自動配送ニーズは「園芸用の土」や「焼きたてパン」にあり NEDO自動配送ロボ シンポジウムレポート

2022年3月8日、経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の主催で、「自動配送ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けたシンポジウム 自動配送ロボによるラストワンマイルの現在を知る」が行われた。実証実験を行なっている各事業者・行政の関係者が講演を行い、配送ロボットの現状を紹介した。




自動配送ロボットが「デジタル田園都市」を走る

経済産業省 商務・サービスグループ担当審議官 澤井俊氏

冒頭では、経済産業省 商務・サービスグループ担当審議官の澤井俊氏が、経済産業大臣政務官 吉川ゆうみ氏の挨拶を代読した。現在、物流は需給バランスが逼迫している。地方部の移送は特に懸念されている。澤井氏は、政府としてもデジタル技術を活用して「デジタル田園都市」化を進めて物流危機を回避したいと述べた。自動配送ロボットはラストワンマイルの配送での活用が期待されており、経済産業省としても輸送能力維持の観点からキー技術として期待を寄せているという。

そして2月18日に産業界でも一般社団法人デリバリー協会が発足したこと、3月4日に道路交通法の改正案が閣議決定されたことにも触れて「社会実装に向けた官民の動きが着々と進んでいる。自動配送ロボットが身近なところまで来ていると実感してもらう良い機会となるように推進力となることを祈念したい」と語った。


配送ロボットは「当たり前の風景になる」直前

経済産業省商務・サービスグループ消費・流通政策課長 兼 物流企画室長 中野剛志氏

次に経済産業省商務・サービスグループ消費・流通政策課長 兼 物流企画室長の中野剛志氏が「自動配送ロボット実用化に向けた取り組み」と題して、講演した。中野氏は「配送ロボットはともすれば先の話、実証段階だろうと思うかもしれない。だが、実は実装段階に入ろうとしている」と話を始め、海外状況も含めて自動配送ロボットの概要について紹介した。非接触型配送で注目される配送ロボットは、ヨーロッパや中国でも急速に普及中だ。コロナによって一挙にニーズが高まり、急速に動き出した。今は目新しく見えるが、他の新産業登場のときと同様、「もう少し経つと当たり前の風景になる」と考えているという。

配送ロボットは海外では特に実用化が進んでいる

物流は特に人手不足が顕著だ。宅配の取り扱い個数が増大しており、ラストワンマイル配送の人手不足は深刻だ。特にドライバーは深刻である。巣篭もり需要で、ネット通販は一気に増大した。一度便利さを覚えた消費者の動きは、コロナ禍が終わったからといって消えるわけではない。時代の流れはコロナによって加速した。いっぽう、食料品ですら買い物困難を感じる消費者もいる。少子高齢化時代においてはコストのかかるラストワンマイルを何らかの手段で置き換えないとまずい。

自動配送ロボットに期待されている役割

では政府は実装のためにどういうやり方で進めてきたか。イノベーションが起きると既存の制度と一致しなくなることも多いが、制度整備はそんなに簡単ではない。特にイノベーティブな事業者からすると政府の動きが遅いと感じることも多いが、中野氏は「私見も入るが制度整備の進捗は早かった。スムーズに進んだ」と述べて、これまでの流れを振り返った。2019年度には官民協議会が立ち上げられ、2020年度には公道実証整備の制度整備ができ、2021年度には低速・小型の自動配送ロボットの実用化に向けた制度化を含む道路交通法の改正法案が閣議決定された(2022年3月4日)。

自治体の協力も不可欠だ。全国各地で公道実証実験が行われている。実証実験は各地の多様なニーズに合わせて様々なシチュエーションで行われている。産業界でもロボットデリバリー協会が設立された。中野氏は「制度整備と団体も設立され、あれよあれよというまにいろんな環境が整備されている」と述べた。とりあえず現段階で、政府の役割としてはひと段落したと考えているという。

公道実証実験の事例

いっぽう社会受容性を見ると、ロボット配送が身近に実現するという状況には、まだなっていない。そのためには多くのプレイヤーが参加して、使って、新たなアイデアを掘り起こしていく必要がある。政府も「デジタル田園都市」で様々な施策を活用できるようにしており情報発信していくという。実用化に向けて、事例を見える化、横展開して、シェアしていく。先行事例や優良事例を知りたいという声は多いそうだ。地方自治体においても地域のニーズを具体的に解決していくことを目指す。ロボット配送も地域の生活のなかに溶け込んでいくべきもの、買い物弱者対策に資していくべきものだと考えていると語った。

