踊る教育用ロボからツアー用モビリティ、ソーラーパネル清掃ロボットまで 「新価値創造展2021」

独立行政法人中小企業基盤整備機構が主催する「新価値創造展2021」が開催された。キャッチフレーズは「産業を変える。社会を変える。未来が変わる。」で、今年のテーマは生産性向上とSDGs。オンライン展示会「新価値創造展2021オンライン」とリアル展示会「新価値創造展2021(第17回中小企業総合展 東京)」とからなるハイブリッド展示会だが、こちらでは12月8日(水)~12月10日(金)の期間で東京ビッグサイトにて開催されたリアル展示会で見かけた、いくつかのロボットをレポートしておきたい。

ロボットが既存ビジネスに新しい価値をもたらし得るかどうかについては、もちろんロボット自体の性能も重要だ。しかし付加価値を生み出すためには、ロボットをどう使うか、既存の仕組みに組み合わせるかのほうが、より重要かもしれない。

「新価値創造展2021」。テーマは生産性向上とSDGsということで、ロゴは虹色の無限大


パナソニック「PiiMo」と「HOSPI」

パナソニック「PiiMo」隊列走行体験の様子

パナソニックはWHILLの電動車椅子を活用したパーソナルモビリティサービス「PiiMo」をデモ出展。複数台での追従走行が可能であることから、参加型ガイドツアーや、ライド体験イベント用にアピールしていた。間に障害物などが入っても素早く停止し、再始動することができる。

既に何箇所かで実証実験も行なっており、パッケージでも提供されている。価格は2週間パッケージで65万円(税別・送料別)から。PiiMo5台+予備1台でイベント基本キット(バナースタンドほか)付きとなっている。スタッフ派遣料金などは別料金。

参考出展のフード付き「PiiMo」

今回初公開されたのはフード付きのモデル。本体上のフードだけではなくAR機能付きで、座席前方に設置されたモニター上に、恐竜などバーチャルなオブジェクトを現実風景に重畳して見せることができる。こうすることでアトラクションなどに使えるのではないかという提案だ。

フードを跳ね上げて乗り込む

こちらはまだリリースも出ておらず、あくまで参考出展段階だ。実際に乗り込んで体験してみたが、フードを下ろすとそれだけで周囲に向けられるフォーカスが完全に変わる。乗客の集中力を誘導することができるのだ。たしかに従来の「PiiMo」乗車体験とはまったく別物になり得ると感じた。

前方モニターに恐竜などバーチャルな物体を重ねて表示可能。よりエンタメ施設のライド活用を意識したモデル

パナソニックはこのほか、病院内での薬剤や検体の自律搬送ロボット「HOSPi(ホスピー)」を出展。「HOSPi」はこれまでに松下記念病院に5台のほか、埼玉医科大学国際医療センター、獨協医科大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院、加古川中央市民病院、宮崎市郡医師会病院、京都大学医学部附属病院、東北大学病院、湘南鎌倉総合病院など合計10病院に30台弱が導入されている。海外でもシンガポールのチャンギ総合病院では2台が使われている。エレベーター連動も可能。ただしロボットが乗り込む場合は、エレベーターはロボット占有となり、人と一緒に乗り込むことはできない。

パナソニック 病院向け自律搬送ロボット「HOSPi」

搬送能力や安全性は高く、10年間無事故。薬剤部から病棟間で人での搬送時間が往復20分かかる搬送に使う場合、22回/日程度使うとすると、1日あたり7時間20分の看護時間を生み出すことができる。使ってもらっている病院にはいずれも価値を実感してもらっているが、導入されないと価値が理解されにくい点が営業上の難点だそうだ。現在、より大容量(オリコン50L 3個分)を一度に搬送可能な「HOSPI Cargo」も展開しはじめている。

■動画

いっぽう2019年5月に発表され、その後も実証実験を繰り返しているサイネージモデルのほうは、まだ実際の導入例はないとのこと。なお「HOSPI」の詳細については、以前本誌でレポートしているので合わせてご覧いただきたい。

■動画


リビングロボット「あるくメカトロウィーゴ」

リビングロボット「あるくメカトロウィーゴ」

株式会社リビングロボットは教育用の二足歩行ロボット「あるくメカトロウィーゴ」を出展。「メカトロウィーゴ」とは小林和史氏オリジナルのプロダクトで、独特なフォルムからファンに愛されており、プラモデルも発売されている。

「あるくメカトロウィーゴ」。様々な外装は教材として使っている生徒たちが塗装したものとのこと

「あるくメカトロウィーゴ」はその1/20スケールプラモデルと同じサイズで、高さは13cm程度。重さは230g。外装や腕そのほかのパーツもプラモのように外して組み合わせたりしてアレンジすることができる。自由度は8(足3×2、肩1×2)。シャープ「RoBoHoN」などの開発に携わったメンバーらが開発したとのこと。

