オムロンとciRobotics、環境測定用モバイルマニピュレーターMoMaを開発 生産性4割向上が目標

オムロン株式会社と、大分のロボットシステムインテグレーターであるciRobotics(シーアイロボティクス)社はモバイルマニピュレーター「MoMa(モマ)」 を使ってクリーンルーム内の環境測定作業を自動化した。

クリーンルームとは、電子機器や電子部品、医療品、食品などを製造する工場に導入されている空気清浄度が確保された部屋のこと。粉塵や細菌の数を一定基準以下に保つために、粉塵の搬入源・発生源である作業者の入退室や滞在は極力減らすことが好ましいとされており、自動化ニーズが高い。

今回開発されたロボット「MoMa」はクリーンルーム内を巡回しながら環境測定を自動で行うことができるため、作業者の入退室の回数を減らすことでクリーンルーム内の清浄度を担保する。同時に、複数箇所で作業を行うことで従来は一人が2時間程度行なっていた単調作業を自動化し、人はより高付加価値な作業を行うことで、生産性を約40%程度、向上させることを目標としている。

開発を行ったciRobotics社 ロボット担当部長の安藤秀憲氏と、同 技術マネージャーの藤原慎治氏のお二人に話を伺うことができたのでレポートする。

ciRobotics社 ロボット担当部長 安藤秀憲氏(左)、同 技術マネージャーの藤原慎治氏(右)




モバイルマニピュレーター「MoMa」

■動画 モバイルマニピュレーター「MoMa」

「MoMa」は人や障害物を検知し、ぶつかることなく動くことができる搬送ロボット(オムロンのLDシリーズ)の上に、アーム型の協働ロボット(オムロンが提携している台湾Techman社のロボット)を設置した移動型作業ロボット。モノを画像で認識して掴むことができる。そのため、通常のAGVがこなす搬送だけでなく、人のそばで安全に部品の陳列や組み立て作業の自動化ができる協働ロボットとされている。なおLDシリーズ自体の停止位置精度は±50mmだが、環境側に貼付したランドマークとアームロボットに標準搭載されたカメラを使うことで、より高精度な作業ができる構成となっている。


クリーンルーム内でシャーレラックとエアサンプラー、計測器を扱う

ciRobotics 環境測定用「MoMa」

今回、ciRobotics社がMoMaを納品したのは医療機器製造メーカー。クリーンルーム内に10か所ある環境測定ポイントを巡回して行う環境測定を自動化した。

ロボットの構成。ロボットの上にシャーレラックやエアーサンプラーを搭載

なお「環境測定」とは、クリーンルーム内の清浄度レベル(粉塵のような微小物や細菌・真菌などの浮遊量)が設計値に適しているか否かを確認するための各種測定のことである。通常は人が、空中に浮遊している菌を捕集する作業を実施している。具体的には、人がエアサンプラーの蓋を開けてシャーレを設置し、蓋を締めて、ボタンを押して動作を行っている。その作業をMoMaで置き換えて自動化した。

パーティクルカウンターも搭載

ロボットの動きは以下のとおり。ロボットはまず所定の場所で、シャーレが20枚入っている「シャーレラック」を受け取ってロボット上に搭載する。ロボットのエンドエフェクタと、シャーレラックは、今回のシステム用に新たに設計した専用品で、シャーレラックには位置を認識するためのランドマークが付けられている。

シャーレラックを受け取ってロボットに積む。シャーレラック上の「TM」というマークが位置極め用のランドマーク

ciRobotics社の安藤氏は「シャーレをセットして電源ボタンをロボットに押させるのには非常に苦労した点」と語る。シャーレはプラスチック製で柔らかい。エンドエフェクタは単にシャーレを掴むだけでなく、エアーサンプラーの蓋を回すといった作業もこなす必要がある。また、機材のボタンを適度な力で押す必要もあるため、先端にはスプリング付きの指がつけられている。

ハンド先でボタンを押すことができる

シャーレラックを載せたロボットは測定場所に移動し、エアーサンプラーの蓋を外す。そしてシャーレをラックから取り出してエアーサンプラーにセットする。このとき、正しくセットされたかどうかはエアーサンプラーの後ろにつけたマーカーを協調型アームロボットの標準搭載されたカメラで読み取れるかどうかでチェックしている。

エアーサンプラーの蓋を外すところ

ロボットがセットしたシャーレ。「○ ○ ○」「△ △ △」のマークがロボットアーム側から見えるか見えないかで正しくセットされたかどうかを確認している

エアーサンプラーの蓋を取り付けたらエンドエフェクタで優しくボタンを押して、パーティクルカウンターを起動して検査を実施する。このときにも搭載カメラを使って測定器と液晶画面を確認しながら稼働させている。

■動画 ciRobotics 環境測定用MoMa




単純作業の置き換えと繰り返しで生産性向上を目指す

アームの動かし方にも工夫が必要だった。ciRobotics社の藤原氏は「通常の使い方だと、外側にあるものをとってテーブルに載せ替えるのが一般的だが、今回はMoMAのテーブルの上で載せ替える必要があった。使用環境がとても狭いので、アームが取る姿勢を極力コンパクトにしないといけない。内側に向くような姿勢も取って、様々な位置にハンドを届かせなければならなかった」と語る。

