AI導入やPoCで失敗する5つの事例と対処法 ABEJAが200社以上の導入実績から知見を公開

ディープラーニングなど、AI関連技術でリードする株式会社ABEJAは「そのPoC、失敗するかも!? ~PoC(実証実験)の5大ワナとその対処法~」と題したセミナーを開催し、PoC で失敗しやすい主な原因とその対処法について解説した。

講師は木下正文氏。ABEJAには2019年に入社。主にマーケティングや医療に関するプロジェクトを担当している


PoCを行なっても実用化には壁

AI関連技術は新しい分野のため、PoC(実証実験)で効果測定を行ってから、期待した結果が出たら本格導入に入る、というパターンが多い。しかし、AIを使って「実証検証を開始」したというニュースはよく見るものの、その後で「AIを正式に導入」したというニュースはあまり目にしないのが実状だ。どうやら実用化された例はそれほど多くはないのかもしれない。

ABEJAはこの点に着目、PoCがどのように行われ、結果的にイメージした効果が出ずに失敗とされる事例やその要因を、AIのビジネス実装を支援してきた豊富な知見の中から紹介した。

・なぜ多くのプロジェクトが PoC(実証実験)で頓挫してしまうのか?
・PoC が失敗するパターンは?
・どのような評価軸で PoC アイデアを評価すべきか?
・PoC をどのように進めていくべきか?

ABEJAは日本法人では珍しくGoogleやNVIDIAなどから出資を受けている数少ない企業であり、AI業界にあって特に注目されている。既に200社以上のAIの導入実績がある。


2025年の崖

木下氏はまず、AIとは何か、何をもってAIと呼ぶべきか等を解説した。ディープラーニングをはじめとしたニューラルネットワークの技術を使っているものが「AI」と呼ばれるべきシステムであり、当初はウェブ関連企業や小売店などを中心に導入がはじまったが、最近では医療や流通、製造業など、幅広い分野でAIの活用が進んでいると語った。

また、経済産業省が2018年に公開したDX(デジタル・トランスフォーメーション)レポートの中に書かれている「2025年の崖」にも触れた。今からDXに取り組まないと2025年には12兆円の経済損失が出ると言われている。AIとDXを両輪で考えていくことが重要であり、AIによって多くの業界が変わる可能性が高い、とした。


AIプロジェクトの進め方概論

木下氏は、AIプロジェクトを進める手順を、0~4までの5つのフェーズで区切った。
フェーズ0は「AIで何をするか、AI活用のテーマ設定」で、AIの導入検討の前段階だ。

ABEJAはすべてのフェーズでサービスを提供している

フェーズ1は「アセスメント」で、クライアントがAIに学習させるためのデータとしてどのようなものを持っているかを検討する。
次のフェーズ2が「PoC」、今回の主要なテーマだ。PoCはProof of Conceptの略称で「概念実証」と訳すが、一般的には「実証実験」として使われるワードだ。
フェーズ3は「開発・実験」。アプリケーションやサービスを開発し、業務に組み込むための作業だ。
最後のフェーズ4で「本番運用」となる。

PoCについては、実際にその業務に対してAIが実用的かどうか、または投資に見合うかどうかを実証する場であり、実行した結果「投資に見合わない」という判断もありうる前提で行うものであり、実装の前準備というものではない、とした。


PoCやAI導入検討で失敗する5つのパターン

気になる失敗例(失敗要因)として、木下氏はまずAI機械学習のためのデータの質について触れた。質が高いデータが大量にあればAIの精度も向上するが、量があっても質が低ければコストに見合うだけのAI推論の精度が出ない、というケースが散見されるという。

1.特需に大きく左右されるデータはAI学習に向かない

「クライアントが既に持っていたAIのためのビッグデータの精度が低く、AIの学習に使えない」ことをさす。分かりやすい例として、パソコンの需要予測をAI推論で行うプロジェクトを紹介した。いざ取り組んでみると、あらかじめ持っていた売上データはCM(コマーシャル)、キャンペーン、OSのサポート停止など、特別な販促や特需によって大きく上下していて、平時の需要データとしてAI推論を行うのは難しいことがあると指摘した。



2.解像度が低い映像データは使えない

また、クライアントは膨大な量のカメラ映像のデータがあり、AIの機械学習に使えるとアテにしていたが、実際には映像の解像度が低すぎて、AIが学習するには視認性が十分ではなかったり、逆光等によって映像の一部が見えにくいなどの理由によって、AIの学習には使えないデータばかり、といった例だ。


次に、PoCにおける失敗とはなにか、に言及し、「当初想定した精度が出ない」、「計算コスト(経費)が高額になり、利益が出ない」(AIの学習・推論にはお金がかかる)、「現場が使ってくれない」などのケースをあげた。そのうえで、PoCを通してPDCA(plan-do-check-act)を回していくことが重要だが、「価値が出ないところに投資を続ける」「価値が出るところなのに、なんらかの理由で投資を止めてしまう」、更には予算の上限が決まっていることを考慮すれば「まとまった予算で成功したプロジェクトがない(バジェットの配分を考える)」「許容された予算を使い切ってしまい、PDCAを回せなくなる」などの要因を紹介した。



3.全体のプロセスデザインの不足

その他、失敗するパターン3として「全体のプロセスデザインの不足」をあげた。PoCを始める前に導入や投資継続の判断基準をあらかじめ設けておく必要がある。例として、出荷前の検品作業を紹介した。人間が行って精度99.99%の業務に対して、人手不足の対策としてAIの導入を検討、実証実験を行った結果、精度は「99%」だった。人間より精度が悪いとして継続を断念するケースとなった例。



4.他のプロジェクトと連携してしまう

4つめは「他のプロジェクトと連携してしまう」こと。AIの開発・研究、PoCを他のプロジェクトを併合してしまった例として、既存の防犯カメラのリニューアルに併せて、来店者の属性(性別・年齢など)をAIが推論するシステムを抱き合わせようとしたケース。しかし、セキュリティカメラでは画角が悪く、属性を推定できるだけの十分な解像度が得られなかった。また、無理に精度を上げようとしても(GPU利用の)計算コストが高額になり過ぎて、予算内にとうてい収めることができないこともあるという。



5.関係者の期待値を調整できない

最後は「関係者の期待値を調整できない」こと。最終的にAIシステム導入して効率を上げるのは現場であるにも拘わらず、AIに対する現場の理解度が低く、協力が得られずに開発期間や予算が膨らんでしまうケースを紹介した。




ABEJAはAIに関するさまざまなセミナーを開催している。AI開発〜導入まで、実際の現場からの事例をもとにした内容も多く、AIのPoCや導入を検討している人には参考になるだろう。

ABOUT THE AUTHOR / 

神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

PR

連載・コラム