プラモデルのように塗装やパーツ変更などのアレンジが可能

カメラやTOFセンサーを搭載

充電用のUSB端子のほか、BluetoothとWiFiを搭載。動きもScratch(スクラッチ)ベースのソフトウェアで簡単にプログラミングが可能。スピーカやマイク、カメラや照度センサー、距離センサーも搭載しており、センサーを活用した動きを組んで楽しめる。

頭頂部は照度センサー

プログラミングはScratchベースのソフトウェアで行う

手に持ってみた感覚は、とても良い。適度な重さと丸みがある。キャラクターとしてのメカトロウィーゴの世界観が好きなら想像力がかきたてられそうだ。個人的には、2004年ごろに日本ビクターが発表していた「J4」という小型ロボットを思い出した。

メカトロウィーゴのファンなら、外装カスタマイズも含めて楽しめる

「あるくメカトロウィーゴ」は既に福島の小中学校でプログラミング教材として採用されているほか、一般販売もしている。価格は99,800円(税抜き)。このほかプログラム結果をネット上のデータベースに保存するための月額料金(基本使用料500円)などが必要となる。現在、販売パートナーを募集している。

透明外装モデルの背面。バッテリーが見える

側面。自由度は8だが、よく動く

■動画




ベッコフオートメーション 「Xplanar」

ベッコフオートメーション「XPlanar」

FA機器向けネットワークのEtherCAT、PCによるFA制御、ソフトウェアPLCの「TwinCAT」等で知られるベッコフオートメーション株式会社は、磁気浮遊型の輸送システム「XPlanar」を出展。「XPlanar」は磁気を使った最大6自由度の2次元動作が可能な浮遊搬送システム。完全非接触、つまり浮いている。複数タイルを同時に制御しながら動作させることができる。非接触なので機械部品の磨耗がなく粉塵なども発生しない。そのため、薬品など異物混入が許されない物品の搬送に向いているとされている。一台の産業用PCでコントロールすることができる。

最高速度は2m/sと高速。単に二次元平面を動くだけでなく、ちょっと傾けたりすることもできる(最大5度まで)。上下運動は最大5mm。「XPlanar」自体はこれまでも展示会に出展されているが、今回は国内での出展では初めて、その場での回転を示していた。つまり搬送中に液体を撹拌するような作業も可能。永久磁石を内蔵したタイルはいくつかのタイプがあり、最大荷重4kgまで対応できる。課題は位置決め精度の向上と、用途開拓だそうだ。

■動画




未来機械「ソーラーパネル清掃ロボット」

未来機械

香川のロボットベンチャー 株式会社未来機械は「ソーラーパネル清掃ロボット」を出展。水は使わず、底面の回転ブラシを使って砂塵を跳ね飛ばすことでソーラーパネルの発電能力低下を防ぐ。同社のロボットはパネルに応じていくつかのタイプがあるが今回展示されていたのはブラシ幅900-1000mmの「Type 1」。手作業と比べると清掃コストは1/5、効果は同等、安定した清掃品質になるという。

より大型のモデル「Type 4」はドバイの大規模ソーラー発電所でも使われており、12月には60台以上が安定稼働しているとリリースが出された。これまでは海外の話が多かったが、今後は国内向けも展開しようとしている。

「ソーラーパネル清掃ロボット」。バッテリーで2時間駆動。重さは約28kg。




エイム・テクノロジーズ エレベーター連携サービスロボット

エイム・テクノロジーズ

エイム・テクノロジーズ株式会社は、エレベータやセキュリティドアと連携できる、配送用途のサービスロボットを出展。ロボットは「SAKURA」、21インチディスプレイを搭載したサイネージモデルは「NAOMI」、大きな開口部を持つ配送ロボットは「AKARI」と名付けられている。

エイム・テクノロジーズ サービスロボット「SAKURA」

旧型のエレベーターであっても同社が開発している、通信機能付きの「EVアダプター」、昇降路内センサーモジュール、かご上モジュール、操作盤モジュールなどを取り付けて連携させることで、ロボットとエレベーター連携が可能になるという。ホテル内であればルームサービスやデリバリー、清掃の手助けなどができるとしている。

エイム・テクノロジーズ 配送ロボット「AKARI」

このほかアプリケーション開発を行っているHello Robot社製のモバイルマニピュレータ「Stretch RE1」も展示していた。伸縮型のアームが特徴で、現在は研究開発に用いられている。エイム・テクノロジーズでは、2022年夏をめどとして、ホテルなどのトイレ清掃が可能なロボットならびに、その遠隔操作技術などを開発しているとのこと。現在、エレベーターメーカー他のパートナーを募集中とのこと。

Hello Robotの「Stretch RE1」

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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