「AIは全体最適化へ向かう」東京大学×ソフトバンク「Beyond AI 国際シンポジウム」AIの今後、エネルギー問題、量子技術等を語る

世界最高レベルのAI研究機関として、東京大学とソフトバンク、ソフトバンクグループ、ヤフーが設立したAI研究機関「Beyond AI 研究推進機構」(10年間で最大200億円拠出)が、2022年2月12日「第2回 Beyond AI 研究推進機構 国際シンポジウム」をオンラインで開催した。2000人以上が聴講した。

このシンポジウムは、深層学習(ディープ・ラーニング)の現在と未来、社会・文化・科学との関わりについて議論し、国際社会に発信することを目的としたもの。今年はディープラーニングがAIにもたらしたブレークスルーから十周年にあたるため、今回のシンポジウムでは、ディープラーニングの現在と未来、これまでの10年、これからの10年をテーマに議論が交わされた。


AI これまでの10年、これからの10年

ソフトバンク CEOの宮川氏と東京大学の藤井総長による特別対談や、AIに関する国内外の専門家やBeyond AI 研究推進機構の研究者によるパネルディスカッションなどが行われた。

ソフトバンク株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川 潤一氏と国立大学法人東京大学 総長の藤井 輝夫氏による特別オンライン対談を実施


AIはオートノマスビルなどの全体最適化へ

ソフトバンクの宮川氏は「スマホのカメラでは人やモノをAIが認識する技術などが一般的になりました。これにはディープラーニングが使われていますが、これら今までのAIは個々の機能向けに開発された「個別最適化」と言われるものです。今後は個々の機能が連携し、「全体最適化」の開発が様々な分野で進むと考えています。
例えば、私達は「オートノマスビル」です。現在、既に竹芝のソフトバンク本社ビルでは、入館する際にカメラと顔認証で数万人の社員を認識してエレベータが地震のフロアに連れて行ってくれますが、これはあくまで個別最適化。しかし、今後はそれに加えてAIがビル全体を総合的に判断して、汚れているところを認識して自律AIロボットに清掃を指示したり、人が密集している場所の空調、照明やブラインドなどを自動で調整したり、オフィスワーカーが快適に過ごせるようにビルが管理運営するようになるでしょう。ビルは建設費より、メンテナンスや光熱費等に膨大なコストがかかります。エネルギーやメンテナンス管理もビルが自分自身で管理し、最適にビル運用していくようになり、その他のサービスとの自動化の連携が進んでいくと考えています。」と語った。


ITの電力消費の増大とエネルギー問題

AIについて、今後の課題を問われると宮川氏は「AIはますます社会実装が進んでいくが、AIを含めてITによる電力消費量が倍増し、課題でもあり、電力供給の必要性が高まると考えています」と回答し、エネルギー問題に触れ、電力消費が大きいIT企業が東京と大阪に一極集中していることへの懸念や、逆に発電したエネルギーを効率良く消費するために量子コンピュータ技術を活用する可能性を示した。

これを受けて、東大の藤井総長は「東大としても、AIの実装やエッジコンピューティングが膨大に増大していく中で、エネルギー問題、消費量を低く抑えることは深刻に捉えています。デバイスレベルでは半導体の微細化もそのひとつとして研究を進めていて、ラージスケールのコンピュテーションの省エネ化では量子技術の研究、あるいはBeyond AIの中でもスピンを使ったデバイス、これまでとは異なる視点からの超低消費電力デバイスの研究も進めています」と語った。更に、脱炭素(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を実現する日本のパスウェイについて議論するために東京大学がオーガナイズする産学連携プラットフォーム「ETI-CGC」(Energy Transition Initiative – Center for Global Commons)に触れた。


AIエンジニアの育成、企業と大学の連携に期待

AIエンジニアの人材育成について話題に及ぶと、宮川氏は「企業ではAIを活用してビジネスを創るという視点の人材は社内教育で育成できるかもしれないが、AIをゼロから学び研究する優秀な体制を育成することは難しい。Beyond AIの中で東大とデータ分析コンペを実施した。このように東大のような組織と連携した取り組みを行うことで人材育成が加速できるのでは、と期待できます」とした。
また、それを受けて藤井氏は「東大は多くの情報系AIの専門家を育成している」ことを紹介し、GCIデータサイエンティスト育成講座 数理・情報教育研究センター(MIセンター) 次世代知能科学研究センターなど、最先端のAI研究の研究チーム等を紹介した。


今後10年に向けて

宮川氏は「AIの人材育成は教育がとても大切。東大には研究者としての視点と、社会実装の視点を持った人材の育成に期待しています。Beyond AIでは、AIに関する研究を社会に反映していくことが重要」とした。「ソフトバンクは小田急と取り組んでいるデジタルツインの事例をあげて、今後はBeyond AIを通じて世界に打って出ることができる人材や組織を育成するとともに、社会実装を加速していきたい」とした。
藤井氏は「これからの10年は脳科学とAIの接点も広げていきたい、エネルギー観点からも有効だと思う。Beyond AIでも「物理とAI」「脳とAI」「AIと社会」などの研究領域があります。AIがもっと社会の中に入って行き、人々のためになるには、倫理的な問題、データのガバナンス、セキュリティの課題、バイアスなど、早い段階からしっかりと産業界の皆さんを含めて課題の議論を進めていきたい」と語った。


Beyond AI 研究推進機構について

国立大学法人東京大学、ソフトバンク株式会社、ソフトバンクグループ株式会社およびヤフー株式会社が設立したAI研究機関で、2020年7月から共同研究に取り組んでいる。
「基礎研究(中長期研究)」と「応用研究(ハイサイクル研究)」の二つの領域で研究を推進し、研究成果を基にした事業化によって得たリターンを、さらなる研究活動や次世代AI人材育成のための教育活動にあてることで、エコシステムの構築を目指す。
ソフトバンク株式会社、ソフトバンクグループ株式会社およびヤフー株式会社による、10年間で最大200億円の拠出を基に、最先端のAI研究・事業活動を大胆に推進し、次世代AIを追究していく。

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ロボスタ編集部

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