ノキア、ローカル5Gテスト環境をサービス化したラボを六本木にオープン パートナー企業18社とユースケースを開拓

ノキアは2022年5月12日、東京・六本木の先端技術研究センター(ATC)をアップグレードして、ローカル5Gの機器、ソフトウェア 、サービスのエンドツーエンドの製品を紹介し、実証基盤を提供すると発表した。ローカル5Gの可能性を検証するために必要な実験試験局免許を取得した。通信事業者やインフラ事業者などに対してローカル5G実働に関する情報や知識を提供し、市場投入までの期間短縮等を狙う。

実際の環境でのテストを容易にするためのラボサービスを提供

ローカル5Gとは、5Gの電波を携帯電話事業者以外にも免許を割り当てることでスポット的に活用するネットワークで、日本では2019年12月に制度化され、工場や施設などでの活用が期待されている。今回オープンしたノキアのラボは、実環境下での検証が容易に行える「Lab as a Service(LasS)」をコンセプトとし、各種検証が可能だという。

ノキア ローカル5G ラボの連携展示の一つ。産業用スマートグラスとひび割れ検知の視認性向上システム、TeamViewerとの組み合わせ。遠隔で作業をモニタリングすることで検査漏れを防ぐ


パートナー18社と協力してユースケースを探索

関係者一同による記念撮影

今回、ノキアが発表したローカル5Gパートナー企業は2022年5月12日現在で以下の18社。

・コネクシオ株式会社
・伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
・ダイワボウ情報システム株式会社
・株式会社日立国際電気
・キンドリルジャパン株式会社
・京セラ株式会社
・日本マイクロソフト株式会社
・ネットワンシステムズ株式会社
・ネットワンパートナーズ株式会社
・日鉄ソリューションズ株式会社
・日本システムウエア株式会社
・オムロン株式会社
・PTCジャパン株式会社
・シャープ株式会社
・スパイレント・コミュニケーションズ・ジャパン株式会社
・TeamViewerジャパン株式会社
・東芝インフラシステムズ株式会社
・ベライゾンジャパン合同会社

このなかで、直接ロボットに関連しているのはオムロンだ。オムロンは、同社と共に参画している日鉄ソリューションズの支援のもと、「オートメーションセンタ KUSATSU(ATC-KUSATSU)」でノキアのローカル5Gソリューション「nsraven(エヌエスレイヴン)」の試験を行なっている。

技術・開発・製造機能を同一拠点内に持つ「ATC-KUSATSU」では、オムロンの20万点以上に及ぶ制御機器とソフトウェア、サービスをすり合わせた試験や技術トレーニングを提供している。顧客の装置の持ち込み検証などを使用環境で実証実験できる「POC-KUSATSU」も併設している(2022年1月12日付けリリース)。

オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 技術開発本部の山田弘章氏は「通信インフラがとても重要だ」と述べ、大容量、低遅延のローカル5Gを使ったソリューションとしては、画像認識を用いて作業者の作業動線や動きを撮影した映像データなどを収集し、熟練者との違いを作業者へリアルタイムにフィードバックできる「リアルタイムコーチング」と、協調ロボットやモバイルロボットを使った「レイアウトフリー生産ライン」を検証していると紹介した。「人と機械の高度協調の場所」として捉えているという(2019年9月のリリースも参照)。

オムロンは草津工場でリアルタイムコーチングとレイアウトフリー生産ラインを検証

日鉄ソリューションズでは、環境センサやスマートフォンなどを使って、一人作業を安全かつ効率的にできる現場向けソリューションとして「安全見守りくん」を既に全国2万人に適用している。「安全見守りくん」は加速度センサからアクシデントを検知することもできるなど、一人での現場見守り作業を遠隔からサポートする試みも行われている。現在はキャリアのLTEを使って展開しているが、快適な動画通話は十分ではなく、より使いやすく快適にする手段としてノキアのローカル5Gに期待しているという。

日鉄ソリューションズ「安全見守りくん」

また、東芝インフラシステムズは首都高速道路と共同研究を始めており、首都高速が管理する道路へのローカル5Gによる無線通信エリアの構築、実測データの取得及び詳細シミュレーションと実測の差異分析等を実施する予定だ(2022年5月9日のリリース)。ローカル5Gは、自己の建物内又は自己の土地内での利用を原則としており、そこから漏洩させてはいけない。東芝独自の分散型アンテナシステム「DAS(Distributed Antenna System)」を道路のカーブに適用することで柔軟なエリアカバーを実現するための実証を行う。高速道路のように線状の細長いエリアを効率よく5Gエリア化するためにはエンジニアリングコストが高いが、シミュレーションと実測データを使って、最適化できるようにするという。

