音声メディア市場は急拡大へ ポッドキャスト/ラジオ/音声配信/音声広告の最前線 GAFAが本格参入した音声領域の現状と未来

「月間の利用者数は2020年の1、2月が約750万だったのに対して、3月は約900万人に増加した」
衝撃的な数字を語ったのはradikoの掛原氏だ。新型コロナ禍で一般消費者やビジネスマンの生活が変わり、求められるものも大きく変わっている。

メディアのイノベーションを加速させる「Media Innovation」が企画するセミナーの第15弾として「音声メディアのいまをキャッチアップする2時間」がZoomでオンライン開催された。いま熱く注目を集めている「音声領域」で活躍する5人が登壇。メンバーはradiko、TOKYO FM、オトナル、ロボットスタート、コンテンツジャパンの5社。音声メディア、ポッドキャスト、音声スキル、音声広告などの最新動向を語った。主催はMedia Innovation (運営イード)。

登壇者
株式会社radiko 配信技術室長 掛原雅行氏
株式会社エフエム東京 経営戦略室 経営計画部 専任部長 杉本 昌志氏
株式会社オトナル 代表取締役 八木 たいすけ氏
ロボットスタート株式会社 取締役副社長 北構 武憲氏
株式会社コンテンツジャパン 代表取締役 / Media Innovation 堀鉄彦氏



新型コロナ禍を境に需要が大きく変化

コンテンツジャパンの堀氏は「コロナ禍にあって大きく需要を伸ばしたのは、Zoomなどのコミュニケーションツール。直近4か月で、1日あたりのユーザー数が約1000万から3億超へと増えて巨大なプラットフォームに成長した」と語った。同様に、在宅勤務によって急激に増えると予想するのが音声メディアとした。多くのユーザーが作業をしながらBGMとしての”ながら聴き”を求めるようになるという予想に基づくもの。

株式会社コンテンツジャパン 代表取締役 / Media Innovation 堀鉄彦氏


ポッドキャストが注目集める

音声メディアは世界的には成長基調にあり、オーディオブック市場は25%成長、ポッドキャスティング市場は30%増加、ポッドキャストの広告市場は引き続き拡大する、デロイトトーマツの予測を紹介した。
ポッドキャストは米国を中心に人気が急拡大しているが、堀氏はSpotifyがポッドキャスティング関連の企業を買収したり、ポッドキャスト・プレイリストを拡充していることを紹介し「Spotifyがポッドキャスト市場に本気を出して取り組み始めた」とした。

ポッドキャストに関しては、Google検索サイトでも興味深い進化が見られることを、ロボットスタートの北構氏が紹介した。Googleの検索サイトで「ポットキャスト コスメ」とキーワード検索すると、ポッドキャストのコンテンツが検索結果に表示されるというもの。世界的な趨勢にポッドキャストが組み込まれ始めていることを示唆する。

Google検索の結果にポッドキャストのコンテンツが表示されることも

堀氏は「ながら聴きができる音声メディアの動向は面白い。リモートワークでビジネスチャンスが広がる」と語った。




radikoが新しいラジオ市場を開拓

音声メディアとして昔から存在してきたのはラジオだ。ラジオをデジタル業界に取り込んだのが「radiko」(ラジコ)だと言える。radikoはパソコンやスマートフォンなど、デジタル機器でラジオ放送を聴くことができるサービス。今や民放連加盟ラジオ局101局のうち、100局が参加している(放送大学、NHKラジオ、NHK-FM含む)。

株式会社radiko 配信技術室長 掛原雅行氏


自粛の3月にユーザー数が激増

radikoも在宅ワークの影響で、ユーザー数が劇的に増えている。月間の利用者数(MAU:Monthly Active Users)は2020年の1、2月が約750万だったのに対して、3月は約900万に増加した。
radikoの掛原氏はラジオ機器の聴取者と比べて、ラジコの聴取者の割合は若年層が多いことを特徴にあげた。聴取者がradikoを利用しているデバイスはスマホ、またきスマホとPCを併用を合わせると90%に達し、PCのみは10%という。

ラジオは古くから親しまれてきたメディアであるものの、テレビやインターネットなどの新しいメディアに押され、限られたコアなファン層で構成される聴取者に支えられてきたと言える。そのようなメディアの場合、時代とともに忘れ去られる可能性がある一方で、若者に利用者が増えているのは今後も引き続き、新しい支持層の増加が期待できると言えるのではなかろうか。radikoはその市場を切り開く急先鋒となっている。

利用者の多くは「朝夕の通勤通学中」「クルマを運転しながら」「家でまったりしているとき」「夜ベッドの中」などに利用するケースだという。


「枠」から「人」へ(音声広告の変化)

広告については直近10年程度で大きな変化があるという。ラジオはテレビと同様、マスメディアとして広告枠をクライアントに販売してきた。これは、聴取者に同一の広告内容を届けることになる(地域的な違いはできるものの)。しかし、radikoはそこにターゲティング広告を持ち込んだ。

個人ごとにパーソナライズした広告を届ける手法でこれは大きな変化と言える。例えば、同じ番組内の広告でも、東京に住む中年の男性と、九州に住む若い女性では趣味や興味のあるものは異なる可能性は大きい。性別、年齢、職業等に合わせ、クライアントが届けたい人に届けたい広告を配信することができる。もちろんターゲティング広告はウェブ広告では以前から行われている手法だが、ラジオの音声コンテンツであってもradikoとして配信することによって、そのようなしくみを取り入れることができる。




