パナソニックの搬送ロボット「ハコボ」、丸の内でカプセルトイを自動販売中 2023年2月まで
【実証期間・場所】
実証期間:2022年12月1日~2023年2月4日(予定)
実証場所:
(1)丸の内仲通り(丸ビル~三菱ビル)、大名小路、行幸通り(12月1日〜12月24日まで)
(2)丸の内仲通り(丸ビル~丸の内パークビル)、大名小路、行幸通り(1月6日〜2月4日まで)
日本初、自動搬送ロボット単独による販売実証実験
本誌で既報のとおり、パナソニックホールディングス株式会社、大丸有まちづくり協議会、三菱地所株式会社の3者は、12月1日から東京都千代田区の丸の内仲通りや、東京駅と皇居を結ぶ行幸通りで、日本初の公道での完全遠隔監視・操作型自動搬送ロボット単独による販売実証実験を実施している。
使われているロボットはパナソニックホールディングスの「ハコボ」。「ハコボ」は機能安全に関する国際規格に適合した安全性を持ち、用途に応じて荷台を入替できる搬送ロボット。パナソニックでは安全性と柔軟性を両立できる搬送ロボットだとしている。
「ハコボ」は指定ルートを巡回しながら、特定の販売地点において停止し、無人でカプセルトイを販売する。12月6日現在に販売されているのはスマホ用リング。なおカプセルトイを開けたあとのカプセルは、販売機の横に廃棄用ボックスを搭載しているので、そこに捨てることもできる。
具体的な販売地点(ロボットの現在位置)は専用サイト(https://robot2022-info.tokyo-omy-w.jp)に掲載されている。繰り返しになるが、指定販売地点でロボットが停車した時のみ購入することができる。移動中は購入できない。また、500円玉が必要なので、買ってみたい人は500円玉を用意しておかなければならない。
この実験は大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会を構成員とする「大手町・丸の内・有楽町地区スマートシティ推進コンソーシアム」が採択を受けた2022年度「国土交通省(都市局)/スマートシティモデルプロジェクト(継続採択/4年目)」の一環として実施されている。
なお、Marunouchi Street Park 2022実行委員会は、12月1日(木)~12月25日(日)の期間に、都心の広場・公園的空間の在り方を検証する社会実験「Marunouchi Street Park 2022 Winter」を丸の内仲通りと行幸通りで実施している。
併せて見に行きたいと考えている人も多いだろうが、ロボットの運用は「午前11時以降から午後4時まで」であり、日没以降と、日曜日・月曜日は運用されていない点は注意が必要だ。
■動画
スマートシティ実現に向けた取り組みの一環
会期は12月1日からなので既に実施中だが、12月6日には改めて報道関係者向けに現地取材日が設けられた。大丸有まちづくり協議会 スマートシティ推進委員会 委員長 重松眞理子氏は、この取り組みはスマートシティの実現に向けた取り組みの一環であると紹介。ロボット実装化社会を見据え、公的空間等を通じた街の価値向上と都市運営の高度化に向けた検証を行う。
全体統括は大丸有まちづくり協議会 スマートシティ推進委員会、パナソニックホールディングスがロボット関連全般、三菱地所が周辺エリアとの連携を担当している。そのほかグッドモーニングス株式会社が商品提供と待機場所の運営、NTTデータが都市OSとロボット位置情報連携の実装、アプリの機能追加を担当している。
大丸有まちづくり協議会 スマートシティ推進委員会は、都市の様々なサービスをデジタルを使ってアップデートし、テクノロジーの力を使って「都市のリ・デザイン」の実現を目指している。都市のサービスを横連携するための仕組みである「都市OS」とも連携してデジタルインフラを構築していくことで、都市の価値を高めていく取り組みだ。詳細は「大手町・丸の内・有楽町地区 スマートシティプロジェクト」のサイトに掲載されている。
そのスマートシティ・ビジョンの一つに、移動ロボットと歩行者が共存する「ウォーカブルな空間」の実現がある。さまざまなデータも活用しつつ、リアル空間でロボットが走れるような空間づくりを狙う。
移動ロボットを活用したエリア価値の向上
今後、さまざまな移動体が街中で活動することで都市の価値を高めていくことが求められる。これまでも同委員会では、自動運転モビリティ活用の検証を進めてきた。より具体的な中身については、同 川合健太氏が紹介した。
今回の実験は年末年始を挟んで2段階で行われる。イベント時の活用と、日常的な活用の探索だ。まず12月中はエリアイベントと連携し、エリアのアメニティをどのように向上できるのか検証する。具体的にはキャビンにカプセルトイを搭載して販売する。