公道実証実験の事例




スーパーサイエンスシティ・つくば市の自動配送への取り組み

つくば市 政策イノベーション部長 森祐介氏

このあと、まずは先進自治体から実証事例の紹介があった。まずはつくば市 政策イノベーション部長 森祐介氏から。つくば市ではセグウェイそのほか搭乗型移動支援ロボットの実証実験は行なってきたし、ロボコン「つくばチャレンジ」なども行われているが、自動配送自体はこれからの段階にある。これまでの取り組みでは、2021年7月19日(月)〜8月31日(火)に筑波大学キャンパス内でホンダと楽天のプロジェクトが行われている。今後は他の地域でも活用されることを期待しているという。

つくば市は2011年に構造改革特区の一環として「モビリティロボット実験特区」に認定されている。これによりセグウェイが公道を走れるようになり、これまでに3万kmを無事故で走行している。そのほか電動車椅子の自動運転も実施している。Doog社の追従型のロボット「サウザー」も警察庁と協議して歩行者扱いとみなして公道で走れるようになっている。そして「つくばスーパーサイエンスシティ構想」を推進しようとしている。移動、物流、行政、医療、防災インフラ、研究開発などを進めるオープンハブの取り組みを一気通貫で行い横断的なサービスを提供したいと考えているという。

つくばスーパーサイエンスシティ構想の概要

電動車椅子型のパーソナルモビリティのシェアをしようとした場合、現行法ではできない部分がある。それは人を乗せない状態では自動運転はできないというものだ。つまり目的地まで人を乗せて運んだあと、自動運転で戻すことは現在の道交法ではできない。ここに規制緩和が必要だ。配送に関しても将来的には遠隔監視なしで移動させることもありえるはずだが、それは難しい。これらロボットの取り扱いを明確にしていくことは、ロボットの完全自動運転の可能性を探るためには重要な点となる。

■動画

速度の問題もある。いまは時速6kmなら歩行者扱いで公道が走れるが、実際の利用者からは「時速6kmだと遅い」という声が多い。時速6kmに制限されてしまうようでは免許返納後の代わりの交通手段にはならないというわけだ。そこでつくば市では時速6kmから時速10kmまで上げてほしいという要望を国に出している。いっぽう、時速6kmも出してしまうと危ないところもある。だがつくばのように歩道が広い場所では時速10kmまで上げたほうが効率的だ。安全面を重視しながら、状況によって様々な取り扱いが必要となる。

配送も同様だ。配送自動化のためには道路の状況を事前マッピングするのがもっとも望ましい。だがコストがかかる。そのためつくばでは、まず限られたエリアから、建物内外の情報を3Dマップ・BIMモデルで構築して、モビリティサービス事業者に提供しようとしている。それにより、安全かつ正確な自動配送を実現することを目指す。

ロボットのサイズの問題もある。現時点では厳格に決まっているが、日本独自のサイズ制限ができてしまうとメーカーのビジネスが難しくなるので、グローバルスタンダードに合わせていく必要があると考えているという。たとえばLIDARの高さは高いほうが安全性は高まる。だが高くしすぎるとルール違反になってしまうので、国に対して規制緩和要望を出しているとのこと。

いま、スーパーサイエンスシティ構想では、つくば駅前のペデストリアンデッキでの自動配送を実現したいと考えて準備中だ。森氏は、こうしたことの実現のためには、技術があるからやっていくということではなく「地域の課題の解決のためにテクノロジーを活用していくという姿勢が重要だ」と述べた。そのためには住民の理解とニーズが一番重要だと考えて、理解を促進していると語った。

なお、経済性はだいぶ厳しいとみており、「クロスセクターベネフィットでコストを下げていくしかない。既存の交通機関のコストをおさえて 合わせて補助のかたちでやっていくしかないのではないか」と語った。

