバランスを取って倒れない自転車ロボットのこと。昨年度はその開発秘話などを交えて、鳩森小学校で座学を中心にキャリア教育して出張授業を行った。



年間100校規模で12年以上実施

村田製作所はロボットを活用した出前授業を2006年からオールムラタで実施している。年間100校規模で12年以上実施していて、既にのべ10万人以上の受講者を数える。そこでは「ものづくりの楽しさ」と「技術者の仕事の魅力」を伝えたい、という。この活動が教育現場から「キャリア教育に繋がる」と高い評価を受けている。

株式会社村田製作所 広報部 吉川浩一氏

いま教育現場では、2020年度から小学校でプログラミング教育の必修化に向けてさまざまな課題を抱えている。その中で、村田製作所は「ロボット開発を題材にしてプログラミング的思考を体験できる方法はないだろうか」と検討した結果、この「動け!せんせいロボット」に行きついた。



社員がロボットに扮するのには理由がある

ロボットはあえて村田製作所の社員が扮する。ロボットの顔は身近な素材、段ボールを使った。子ども達からみれば先生たちが段ボールをかぶって、自分たちが作ったプログラミングを忠実に実行してくれる。せんせいロボットの姿は健気さもあって、むしろ人間味を強く感じたりもする。


吉川氏は「文科省の「小学校プログラミング教育の手引き」では、伸ばしていくいくつかの技能の指針として書かれています。ITツールを使いこなすなどの”技能や知識”、自発的に興味を持って調べる”学びに向かう力・人間性”、そして村田製作所が重視する「思考力・判断力・表現力」もあげられています。私達が会社で新技術や新商品を開発したり、モノ作りを実践している中で必要なものです。
プログラミング教育というと難しそうと感じる子ども達もいると思いますので、あえて段ボールで作ったロボットに人間が扮し、アナログ的な要素を取り入れることで親しみやすさを演出しています。また、失敗したときに無機質なロボットでは「もう一回やりなおせばいいや」と深い思考に至らないことが多いのですが、せんせいロボットの場合、子ども達が間違ったコマンドを送ることで辛いポーズをとらせてしまうこともあり、失敗したときの痛さや辛さを含め、より深い思考で成功するためにはどうすればいいかを考えてくれるのでは、と感じています。
そして、この授業を通じて最も体験してもらいたいのは「達成感」です。期待した動きをロボットに伝えるのは難しい、でも思い通りにできたときはうれしい、と子ども達が失敗しながらも達成したときの喜びを感じてくれる、知的好奇心に火をつける機会にしたい」と語った。


吉川氏は「授業を通じて従業員の人間性も成長させたい」とした。それは「顧客満足度(CS)を高めることは、従業員満足度(ES)が高くなければ達成できない」という企業の方針に基づくものだ。実際、今回の授業では女性社員が進んでロボット役を買って出てくれたと言う。

今回の体験授業を終えて吉川氏は「渋谷区の小学生は既にタブレットを3年間使っていることもあって、特に習熟度が高いと感じました。今後、他の地域でも実施を予定していますが、タブレットの習熟度が地域的に違いがあることを念頭に進めていく必要があると感じました。この授業は失敗したときも子ども達の笑顔が見られ、とても楽しんでもらえたと思います」と語った。

このあと、今年10月と11月に京都府乙訓の小学校、島根県出雲市、岡山県瀬戸内市の各小学校で「動け!せんせいロボット」の出前授業が予定されている。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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