高品質で付加価値が高いラジオのコンテンツ

エフエム東京の杉本氏はNHK放送文化研究所の調査を引用し「家にラジオがある人(カーラジオを含む)は77.8%で、1978年以降95%を超えていたが、2010年に90%を切った」と切り出した。三菱総研が2019年に発表した調査ではカーラジオを含めない場合で63.5%。ラジオの国内出荷台数は115.5万台。長い期間で見ればラジオの需要は減る傾向にある、という。
ちなみにテレビの所有率は94.6%で、杉本氏は100%の印象を持っていたが、テレビの所有者も減る傾向にある、と語った。

株式会社エフエム東京 経営戦略室 経営計画部 専任部長 杉本 昌志氏

更に、ビデオリサーチの調査では「ラジオを聴いている人」は56.3%、という数値を紹介した(1週間に1度でも5分以上継続して聴取した人の割合)。意外に多い感じがするが、これでも徐々に減っている傾向にある。ただ、都心部より地方ではラジオの利用率は高く、特にクルマ利用が多い地域では利用率が高いと感じる、とした。

また、安定して高品質のコンテンツが制作できることもラジオ局の特徴だ。多くのユーザーがラジオを聴く環境を持っているので、いわゆるバズる可能性も示唆した。「SCHOOL OF LOCK!」配信イベントのヒットや、Spotifyと協業した「ヒプノシスRADIO supported by Spotify」を紹介した。「ヒプノシス~」は毎週月曜にラジオ番組を放送し、その直後にSpotifyで別バージョンをポッドキャストを配信するというもので、Spotifyへの誘導と契約数の向上に成果が出た成功事例となった。
これらのことから、ラジオのマスメディアとしての浸透力は大きい、と展望を語った。

「ヒプノシスRADIO」https://www.tfm.co.jp/hypnosisradio/ (クレジットは画像に表記)


デジタル音声広告(オーディオアド)とは

オトナルはデジタル音声広告カンパニーだ。音声広告の代理店として、更には技術面でアドテクノロジーの開発と実装をおこなっている。デジタル音声広告の現状とこれからを八木氏が語った。


「デジタル音声広告(オーディオアド)って、実際にはどういうもの?」と感じる読者も多いと思うが、オトナルの八木氏は3つに分類した。ライブストリーミング、オンデマンド、ポッドキャスト型だ。


音声広告自体も2種類あって、地上波ラジオのようにポッドキャスト音源と一体化した広告「Baked in ads」とシステムで動的に音声音源やストリーミングの間に挿入される「Dynamic Insertion」を紹介した。Spotifyの無料版を使っているユーザーは楽曲の間に広告が配信されることがあると思うが、それはオンデマンド広告「Dynamic Insertion」のしくみを使っている。

ポッドキャスト広告の場合、コンテンツ制作において広告挿入可能な位置にマーカーで設定しておき、そこに広告の再生が入るというしくみだ。広告付きの音声音源がさまざまなアプリで、マルチチャンネルに配信されるのが特徴のひとつだ。


GAFAが本格参入

八木氏は米国で音声メディア市場が急成長していることに触れ、2019年度は上期で30%増、年度では日本円で約3000億円市場になるという予測を紹介した(IABの予測)。八木氏は「音声メディアの普及には魅力的なコンテンツとデバイスが重要」とし、アップルのAir Podsや各社のスマートスピーカーが市場を後押しすること、GoogleもAir Pods対抗製品も発表し、GAFAが本格参入したことによる市場の動きに今後の期待を寄せた。

株式会社オトナル 代表取締役 八木 たいすけ氏

スマートフォンなどのモバイル機器やAir Pods等のヒアラブル機器との連携は新しい広告市場を生み出している。例えば、デバイスの位置情報を受け取り、ピンポイントで地域的な広告を配信できること。例えば、ショッピングモール内のセール広告や歩行移動している数100m先のレストランのクーポン情報などを配信することも可能になる。


WEBメディアの配信したニュースを自動で音声化、スキル開発支援も

ロボットスタートの北構氏は、スマートスピーカー市場の動向と、自社で展開している「Audiostart」(オーディオスタート)について解説した。スマートスピーカーは2014年12月にAmazon Echoが販売開始され、Googleも対抗としてGoogle Homeを発売。米国では既に所有率36%と、キャズムを超えた。日本では2~3年遅れで推移している、と語った(出典:ジャストシステム、Adobe)。


AudiostartはWEBメディアが配信しているニュースを自動で音声化し、音声コンテンツとして配信することができるサービス。
例えば、具体的には新聞社や雑誌社が自社のAlexaスキルとしてリリースすることを支援する。また、スキルの間に音声広告が自動で挿入され、マネタイズすることができる。

こうした特徴から、参加するメディアが増えていて、2020年4月時点で、ニュース関連のAlexaスキルの44%がAudiostartを利用し、音声コンテンツとして配信している。


Alexaスキルを例にあげたが、ポッドキャストでは多くのアプリで再生することができるため、スマートスピーカーの所有者だけでなく、幅広いユーザー層にリーチできる。


音声メディア台頭の前夜

新型コロナウイルスで様々な市場で需要やニーズの変化が起こっている。今まで使ってことがなかったサービスやツールをはじめて使ったという声も多い。そんな中、radikoのようにユーザー数が急増し、音声メディアが見直される機会になったことも変化のひとつ。音声メディアの普及には魅力的なコンテンツとデバイスが重要だ。日本ではスマートスピーカーの普及は今ひとつといったところだが、イヤホンやヒアラブル機器のユーザーは大きく拡大している。
日本でもSpotifyやApple Music、Amazon Musicなどの需要が伸びているし、米国の状況を見れば、今後ポッドキャストが急速に注目される可能性は高い。YouTube動画よりも簡単に、音声メディアを個人でも配信できる「Radiotalk」(ラジオトーク)などのサービスも登場した。今後の動向が楽しみだ。


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神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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