建物やオフィスの内装、インテリア、スマートオフィス設備など、幅広く手掛けている会社、NTTファシリティーズエンジニアリング(NTT FE)を訪ねると、受付では可愛い声で会話ロボット「Sota」(ソータ)が迎えてくれた。
ロボットの説明と連動して、大型のサイネージ(ディスプレイ)に表示されている地図や写真が切り替わって見やすい。開発しているのはNTTテクノクロス。会社案内や施設案内、観光案内などを会話ロボットで行うシステムを簡単に作ることができるパッケージのサービス名称は「AMARYLLIS」(アマリリス)だ。
企業の受付、観光地の案内、ショッピングモールでの案内、展示会や店頭でのプレゼンテーションなど、多言語にも対応するロボットによる会話システムだ。省人化・自動化によるコスト削減、インバウンド等の外国語での案内業務などで年々ニーズが高まっている。
まずはAMARYLLISを導入したNTT FEに話を聞いた。
未来的なエントランスの実現
NTT FEの事業内容はオフィスソリューション、スマートソリューション、環境コンサルタントの3本柱だ。オフィスソリューションとして、NTTグループの特徴を活かした通信インフラや通信機器の取り扱いも行い、NTT PCコミュニケーションズなどエントランスのデザインを手がけた事例も豊富だ。
編集部
最近のエントランス・デザインの傾向は如何でしょうか
吉田氏
従来は受付に電話機が置いてあって、担当者を呼び出す形式がスタンダードでしたが、それだけでは味気ないので、最近は未来的なイメージをエントランスや受付にも導入したいというクライアント様が増えているように思います。その中のひとつとして、多言語に対応し、かつ大型のサイネージと連携した会話ロボットによる受付システムや「3D Phantom®︎」等のホログラムディスプレイを使って、会社の事業内容やサービス情報などを紹介する機会もあります。
編集部
ロボットと「3D Phantom®︎」の両方が御社の受付にありますね。未来的な印象を受けました。SotaとAMARYLLISを御社が導入したきっかけもやはり「未来感」だったのでしょうか
大渕氏
導入のきっかけは「自社の受付を多言語対応のロボットでやりたい」と思ったことです。現在はその第一段階として、まずは日本語で会社の事業概要やサービスの説明などをSotaがしてくれています。サイネージと連携できるので、Sotaが事業内容を説明しているときはイラストや図を表示したり、サービスの紹介をするときはそれに合わせて写真や動画を表示することができます。質問に対する回答のシナリオやサイネージに表示する画像や写真をあらかじめ用意する必要がありますが、それらを設定する操作はMicrosoft Excelで入力できるのでとても簡単です。専門の技術者は必要なかったです。
編集部
受付のSotaは虎模様のハッピを着ていましたね
吉田氏
導入した際の担当者がタイガースの大ファンということで、うちの受付のSotaは虎模様のハッピを着ていて、名前は「とらじろう」です。エントランスの雰囲気を和らげてくれて、来社した顧客との話のきっかけにもなるのでは、と期待しています。
Sotaは受付に誰か来たことを感知すると、気づいてもらうように呼びかけをします。
Sotaが可愛い声で話し始めると受付の雰囲気がとても柔らかくなった。ロボットの周りには質問の例を書いたパネルも置かれ、来社した顧客が会話をはじめるのを促す工夫がされている。質問例に「売上は?」「株主を教えて?」と書かれているのもユニークだ。ついついロボットに売上を聞いてみたくなった。
先進の会話ロボット技術を搭載したAMARYLLIS
AMARYLLISを開発したNTTテクノクロスは、実はNTT研究所との関係が深い。同研究所が研究・開発してきたICTの最新技術を現場に導入したり実証実験等を行う役目を担う一面も持っている。特に音声認識や音声合成、会話シナリオなど、NTTグループが得意とするコミュニケーション技術に長けていることが特徴だ。その一端を事例で紹介したい。
都庁の実証実験でバージインをデモ
