「少し未来の古民家」を品川で公開 家が人格を持ったような空間に 大和ハウス、バンダイナムコらが「XR HOUSE」で検証

大和ハウス工業とバンダイナムコ研究所、ノイズ(noiz)の3社は、「リアルとデジタルの融合」をテーマに、古民家とデジタル空間が融合した実証実験を行うことを発表した。
品川区に実際にある築90年以上の歴史ある古民家を実際に改装し、「XRハウス北品川長屋 1930」にした。この「XR HOUSE 北品川長屋 1930」において、2022年6月3日(金)より、LiDARやセンサー、xRなどデジタル技術と建物を組み合わせることで創出される新しい価値を検証する。報道関係者向けに説明会で詳細を説明した。
期間は、2022年6月3日(金)から8月31日(水)まで。募集によって参加者を募るが、一般入場は予定されていない(募集人数なども未定)。

「XR HOUSE 北品川長屋 1930」の外観。東京(旧江戸)の玄関口、品川に1930年に建てられた。90年以上経つ古民家がICTで何を生み出すのか

コロナ禍で人々の価値観や生活習慣が大きく変化する中で、3社は「未来の暮らし」について検討を開始。家で過ごす時間が長くなる中、巣ごもりの閉塞感を軽減しながら、暮らしをより楽しくするためにデジタル技術により一瞬で空間イメージを変えることができる「XR 技術」に着目。「少し先の未来の暮らし」を具現化するために、2020年12月に「XR HOUSE 北品川長屋 1930」建設プロジェクトを立ち上げた。




「XR HOUSE 北品川長屋 1930」とは

「XR HOUSE 北品川長屋 1930」は、東京都品川区北品川にある1930年代に建てられた、築90年以上の古民家群(5棟)のうち1棟の内部を改装したプロジェクト。
本プロジェクトでは、「XR 技術」を活用し、リアル世界とバーチャル世界の共生を目指した空間や、「人」の動きに「家」が音と光で反応し、家が人格を持ったように感じさせる空間を創出し、来場者の体験を通して「リアルとデジタルの融合」について検証を行う。
なお、「XR HOUSE」は2階建ての家屋になっていて、企画構成や建物についての知見提供を大和ハウス工業が、デジタル技術の企画については、玄関からのアプローチと1階をnoizが、2階をバンダイナムコ研究所が担当した。

建設業界とエンタメ業界の異色のタッグで誕生したプロジェクト。上の図の左が家屋の1階で建設業界から発進する新しい提案、右が家屋の2階でエンタメ業界の技術を駆使した空間。「生活体験の拡張」が狙いだ


●「XR HOUSE 北品川長屋 1930」のポイント
1.「日常」の空間にデジタルを取り込んだ、リアル世界とバーチャル世界の共生を目指した空間
2.「人」の動きに「家」が音と光で反応し、家が人格を持ったような空間


家が生きて人格を持ったような空間

1階は「日常」の空間にセンシングを取り込み、「人」の動きに「家」が音と光で反応し、家が人格を持ったような空間となっている。
建築業界における近年のDXの一つとして、LiDARやビーコンといったセンシング技術と BIMを連携させた施工監理や建物運用システムの研究開発が進んでいる。日常生活においても LiDARがスマートフォンなどに搭載され、センシング技術が身近なものとなってくる。


現在、センシング技術と AI 技術を組み合わせることでリアル空間とバーチャル空間が相互に作用する世界が生まれ、「未来の暮らし」につながる領域として様々な研究や開発が進められている。そのような中、ロボットや AI といったデジタル・エージェントだけでなく、建物や都市といった環境側にもセンシング技術や AI 技術による自律性を持たせることで、リアルとバーチャルをまたぐ相互作用を生み出すことが重要視されていく。

1階のプロジェクトでは、そのような世界を表現し、未来について考えるきっかけとなるデザインとして、古民家という環境自体がデジタル技術によってあたかも人格を持った存在として、「人」とコミュニケーションを図るという、未来の生活が感じられるような設計をした。

センシングデバイスによって古民家が常に「人」の位置を把握し、「人」が古民家の中にある LED電球に触れると、事前に決められた機械的な反応ではなく、その時々の「人」の位置などによって多種多様に変化する反応を、空間に置かれたタイルへの映像投影とサウンドで表現する。





