首都圏最大級の屋外ロボット/モビリティ開発検証拠点「KOIL MOBILITY FIELD」に行ってみた

先月、柏の葉スマートシティでオープンして以来、多くのロボットやモビリティ関係者が訪れている首都圏最大級の開発検証施設「KOIL MOBILIYY FIELD」(コイル モビリティ・フィールド)。今回は取材を通して探ることができた施設の実際の様子とそれを支える背景についてお伝えしてみようと思う。

左から、人型協働ロボットFoodly(フードリー)を開発している株式会社アールティ代表 中川友紀子氏ら開発メンバー、不整地向けのクローラユニットや一輪車電動化ユニットなどを開発している株式会社CuboRex 牛腸(ごちょう)彰氏 小川貴之氏、折りたたみ電動バイク「ハコベル」を開発しているICOMA Inc代表 生駒崇光氏。他にも様々な開発者がKOIL MOBILITY FIELDを訪れている。

秋葉原から30分程度とアクセスが良く、コンパクトで使い勝手のよい開発検証施設というだけで十分な価値を持つが、その狙いや意味を読み解くと、柏の葉スマートシティという街の持つ戦略的な一面を垣間見ることができるだろう。
今回は運営委託先であるドローンワークス株式会社 今村博宣氏にその施設やお話を聞くことで、公式資料を裏打ちするような情報、施設の魅力や特色、狙いなどについてもお伝えしていく。

今村氏はドローン黎明期から数々の自律移動機器(自動運転車やドローン)のプロジェクトに携わっている組み込み系エンジニア。近年では水素燃料電池駆動でのドローンの開発に力を入れており、自身の開発とともにKOIL MOBILITY FIELDや周辺施設の運営、各所との連携を積極的に進めている。

ドローンワークス株式会社 代表の今村博宣氏


「アキバから30分」高速で開発サイクルを回せる抜群のロケーション

「KOIL MOBILITY FIELD」については、リリース直後に配信した記事でもお知らせしたが、改めてその概要を簡単に紹介してみよう。
なんと言っても、その大きな特徴はアクセスの良さだろう。秋葉原からつくばエクスプレスで約30分、駅からも徒歩10分程度というロケーション。それに加えて、常磐自動車道、柏ICからも車で5分程度と自動車でも利用しやすい。

ICOMAの電動バイクを折りたたみ、駅から輸送しているシーン。コンパクトなプロダクトであれば、鉄道+徒歩で輸送することも可能な距離感だ。

この立地が評価される背景として、都心のオープンスペースや、福島やつくばなどの大型試験設備では開発中の機器の実験が難しいという実状があり、その環境を打破している点があげられる。ドローンで遊んだことがある方でなくとも、200g以上の機体での屋外飛行が難しことはご存じの方は多いだろう。実用に供するサイズのドローンで、かつ開発中の機体ともなれば、ネット付きの実験環境は必須だ。しかし、都心でそのような施設を継続的に開発目的で利用することはなかなか難しい。また、陸上を動くタイプのモビリティに関しても難度が低いとは言いがたい。

電動クローラユニット CuGo(遠隔リモコンロボットキット)サイズは一抱え程度(414x550xH105mm 9kg)スピードは無負荷時でも時速1.3kmと非常にゆっくり動くため危険性は低いが公園などでの実験は難しいのだという。産業振興に向けフットワークの軽いテストが可能なフローの構築が望まれる。

上記は小型で低速な用途を主とするCuboRexの不整地走行ユニットだが、このように危険性が低いロボットでも、都内の公園などでテストを行うにはハードルが高すぎるという。これは、実験に適した閉鎖環境を持つことなど到底望めないスタートアップにとっては超え難いハードルのひとつだ。
しかしそのために福島ロボットテストフィールドなど、大型の開発施設に繰り出すのは時間がかかりすぎる。
ある程度の大きさのプロダクトとなると、梱包や搬入出、セットアップにはただでさえ時間がかかる。それに加えて移動に2時間以上かかるような施設を使った場合、実験にかけられる時間は半日以下となってしまう。スタッフの疲労も考えると、合宿形式での利用が適切だろう。


充実した試験設備を持つ福島ロボットテストフィールド。ただし都内からの実験であれば泊まりがけはほぼ確実になってしまう。出展:福島ロボットテストフィールド拠点概要ページより

高速で実験と失敗を繰り返し、問題点の洗い出しをする必要があるハードウェア開発の初期段階で、その開発スタイルが最適かと言われると疑問符をつけざるを得ない。
そういった現状を改善するために生まれたのが首都圏近隣に開設された検証施設。KOIL MOBILITY FIELDというわけだ。


