アバターロボットは保育園/スーパーマーケット/アミューズメント施設で活躍できるのか? 大阪大学とCAが実験結果や課題を発表

内閣府が主導する「ムーンショット型研究開発事業」において、大阪大学とサイバーエージェントが「遠隔対話ロボットで働く」をテーマにした取り組みを実施した。保育園、スーパーマーケット、アミューズメントパークと、3箇所のフィールドでアバターロボットを活用した実証実験を行なった。その結果を7月16日に公開すると共に、報道関係者向けに報告会を8月5日にオンラインで開催した。(画像 ©️大阪大学・サイバーエージェント)


報告会ではプロジェクトリーダーをつとめる大阪大学の石黒教授が登壇し、この実証実験プロジェクトの概要や趣旨を解説した。石黒教授はテーマは「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会を実現する」こと、いろいろな人が時間や空間などの制約から解き放たれて、自由に活躍する世界を作りたいと語った。

大阪大学基礎工学研究科教授、およびムーンショット型研究開発制度 プロジェクトマネージャー石黒 浩氏(左下)

石黒教授は具体例として、教育現場(教師/生徒)と医療現場(医師/患者)をあげ、遠隔教育や遠隔診療をアバターで実現する世界観を紹介した。


ここで明確に掲げられているとおり、今回のプロジェクトは遠隔操作するロボット(アバター)がテーマであり、人工知能研究を駆使した自律型会話ロボットが主役ではない。
アバターの社会実装を前提にすると、そこにはアバターを設置する場所(フィールド)、フィールドでアバターと会話する人(顧客)、アバターを操作する人(オペレータ)の3つの観点がある。


今回の実証実験では、フィールドとして保育園、スーパーマーケット、アミューズメントパークの3箇所が選出された。


ヴイストンのデスクトップ型ロボット「Sota」をアバターとして設置し、遠隔操作する人間が、保育園では園児達と、スーパーマーケットでは来店客と、アミューズメントパーク(動物園/水族館)では来館者と会話したり、商品や動物の紹介などをおこなった。その上で、操作する人とロボットと会話をした人、会場を提供した人の反応や意見を収集した。


こうした遠隔操作ロボットの活用は、高齢者や障がい者が操作して人と会話する仕事の機会を与える施策としても注目されている。また、コロナ禍での感染対策を考慮した生活様式やテレワークに対応した新しい働き方の開拓にも繋がる可能性がある。



アバターロボットはそれぞれの施設で活躍できるのか?

具体的な実証実験の概要と結果については、大阪大学の招聘研究員、馬場氏によって実験現場の動画を交えておこなわれた。

AI Labの接客対話エージェントチーム リーダー、および大阪大学基礎工学研究科 招聘研究員 馬場 惇氏

保育園は「まちかね保育園」、スーパーマーケットは「デイリーカナートイズミヤ ららぽーとEXPOCITY店」、アミューズメントパークは「ニフレル」(海遊館プロデュース)の3施設がフィールドを提供して協力した。


3つのフィールドともに、操作者が話した声はロボット的な声に変換され、ロボットと会話する人には、あえてロボットの向こうに人間が応対している、ということは告げずに実験が行われた。馬場氏は概ね半数の人がロボットの向こうで人が話しているとは意識しなかったのではないかと分析した。



保育園

保育園では、コロナ禍によって体操のお兄さん(お姉さん)などの回部協力者の入園が制限されているという。その中でアバターを活用したあいさつ運動、健康体操や歌のレクリエーション等のアクティビティが実施された。


アバターの操作は高齢者と舞台役者(劇団員)が担当した。会話が未発達な園児は、会話のキャッチボールが難しく、園児が好きなキャラクターを作って抑揚をつけたり、間(ま)を埋めるテクニックも含めると、アドリブ技術が高い劇団員が操作するアバターはとても高度でスムーズな会話を実現している印象を受けた。


評価は上々で、あいさつ運動については園児の64%があいつを交わし、園児・高齢者(操作者)ともに「嬉しそう」「楽しそう」に会話している様子がうかがえたという。


「嬉しそう」「楽しそう」という結果では、特に操作者が園児との会話を楽しんだようで93%、園児は77%が楽しそうだった。


アバターを使ったアクティビティでは、脱落する園児もなく、最後まで体操などのアクティビティを最後まで実行することができた。

調査結果 報告原文(保育園)

保育園では、ロボットを介したコミュニケーションが、操作オペレーター(高齢者・劇団員)とサービスを受けるユーザー(園児・保護者)にとって、どのような体験だったかを、あいさつ運動の映像から評価しました。
その結果、高齢者の全声かけ(228回)のうち 93%が「嬉しそう」または「楽しそう」と評価され、園児の反応や対話(128回)の77%が「嬉しそう」または「楽しそう」と評価されました。
また、劇団員への聞き取り調査からは、「このように園児から人気がある状態で接することは、人に無条件に肯定されるという意味で、生活をうるおす貴重な体験であると感じました。」という回答がありました。普段の自分とは異なる存在(ロボット)として園児たちと接することは、対面での世代間交流でも報告されている「孤独感の解消」や「自尊心の向上」といった心的なケアの効果を促進させる可能性が示唆されました。


