スカパー! が「エンタメ×VR×リアルハプティクス」が融合した日本初の試み、遠隔リアルタイム握手会を開催した。
正式名称は『さわれるVR握手会』in スカパー! アイドルフェス。東京の豊洲PITで3月16日に実施された。『さわれるVR握手会』には、タレントの鹿沼亜美(かぬま あみ)さんがオンラインで登場し、VRと立体音響でファンと会話をし、リアルハプティクス対応の握手ハンドを使ったVR握手会を楽しんだ。
『さわれるVR握手会』には特設ブースが設けられ、ファンはこの中で、オンラインの鹿沼さんと1対1で新しい体験をした。
ブース内には、握手用のリアルハプティクス(触覚伝送)対応のハンドを設置。ファンはハンドを握り、VRゴーグルを着用。リアルハプティクスは慶應義塾大学で開発された技術で、モーションリブが協力して提供している。
鹿沼さんとの「さわれるVR握手会」
ライブイベント「スカパー!アイドルフェス ~Think of SDGs!~」の限定企画のひとつとして実施されたもの。参加者はVRゴーグルとヘッドホンを着用して「さわれるVR握手会」のブースに入り、「リアルハプティクス」(触覚伝送)対応の握手ロボットとバーチャル握手をしながら、タレントの鹿沼亜美さんと会話をする。
呼びかけられた参加者はブースに入り、VRゴーグルとヘッドホンを装着。握手ハンドを握る。
鹿沼さんもハンドを握って、参加者と双方に握った手の感触を感じながら会話がスタート。
参加者も鹿沼さんの手の感触を感じて、会話の声も弾む。
鹿沼さんは「今、手を握っているんだけどわかる? 感じますか? 私も××さんが握っているのを感じます」と応え、会話は一気にヒートアップしていった。
VRゴーグルに加え、立体音響マイク(イヤホン)、香り噴射装置などをブース内に設置され、「触覚」「視覚」「聴覚」「嗅覚」といった五感で体感する「特別な握手会体験」となった。
握手には、絆を感じる不思議な魅力があることで知られている。
選挙運動で握手する候補者の姿がニュースで流されるが、アイドルとの握手会もまた、ファンとの間に独特の親近感を生み出す。実際に著者もこの「さわれるVR握手会」を体験し、ほんの数分間、鹿沼さんと会話しただけでも「推し」たい気持ちも感じることができた。
コロナ禍で特に接触については未だ強く制限されている中で、今後も「さわれるVR握手会」がアイドルとファンとをリアルにつなぐ貴重な機会になっていく可能性は高い。
■ 動画 『さわれるVR握手会』in スカパー! アイドルフェス
■ 動画 VR握手会で鹿沼亜美さんがファンと交流中のリアクションと会話
スカパー「コロナ禍でも、最新技術を使ってファンとの交流を持続可能なものに」
今回の「さわれるVR握手会」について、スカパーJSATの担当者、石岡さんに話を聞いた。
編集部
「さわれるVR握手会」を企画した経緯を教えてください
石岡さん
コロナ禍で、リアルな握手会はどこもできなくなっているのが現状です。ファンは自身の「推し」と触れあう機会がなくなっているので、何かそれに代わってバーチャルであっても、よりリアルに感じることができる場を作れないかと思案していました。そんな時に「リアルハプティクス」という技術が社内でも話題になっていて、これを握手会に活用できないかと、モーションリブさんに相談しました。
今日は、ライブイベント「スカパー!アイドルフェス ~Think of SDGs!~」が開催されます。テーマはSDGs、サステナブルなので、コロナ禍で直接触れあえなくても、最新技術を使えばファンとの交流を持続可能なものにできる、ということで「やってみよう」ということになりました。フェスに参加する中から抽選で選ばれた若干名のファンの方限定になってしまうのですが、この企画の実験的な意味合いもかねて、鹿沼亜美さんのVR握手会を体験して頂けることになりました。
編集部
今後の展望を聞かせてください
石岡さん
今回のVR握手会が好評であれば、今後拡大していきたいと思います。ただ、リアルハプティクスを今後のイベントにどう発展させていくかの検討はこれからなのですが、今までの握手会を置き換えるものに留まらず、それを超える企画として、アイドルに肩もみしてもらう体験とか、アイドルジャンルだけでなく、スポーツ選手の握力を体験して頂くとか、オンラインでもお互いの存在を双方向で感じられる企画を考えていきたい、と思います。
モーションリブに触覚伝送技術を聞く
