佐川が「棚ごと運ぶ自動搬送ロボット」をEC物流倉庫に導入 システムの全容を報道陣に公開 SGL蓮田営業所
佐川急便を中核とするSGホールディングスグループの佐川グローバルロジスティクス株式会社(SGL)は、埼玉県蓮田にオープンする蓮田営業所において、商品棚ごと運ぶ自動搬送ロボット「EVE500」を32台導入し、自動化による省力化と働き方改革を進めることを発表した。
オープンに先駆け、報道関係者向けの内覧会が開催され、プレゼンテーションと非常に詳しいデモが行われた。ロボスタも参加し、作業そのものも体験した。
物流に「ロボティクスと人の融合」
現在、SGホールディングスグループは全体で80拠点、36万坪の倉庫を展開しているが、新たに2か所を追加で新設することを発表している。ひとつがここ蓮田営業所、そしてもうひとつが江東区新砂で建設中の国内最大級のロジスティクスセンター「X FRONTIER」(Xフロンティア:2020年2月稼働開始予定)だ。いずれにも「ロボティクスと人の融合」を掲げ、オペレーションを効率化、自動化/省力化を積極的にはかることを表明している。
蓮田営業所は延床面積が約10,540坪、EVE500を使用する倉庫範囲は約800坪。まずは30~40のECクライアントを受けていく予定。
「EVE500」は中国のGEEK+(ギークプラス)が開発している自動搬送ロボットで、最大500kgまでの棚を持ち上げて移動できる。フル充電まで約30分、10時間稼働が目安だ。今回、蓮田営業所の倉庫には本体が32台、専用棚が574台が導入された。販売元はフジテックス。
導入金額は非公開だが「EVE500」を選択した理由として、ECプラットフォームとして預かり商品の荷受け、在庫管理、発送業務を効率的に行うには、「EVE500」を使ったゲートアソートシステム「GAS」が有効と判断した。
「EVE500」を活用した作業例
新しく巨大な倉庫内は整然としていてきれいだ。そこに4つのGASが設置されていて、EVE500が棚を運んでくる。動作音は静かな印象だ。
今回公開されたのはEVE500を活用した「棚入れ作業」と「ピッキング作業」。作業は標準化されている。4つのGASは同じ造りに設計されていて、実際にはどのGASでどの作業を行ってもよいしくみになっている。
また、そのしくみは自由度が高く、フレキシブルでユニークだ。詳しく解説しよう。
棚入れ作業(荷入れ)
棚入れ作業は入荷した商品の数を数えて検品し、棚に収容する作業だ。一般には検品した商品を在庫品として所定の棚に、倉庫内を歩いて運ぶ作業になるが、ここでは作業者はEVE500が運んできた棚に入れ、その商品と棚の区画番号を紐づけするだけの作業になる。そのため巨大な倉庫内を歩き回る必要がない。
作業員はバーコードスキャナーで棚入れする商品をスキャンし、入れたい棚を選択する。
選択した棚に商品入れる。
棚のバーコードをスキャン。これでこの商品がこの棚に入っていることが登録された。
作業的には従来の手と足で行う作業に比べて、EVE500での作業時間は約1/3。作業量としては約3倍も増やせる見込みだという。
■佐川急便(SGL) EVE500 棚入れ作業
ピッキング作業(荷出し梱包のための分別:仕分け)
ピッキング作業は発送依頼のあった商品を在庫の商品棚から取り出し、梱包ごとにパレットにまとめ、発送用の梱包(箱詰め)チームに引き渡す作業だ。一般には、発送する商品を探して(棚入れ作業のときと同様に)倉庫内を歩いて集めて回る作業になるが、ここでもEVE500が梱包すべき商品を棚ごとGASまで運んできてくれるため、作業者は倉庫内を歩き回る必要がない。
また、棚入れ作業とピッキング作業は、棚に入れるのと、棚から出す、という違いこそあれ、基本的には同じ流れで作業が行われていることに気づく。
■佐川急便(SGL) EVE500 ピッキング作業
1.EVE500が商品棚をGASに自動搬送してくる
2.モニタがピッキングする棚(区画)と商品を指示
3.作業者が棚(区画)から商品をとる
4.商品をスキャンする(正しいかをチェック)
5.商品を一括梱包するパレットの蓋が開くので作業者はそこに入れる
6.一括梱包する商品が揃ったパレットはシステムが作業者に通知して、そのオーダー分は完了(まとめて梱包チームへ)。
※この作業を筆者も体験したが、システムの指示通り作業すれば一括梱包が次々に完了していくので、すぐに作業に馴染むことができたり、担当者による作業速度のムラの解消にもなるのではないか? と感じた。
作業員の自由度が高い
他のシステムの場合、一括梱包ごとに順番に製品をピッキングして処理しなければならない、という制限のあるものもある。その場合、自動搬送車が一括梱包する商品棚を順番に運んできてピッキング待ちの列ができる。しかし、SGLの場合、一度に30個のパレットを並べ、EVE500が運んできた商品とそれをピッキングする箱をシステムが作業者に指示するので、作業者はその指示に従って商品を移動するだけの単純作業になる。製品と商品棚、パレットを紐付けるのはバーコードスキャナで行う。
EVE500は梱包する順番に左右されず、GASまで効率的に運ぶルートや運ぶ順番を最適化することで作業全体の速度が上がるしくみになっている。
ここまで解説してきたように「EVE500」の導入効果は大きく2つが期待できる。ひとつは「作業効率のアップ」(1件あたりの作業時間の短縮=1時間あたり/1日あたり処理件数の増加)と「作業員の移動距離の短縮」(倉庫内を歩き回る必要がない=働き方改革)。
ECプラットフォームのロボティクス活用のポイント
デモ終了後に同社が取り組んでいるECプラットフォーム事業の説明が行われた。
ECプラットフォーム事業では、契約した複数の荷主から預かった商品と迅速かつ効率的に発送していくために、場所とスペースを共有(シェア)していくことが重要であり、利益を生み出すとした。
ポイントとしては「1.固定費の削減」(高額なマテハンシステム/マテハン機器の導入コストを削減し、同時にスペースの効率的なシェアと従量課金制の導入)、「2.稼働準備期間の減少」、「3.安定供給、業務品質の向上」を掲げ、その結果として、「販売サービスの拡充」「販売チャネルの拡大」「越境EC」等につなげたい考えだ。
実現のためにはロボティクス技術を活用し、自動搬送ロボットや自動梱包機(Xフロンティアに導入予定)による効率化をはかり、「半分の労力」を実現する標準化/省人化・働き方改革につなげたいとした。
自動搬送ロボット特集 (ロボスタ)
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。