柏の葉スマートシティはKOIL MOBILITY FIELDとの連携を軸に、イノベーションキャンパス地区へのロボット、モビリティメーカーの集積を狙っていくのだという。イノベーションキャンパス地区は、2014年から稼働しているコワーキングスペース、「KOIL:Kashiwanoha Open Innovation Labratory」と、その第2施設、「KOIL TERRACE」に加え、今後も開発・実験をサポートする各種施設がオープン予定だ。

柏の葉スマートシティとしては、まずはこのようなコワーキングスペースへの入居からはじめ、街の価値を知ってもらった上で本格的な開発拠点の開設を検討してもらう流れを考えているようだ。これらの街作りの戦略に関しては、柏の葉の街作りや社会実装をサポートする体制の説明の段で詳細に語ることにし、次に、多くの方が興味を持っている施設の紹介に移ろう。


KOIL MOBILITY FIELDの施設構成

まずは、前回の記事でも紹介した施設概要を再度掲載する。


■ドローンフィールド(緩衝ネット付飛行テスト施設 23m×18m×高さ9m)
  水素燃料電池ドローン、有人ドローンなどの開発
■モビリティサーキット(全長400m、幅員7m)
 自動運転、走行中ワイヤレス給電、歩行支援ロボットなどのマイクロモビリティ開発
■「草刈りフィールド」(1,245㎡)
 ロボット草刈機の開発
■「作業室(トレーラーハウス)」(約30㎡:40フィートコンテナ1基、電源・空調完備)
 モニターや充電環境を備えたコントロールルーム


ドローン開発フィールド


左から順に紹介するとまず目につくのは23x18m、高さ9m、目が細かい緩衝ネットで覆われたドローン開発フィールドだ。このサイズの開発フィールドであれば、かなりの大きさのドローンであっても実験は可能なのだと言う。
実際、2019年に試験飛行したNECの空飛ぶ車の試作機(3.7×3.9xH1.3m 約150kg)の浮上実験をした際の設備がほぼ同サイズ(20x20xH10m)だったことを考えると、たしかにその意見も納得できる。

これはドローンの開発において最も時間がかかるフェーズが「離着陸」などの「低高度でのホバリング安定性確保」だからだ。
低高度でのホバリングは、プロペラから地面に吹き付ける風の反作用が大きいため、ちょっとした角度の変化が大きな姿勢の崩れにつながり、暴走してしまう事故が多発する。
そのため、このKOIL MOBILITY FIELDでは目の細かく頑丈なネットで覆い、さらに、重量級ドローンの突進にも耐えられるようなしっかりした鉄柵で二重の防御をしている。
このあたりは、「市販のドローンを対象とした練習場」と開発フィールドの大きな違いだろう。


もう一つの違いはDIY性だ。
低高度でのホバリングは、失敗すれば即墜落。機体の損傷につながることも多い。こういったリスクを軽減するため、ネット内に懸架式の実験設備などを建造することも問題ないのだという。このような自由度の高さは開発者目線に重きをおいた実験施設ならではだろう。

ドローンフィールド外に建設されていた「高圧送電線風」の試験設備。こういったものも条件によってはどんどん建てていけるのだと言う。

なお、この開発フィールドの隠れたポイントとして、ネットを昇降させることができることも、一つの訴求ポイントだ。
ドローンの開発にあたって、国土交通省の認可が下りるまでの間、このフィールドのような閉鎖環境での開発が必要なことは共通認識になりつつある。しかし、近年注目されている水素燃料電池をエネルギー源とした場合は、経済産業省大臣の特認がなければ高度3mまでの飛行しか許可されていないというのはあまり知られていない規制の一つだろう。
一般的な環境であれば、高度を3m以下に規制するため機体をロープで地面につなぐなどの対応が必要になるが、これはロープの巻き込みや、ロープに引っ張られることでバランスを崩すなど、事故の原因にもなりやすい。それに対してKOIL MOBILITY FIELDであればネットを下げるだけで適法な試験環境になるというわけだ。このような開発のノウハウは水素燃料電池ドローンの開発についての知見を持つ今村氏が運営に関わっている施設ならではだろう。


モビリティサーキット


幅員7m、すれ違いや合流など、公道に出るために必要な最低限の試験は繰り返し行うことが可能なモビリティサーキットはこの施設の中で最もアイコニックな設備だ。
シンプルでコンパクトだが、スローモビリティ、マイクロモビリティの開発や、自動運転車開発の初期段階では必要十分なサイズだ。
実際に、取材に帯同したICOMAの生駒 崇光氏は「操縦性を確認する上では十分な広さがある。このくらいの大きさの周回コースだと、開発初期段階で起こりがちな『自走不能な状態』からのリカバリーもしやすい。」と語っていた。
追従走行や車線の認識、歩行者保護、車線への合流など、車道で行いたい最低限の検証は可能だろう。