移動スーパーの高度化を狙う




高齢者の利用を想定した玉野市の取り組み

岡山県玉野市 公共施設交通政策課 主査 甫喜山(ほきやま)昇平氏

次に、岡山県玉野市の公共施設交通政策課 主査 甫喜山(ほきやま)昇平氏が講演した。玉野市にはコミュニティバス「シーバス」、乗合デマンドタクシー「シータク」が走っており、民間の路線バスだけで運行できないところをカバーしている。民間路線バスの廃止が相次いでいることから補完しなければならない地域が市の全域に広がっている。乗り場の数は250程度。年間12万人以上の利用があるという。

このような背景のなか、ロボット配送の実験が行われている。民間路線バス路線の減便や廃止、タクシーのほうも深刻なドライバー不足で雇いたくても運転手が見つからない、需要はあるにもかかわらずタクシー事業も厳しくなっている。また山間部が多く、地域公共交通が不十分となっている。そもそも足が不自由で乗り場まで行きにくい人の買い物手段はどうするのかといった問題もある。

こういった状況のなか、三菱商事から玉野市で自動配送ロボットの実証実験を行いたいという申し出があり、今後の課題解決の一つとして積極的に取り組んでいくことにしたという。実験では自動配送ロボットの性能評価や技術的課題の抽出、地域に本当に受け入れられるのかを検証した。

また、社会事業性の評価検証を考えて、将来の実用化を見据えて、一台のロボットのみを使い、一度のミッションで複数の場所から荷物をピックアップ、複数の箇所に配送するという実験を行なった。配送ミッションごとにどの訪問先をどの順番で回るのか、ルート最適化技術「Loogia(ルージア)」は株式会社オプティマインドが提供した。

■動画

また、この手の実験ではスマホアプリを使うのが一般的だが、玉野市では電話を使った。高齢者の利用を念頭にしたためだ。荷物の積み下ろしサポートなども行なった。実験期間は2020年11月26日から12月11日までの土日を除く12日間。地元の警察署から道路使用許可を得て実施された。ロボットはティアフォーの「Logiee S」を使用した。市民への理解を得るためには、地元の自治会のほか、地域で健康づくりのために公園で行われている体操教室などでも説明を行なったという。また子供たちとのふれあい会なども実施した。甫喜山氏は「こういった説明会、体験会イベントによって地域ぐるみの協力体制が築かれ、実証実験自体は成功だったなと考えている」と述べた。高齢者からは実用を期待する声が多数あったという。

地域ぐるみの協力体制を築いた




人気商品は「園芸用の土」 楽天による自動配送の結果

楽天グループ株式会社 コマースカンパニー ドローン・UGV事業部 シニアマネージャー 牛嶋裕之氏

次に事業者からの講演が続いた。楽天グループ株式会社 コマースカンパニー ドローン・UGV事業部 シニアマネージャーの牛嶋裕之氏はEC市場の拡大に応じて配送員が不足している現状から話を始めた。楽天でもロボットによる無人化・省人化を目指している。楽天では自動配送ロボットは自動車よりも軽量でゆっくりと安全に運べるものとして捉えており、コロナ禍のなかでの非接触配送ニーズに伴い、たとえば地域の飲食店からのデリバリーサービスや楽天市場からのラストワンマイル配送に使っていけるのではないかと考えているという。

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楽天では2019年から実証実験に取り組んでいる。まずは横須賀市「うみかぜ公園」で、スーパー「西友」からバーベキューやピクニックを楽しんでいる人たちに商品を配送するサービスを1ヶ月間行なった。公園との間には公道が一本あったが、当時はまだ公道走行ルールが定められていなかったため、西友スタッフが横断舗道をわたり、そこからロボットで配送するというかたちをとった。

2020年には東急リゾーツ&ステイが運営する長野県茅野市の複合リゾート施設「東急リゾートタウン蓼科」で実験を行なった。グランピング施設へのバーベキュー食材や朝食の配送だ。これは大人気で、以前よりも追加注文が多くなるといった効果もあったという。

グランピング施設での活用は好評だったとのこと

このように2020年までは公園やグランピング施設など私有地のなかで実証実験をやっていたが2021年ごろから公道での実験も進めている。 2021年3月23日(火)〜4月22日(木)には、横須賀市馬堀海岸の住宅地でロボット配送を行なった。西友から400点以上の商品を配送した。楽天ではドローン配送専用の注文アプリを作っており、そのアプリを使って注文する。馬堀海岸地域は昭和40年代に整備された地域であり、高齢化が進んでいる。そのため店舗で購入した商品のうち、重たい商品やかさばる商品はロボットで運んでもらうと便利だということでサービスカウンターで申し込んでもらうと配送するというサービスも合わせて実施した。なかでも意外な人気商品は「園芸用の土」だったとのこと。