リアル世界とバーチャル世界の共生を目指した空間

2階のプロジェクトでは日常とバーチャルの垣根を低くするインターフェースに着目。古民家内の和室にある「襖」「障子」「畳」に、ゲームや遊びとは異なる日常生活に浸透するようなデジタルな表現を加えた。訪れた人々が「リアルとデジタルの融合」を提供し、体感した人がどのように感じるかを検証する。

近年、携帯電話や VR ゴーグルなどの普及、オンラインによるコミュニケーションツールの進化により、バーチャル空間を体験する人々が増えている。今後もエンターテインメントを中心に様々なコンテンツが充実し、グラフィック・サウンド等の体感技術が向上することが想定される中、バンダイナムコ研究所では、リアル世界の住宅環境にもバーチャルに対応した環境が求められると考えた。


障子+デジタル

奥にある障子を開けるとモノクロの屋外空間が広がる。立体音響の効果により、障子の奥に外とつながっているような開放感のある空間を作った。バーチャル世界を「日常」から覗いているかのような感覚でもある。

障子+デジタルの一例。いくつかの体験空間のパターンを用意


襖+デジタル

閉ざされた空間を創り出す「襖」を開けると屋内空間が広がる。障子の空間と同様に、高音質の環境音と相まった落ち着いた時間が過ごせる。



畳+LED

noizがデザインを手掛ける「ボロノイ畳」に、LED 技術を組み込むことで、コンテンツに沿った自由度の高い演出を可能にした(上記画像の畳)。


建物の価値のアップデートを試行

建物の価値は通常、経年により下がるイメージがある。今回の検証では、建設してから数十年が経過した建物に、デジタル技術とエンターテインメント技術を取り込んでアップデートすることで価値が高められるかどうかを考察する。そのために、利用者が「住まい価値」(利用上の価値)について体験を通してどのように感じるかを検証する。


実証期間中に「未来の暮らし」や「住まい価値」について、有識者や業界関係者、学生などと意見交換するワークショップを開催し、今後の住宅・建築業界の新しい価値の創出に繋げたい考えだ。


建物概要
名称 「XR HOUSE(エックスアールハウス) 北品川長屋 1930(イチキュウサンゼロ)」
所在地 東京都品川区北品川 1 丁目 21-10 Shinagawa1930 D 棟
 交通JR「品川駅」より徒歩約 10 分
 京浜急行電鉄本線「北品川駅」より徒歩約 4 分
延床面積 97.70 ㎡
構造 木造 地上2階建て
実証期間 2022 年 6 月 3 日~2022 年 8 月 31 日
予約方法 一般予約は受け付けておりません。
各社の役割 企画:大和ハウス工業、バンダイナムコ研究所、noiz
 施工・施設運営:株式会社 MAKE HOUSE


リアル空間にどこまでデジタル技術やエンタメを取り込めるか

幅広い事業を展開する大和ハウス工業では、コロナ禍による DX への対応や空き家問題を課題の一つとして考えていた。そのような中、デジタル技術に知見の深い建築家である noiz の豊田啓介氏より「未来の暮らし」にエンターテインメントの視点を取り入れる提案が大和ハウス工業にあったという。そこで、noizと共同研究実績があり「XR 技術」の研究開発を手掛けるバンダイナムコ研究所とワークショップを実施した結果、3社が共同でプロジェクトとして取り組むこととなった。説明会では「儲かるからやる、ではなく、人に役立つからやる」というコメントが印象的だった。

人口減少による空き家問題、ニーズの多様化、カーボンニュートラルを実現するための知見が必要と考えた。

建築を専門とする大和ハウス工業と noizは、リアル空間にどこまでデジタル技術やエンターテインメントを取り入れるか、エンターテインメントに強いバンダイナムコ研究所は、いかにリアル空間にデジタル技術を取り入れるか、3社が専門分野の領域を超えることに挑戦したプロジェクトとなっている。発表会では「この実証実験によって、何ができるのか、xRが備わることでどんなサービスが生み出されるのかを検証したい」と語られた。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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