5G、IoT、ロボット、4K/8K映像、自動運転、高速大容量データ時代のオシロスコープとは ローデ・シュワルツに聞く

高速データ転送や高速通信の時代、オシロスコープの性能によって開発や作業、メンテナンス効率が大きく左右される。一方で、ラジコンやドローン、ロボットコンテストや競技会のロボットなど、電子工作や研究、ホビー分野でもオシロスコープは活用されるようになってきた。オシロスコープはそもそもどんな機器なのか、価格や性能によって、どのような違いがあるのか、5Gや4Kなど、高速伝送の時代になぜ高性能なオシロスコープが求められるのか、ローデ・シュワルツに聞いた。





ローデ・シュワルツは計測・テスト機器のリーディングカンパニー

ローデ・シュワルツは、ドイツを代表するエレクトロニクス企業のひとつ。無線や通信分野で80年以上の歴史があり、中でも計測・テスト機器のリーディングカンパニーとしてグローバルで展開。電子計測機器マーケットのシェアでは、欧州(EU)ではNo.1、ワールドワイドでも第2位を占めている。

身近なところでは、スマートフォンなどのモバイル端末の開発や生産、メンテナンス等において、無線機テスタやアンテナ・テスト・システムなどのテスト・ソリューションや、オシロスコープ、スペクトラム・アナライザに代表される計測器が、エンジニアリングに不可欠な機器となっており、その際に同社の製品が導入されているケースも多い。


海軍の艦船の通信中枢システムを担う

計測・テストソリューションで培った技術力をもとに、同社では通信システム自体もカバーしている。実際、高い技術力や堅牢な安全性が求められる防衛分野では、世界中40カ国の海軍で同社のソリューションが使われている。


同社のNAVICS統合通信システムは、海上や水中での航行や索敵に必要な通信だけでなく、音声端末、スマートフォンによる通信、オンボード/オフボード・テレフォニーサービス間に至るまでシームレスで安全な通信を実現する。更にはブロードキャストやアラームさえも統合するシステム構成にも展開できる。これに象徴されるように、同社の無線モニタリング、方位探知、セキュリティ通信、放送、メディア、電子計測器などは、多くの分野で高い技術力が評価され、信頼性を確立している。

NAVICS統合通信システムの一部。この他にもボイスターミナルやインテグレーテッド・アンテナやメッセージ・ハンドリング・システムなどで構成されている


フォーミュラカーのECUのモニタリング

また、フォーミュラカーの開発にも同社の計測器が使われている。現代のレーシングカーは走るコンピュータと呼ばれ、センサーの塊と言っていい。例えば、レース中のエンジン回転数、油温、油圧、バッテリー電圧など、エンジンコントロールユニット(ECU)の重要なパラメーター情報は測定センサーから取得して、CANバス(制御用通信バス)インターフェースを介してコックピットに送信されている。そこで重要となるのが、センサーからのデータを取得し、長期のモニタリングを実現する統合データロガーだ。
ダルムシュタット応用科学大学のFaSTDaレーシングチームでは、CANバスセンサーのデータ監視と評価、 点火中断などのテストを正確に計測するため、高い絶縁耐力を重視した完全絶縁型ハンドヘルド型のオシロスコープ「R&S ScopeRider RTH」を導入した。今回の記事で注目するオシロスコープのひとつ。屋内外、雨の中でも使用できる防滴仕様だ。

※「CAN」バスはController Area Networkの略称。ドイツのBOSCH社が開発をはじめた電送系の国際標準規格。自動車、輸送用機械、工場、工作機械、ロボット分野でも利用されている




高速大容量データ時代に求められるオシロスコープの信頼性

編集部

そもそもオシロスコープとはどのような機器ですか

小掠氏

オシロスコープは横軸が時間、縦軸が電圧を表示することで、電圧信号の時間変化を2次元グラフで表示できます。これにより、回路を流れる信号の電圧レベルを時間変動として計測できるので、回路動作の不具合を発生する信号を捕捉できます。このため、アナログおよびデジタル回路を設計・開発する多くのエンジニアの方々に、デバッグ用途として広く使用されています。スペクトラム・アナライザーと併せて使われることも多いのですが、そちらは横軸が周波数、縦軸が電力や電圧の2次元グラフを表示する計測器で、主に信号の周波数成分の解析に使用されます。

ローデ・シュワルツ・ジャパン株式会社 マーケティング 小掠 史明氏

編集部

レーシングカーの開発にもオシロスコープが使われているということですが、自動車業界での利用が多いのでしょうか? また、5GやIoT、ロボットなどに関連した開発にも必要な機器ですか

