四国電力とグリッドが連携を発表 電力会社向け「デジタルツイン」と「電力需給計画の最適化/自動化AI」の特徴としくみ

四国電力は、AIを活用した電力需給計画立案システムを開発し、本年7月より運用を開始する。具体的には、AIの最適化技術と、仮想空間上に現実空間を再現するデジタルツインを活用し、シミュレーションとAI推論を組み合わせて高精度な「電力需給計画の最適化」を実現していく考え。電力運用管理AIの開発等を手がける株式会社グリッドと連携して開発した。

発表にあたり、報道関係者向け説明会を開催した。

説明会に登壇した(左から)、四国電力株式会社 総合企画室 需給運用部 需給統括グループリーダー深田豊氏、株式会社グリッド 代表取締役 曽我部完氏、株式会社グリッド エンジニアリンング部 部長 梅田龍介氏


AIによる電力需給計画の最適化と自動化に向けた開発

電力の需要、卸電力の市場価格、再生可能エネルギーの発電量などの項目において、データが常に変動していて、それに対する影響を適切に評価することが、電力需給計画の立案にとって重要となっている。

こうした課題に取り組むため、四国電力は「需給運用に関するノウハウ」を、グリッドは「エネルギー分野に特化したデジタルツイン・AI最適化開発プラットフォーム「ReNom Power(リノーム パワー)」を提供」し、「AIによる電力需給計画の最適化と自動化に向けた開発」を令和2年12月より進めてきたという。


そして、実際の需給状況を反映した試運用で、両社は十分な効果が得られることを確認した。このシステムについては、本年7月より運用を開始し、今後も、新たな知見を取り込みながら本システムを進化させ、更なる電力需給運用の効率化に取り組む考えだ。


従来の発電事業のワークフローと問題点

四国電力によると「電力需給業務のワークフロー」は下記の通り。左側の青い点線で囲んだ部分が短期的なオペレーションで、今回の最適化を行う部分となる。電力の調達を踏まえた上で、発電した電力を販売するとともに、燃料貯蔵から燃料消費をして電力供給を行う。右側は長期的なオペレーションを示す。


電力会社は電力を安定的に安価に供給することを目指していて、発電計画が重要となる。下図のイメージ例では、緑の棒グラフは 一日の電力需要を示し、青い点線が市場価格となっている。下半分のグレーの表は、電力需要に対して「どの発電機で、どのくらい発電させて」供給していくかが重要になるため、発電機ごとの数値を示している。


これが発電業務のイメージだが、発電計画の策定を従来から人手により経験則とロジックを組み合わせて対応してきた。
具体的な問題点としては、下記があげられる。

1.天候の変化や突発的な事象によってシナリオが変化する。
 組み合わせ数が膨大である為、最適解か否かが不明である場合がある。
2.計画策定に時間を要する。
3.専門性の高い業務であり、属人性が高く、後継者育成も難しい。



これらに加えて、電力会社に新市場が導入されるため、更に複雑な要素の中から効率化を進める必要がある(揚水発電所/水力・火力発電所/デマンド/市場価格)。


「膨大な組み合わせの数」と「制約条件」に挑む

これらの課題に対してグリッドは新しいシステムを開発して取り組んだ。
グリッドの梅田氏は「ポイントは「膨大な組み合わせの数が多いこと」と「制約条件が多いこと」。発電所のタイプはさまざま。太陽光発電があれば揚水発電もある。火力発電もあり、火力発電といってもいろいろな燃料を使うタイプのものがあり、それらをすべて変数として最適化を計算する必要があり、膨大な組み合わせ数になる。更に多くの日数を予測するようになれば、計算の規模は更に指数関数的に増えていく。」と語った。


「制約条件」についても、変数に関わってくる。例えば、ある発電所に2台の発電機があったとしても同時に稼働させることができないとか、一度発電機を止めた場合は、一定条件止めていなければならず、すぐに再稼働させることができないなどルールがあるという。これらを加味して最適化を行う必要があるため、従来からは電力最適化の自動化は難しいとされてきたという。


「市場見合い」と「デジタルツイン」

グリッドはこの課題に対して、2つのコンセプトを導入した。「市場見合い」と「デジタルツイン」だ。


「市場見合い」とは、「需要見合い」に対するワードだという。与えられた需要に対して最も発電コストが低い計画が最適とする「需要見合い」に対して、「市場見合い」は与えられた市場価格に対し、最も収益が⼤きい計画を最適とするという考え方。「市場売買収益 ‒ (燃料費 + 起動費)」の収益を最適とする。


梅田氏は「市場見合いを導入することで、需要に関係なく最大限発電でき、過不足分は市場で売買すればよいため、計算量を⼩さく分割できて計算速度が向上するという、副次的なメリットも生まれる」と語った。


デジタルツイン+AI

もうひとつがグリッドの「ReNomPOWER」と呼ばれる電力システムアプリ&APIsだ。デジタルツインとAIが相互にやりとりしながら、最終的な計画を算出していくシステムだ。


デジタルツインは仮装空間上に現実の発電所と同じ環境を作成、オペレーションを再現するシミュレーターだ。デジタルツイン空間中でシミュレーションを行うことで、実際の作業によって起こりうるトラブルや結果、成果等を確認した上で、最適な方法をリアルの発電所に実施する。


グリッドは「AIは認識技術から、最適化技術へ」進化すると捉え、「部分ごとに最良なアルゴリズムを組み合わせたアルゴリズムミックスを開発」した。将来の市場価格を予測し、その価格に合わせて電力会社はどれくらいどのように発電すべきかを自動算出するシステムを構築した。

グリッドが開発した「ReNomPOWER」の流れ。「シナリオプランニング」では、ひとつの予測に依存せず、予測は外れる可能性があるとして、予測のブレ幅を考慮して外れた予測に対するロバストな複数の計画を立てるしくみを取り入れた。予測に反して実際の状況がどう転んでも、その内容に併せた施策を予め用意しておこう、という考え方だ。


AIを活用した電力需給計画立案システムの概要

このシステムは、仮想空間上に現実空間を再現するデジタルツインの技術とAI最適化技術を活用し、複雑化する電力需給計画の最適化を可能にするシステム。
本システムは3つの主要な機能で構成される。

・シナリオ作成機能
週間計画において、想定される電力需要、市場価格、気象情報などの入力データから、電力需要や卸電力市場価格、再生可能エネルギー発電量の変動を考慮した、複数のシナリオを作成する。

・発電計画策定機能
発電機の設備諸元や制約条件※等を踏まえ、シナリオごとに最適な発電計画を作成する。

・期待収益算定機能
各シナリオの最適な発電計画に対し、電力需要や卸電力市場価格、再生可能エネルギー発電量が変動した場合の期待収益を分析・評価。その結果をもとに運用者が最も経済的な発電計画を採用する。
※ 「発電機の制約条件」とは、各発電機の出力変化や起動停止、燃料消費などの制約のこと。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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