3次元CAD上の作り込みだけでは難しいため、実機を実際に動かして確認しながら進める必要があったという。「一定のポジションでは問題なくても、次のポジションにどう動かすかは別問題。実機と照らし合わせながら周囲のどの辺りまで動くのかを確認する必要があった。今回の作業のためには6軸を持つTechManが適していたと思う」(藤原氏)

シャーレラックを戻すところ

ロボットは1箇所での検査が終了したら、測定器から シャーレを取出し、シャーレラックの検査後位置へ設置する。そしてエアサンプラーの蓋を閉めたら、シャーレラックをテーブルに戻す。この動作を数カ所で繰り返す。こういった単純作業を人手からロボットに置き換えることで生産性を上げることを目指している。

今回の客先に導入したロボットは一台。ciRoboticsでは用途に合わせて上物を変えていくことでカスタマイズに対応する。価格はデフォルトのMoMaが1600万円で、それにカスタマイズ費用が別途必要となる。


モバイルマニピュレーターの効果的な使い方は単純作業の切り出しと代替

従来の産業ロボットでは安全確保に専門スキルが必要で、柵で囲って人と作業領域を分ける必要があるために大きなスペースが必要となる。いっぽう協働ロボットは人と空間を共有して一緒に働いたり、自律移動台車と組み合わせることで決められた場所に自律移動することもできるため、スペースが限られている場所でも活用できる。

オムロンの「MoMa」のようなモバイルマニピュレーターは、移動するだけでなく、移動先で作業を行うことができるロボットだ。ciRoboticsでは、既存設備のなかでの人の代替、特に「24時間連続作業をしているところで、人の単純作業を代替させたい」というニーズがあると感じているという。

ロボット導入のためにはROI(投資利益率)が重要になる。現状のロボットでは一人分の作業をそのまま置き換えることは難しい。しかしながら現在、人が行なっている作業のなかには「高熟練者が行わなくてもいいが、誰かが必ず行わなければならない作業」が存在する。そのような単純作業をオペレーションの中から見出して、切り出し、モバイルマニピュレーターに置き換えて代替することで、作業者の負担を軽減したり、より高度な作業に時間を割くことで生産性を上げることは可能であり、実際にそのようなニーズが多いとのことだった。今回の環境測定も、重要だが単調な検査・管理作業の一つだ。

「我々はスタンドアローンでロボットだけを販売しているわけではありません。ロボットに行き先指示や作業指示を出す上位システムも開発しています。そのなかで色々な使い方を提案しています」(ciRobotics 安藤氏)

ciRoboticsではジョブオペレーティングシステムも開発しており、MoMaに動作指示を出せる

なおオムロンは、独自のコンセプト「i-Automation!」のもと、人と機械が協調する製造現場を目指すことで、モノづくり の生産性を高め、作業者が複雑なヒトのスキルを必要とする他の業務に集中することを実現するとしている。

■動画


ドローンやロボットを手掛けるFIGグループ ciRobotics

FIGグループ。ciRoboticsはそのロボット担当子会社

ciRoboticsは大分の上場企業のFIGグループ(https://www.figinc.jp)のグループ子会社。FIGグループには半導体関連、自動車関連事業を手掛ける石井工作研究所、タクシー無線を中心に移動体通信事業、電子決済を行なっているモバイルクリエイト、ホテルのメディアオンデマンドを手掛けるケイティーエスなどがあり、様々な業種が組みあわさったグループのなかでの一部門がciRoboticsという位置づけだ。

ciRoboticsのロボット事業。オムロンのほかDoogのロボットも扱う

2015年に創業したときにはciDroneという社名で、主にドローンを手がけていた。2018年9月にciRoboticsという社名に変わり、より広くロボット全体を手掛けるようになった。ドローンについては農薬散布用ドローン、動態管理システムの提供などのほか、スクール事業も行なっている。

ドローン動態管理システム

ドローンの性能評価を定量的に行うために「ドローンアナライザー」も開発している。大分県産業科学技術センターと共同で開発したもので、大型の産業用ロボットの先にドローンをつけることで、実際に飛行させずに飛行状況をチェックできるシステムで、墜落リスクなしで浮上力や振動、重心、ホバリング性能などを屋内で試験できる。2020年12月には「福島ロボットテストフィールド」に納入した。電流や振動などのデータを取得することができるだけでなく、外部電源をつなぐことで耐久性試験も行うことができる。

■動画 福島ロボットテストフィールドに納入された「ドローンアナライザー」

ドローンの物流への応用については大分県と実証実験を行なっている。2020年にはシングルロータータイプのドローンとLTE(携帯電話回線)を使い、大分県津久見市千怒 千怒崎港から津久見市長目 無垢島港まで、16km離れた島に対して5kgの荷物を運ぶ実証実験を行うなど、積極的な取り組みを行っている。

■動画 ciRoboticsではDoog「サウザー」も扱っている

関連サイト
ciRobotics株式会社

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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