AIの学習はコスト、推論が利益 コロナ禍の小売業AIニューノーマル「リターン・オン・モデル」とは リテールAI研究会 今村氏 基調講演

「Deep Learning Lab」(DLL)が8月1日に開催した「Deep Learning Digital Conference」の基調講演2に、リテールAI研究会のテクニカルアドバイザー、今村修一郎氏が登壇した。


テーマは「リターン・オン・モデル(ROM)で価値の最大化を目指す、社会実装されるための機械学習テクニック」。AIビジネスの現状と問題点、成功例と失敗例の紹介、リターン・オン・モデルについて等をとてもわかりやすく語った。



リテールAI研究会は有名企業など240社以上が参加

リテールAI研究会は、小売業や小売店舗など、リテール分野におけるAIテクノロジー活用に関する調査・研究に取り組む一般社団法人。正会員や賛助会員など、著名な企業を中心に240社以上が参加している。PoC(実証実験)実施のハードルを下げつつ、PoCから実装、実装したシステムの横展開(他社含む)による社会実装の推進などをはかっている。


今村氏はリテールAI研究会のテクニカルアドバイザーであり、P&Gジャパンでもデータサイエンティストとして活躍している。



小売業AIビジネスの現状、成功事例と問題点

ロボスタでは「大型スマートストア、トライアルが700台のカメラとAIを活用したシステムを導入」した記事でも登場している。講演では、トライアルとユニ・チャームと共同で実施した実証実験の成果を紹介。欠品率が2.3%から0.35%に減少し、売上は103%アップ、利益は109%向上した。

AIのデータ解析をもとに、商品棚割を見直し、売れ筋製品の在庫数や露出度を増やすことで欠品を減らし、売上を向上

しかしながら、成功事例の中にも課題や問題点が潜んでいるという。カメラとAIを導入して商品棚の欠品を通知しても、補充するスタッフ不足などの実課題があり、これは推論の結果どうするかまで考慮しなければ解決しない。また、商品のパッケージのデザインが頻繁に変わったり、商品の入れ替えが激しい分野の商品は機械学習にさらに時間がかかることを考慮に入れる必要がある。これは推論が生み出すコストパフォーマンスに影響する(詳細は後述)。


87%のAIプロジェクトが本番環境に移行できていない

今村氏はAIビジネスの現状として、2019年にIBMのデータサイエンスで、AI部門のCTOであるDeborah Leff氏が示した「87%」という数字を引用した。「87%のAIプロジェクトが本番環境に移行できていない」ことを示したもので、更には「Experimentをやめて、実際に使う必要がある」「使い始めることができても、使い続けるのはさらに難しい」と続けた。

引用:https://venturebeat.com/2019/07/19/why-do-87-of-data-science-projects-never-make-it-into-production/


「リターン・オン・モデル」とは

今村氏は次にモデルが生み出す価値を最大化するアイディアとして「リターン・オン・モデル」の考え方を紹介。「AIが推論したあとに何をするのか?を考察する」「データの特徴量の解釈をきちんと行う」ことの重要性を説いた。


また、印象的だったのは「AIの学習はコスト、推論が利益」という言葉。「再学習やGPUコストも含めて機械学習にかかるコストは、推論する価値に見合っているか」「精度が良いが寿命が短いモデルと、精度がそこそこで長く使えるモデルを比較・検討することが重要」と語った。



コロナ禍で「AIはさらに窮地に」

次に今村氏はAI業界におけるコロナの影響を掲げた。これは取材を通して、著者も痛感してきた課題だ。
実はコロナ禍での「ニューノーマル」が叫ばれている状況で、AIはある意味、とても難しい局面を迎えている。
既にAIを研究・学習している人は十分にご存じとは思うが、AIは「今までの経験」から「これからの予測」を見出すことを得意としている。AIは過去の膨大なデータを解析することでその因果関係、特徴、関連性を見出し(これが機械学習)、そのデータをもとに現状や将来の状況を予測する(これが推論)、ことに長けている。

ところが、新型コロナの流行によって、世の中の多くのことが一変した。リテール業においても顧客の購買行動は大きく変化し、今までの常識や定石が未来に通用しなくなっている。これはある意味で過去のデータが意味をなさない(過去のデータが従来の価値を維持しない)状況を迎えている。


こうした状況の変化からも、AI業界もまた、大きく変わる必要に迫られていることを示している。
今村氏は「ニューノーマル時代、DXは進み、既存のプロセスは再構築される。過去のデータの価値は少なくなる今、新規参入にとっては最適なタイミングともいえる」と語り、リターン・オン・モデルを高め「価値を生み出し続けることでAIは生き残る」と締めくくった。


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神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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