幅員が7mあると、電動の原付バイクぐらいのスピード、コンパクトさであればスラロームなどの試験も可能だ。

また、隣接する区域にはNTT DOCOMOが管理するテストコースが敷設されていた。
5Gのアンテナが立っていることをみると、おそらくC-V2X(Cellular Vehicle to Everything:自動運転などの自動車用無線通信)向けのテストコースだと思われる。
こういった外部のステークホルダーとうまく連携することでさらに高度な開発環境へと進化できる可能性がこのテストコースには感じられた。

■動画

ハコベルによる周回走行動画。砂利道での走行テストなども行っている。


通信環境

近年のロボットやモビリティの開発において重要な設備の一つが、通信環境だ。
こういってもイメージしづらい方はF1のピットを想像してもらえばわかりやすいだろう。
F1のピットではコース上のマシンに取り付けられた多数のセンサーからマシンの動きやブレーキの状態、燃料、電池の量など、各デバイスについての情報を得ることができる。それを気象データやコース状態などの環境情報とくみ合わせマシン開発やベストなレース戦略に役立てるのだ。(このようにピットに居ながらにして挙動や周囲の環境のデータを細かく補足し制御や開発にフィードバックするための遠隔測定法を「テレメトリー」という。)

同様に様々なデバイスが組み込まれ、実験の最中に破損することも多いロボットやドローンの開発では「テレメトリー環境」は重要だ。KOIL MOBILITY FIELDでは、全域でwifi-6(2.4GHz帯)を利用できるよう、アクセスポイントを張り巡らせており、充実した通信環境を整備している。その範囲は隣接したアクアテラスまでも圏内に及ぶほどだという。

それに加え、
・センチメートル単位で位置測定が可能となり、機体位置に関するデータを得られるRTK(Real Time Kinematic)環境
・柏の葉スマートシティ各所に敷設されているセンスウェイ株式会社のLoRaWAN対応環境センサー
・それらでたりないデータを自分で街中から取得可能にするTTN(The True Network:LoRa通信を使ったLPWANをオープン分散型で実現するサービス)
などの環境も整備されている。

柏の葉スマートシティ各所に敷設されているセンスウェイ株式会社のLoRaWAN対応環境センサー、このほかにも、TTNのセンサーを配置することもできるのだという。

このような通信環境であれば、
・街区内外の環境データ、機体に取り付けられた多数のセンサーからのデータなどを統合することで、確実な制御につなげることができる。
(もし実験が失敗して機体が破損し、データが取り出せなくなった場合などでも大きな学びにつなげられる。)

・Wifi6のリアルタイム性を活かし「制御用のボードなどを外部においた低コストなドローン」による実験が可能になる。
(このような低コストな試験機を複数台用意することで、墜落や衝突などによる破損に備えつつ絶え間なく実験することができる。)

・現在建設を進めている近隣施設とは光回線に匹敵する低遅延高速の無線通信も行うとのことなので、エッジAIやコントローラーをそれらの施設においての制御やMicrosoftAzureなど、クラウド上のAIを利用したデータ解析なども可能になるだろう。

この通信環境は、ながらくロボット開発を続けてきたアールティの中川さんが「フィールドでの開発にノウハウがある今村さんが注力したポイント」と高評価していた点だ。

隣接したNTTdocomoの施設に関係して設置されたであろう5Gアンテナ。当然一般利用者も接続できるため、こういった5Gを使った制御なども検証できるだろう。




作業室

車台付きのコンテナを改装して作られた「作業室」。災害時にドローン基地として利用することも想定しているとのこと。

KOIL MOBILITY FIELDのロゴが大きく掲げられた「作業室」。メインの用途はテレメトリデータの処理や機体の整備だ。
全面板張り、窓もない簡素な部屋だが、ドローンや自動走行車などのフィールド検証の経験を多く持つ今村氏は「これが一番いい」という。
窓から差し込む日の光はディスプレイを見づらくし、空調が不安定になる要因にもなるためだ。

また、KOIL MOBILIY FIELD関連施設に貫くDIYの精神もそれを手伝っている。
壁面を自由に改造しても良い、というこの作業室はディスプレイを壁に直付したり、好きな高さに机や棚を打ち付けたりすることでどんどん利用者が使い勝手の良い空間にモディファイしていくことが推奨されている。
このようなコンセプトであれば、ほぼ追加工が不能なガラス面となってしまう「窓」はむしろ邪魔だろう。