東芝のローカル5G DAS。電波を光信号に変換して伝送・分配することでエリアを拡張できる。電波遮蔽・漏洩リスクを下げ、無線干渉設計を簡素化することで導入コストを削減する

そのほか、日立国際電気では高速大容量の5Gを道路の管理などに用いる。スマートグラス映像を遠隔管理事務所で共有したり、画像解析技術で早期に障害を発見してアラート通知するシステムを活用したり、ドローンを使った設備点検などを行う。そのためのAIエッジコントローラーも今年度中に発売予定で、既設カメラにアドオンできるもののほか、カメラ一体型も出すという。

日立国際電気のAIエッジコントローラー。エッジで認識処理を行う。カメラ一体型も提供

道路メンテナンス作業をより安全に効率化することが可能だという




パートナー企業とローカル5Gエコシステムを構築

ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社 代表執行役員社長 ジョン・ランカスターレノックス氏

会見ではまず、ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社 代表執行役員社長の ジョン・ランカスターレノックス氏が「パートナー企業には素晴らしいローカル5Gのエコシステムを構築してもらっている」と挨拶したあと、駐フィンランド大使の藤村和広氏や、フィンランド共和国・開発協力・外国貿易大臣のヴィッレ・スキンナリ氏も挨拶に立った。

駐フィンランド大使 藤村和広氏

藤村和広氏は日本のSociety 5.0、データ主導の社会の構想について触れ、ノキアもそのなかで重要や役割を担うとコメント。フィンランド首相とのサミットの内容についても、両国リーダーは特に科学技術分野では協力していくと語った。そしてフィンランドに伝わる民族叙事詩「カレワラ」に出てくる卵による天地創造の話について触れて、「ノキアは卵を割って新しい世界を作ってほしい」と語った。

フィンランド共和国・開発協力・外国貿易大臣 ヴィッレ・スキンナリ氏

ヴィッレ・スキンナリ氏は、サミットでの科学技術分野での協調や、不安定化している世界情勢などについて改めて触れたあと、「フィンランドと日本との間には同じ目的・価値観がある。政治分野、ビジネス分野や学問分野でも明確化された。どちらも先進的な技術を持つ国で、スキルなどでもノキアはテレコム分野でリーダー企業であり、非常に強いICTのエコシステムがある。今回の5Gラボは非常に大きな布石になる」と語った。

そして「(ローカル5Gには)世界を変える力がある。特にインダストリーにおいては、バーチカルに変革をもたらしていく上で一石を投じるもの。デジタル化、生産性向上、気候変動など全てにおいて5G活用が重要になる。ノキアのATCは検証してリサーチできる、協調の場。ノキアだけでなくBtoB、BtoG、そしてPeople to Peopleにおいて重要な場となる」と語った。




プライベート・ワイヤレスの市場ポテンシャルは巨大

ノキア CEO ペッカ・ルンドマルク氏

ノキア CEOのペッカ・ルンドマルク(Pekka Lundmark)氏は「企業向けモバイルネットワークは急速に成長している。ノキアはプライベート・ワイヤレス・ネットワークを450社以上に提供しており、そのうち約2割はアジア太平洋地域。そのうち90社が5Gを導入している」と述べ、既に多くの顧客がプライベート・ネットワークを試していると現状を紹介した。

そして、プライベートネットワークによってセキュリティ、信頼性、パフォーマンスを手に入れることができるとアピール。「世界には5000万の産業用キャンパスがあり、そのうち15000万が今後10年間でプライベート・ワイヤレスを採用すると考えている。現在カバーしているのはまだ0.0002%でしかない。この市場にはまだまだポテンシャルがあり、潜在的な顧客がたくさんいる」と述べた。

ノキアのプライベート・ワイヤレス・ネットワーク顧客の2割はアジア太平洋地域

いっぽう、「アーリーアダプターは他社に比べて生産性を高められるチャンスだ。千載一遇のチャンスを皆さんは持っている」と呼びかけて、いくつかノキアの事例を紹介した。

ルフトハンザ航空の修理・メンテを担当するLufthansa Technik社は施設全体にプライベート・ワイヤレスネットワークを導入し、2年間のトライアルを行なった。高解像度のビデオストリームとAR技術を使うことで遠隔でエンジン検査を行うことができることがわかったという。長さ0.3mmの傷も地球の反対側からもれなく判別できるようになったという。

■動画

製造分野ではArcelik社では自動走行車やAGVのために使われているという。将来はAR、デジタルツイン、在庫管理、制御設備、品質管理、遠隔検査のための高解像度ビデオなどを計画しており、5Gプライベート・ネットワーキングが生産性、効率性、安全性を促進するためのユースケースを30以上あると考えているという。