今回、活用されているリアルハプティクスは慶應義塾大学の医学部と理工学部で研究・開発された制御技術。人の力加減や物の感触を正確に遠隔地に伝送できる。力センサーは使わず、位置、速度など、力のデータ化と統合制御を実現した特許技術だ。
「感触の伝わる遠隔操作」「感触や動作の可視化・分析」「繊細な力加減をする自動化」「感触の再現・VR」を実現したモーションリブの緒方さんに話しを聞いた。
編集部
リアルハプティクスはどのように実現しているのですか
緒方さん
リアルハプティクスは、力加減を遠隔で双方向に伝える技術です。もともとは遠隔手術において、患者さんの体内の感触を遠隔の医師に伝えたり、遠隔の医師の力加減を患者さんに伝えるというリアルタイムで双方向に伝達することを目的に研究・開発されました。その後、遠隔医療、製造業などでも活用され始めています。
私達の技術はモーターの制御によって実現しているもので、センサー類は使用していません。モーターがどれだけ回転したかという情報から、速度と力の情報を計算で作り出しています。
力を伝える技術なので、実は社内では兼ねてから「握手会でも使えそう」とは話していました。スカパーさんから今回、VR握手会での活用したいとお声がけ頂き、私達としても積極的に取り組みさせて頂きました。この技術が広く知られるきっかけになれば、と思っています。
編集部
今回のリアルハプティクス・ハンドはどのようなしくみで、具体的に感触はどこまで伝わるのでしょうか
緒方さん
今回のシステムは親指と人差し指側の2つのモーター、2自由度(2軸)で、位置、速度、加速度をデータ化して、完全に双方向に力を伝達しています。すなわち、正しい感触と正しい力加減が伝えることができます。アイドル側はファンの手の大きさ、柔らかさ(弾力)、握った強さなどを感じます。硬さについて更に言えば、ブヨッとして硬いのかカチカチで硬いのかも伝えることができます。
今回は2自由度のシステムですが、用途や目的等によって、いろいろなバージョンのものを用意できると考えています。
編集部
リアルハプティクスの今後の展開を教えてください
緒方さん
少子高齢化によって労働力が減り、危険が伴う作業を遠隔で行う需要が増えると考えています。また、熟練労働者も今後は減少していく傾向にあり、熟練者による遠隔作業のニーズも増えると思います。当社の技術は、双方向の力覚データが収集できます。今までは熟練者がどのように力を感じて、どんな力加減で作業しているのかが自動化できなかったところを、蓄積したデータを使って高精度に遠隔化を実現し、その先には自動化、熟練者と同じように動作できるロボットの自動化へ発展していく、そう考えています。
参加者の反応
著者も『さわれるVR握手会』を経験したが、VRゴーグルの中で見える鹿沼さんの映像はとても近くに感じた。その視界の中で鹿沼さんの動きや笑顔、会話のやり取りと相まって、鹿沼さんから手を握り合っていることを意識する言葉が出ると、実感として一層、手の感触をリアルに感じることができた。
参加者は抽選で当選したわずかな人数のみだったが、どのような感想を抱いたのだろうか。
男性ばかりではなく、女性の参加者も見られた。
女性2人組の参加者は「とても楽しかった。鹿沼さんが可愛かった」「映像が近くて、鹿沼さんがすぐ側にいるように感じました。ASMRやってくれて、耳元で話してくれたのは新鮮な体験でした」と語った。
また、握手会に参加した経験があり(多くはない)、鹿沼さんが推し、という男性は「とても楽しかったですし、不思議で新しい体験だなと感じました。ただ、あえて言えば、リアルの握手会では、アイドルの手のサイズ感、体温、緊張で汗ばんだり震えたりする手、そういうのも含めてが体験なので、VR握手会をリアル握手会と比べてしまうと、残念なところがまだあるな、と正直感じました。VRやハプティクスの技術は面白いので、既存のリアル握手会の代わりをそのまま実施するのではなく、リアルとは比較できない内容の、バーチャルだからこそできる世界観で新しい体験ができるイベントでの活用も面白いかな、と感じました」と語ってくれた。
ファンの受け止め方も様々だが、それとともにこの試みはまだ始まったばかり。オンラインであり、遠隔からできるからこその可能性も広がっていて、VR握手会の波が更に拡大する可能性は高い。
リアルハプティクスの社会実装とともに、今後のエンタメ活用にも期待し、注目していきたいと感じた。
■ 鹿沼亜美さんインタビュー動画(VR握手会を終えての感想)
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。