作業イメージ、現在は機材が入っていないため十分スペースが取れるが、内寸が幅2m程で奥行きが長い(約12m)ので、幅方向では少々手狭かもしれない。奥と手前でエリアごとに用途を分けるなどの工夫は必要だろう。

また、こうしたシンプルで低コストな仕上がりであれば、空いている土地へコンテナを置き、作業室を増設するといったことも気軽に検討しやすくなる。入居者の自主性とクリエイティビティを尊重するこのスタイルは、これからコワーキングスペースなどを運営しようと考えている方には是非取り入れてほしいものだ。


草刈りフィールド

草刈りフィールドは膝ほどの高さの草が生い茂る不整地だ。

一見単なる「空き地」のようにも見える土地だが、ロボットの中でも需要が大きい草刈り用のテストフィールドは重要な設備の一つだ。
KOIL MOBILITY FIELDは、先ほど紹介したモビリティサーキットでの「アスファルト」路面。駐車スペースなどに見られる「砂利敷き」路面、草刈りフィールド内の土が見える「未舗装」路面、草が生い茂る「草刈フィールド」と多様な環境で足回りや制御の試験が可能になる。
先ほど紹介したように、RTK環境も整備されているというKOIL MOBILITY FIELDであれば、特に目印がない不整地であっても、姿勢制御や移動の精度検証が十分に実施できるだろう。


気になる周辺施設

■アクアテラス

隣接するアクアテラスも気になる周辺施設だ。現状は試験環境として使われていないとのことだが、Wifiの圏内であろうと思われるこの池であれば、水中ドローンやドローン船の実験もできそうだ。
また、法面(土手や高速道路などによくみられる傾斜面)を使った不整地斜面での走行試験など、陸上のロボットの不整地走行に関しても、さらに厳しいバリエーションが増やせそうなのは魅力的だ。

■イノベーションキャンパス地区入り口サイン

KOIL MOBILITY FIELDから16号沿いにあるくと見えるシンボリックな看板が見える。
柏の葉スマートシティを紹介する時に真っ先に出てくるのが「つくばエクスプレスで秋葉原から35分」というものだが、イノベーションキャンパス地区はむしろ「柏ICから車で5分」という言い方のほうがふさわしいだろう。


KOIL MOBILITY FIELDへの搬入、あるいは、更に進んだ実験が可能な他施設への輸送を考えるとこのロケーションは非常に使い勝手が良い。

主な試験施設への移動時間は下記の通りだ。
東葛テクノプラザ(千葉県柏市)信頼性等各種試験施設・・・5分
Jtown(茨城県つくば市)自動運転評価拠点 ・・・30分
城里テストセンター(茨城県東茨城郡城里町)高速周回路など・・・1時間半
福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)ロボット、ドローン試験施設・・・3時間
都心からの距離だけでなく、これら施設への中継地点としてを考えると、イノベーションキャンパス地区への入居を検討するロボット、モビリティ企業はかなり増えてくるのではないだろうか。


KOIL MOBILITY FIELDを貫くコンセプト

KOIL MOBILITY FIELDは、いちはやく『外部の開放環境での実証実験へと移行できる状態』に持ち込むために、実験->改良のサイクルを高速で回すことができる閉鎖環境だ。
その中で特に気にしていたのだろう点をまとめると、

・「事故が頻発するような難しい開発フェーズ」の実験を短いサイクルで行うため拠点からの距離を短縮する。
・試験設備や環境は、多くの開発者が共通の課題としているものや使用頻度の高いものを整える。
・実験時に得られるデータやセンサデータをもれなく送受信、利用できる通信環境を整える。
・その上で、設備の拡張やDIY的に利用者が環境を変えることに対して前向きな姿勢を持ちつづける。


これらの特徴は、ドローンや自動運転車などの開発経験、知見を持つ今村氏が設備管理者として、オーナーの三井不動産に提案し続けた成果だろう。
このように利用する開発者の目線と、経済性のバランスをとりながらアップデートし続けられる体制は、是非ほかのフィールドやコワーキングスペース、ファブスペースなどでも取り入れていってほしい。


新産業創造に向けた支援体制


KOIL MOBILITY FIELDの、試験、開発環境として優れた特徴は十分説明できたと思う。しかし、スタートアップにとって、「プロダクトを開発すること」は、スタートにすぎない。
いかに社会実装をしていくのかが必要なのだ。
そういった意味では柏の葉スマートシティでのプロダクト開発に大きな価値を感じられるようになるのはKOIL MOBILITY FIELDでの開発、検証が十分に進んだ開発中期ー後期において「社会実装のしやすさ」を実感できるようになってからかもしれない。