例えば、2018年に東京都庁でNTT東日本が実施した「都庁舎サービスロボット実証実験(都庁舎案内サービス)」(ロボコネクト)を技術的に支えたのが同社だ。対話割り込み(バージイン)や多言語切り換え、ディープラーニングで学習した世界トップレベルの音声認識など、最新技術が試験的に導入され、ロボットやVUI(音声インタフェース)業界でも注目を集めた。
このとき、業界内で注目された技術が前述の「バージイン」だ。「バージイン」は会話のソフトウェア技術で、ロボットが話している最中でも、人が発話した音声をロボットが聞き取って、新しい質問に対して回答を切り換える技術。従来の会話技術ではロボットが話し終わるまで受け付けないものばかりだった。
下記の動画は、NTT東日本が都庁で行った前述の実証実験の際の動画。「お土産が買いたい」「トイレはどこ?」「本屋さんどこ?」と、矢継ぎ早にSotaに聞いた。AMARYLLISではこの「バージイン」が標準で利用できる。
■2018年に実施された「都庁舎サービスロボット実証実験」の様子
東京メトロと連携 エッジ環境で「速い応答」を実現
また、2019年に東京メトロとNTTコミュニケーションズが連携して新橋駅で会話ロボットの実証実験を行っている(2019年3月11日~17日)。駅員の制服に身を包んだ可愛いSotaを目にした人も多いだろう。この際、NTTテクノクロスのAMARYLLISがAIエンジンとして活用された。東京メトロとJR、モノレール、都営地下鉄との乗換方法や出口の案内、トイレやコインロッカーの場所などを案内した。この時も日・英・中の多言語に対応し、インバウンド観光客にも役立った。
この実証実験ではインターネットに接続せずにローカルのパソコン環境だけで動作させた。インターネットを使ったクラウド接続の場合、通信でやりとりする関係上、質問を受けてから回答するまでにある程度の時間がかかってしまい、会話に”不自然な間”が発生してしまいがちだった。AMARYLLISはロボットのそばに設置したパソコンで動作し、会話の応対ができるため、クラウド環境を使わず自然なレスポンス(反応速度)で回答を返すことができる。この点もロボット業界内では高い評価を得ている。
会話ロボットによる省力化・自動化に適した用途はどんなシーンか、AMARYLLISの特徴、導入から運用、会話のブラッシュアップなど、開発したNTTテクノクロスに聞いた。
「AMARYLLIS」の最大の特徴は導入が簡単
編集部
Sotaを活用した「AMARYLLIS」について教えてください
湯淺氏
受付や商品のそばにSotaを置いておくと、人が近くにいることを認識すると、話しかけて呼び込みをしてくれます。人がすぐ近くまで来てくれたらサイネージやタブレット、ディスプレイの画面が連動して指定した案内をはじめることができます。会話形式でご案内します。来場者が話しかけた言葉をキーワードで認識して、シナリオに沿った回答をします。例えば、観光案内所に設置する場合は観光地や名産品、お食事処などを、ショッピングモールの受付に設置する場合は、お店やトイレの場所、セールやイベント情報など、会社やお店の受付であれば会社の事業内容や新製品情報、キャンペーンなど、どんな内容でも質問に対してあらかじめ用意した回答や説明でご案内ができます。
また、ロボットに話しかけることが苦手な方向けに、タブレットで案内するものを選択することもできます。
編集部
会話のシナリオやサイネージに表示する画像などは、導入する企業が自身で作成したり追加できると聞きました
湯淺氏
はい。シナリオはMicrosoft Excelで簡単に作成できます。あらかじめ質問に対して回答を用意して入力しておきます。例えば「展望施設」について聞かれた場合、探訪施設への行き方、営業時間、何階?、高さは? など、いろいろな質問のバリエーションが考えられますので、それぞれ自由な組み合わせで最適な回答を行うことができるようにしています。また、回答の際に画像ソフトで作った地図や写真等をサイネージに表示するように指定することができます。
なお、「営業時間は?」や「やってる?」など、質問の際の「言葉の揺らぎ」に対応するように別のシートで設定できるようになっています。