関野氏

自動車業界に限らず、電子機器を扱うすべての分野で利用されています。例えば、⾃動⾞の場合、以前はワイヤー等で⾏われていたアクセルの開閉制御などは、最近では全て電⼦制御で⾏われています。ここでは、アナログ的なドライバーの動作情報が正常にデジタル変換されてセンサーに情報が正しく伝送されているか、あるいはノイズなどの悪影響を受けていないかなど、自動車内部の制御系の複雑化に伴い計測による確認作業が増加しており、オシロスコープの出番も重要性も増しています。参考までに、一部の自動車では既にLANによるデータの送受信が行われており、そのデータ転送レートは自律運転などの実現にともない高速化が著しく進んでいます。

ローデ・シュワルツ・ジャパン株式会社 マーケティング部 統轄部長 関野 敏正氏

フォーミュラーカーをはじめとする自動車やバイク、船舶、飛行機などでは、「R&S ScopeRider RTH」というハンドヘルド・タイプの絶縁型オシロスコープが好評です。バッテリー内蔵で持ち歩けて、防滴仕様なので雨でも使えます。ADC解像度は10ビットで分解能がよくて感度がいいのが特徴です。絶縁型オシロスコープは技術的に難しいので、絶縁型を製品リリースしているメーカーは多くはありません。ユニークな点では無線LANを搭載していて、ノートパソコンからRTHを遠隔操作したり、RTHが計測した情報を確認することができます。

R&S Scope Rider ハンドヘルド・オシロスコープ (RTHシリーズ)。バッテリーを搭載したハンドヘルド・タイプ。絶縁型(CAT IV 600 V(RMS)/CAT III 1000 V(RMS))。高電圧対応タイプ。帯域幅:60MHz〜500MHz。縦軸は10ビットのADコンバータを搭載、デジタル8チャンネル装備。参考価格 389,000円(税別)

伝送バスの信号はデジタル信号のため、信号が出ているかいないか、0か1かを測定するのが主ですが、無線の場合は周波数帯域に入っているか、変調方式に合致した信号が出ているかどうかも重要になります。周波数などを測る際にはスペクトラム・アナライザーを併用する場合も多いのですが、現在のデジタル・オシロスコープではフーリエ変換「FFT」機能によって、いま見ている信号がどういう周波数成分を持っているかを知ることができます。このため、オシロスコープだけでもある程度の周波数と信号を見ることができます。



オシロスコープに最新規格のコンプライアンス・テストのデータをプリセット

関野氏

最近では、用途に応じてさまざまな種類のバスが規格化されています。先ほどの話題に出た⾃動⾞やレーシングカーに利⽤されている「CAN」、あるいは「LIN」や「FlexRay」など、数多くの規格があるため、エンジニアは多くの規格に精通していることが求められます。しかしながら、最近はこうした規格を試験するための機能がオシロスコープにあらかじめ用意されていて、開発中のデジタル回路やバスが各規格に準拠しているか、互換性は満たしているか、規格の中で開発者が望んでいるスペックがきちんと出ているかなど、簡単に計測できます。前述のような規格以外にも、航空機⽤やオーディオ⽤インタフェースの規格試験を開発者が⼿軽に⾏える機能や、コンプライアンス試験に対応したオプションなどが用意されています。もちろん最新の規格がアップデートされれば、ユーザーにもソフトウェアの更新で対応できるように配慮しています。

編集部

設計技術者は最新規格のことを細部まで知っている必要はなく、ある程度はオシロスコープにお任せできるということですね。
ところで、ロボットやセキュリティカメラなど、ビジョン分野ではAIによる進化が著しく、映像データを扱うケースが急増していますが、そこでも活用されているのでしょうか

関野氏

はい、ビジョン関連の分野でも活用されていて、信頼性や機能が重要になってきます。例えば、アナログの映像データをデジタルに変換する際のADコンバータの評価に使われたりしています。ADコンバータが8ビット(ADC解像度が8ビット)だとすると、1つのアナログ信号に対してデジタルでは8本の信号に変換されますが、それが正しく変換されているのかを確認するのにもオシロスコープが使われます。こうしたADCの計測においては、通常のアナログ入力チャネルと、ミックスド・シグナル機能を併用することでアナログ信号からデジタル信号への変換品質を簡単に評価できます。また、ADCに入力されるアナログ信号の評価も重要なポイントです。アナログ信号に重畳するノイズの影響を抑えることで、映像品質を向上できるためです。オシロスコープに搭載されているADCの解像度が10ビットであれば、通常の8ビットの製品と比較して電圧分解能が4倍となるため、ノイズの詳細な解析が可能となります。