■動画

日本の事例は、オムロンと日本製鉄、東芝が紹介された。オムロンでは滋賀県の草津工場で製造業向けの取り組みを行なっている。日鉄ソリューションズでは施設全体の安全性を向上させ、メンテナンスのダウンタイムを最小限に抑えるために使われている。東芝インフラシステムズは首都高速でのローカル5Gトライアルにノキアを選んだ。

また、サステナビリティ、グリーン技術にもプライベートネットワークは貢献すると述べた。より詳細なデータを活用することができれば資源とエネルギーの効率を高めることができるため、「気候変動にも影響を与えうる」と語った。


ローカル5Gは産業をサポートする

ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社 執行役員 エンタープライズビジネス統轄 ドニー・ヤンセンス氏

ノキアの日本法人であるノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社 執行役員 エンタープライズビジネス統轄のドニー・ヤンセンス氏は「日本では5Gが企業により多く活用されており、ローカル5Gは産業をサポートし、イノベーションの最前線となっている」と述べた。

そして「インダストリー4.0には3つの要件がある。デジタル化、レジリエンス、サステナビリティの3つだ」と述べ、それぞれを紹介した。今は事業だけでなく環境にも配慮することが必要になっているという。

インダストリー4.0の3つの要件

ノキアでは様々なパートナーと協業しながら独自のイネーブラーを開発し、グローバルパートナーや日本のローカルパートナーと緊密に連携して多くのアプリケーションを追加しようとしていると語った。そして今回、1年半前に立ち上げた研究施設をアップデートし、さらにパートナーに4社を加えたことでエコシステムがさらに拡大すると述べた。

ノキア ローカル5G テクノロジーパートナー

ローカル5Gのユースケースやメリットなどを紹介し、日本固有の課題や専門知識に対してソリューションを組み合わせることで、現地に名指したソリューションや良い事例が生まれると語った。

日本国内のノキアのローカル5Gパートナー


「サービスとしてのラボ(LaaS)」をコンセプトとしたノキア ローカル 5G ラボ

ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社 執行役員 マーケティング・コミュニケーション統轄 小美濃貴行氏

ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社 執行役員 マーケティング・コミュニケーション統轄の小美濃貴行氏は、ノキアのネットワークについて「全世界で契約数は66億、エンタープライズ領域では2,200社が利用している。プライベート・ワイヤレス・ネットワークの顧客は410社以上。今回18社のパートナーを含め1400社以上のパートナー企業と業界のエコシステムを作っている。世界 18カ国に研究施設を持っており、世界を繋ぐための研究開発に取り組んでいる」と紹介した。

ノキアのエコシステム

今回オープンしたノキアのローカル5Gの都市型ラボは、実環境下での検証が容易にできる「Lab as a Service(LasS)」をコンセプトとしているという。デバイステスト、E2E(End to End)テスト、ユースケース開発の検証を行うことができる。

「Lab as a Service(LasS)」をコンセプトとし、各種テストを容易に

まず、認証取得を目的としたデバイスの認証テスト、相互接続性のテストが行える。E2EテストではPoCやソリューションテストを総合的に検証できる。ユースケース開発では各社パートナーと新しいユースケース開発を目指す。

小美濃氏は、いくつかのシナリオを紹介した。UE/CPE 相互接続性(ユーザーの無線端末とユーザー敷地内通信設備の接続のこと)試験については、ローカル5G対応デバイスの相互接続試験が行える。サードパーティ製アプリケーションのPoCも行える。マルチモビリティシナリオでは、複数の基地局でのデバイスのハンドオーバーテストが行える。ネットワーク管理システムAPI統合シナリオでは、ローカル5Gネットワークと既存の運用管理システムとの連携テストができる。ノキアプライベートワイヤレスアプリケーションや、パートナートレーニングも行えるようにするという。パートナー企業の技術やトレーニングでも共同でも展示を行う予定だと述べた。

ローカル5Gラボでのテストシナリオ

ノキア5G LaaSのメリットについては、都市型であることからアクセスが良いこと、投資削減、開発迅速化、エキスパートにコンサルテーション、問題の迅速な解決、リードタイム短縮、認証サポート、製品品質最大化を目指すと述べた。

提供形態は二つ。一つ目は「ノキア・オンサイト型」。顧客は六本木のラボに直接来て、デバイスなどを持ち込み、ユースケースに合わせてオンプレ型で用いる。

ノキア・オンサイト型

もう一つは「パートナー・オンサイト型」。パートナー企業での現場環境で検証するためのもので、ラボの環境をオールインワンのボックスとオンラインの技術サポート込みで提供する。最後に小美濃氏は「ノキアの都市型ラボはエネルギー、輸送、公共部門、製造・サプライチェーンで価値を創出する」とまとめた。

パートナー・オンサイト型の提供も行う

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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