スーパーマーケット

スーパーマーケットでは、アバターは主に店内で商品のチラシを配布したり、オススメの商品の紹介をおこなった。アバター操作は大阪大学のキャンパス内から遠隔でおこなわれた。コロナ禍で店員による直接販売が制限される中、アバターによって商品を勧めた時の顧客の反応や、販売に繋がったのかどうかを調査した。



報告の動画の中ではアバターが商品を勧めることで、スタッフが勧めているの同様の反応で、商品の購入まで決めるシーンも見られた。一方で調査結果は興味深い一面が見られた。アバターによるチラシの配布は好成績だったものの、販売(クロージング)に至る割合はアバターの方が低かった。その理由として「商品よりアバターに意識が集中してしまい、商品の魅力が頭に入らなかった」という顧客の意見もあり、今後の課題となりそうだ。


ロボットによって顧客が足を止める率は通常の約1.4倍と好成績だったものの、購買率は通常より低い結果となってしまった

調査結果 報告原文(スーパーマーケット)

スーパーマーケットでは、遠隔対話ロボットを活用し、店頭でのレシピチラシの配布を実施いたしました。その結果、1日あたり通常の約5倍のレシピチラシを配布することに成功したほか、全実験時間のうち約45%の時間において、通行客が立ち止まってロボットと会話をしている様子が観察されました。本実証実験からは、高い顧客接触率が観測されるとともに、顧客とのコミュニケーションの活性化を遠隔対話ロボットが促進したことが示唆されました。


アミューズメントパーク

アミューズメントパークでは海遊館がプロデュースする、動物園と水族館を合わせたような施設「ニフレル」で実証実験を実施。施設内の6箇所にアバターを設置、館内入り口での挨拶や、ホワイトタイガーなどの動物の解説やクイズの出題、注意喚起などを来館者に向けて別室のオペレータが複数のロボットを操作しておこなった。

NIFREL(ニフレル)は「感性にふれる」をコンセプトとした生きもののミュージアム。展示は8つのゾーン【いろにふれる、わざにふれる、およぎにふれる、WONDER MOMENTS、かくれるにふれる、みずべにふれる、うごきにふれる、つながりにふれる】に分けられ、多種多様な生きものが150種類2,000匹飼育されている。



アンケート結果の来場者サービス満足度やリピート意向など評価は上々、アバター利用の可能性を感じさせるものだった。


また、来場者の約7割がロボットとの会話を体験し、特に子どもたちには利用しやすい点が確認された。通常のガイドではあまり見られない来館者の「笑い声」がロボットとの会話では起こりやすい(13%)ことも確認できた。


また、特筆点として、複数の操作者がアバターを操作している場合、上手な受け応えや質問を誰かがおこなうと、他の操作者もそれを真似する現状が見られ、これを繰り返すことで、会話のきっかけ作りや会話スキルレベルの向上に役立つことが確認できたという(オペレータの会話レベル向上を自律的に誘発)。

調査結果 報告原文(アミューズメント)

アミューズメント施設では、館内の6ヶ所に設置した遠隔対話ロボットを、4名のスタッフで操作し、来場客に対し館内案内・展示説明・商品推薦等を行いました。会場出口でのランダムな聞き取り調査では、回答した来場客の約67%がロボットと会話したと回答しています。また映像調査では、ロボットと利用客の全ての会話のうち、利用客から質問があった会話が約半分を占めており、会話の8回につき1回は笑いが起きていたことが分かりました。ニフレルスタッフからも「質問や笑いといった側面は対面接客にはない効果があったように感じる」との回答があったことから、遠隔ロボットによる接客は、通常のスタッフによる対面接客にはない、新たな体験コンテンツとしても機能していた可能性が明らかになりました。

ニフレルの小園氏は今回の実証実験に参画した背景として、「来館者や動物のストレスを軽減し、プラスのコミュニケーションに転化する術を模索」してきたこと、コロナ禍によるコミュニケーション機会の制限に対するソリューションや、新しいコミュニケーションの形態の模索から、アバターロボットに可能性を探りたいと感じた、と語った。


また「来館者とのコミュニケーションとのハードルが下がっていることをメリットに感じた」「今回の実証実験で手ごたえを感じたので、次回再び同様の機会があれば参画したい」とした。

今回の登壇者と、株式会社海遊館 ニフレル事業部管理運営チーム 小園 翔氏(右上)


まとめ

コロナ禍における非接触の接客がアバターで実現できること、通常の接客やガイド業務にはない、新しい顧客体験が実現できることもわかった。


また、導入してわかった利点として、「アバターはいるだけ人を惹きつけること」「操作者の心のケアを促すこと」「会話が成り立つことがコンテンツとなり、サービス提供のきっかけになること」「複数のスタッフが同時に操作するだけで、接客業務のトレーニングになること」などが確認できた。


一方、技術的な課題として「幼児期の児童を相手にする上ではセンシング環境の充実が必須(会話以外に動作や仕草で児童の気持ちや感情を組んだり回答を推察する必要がある)」「ロボットへの意識を推薦したい対象にスイッチさせるインタラクション戦略が必要」などがあげられた。また、「自律ロボットの性能向上と同時に、操作者を適切に割り当てる仕組みも大切」だということも付け加えられた。

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神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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