配送ロボットによるスーパーからの配送

また、一部公道を含む筑波大学構内でも自動配送をホンダのロボットを使って行なった。遠隔監視には楽天モバイルのLTE回線も使用。国土交通省運輸管理局と各地方の警察署からの道路使用許可をとって公道を走行している。現在はロボットの近くを保安要員が随行しているがこれからは保安要員をなくし、遠隔監視にしても一人の監視者が一台を監視するのではなく複数台を同時監視できるようになれば採算性も合っていくのではないかと道路交通法改正や、ロボットデリバリー協会での安全基準認証の仕組み作りなどに期待を示した。

楽天による筑波大学構内での配送実験




藤沢SSTでは4台のパナソニック製屋外走行ロボットが焼きたてパンを運ぶ

パナソニック株式会社 ロボティクス推進室 室長 安藤健氏

パナソニック株式会社 ロボティクス推進室 室長の安藤健氏は、主に藤沢SSTでの取り組みを紹介した。藤沢SSTとはパナソニックの工場跡地を開発し、「スマートシティ」として設計された宅地で、おおよそ20haに2000人が暮らしている。中には住宅のほか、商業施設や介護施設、保育園なども一通り入っている。パナソニックではここで機能安全技術や低遅延かつセキュアなシステムで通信する技術などを組み合わせて、屋外での配送実験を進めている。

パナソニックによる藤沢SSTでの実証実験の概要

2020年11月に初めて屋外公道走行を行い、その後、順調に台数を増やして現在では常時4台の配送ロボットが走行している。走行実績は既に1,000kmを超えている。無事故だ。他にも遠隔監視の拠点を移して通信側のチェックも行ったりしながら、エリア拡大を図ってきたという。

■動画

台数については現在は4台だが、それが本当に適正なのか、需要や配達頻度はどのくらいなのか、適正コストはどのくらいかといったことはまだシミュレーションを繰り返している段階で、技術知見の積み重ねを行なっている段階。ロボット自体は動く宅配ロッカーのようなもので、その形状もブラッシュアップを行なっているという。

どんなものを運んでいるのか。2021年度3月には処方箋薬の配送を、アイン薬局と連携して行なっている。オンライン服薬指導をされた人に対してロボットが非接触で薬を配送する。また、人気が高かったのは「焼きたてパン」だったという。安藤氏は「絶大な人気を誇っていた。確かに、朝起きた時に焼きたてパンが届いてくれたら嬉しい」と紹介した。配送手数料は30%とっているが、それでもニーズが強く、「焼きたてパンの威力を思い知った」という。Uberのような配送代行とは異なり、宅配ロボットの場合は事前予約制だったため、店舗側でもニーズが読めると好評だったそうだ。

特に焼きたてパンの配送は人気だったとのこと

配送ロボットは今までにない存在なので、住民たちといかにコラボレーションを進めていくのか、理解を進めていくかも重視している。ロボットは住民投票の結果から「ハコボ」と名付けられており、子供たちのイラスト大会を行なったり、ロボットがある未来を考えてもらったりしているという。また高齢者からもファンレターが送られたりするなど、徐々に浸透は進んできたとみていると述べた。

住民との対話を並行して推進

今後は、技術実証はかたちは見えてきたと考え、事業加速、社会実装を進めていく。具体的にはフルリモート化、また一人で多くのロボットを監視するようにしていく。またどういう場所でオペレーションを進めるのがビジネス的にペイしやすいのかといった知見を自治体との連携を含めて進めていく。

パナソニックの屋外配送ロボット




コストと利益のシェアが重要

パネルディスカッションの様子

このあと、パネルディスカッションが行われた。パネルについては詳細は割愛するが、できる技術のなかで愚直に進めていくこと、そのなかでデータを蓄積していくことの重要性や、いつまでも実証実験ばかりしていてもダメ、自動配送単独でペイすることは難しい、コストとプロフィットをどうシェアするかがスケールさせる上では重要なのではないか、共助領域については都市部と地方都市では異なるといった実際に実験を進めている関係者ならではの議論が行われた。

登壇者たち

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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