新作アンドロイド・オペラ『MIRROR』世界初演がドバイ万博で実現へ 予告編PVを公開 AIが作った歌詞をオルタ3が即興で歌う

公演見合わせとなっていた新作アンドロイド・オペラ『MIRROR』の振替公演が決定した。2022年3月2日(水)にドバイ国際博覧会(以下、ドバイ万博)で『MIRROR』(ミラー)の世界初演が行われる。

『MIRROR』は音楽家・渋谷慶一郎氏とアンドロイド・オルタ3、藤原栄善氏をはじめとした1200年の歴史を持つ仏教音楽・声明、そしてUAE現地オーケストラ・NSO Symphony Orchestra(以下、NSO)による新作オペラ。渋谷氏によるピアノと電子音、そしてオーケストラの演奏に合わせてオルタ3がAIによって生成されたテクストを即興的に歌い、高野山に伝承される声明の声がそこに重なる。



ステージ中央にはオルタ3、その周りを声明家たちと渋谷氏のピアノとコンピュータが円形に囲み、さらにその周りを45名のオーケストラが囲む。演奏には強力な電子音やノイズが加えられ、祝祭的で儀式的な時間を演出する。


同作はこれまでの渋谷氏とアンドロイドの協働による『Scary Beauty(2018)』や『Super Angels(2021)』が西洋的なオペラの脱構築であったのとは異なり、祝祭的な形式であると同時にアンドロイド、声明、電子音楽、オーケストラ、ピアノといったここ数年の活動の集大成ともいえる作品となっている。


アンドロイド・オペラ『MIRROR』の振替公演が決定

アンドロイド・オペラ『MIRROR』は本来2021年12月11日のドバイ万博における日本のナショナルデー「ジャパンデー」で初演が予定されていたが、オミクロン株の世界的流行を踏まえ公演は見合わせとなった。


公演中止決定後、渋谷氏は現地での発表機会を見つけるべく私費でのドバイ行きを決行。同イベントに出演予定だった仏教音楽・声明の演奏家・藤原栄善氏と一緒に渡航した。現地では渋谷の旧知の友人であり「BROWNBOOK」というドバイ発の中東、北アフリカのデザインやカルチャーを紹介する雑誌を創刊し、日本の建築や文化にも造詣が深いドバイカルチャーのキーパソンである双子、ラシッド・ビン・シャビブ氏とアハメッド・ビン・シャビブ氏が渋谷氏の渡航を知り、急遽コンサートを主催。12月9日、渋谷のピアノと電子音楽、そして藤原栄善氏の声明による一夜限りのコンサートを聴きに大勢の現地文化関係者が訪れた。そして今回、『MIRROR』の振替公演がついに決定、3月2日(水)に世界初演を万博会場内にて行う。

また、同作のコンセプトテクストをフューチャーした予告編動画も公開された。

「動画テクスト日本語訳」
アンドロイドは鏡である。
音楽もまた鏡である。
それらは私たち自身を映し出す。
存在と非存在の境界はどこにあるのか?
過去と未来の境界はどこにあるのか?
そしてそれらはどこに存在するのか?
この新しい経験を共に祝祭しよう。


当日は大規模な音楽用野外ステージで実施

当日は現地時間午後6時半よりJubilee Stage(ジュビリーステージ)という、万博会場内にある大規模な音楽用野外ステージにて開催する。舞台上の大型スクリーンに投射される映像は、渋谷氏が長年コラボレーションを続けている仏人ビジュアルアーティストのJustine Emard(ジュスティーヌ・エマール)氏が担当する。会場3面のスクリーンにはリアルタイムでのオルタ3の表情を映し出す他、高野山の仏教的モチーフをアーティスト自身が撮影・3Dスキャニングして制作した映像もミックス。会場全体やオルタ3に投射される照明効果なども用いて視覚的な演出も最大化する。


演目には一昨年渋谷が音楽を担当した映画「ミッドナイトスワン」のメインテーマのオーケストラバージョンが加わり、アンドロイドのヴォーカルと声明、電子音がミックスされた新たなバージョンとして披露される。また、アンドロイドが歌うAI、GPT3によるテクスト、歌詞の生成には人工生命研究者の池上高志(東京大学教授)氏が、アンドロイドのヴォーカル開発やプログラミングには電子音楽家の今井慎太郎氏が全面参加。アンドロイド、AIとオペラ、伝統音楽という均衡を作り出す。


