ソフトバンク株式会社は、5Gに対応するMEC(Multi-access Edge Computing)全国展開を2022年5月から順次開始し、このたび関東地方に5G MECの提供拠点を開設したことを同月26日に発表した。
同社は5G MECを活用して、2021年10月に日本で初めて商用サービスを開始したスタンドアローン(Stand Alone)方式の5G商用サービスである「5G SA」による、低遅延かつ高品質でセキュアなアプリケーションの通信環境を提供する。
エッジコンピューティング「5G MEC」
これまでのモバイルネットワークやインターネット上の通信では、ユーザーがサービスを利用する際に、遠距離にあるアプリケーションサーバーへアクセスする必要があったが、今後は5G MECを活用して、5G SAのネットワーク内のユーザーの通信端末に近い場所にアプリケーションを展開することで、サーバーへのアクセスにかかる時間を大幅に短縮することができ、高速で低遅延のサービスが利用可能となる。
「5G SA」と「5G NSA」
5G SAは、これまで同一のネットワークによる実現が困難だった超高速・大容量、超低遅延、多数同時接続の通信を実現する。また、5G SAは、従来の4Gコア設備と5G基地局を組み合わせたシステム構成のノンスタンドアローン(Non Stand Alone)方式による5Gサービス(5G NSA)とは異なり、新たな5G専用コア設備と5G基地局を組み合わせた最先端の技術を用いている。
ソフトバンクの5G MEC
次世代のアプリケーション開発の業界標準であるKubernetes(クバネティス)ベースのコンテナ基盤を提供。また、サーバーの設置など物理基盤の構築からアプリケーションの展開まで自動化しているため、サービスの提供の迅速化、耐故障性およびアプリケーションの開発やトライアルの容易性に優れたネットワーク環境を提供する。さらに、5G MECでは、同社によるサービスの提供だけではなく、ユーザーよるサービスの提供にかかる時間も大幅に短縮して迅速にサービスを展開することができるため、自動運転やスマートビルの管理、工場の自動化、クラウドゲーミングといったさまざまな産業のユースケースでの活用が可能だ。
今後の展開について
同社は、総合デジタルプラットフォーマーとして、さまざまな企業・団体のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やデジタルツインの実現など、Beyond 5G時代の社会を見据えた産業の発展や課題解決に貢献していくと述べている。また、「ソフトバンク5Gコンソーシアム」の参画企業・団体をはじめとするパートナー各社との多種多様なユースケースの実証実験を進めるとともに、5G MECの全国展開を進めていき、さらに、SRv6 Flex-AlgoやSRv6 MUP(Mobile User Plane)といった最新技術を組み合わせることで、サービス要件に応じた専用の仮想ネットワークが提供できるネットワークスライシングや、MECの特性を生かした低遅延サービスを、より迅速かつ柔軟に提供できるよう開発を推進していくとのことだ。
各社のコメント
ソフトバンクの常務執行役員 兼 CIOの牧園 啓市は、今回の発表について次のように述べている。
ソフトバンク 常務執行役員 兼 CIO 牧園 啓市氏
5G MECの全国展開は、ソフトバンクのビジョンの一つである総合デジタルプラットフォームの実現に向けた大きなマイルストーンです。5G MECは、SRv6 MUPとSRv6 Flex-Algoによるネットワークスライシングに対応した柔軟で自動化に優れた基盤であり、さまざまな産業界を横断してお客さまのニーズに応えていくことができるものです。ソフトバンクは、この5G MECを活用することで、われわれのパートナーと共にエコシステムを構築し、総合デジタルプラットフォームの提供を目指していきます
また、ソフトバンクの5G MECの取り組みをサポートするパートナー企業のコメント(順不同)は、以下の通りだ。
F5 Networks.Inc セキュリティ&ディストリビューテッド・クラウド・プロダクト・グループ Senior Vice President Ankur Singla(アンカー・シングラ)氏
ソフトバンクは、あらゆる分野の企業や組織のDXを実現することに取り組んでおり、この目的の実現のため、同社のクラウドパートナーに選ばれたことを光栄に思います。ソフトバンクとF5は日本において15年以上にわたり緊密に連携しており、業界横断的な協力関係による共創を通して、新たなイノベーションを生み出し続けています。さらに、企業の垣根を越えて、クラウドの運用と最新のアプリケーションのシームレスな統合、そして卓越したエンドユーザーエクスペリエンスの実現という共通のビジョンを共有しています。F5は、この共通ビジョンの実現に向けて、5Gサービスとさらなる領域におけるクラウドネーティブのユースケースを探究し、ソフトバンクをさらに支援していく所存です
Corezero Pte.Ltd. CEO Yee Soon(イー・スン)氏