R&S RTA4000 オシロスコープ。高い周波数帯域も対応、帯域幅:200MHz〜1GHz。ADC解像度:10ビット、ディスプレイは10.1インチ静電容量式タッチスクリーン、画面が大きくてきれい。参考価格 680,000円(税別)。
関野氏「ラボで使うことが前提の場合は、据置型オシロスコープがおすすめです。起動時間が10秒程度と、とても早い点も評価されています」

編集部

ADC解像度が8ビットと10ビットとではそういった点で違いが現れるのですね

関野氏

はい。データを高速に伝送する機器ほど、オシロスコープの性能や信頼性が重要になってきます。例えば、一眼レフなどのデジタルカメラの設計や制御でもオシロスコープは重要な機器のひとつです。デジタルカメラはますます高画素化していて、高速連写の性能も向上しています。カメラの内部では膨大な画素数のイメージセンサーが取得したデータ、すなわち膨大な容量のデータを瞬時にメモリに伝送し、更に写真データに変換してメモリカードに高速転送・記録する作業を行っています。このように伝送バスを通るデータが高速になればなるほど、高品質なオシロスコープが求められます。



高速大容量データ時代にオシロスコーブが重要な理由

編集部

伝送速度や通信速度によって高額で高性能なオシロスコープが必要になるということですね。今後、更にデータの高速化が進むとニーズも高まりますか

小掠氏

そう考えています。5Gによる高速大容量のデータ通信、映像の4Kや8Kデータ化など、大容量のデータを高速に扱わなければならない機器ほど、品質と信頼性の高いオシロスコープが求められます。また、急激にIoT機器が増えていますが、IoTモジュールがやりとりしている信号が決められた周波数に乗って正しく発信されているかも手軽に測定することができます。また、IoTデバイスは小型化や高密度化が進んでいて、そうなると回路が近接することでよりノイズの影響を受けることも多くなりますし、低電圧な回路を組むことでよりノイズに敏感な回路になってきています。開発やメンテナンスの現場ではオシロスコープでノイズを検知したり抑止する必要性が高まっています。

編集部

ノイズの計測や抑制にもオシロスコープは利用されているんですね

関野氏

ノイズの原因を調べるのには複数のチャンネルを備えたオシロスコープが特に有効です。また、その意味ではオシロスコープ自体がノイズや環境に強いことが重要です。例えば、性能的には10ビットに対応したADコンバータだったとしても、オシロスコープ自身が発するノイズがあると、10ビットのうちの数ビットはノイズのために利用できなくなってしまいます。「有効ビット数」と呼びますが、当社の製品はそこも意識して設計されています。環境からくる外来のノイズが入らないようにシールドしたり、さらにはオシロスコープ自身が発するノイズを抑える構造などが採用されています。

編集部

なるほど、信頼性が低いオシロスコーブは、計測器自体がノイズを発してしまって正確な計測ができないわけですね。




廉価モデルもラインアップ

信頼性と品質のローデ・シュワルツ製品の廉価モデルがラインアップされた。電子設計や基板デザイン、開発、メンテナンスを行う研究室や小規模の企業に向けて開発された製品だ。ラジコンやドローン、ロボットコンテストや競技会のロボットなど、電子工作や研究、ホビー分野でも活用できそうなモデルだ。

R&S RTC1000オシロスコープ。ADC解像度:8ビット。帯域幅:50MHz~300MHz。最大サンプリングレート:2Gサンプル/秒。最大メモリ長:2Mサンプル。MSO:8デジタルチャネル、オプション、後付け可能。パターンジェネレーター:最大50Mbit/sの4ビットパターン。参考価格 109,000円(税別)

5G、4K/8K映像、VR、カメラ映像など、データは更に大容量、高速処理が要求される。また、IoTやロボットなど、データをやりとりする多接続性も増していくだろう。そういった状況の中で、電子デバイスの開発はもちろん、テスト、メンテナンス、サービス分野で、計測機器の役割もまた、ますます高まっていくだろう。

ローデ・シュワルツのオシロスコーブ3機種。手前からR&S Scope Rider ハンドヘルド・オシロスコープ、R&S RTA4000 オシロスコープ、R&S RTC1000オシロスコープ



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