渋谷氏は同作について次のようにコメントしている。

ドバイは厳格かつオープンなイスラム文化とハイテクノロジー産業が共存している真に未来的な国家。今回初演する新作『MIRROR』では1200年前に書かれた仏教音楽のテクストを唱える僧侶の声に、AIによるテクストを歌うアンドロイドの声が重なり、UAEのオーケストラがそれを支える。コンテクストもコントラストも高い作品を発表するにはこれ以上ない場所だと思ったので、やっと実現出来てすごく嬉しい。

【渋谷慶一郎 アンドロイド・オペラ『MIRROR』公演概要】

日時 2022年3月2日(土)18:30-19:00(予定)
会場 ドバイ万博 ジュビリーステージ
演目名 渋谷慶一郎 アンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』
出演者 渋谷慶一郎 氏
オルタ3(Supported by mixi, Inc.)
仏教音楽 南山進流声明家
NSO Symphony Orchestra (UAE)
制作 ATAK


UAE現地オーケストラ「NSO」からのコメント

「NSO」の創設者兼エグゼクティブ・ディレクターのジャネット・ハスネ氏は以下のように語る。

「NSOは中東で10年以上活動しており、今回ドバイ万博で渋谷慶一郎氏のアンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』を演奏できることを非常に光栄に思います。2020年にも中東で渋谷氏の『Scary Beauty』で共演し、今回またドバイ万博で観客を熱狂させることを楽しみにしています。

また、今回のオーケストラ指導を行うNSOの音楽監督であり、指揮者のアンドリュー・ベリーマン氏も「この作品は日本人作曲家による素晴らしい音楽と視覚的な世界を楽しめるだけでなく、ロボットの世界で実際に何ができるのかを知ることができるチャンスです。音楽、音楽家、ロボットなど全てが融合するのは興味深いことです。」


『MIRROR』の出演者

渋谷慶一郎 氏

音楽家。東京藝術大学作曲科卒業、2002年に音楽レーベル ATAKを設立。作品は電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽 、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたる。 代表作は人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』(2012)、アンドロイド・オペラ『Scary Beauty』(2018)など。 2020年に映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当、毎日映画コンクール音楽賞、日本映画批評家大賞映画音楽賞を受賞。2021年8月 東京・新国立劇場にてオペラ作品『Super Angels』を世界初演。人間とテクノロジー、生と死の境界領域を作品を通して問いかけている。

オルタ3(Supported by mixi, Inc.)

人間と人工生命体とのコミュニケーションの可能性を探るために開発されたアンドロイド。2019年にコミュニケーション創出カンパニーであるミクシィと、アンドロイド研究で世界的に有名な大阪大学石黒研究室、人工生命研究のパイオニアである東京大学池上研究室、そして本プロジェクトの実証実験の場を提供するワーナーミュージック・ジャパンの4社共同研究により誕生。「オルタ3」は機械が露出したむき出しの体、性別や年齢を感じさせない顔を特徴に人の想像力を喚起し、これまでにない生命性を感じさせることを目指し開発されている。

仏教音楽 南山進流声明家

1200年の歴史を持つ高野山に伝わる「南山進流声明」。声明を専門とし高野山真言宗六甲山鷲林寺の住職でもある藤原栄善氏とその伝統を引き継ぐ弟子たち。藤原栄善氏は南山進流声明の大家である中川善教師とその弟子宮島基行師二人より南山進流声明を学び、25年の修行を経て2003年に皆伝を許される。音楽家 渋谷慶一郎氏とは2017年よりコラボレーションを開始、2019年にはオーストリア・リンツで行われた「Ars Electronica」にて『Heavy Requiem』を初演するなど活動を世界に広げている。

NSO Symphony Orchestra (UAE)

UAEを拠点としたNSO交響楽団、NSO室内管弦楽団、NSOシンフォニック・ポップス・オーケストラ、NSOオペラ&コーラス、NSOミュージック・エージェンシーで構成される。約20カ国の国籍を持つ100人以上の音楽家を擁し、数多くの交響曲やオペラ作品に加え、ポピュラーなクラシックや音楽劇などを演奏。年間を通じてコンサートを開催しているほか、個人、企業、政府のイベントでも定期的に演奏を行っている。2020年にはUAE シャルジャで行われた渋谷慶一郎氏のアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』公演にて共演、本作では二度目の共演となる。

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山田 航也

横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。

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