Corezeroはソフトバンクが提供する5G MECの取り組みに参加できることを大変楽しみにしています。CorezeroはLaaS(Logging as a Service)を提供しています。Corezeroが開発したフラッグシップソリューション『FFWD』は、最新のソフトウエアアーキテクチャをベースにリアルタイムで可観測性を提供するシステムで、本来必要とされるログ収集とログ関連付きの分離、コンピュートとストレージの分離を実現します。このシステムは、現在大量のログと関連するプロファイルが必要とされる分散クラウド環境で必須になるとされています。Corezeroは、ソフトバンクと協業して、LaaSをはじめとする低コストのプログラマビリティで強化された5G MECを提供します
株式会社ナイアンティック 代表取締役社長 村井 説人氏
ソフトバンクとはこれまで、ナイアンティックのAR・位置情報ゲームの各タイトルを活用したプロモーションや、ライブイベントにおけるネットワークの最適化などに一緒に取り組んできました。このたびの5G MECの全国展開は、ナイアンティックのゲームタイトルだけでなく、『Niantic Lightship ARDK』を利用している開発者やクリエーターにとっても可能性が広がる取り組みであり、今後日本から革新的なAR体験が創造されるきっかけになると信じています
Vantiq株式会社 共同創業者 兼CEO Marty Sprinzen(マーティ・スプリンゼン)氏
Vantiqは、通信業界に大きな価値をもたらすソフトバンクの5G MECの取り組みに参画できることを喜ばしく思います。ソフトバンクが提供するエッジコンピューティングを実現するデジタルプラットフォームと、Vantiqが提供するリアルタイム分散処理の仕組みは、ミッションクリティカルで超低遅延なビジネスアプリケーションの提供を通して、市場に破壊的な革新を促す最適な組み合わせだと信じています
株式会社ミクシィ 開発本部 本部長の吉野 純平氏
コンテナがベースとなっているソフトバンクの5G MECに大変期待しています。ミクシィではKubernetesを中心としたコンテナ基盤を活用しており、ソフトバンクの5G MECのような全国に分散された通信ネットワークと親和性が高い基盤を使って、スポーツ領域でのイノベーションを模索していきたいと思います
ヤフー株式会社 取締役 常務執行役員 CTO 小久保 雅彦氏
ヤフーをご利用いただく、大変多くのお客さまに安心・安全・快適なサービスを提供するために、ヤフーは新技術の導入にも積極的にトライしていきます。そのような背景の中で、通信の信頼性はもちろん、処理速度の大幅短縮、コンテナ基盤提供による導入のしやすさなど、CSP(クラウド・ソリューション・プロバイダー)インフラがお客さまのモバイル端末により近づくことで、ヤフーのサービスの可能性を広げるであろう5G MECの拡大に大変注目しています。また、コンテンツサービスプロバイダーが世界と戦うことになった際に、世界に点在するMECが強力な武器になり得ると考えます。ソフトバンクがこの重要なプラットフォームの展開をリードされることに大いに期待しています
日本コンピュータビジョン株式会社 代表取締役社長のAndrew Schwabecher(アンドリュー・シュワベッカー)氏
日本コンピュータビジョンの顔認証プラットフォームは、全国数千の店舗やエンターテインメント施設に広く採用されています。また、商業施設やスタジアムなどで空間画像認識による高精度かつ超低遅延なAR体験をお客さまに提供しています。ソフトバンクの5G MECを活用することで、リアルタイム演算処理は高精度かつ超低遅延になります。ソフトバンクの5G MECによって、オンラインとオフラインをつなぐメタバースのプラットフォームの構築を後押しすることができると確信しています
BBIX株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 池田 英俊氏
ソフトバンクの5G MECは、SRv6をベースとしたネットワークの上に構築して、分散コンピューティングの実現に最適なネットワーク技術が採用されており、これからのデジタル社会を担う基盤として大いに期待しています。BBIXは、地方のインターネットエクスチェンジ基盤をベースに、ソフトバンクをはじめ他の事業者と共に、デジタルツイン時代に最適なネットワーク基盤を実現していきます
ソフトバンク5Gコンソーシアムとは
ソフトバンク5Gコンソーシアムとは、ソフトバンクとさまざまな領域の事業会社や5G関連パートナー、外部有識者などが連携して、各業界の課題を解決する5Gソリューションの実証実験と商用化に向けた開発に取り組み、5G(第5世代移動通信システム)の社会実装の加速を目指すものだ。製造・運輸・建設・医療にスマートシティを加えた5つの領域から始まり、領域・事業課題の抽出と解決・実現方法の検討、実証実験(PoC)を通し、解決策をモジュール化し水平展開できる状態を目指す。同コンソーシアムは、「ワーキンググループ」と「5Gコンソーシアム会員」の二つから成り、「ワーキンググループ」は、さまざまな領域の事業会社や5G関連パートナーがメンバーとして参加する他、アドバイザー(外部有識者)が協力し、それぞれの知見を生かして実証実験などを推進する。また、「5Gコンソーシアム会員」は、5Gの導入を検討する企業や自治体などが参画し、「ワーキンググループ」の最新情報を受け取れる他、各種イベントへの参加が可能で、5Gの活用に関する理解を深めることができる。
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