ストラドビジョンが公道で自動運転車向けAI物体認識システムの試乗デモを実施 日本市場に本格展開へ「2032年には5600万台に導入したい」

韓国に本社があるSTRADVISION(ストラドビジョン)は、同社の自動車向け運転支援システム「SVNet」を、日本市場を含めて、更にグローバル展開していくことを発表した。これを機会にコーポレート・ロゴを刷新し、日本企業のTier1に向けて本格的な販促をおこなっていく。日本法人のストラドビジョン株式会社は、10月25日、報道関係者向けに戦略説明会と、ADAS/自動運転向けのAI物体認識ソフトが体験できる公道デモ試乗会を都内で行なった。




2022年6月時点で、559,967台の車両に「SVNet」が搭載されているが、2032年までに市場シェアの50%となる5600万台を目標に、Tier1企業と連携していきたい考えを示した。


なお、自動運転は様々な分野で開発と実証実験が進められているが、プライオリティとして乗用車、その後で自動運転タクシーや自動運転バス・トラックなどに拡大していきたい、とした。


AI物体認識ソフト「SVNet」搭載車に試乗

ストラドビジョンは、先進運転支援システム「ADAS」や自動運転車両向けに活用できる物体認識AIソフトウェア『SVNet』等を開発・提供している企業。映像解析・認識を得意とし、単眼カメラとDNN(ディープニューラルネットワーク)で安全運転支援や自動運転支援(ADAS)を行うソフトウェアやソリューションを開発している。既にドイツなどでは量産車に採用されていて、2022年3月にはドイツの自動車部品製造大手のZFと資本提携、物体認識技術により自動運転レベル3およびレベル4システム実現のため、ZF社のグローバル・エコシステムを強化することを発表している。


OEM等で1300万台以上に搭載されている最先端のAIカメラ認識技術として日本で初披露した。

試乗車はAI物体認識ソフト「SVNet」のシステムを搭載したHONDA CR-V

『SVNet』の最大の特徴はLiDARや音波センサー類を使用せず、単眼カメラを使った画像認識で自動車・人・道路標識・車線をリアルタイムで検出すること。試乗車にはデータ収集用のLiDARが搭載されていたものの、基本的にはカメラ映像からデータを解析して深度(デプス)情報や物との距離を計測、疑似LiDAR機能で点群マップをリアルタイム生成する。

カメラは複数搭載。まず車外のカメラは車体の先頭に搭載

側面を担当するミラー部分に搭載したカメラ

車内からもフロントガラス越しに複数のカメラが映像を解析

ストラドビジョンのソリューションは原則としてLiDARは使わないが、試乗車にはデータ収集用のLiDARがルーフに設置されていた。カメラ解析の精度向上のためのデータをLiDARでも収集する

試乗車に搭載されたコンピュータ類。カメラ映像を送信して解析するシステムはトランク部に収容されているコンピュータ類に送られる(下写真)。左の2つのシステムはADAS系デモキット用のユニット。奥がクアルコム(①)、手前がテキサス・インスツルメンツ(TI)ベースの画像解析システム(②)、その右(ほぼ中央)にNVIDIAのJetson Xavier搭載のAIコンピュータ(③)が積まれている。右端のボックスはストレージ類でデータを蓄積する(④)。


左の後部ディスプレイはクアルコムが処理したADASアプリケーション。疑似LiDARやAR、道路情報の判断をデモ用にビジュアル化している。右の後部ディスプレイはTIのシステムがカメラ映像を解析した内容を表示する。


今回のデモは自動運転ではないため、ドライバーが操縦し、公道に出て、周辺の自動車、走行可能な道路、信号機や標識の情報、歩行者や自転車などをカメラ映像からリアルタイム解析する様子が確認できた。また、疑似LiDARやデプスマップの動作も確認できた。

■動画

単眼カメラのみの物体検知には、夜、雨、雪、霧など、運転車の視界を妨げる環境時で、高精度な検知が可能なのか、疑問視したり懸念する声もあるが、同社はAIの学習によって十分に精度を確保できるとしている。今後の開発動向にも注視したい。


単眼カメラとAIアルゴリズムで自動車向け最先端技術を開発

ストラドビジョンの現状と今後の展望については、同社日本支社GMの佐藤寿洋氏が登壇した。

ストラドビジョン株式会社 ゼネラルマネージャー 佐藤寿洋氏

ストラドビジョンは2014年に5名でスタートした企業。2022年には95名の従業員に拡大、今では324名が働いている。資金到達はラウンドC、88ミリオンドル(US)に達している。



前述のように単眼カメラ映像からAI等を活用して解析や認識を得意としている企業で、現在は特に自動車分野に特化し、ADAS関連に注力しているという(長期ビジョンとしては自動車以外の分野にも展開していく予定)。
同社の技術は2019年に中国で量産車に搭載され、2021年にはドイツの自動車メーカー向けに同社の技術を組み込んだSoCが量産採用され、実用化している。技術的なパテントは北米で150(グローバルでは470以上)以上に達し、グローバルでは既に50車種以上に同社の技術が搭載されているという。


資金的にサポートしている企業には知名度の高い自動車関連企業が並ぶ

同社の開発の強みは高精度なアルゴリズム(コンパクト/軽量)で様々なSoCメーカーと連携、LiDARやセンサーを使わずにカメラのみによる運転支援システムを選択している理由はコストを削減し、廉価でソリューションを提供するためだ。


『SVNet』の4つの機能

代表的なシステム『SVNet』は大きく分けて、「ProDriver」「ParkAgent」「ImmersiView」「CompliKit」に分類されるという。


「ProDriver」は前方や周囲の監視、走行レーン、ほかの自動車や歩行者など、安全運転に必要な情報収集と判断を行う。
「ParkAgent」は駐車支援機能。駐車スペースを見つけたり、障害物や車止め検知、空きスペースの捜索などが盛り込まれている。自動の縦列駐車支援にも対応する。
「ImmersiView」はAR関連のデイスプレイ機能(実際の映像との合成/ナビなどへの応用活用)、「CompliKit」は教師データの作成や学習をクライアントが追加学習し、AIを強化していくためのツールキットを用意。その結果、高精度なAIをコストを削減して提供する手段としている(開発中、来年後半にはリリース予定)。
それらをイメージした公式動画が下記のとおり。

佐藤氏は「今後、自動車技術に対してソフトウェアの締める割合はますます大きくなり。スマート化していくと予測されている。GoogleやAmazon、Appleなど、IT企業が参入してきているのも周知の事実。ADASや自動運転、インフォテインメント、MaaSなど、Tier1メーカーの希望に合わせたSoCやプラットフォームを選択して頂き、それに対して私達がソフトウェア技術で支援していきたい」とし、「日本の自動車メーカーは自動運転に向けての技術革新がトーンダウンしているように感じるが、2030年までに20%の伸び率を達成していきたい」と続けた。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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