シナリオはシンプルな一問一答型を採用している。また、ロボットとの会話が続くように、専用のシナリオと雑談のシナリオの二層構造になっている。専用シナリオは、専門用語や業界用語、製品名等も含めて、クライアントごとに質問とその回答のMicrosoft Excelで作成することができる(前画像)。更に、質問された内容(キーワード)が専用シナリオに存在しない場合は、自動的に雑談シナリオに切り替わってキーワードに関連する一般的な内容で回答するしくみだ。専用シナリオと雑談シナリオを内部で自動的に切り替えることで会話を繋げていく工夫がされている。
編集部
インバウンドの観光客に会社や商品、イベントなどを案内したいというニーズが増えているようですが
湯淺氏
多言語に対応できます。AMARYLLISではタブレット画面に言語選択ボタン(日・英・中・韓)を表示させ、ユーザーがタッチして切り替えることができます。
NTT研究所発の会話ロボット最新技術「対話円滑化技術」
編集部
御社のAMARYLLISにはNTT研究所が開発してきた最新の会話技術が反映されていますね。その部分を詳しく教えていただけますか
小林氏
自然な会話を実現するための大きな技術的なポイントは「対話円滑化技術」と「インテリジェントマイク」です。
「対話円滑化技術」の1つに、ロボットが話している最中でも、人が発話した音声をロボットが聞き取る「割り込み発話技術(バージイン)」があります。「コンビニはどこ?」と聞かれてロボットがコンビニの場所を回答している最中でも、「あ、トイレどこ?」と人は質問を切り替えることがよくあります。従来、ロボットとの対話の多くは、ロボットが話している最中に質問を聞きとるのは難しく、ユーザーはロボットが最後まで回答を終えるのを待つ必要がありました。
AMARYLLISでは畳みかけて質問をもらった場合は新しい質問に切り替えて回答することができます。この機能は標準で実装しています。
また、人同士が会話しているとき、傾聴として相槌をしながら会話を行うことが多々あると思います。「対話円滑化技術」にも相槌するしぐさが組み込まれており、人が発話した音声をロボットが聞き取ると、相槌として「うん」と頷いてくれます。相槌を行うことで、より円滑に人とコミュニケーションをとることができます。
「インテリジェントマイク」技術
編集部
インテリジェントマイクとはどのようなものでしょうか
小林氏
駅やホールなど、雑音が多い環境でも、Sotaの目の前で話している人の声だけを比較的高精度に聞き取ることができる機能ですSotaの頭頂部に3つの「マイクアレイ」を内蔵し、指向性マイクによって正面にいる人の音声を正確に聞き取るとともに、「エコーキャンセラ機能」で雑音や反響音を除去し、安定した聞き取りを実現しています。
ログを分析して会話の精度を向上できる
編集部
ほかに自然な会話がどんどん上達していくようなしくみはありますか
小林氏
会話の履歴やログをクライアント様が出力したり、当社から提供することができます。お客様とロボットが会話した際に認識したワードや、そのワードが作成したコンテンツにどれだけマッチしているか等をログから確認することができます。クライアント様が会話シナリオをブラッシュアップしたり、言い回しの揺らぎの精度を高めるなど、ご活用いただくことができます。将来的には分析機能も追加していきたいとて考えています。
初年度が650,000円/年、2年目以降520,000円~/年
AMARYLLISは、Windowsパソコン上で動作するAMARYLLIS制御アプリケーションと、ロボット本体(Sota)がセットで提供される。価格は初年度が650,000円/年、2年目以降520,000円~/年と予算化できる。また、その他、AMARYLLIS制御用PCやタブレット、ディスプレイ、ルーター、インターネット回線等は別途、用途に応じて準備する必要がある。
受付や情報案内の省力化、多言語化は喫緊の課題として多くの組織がとらえている。導入が簡単で精度が高い会話ロボットがそのソリューションとして期待されている。