そのポイントについて知ってもらうためには、前回の記事で紹介した
『KOIL MOBILITY FIELDの整備によりサービス実証フィールドである「イノベーションフィールド柏の葉」におけるプロジェクト受け入れ体制が強化』
という一文の背景についてもうすこし踏み込んだ説明が必要だろう。

柏の葉スマートシティ一帯は飛行場や米軍の通信施設、ゴルフ場など、時代によって用途の変遷はあったが、大規模な土地所有者が一括して管理していた土地柄だ。そういった土地に平成初頭から平成10年頃までの間に、県立柏の葉公園、東京大学、千葉大学、国の研究所などが戦略的に誘致され、その後つくばエクスプレスが開通。住宅需要が大きく高まり、現在の形になった。
この新しい街はコンパクトながら、通常の街には見られない多様な表情を持つ。約3km圏に住宅、商業施設、オフィス、ホテル、病院、大学、公園等、街のあらゆる機能が凝縮しているため、効率的・多角的な社会実証を可能とする環境になっているのは大きな特徴だ。

駅を中心としたコンパクトな駅前街区が、その外縁部に大学やがんセンター、産業技術総合研究所などの研究機関が配置されている。それに加え、今回紹介したKOIL MOBILITY FIELDなどがある駅北側(画面右側)のイノベーションキャンパス地区の開発が進んでいる。これらの人工的な配置をみると柏の葉スマートシティの戦略的な開発が見て取れるだろう。

また、柏の葉スマートシティは、今までに興されたニュータウンや学園都市において課題点を鑑み、新産業創造を街の一つのテーマに置いているということも特徴の一つだ。産業を興し、継続的に居住者やワーカーを呼び込める形にすることで街の高齢化、老朽化などにあらかじめ対応しておくことは街自身にとっても必須課題なのだ。

こういった課題に向けた前向きな姿勢のあらわれが「イノベーションフィールド柏の葉」になる。
イノベーションフィールド柏の葉はAI、IoT、ライフサイエンス、メディカルを中心とした様々な実証プロジェクトを柏の葉スマートシティにうけいれるためのプラットフォームだ。

柏の葉スマートシティは街作りの中で掲げた新産業創造などの目標に向け、UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)を中心とした公/民/学の連携を十数年にわたってつづけており、下記のようなポイントに重点を置いてサポートしている。

この体制により
・実証実験にまつわる関係者調整などを簡便にすること
・TXアントレプレナーパートナーズや31ベンチャーズなどの組織による事業化支援を手厚くすること
・PoCの効果測定などに必要な環境データや人流データなどの取得のためにLPWA網をつくば~柏の葉~本郷までのエリアで構築すること
・データの解析や、ビジネスに活かすためのノウハウなどを共有するコミュニティ「柏の葉IoTビジネス共創ラボ」が開発、実証実験社会実装に至るまでの各フェーズでサポートすること
・上記のデータを反映させたシミュレーションを行うための、精密な測定をもとにしたデジタルツイン環境の整備

などが実現されている。



実際、多くのプロジェクトが走る中、柏の葉キャンパス駅を中心に、株式会社EXxによる電動キックボードインフラが実証中だ。今後、ドローンによる配送事業なども実施される予定だという。


このように、KOIL MOBILITY FIELDは柏の葉スマートシティの開放環境にいち早くプロダクトを実装するための施設であり、街づくりやの経緯やサポート体制などの背後関係を理解すると、なお魅力が増してくるだろう。


まとめ

新しいモビリティやロボットなどのプロダクトを実際の街の中で扱えるよう、社会実装していくためには様々な困難がある。
ノイズフルな電波環境、室外機やアスファルト舗装の影響による高い気温、動体検知に影響を与えてくる建築物からの反射光、不規則な動きをする生活動線上の住民や車など、人工的な試験設備で検証が難しい複合的なエラー要因は数多い。
それらを検証するためには、閉鎖環境で町中に出られるだけの実績を積み、いち早く実際のフィードへ出ていくしかない。そして、そこから、先のビジネス上の価値検証にかかった後も、道のりはまだまだ長い。
その歩みを街ぐるみでバックアップする柏の葉スマートシティに興味がある方は開発者でも、そのサポートをするVCや街作りを運営している方でも、KOIL MOBILITY FIELDに足を運んでみるとよいだろう。

ABOUT THE AUTHOR / 

梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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