1月からは、日常的な活用を検証する。丸の内では特定非営利活動法人大丸有エリアマネジメント協会によって「アーバンテラス」という取り組みが行われており、平日は11:00~15:00、土日祝は11:00~17:00に交通規制が行われている。そこをロボットが走行し、温かい飲料を販売する。具体的な商品を販売することで、個別店舗の売上貢献の観点での検証も行う。
同時に、「都市OS」とロボット走行位置情報の連携の実証も進める。今後、複数台・複数種類のロボットが運用される時代を見据えた検証で、どこに何のロボットが走っているのか、一般の方からも見えるかたちで運用する。
実施にあたっては地権者との連携も必要となる。街中には設置物も多く、変化が激しい。そこで自律走行させるには、かなりの柔軟さが必要となる。たとえば「今日は大きなイベントがあるので、道路の片側だけ走行させてください」、「ビル点検があるので、今日はここでは販売しないでください」といった連携に柔軟に対応しながら、今回の自律走行も実現できているという。
安全性と柔軟性の両立、「Fujisawa SST」での走行実験を経た他拠点展開・第1号事例
ロボット運用については、パナソニック ホールディングス モビリティ事業戦略室 事業開発部 モビリティ・ロボプラットフォームTF チームリーダーの広沢愛絵氏が紹介した。今回のロボット運用は「特定自動配送ロボット等の公道実証実験に係る道路使用許可基準」のもと行われている。
パナソニック ホールディングスは、これまでにFujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)で店舗から住宅への配送サービス実証、つくば市での楽天グループ株式会社、株式会社西友との実店舗からの日用品の配送サービス実証など、ロボット配送の様々な実証実験を実施している。今は遠隔オペレーターが扱うユーザーインターフェースを改良することで、一人のオペレーターが同時に4台のロボットを遠隔監視し、保安要員なしで運用することに成功している。
2022年4月にはFujisawa SSTにおいて日本で初めて「完全遠隔監視・操作型 自動配送ロボット」の道路使用許可を取得した(プレスリリース)。小型低速ロボットの自動走行能力の向上と、AI技術を活用した遠隔監視・操作システム「X-Area Remote(クロスエリア・リモート)」により、ロボット近傍の保安要員なしでの複数台同時運用に取り組んだ。その後、Fujisawa SSTでの240時間走行を完了し、「特定自動配送実証実験に係る道路使用許可基準」に基づき同地域での道路使用許可を取得した。これにより、公道審査を伴わない簡素な手続きで類似環境での他拠点展開が可能になった。今回は、この制度に則った他拠点展開の第1号事例となっている。
ロボット「ハコボ」は、国際規格IEC適合の機能安全ユニットを搭載。ロボット自体の故障が発生しても必ず停止できる機能安全を備えている。遠隔管制機能により、自律機能+オペレーターによる遠隔操作で柔軟性も備えている。キャビンは用途に合わせて積み替えることができる。音声の発信もでき、人と共存するロボットサービスだとしている。
パナソニック ホールディングスでは、今後も事業者といっしょにロボットを活用し最適なサービスの実現と新たな価値創出を目指すプラットフォームとして「X-Area」の提供を進めていく。
今後は自在な販売も視野に
現在は所定の販売ステーションを指定しておき、ロボットはそこに停止して、人が寄ってきて販売するという方法をとっているが、今後は、人が買いたいときにものを買えるようにしたり、ロボットを運用するための人材育成などもあわせて進めていく。
今後、搬送ロボットの本格的社会実装も進むものと期待されているが、大きな課題はコスト負担だ。「ビジネスモデルの確立、作り方も今後検証してニーズ、使い道を探していきたい」という。
また、ビル建物へのシームレスなサービス提供のためにはエレベーターとの連携も必要となる。三菱地所やパナソニックではビル内外の配送の連携実証も進めている。いわゆる「ロボットフレンドリーな環境」の実現だ。ただ、既存の建物においてシームレスな連携のためには費用も発生するため、一足飛びに進むとは考えておらず、自律移動販売のような、人よりもロボットのほうが利点を発揮できる領域を探しながら、今後も検証を進めていきたいとのことだった。
マルケン人形は「Have a Nice TOKYO!」で
完全に余談だが、12月1日から3日まで「ハコボ」で販売していた、リガーレ(大丸有エリアマネジメント協会)のゆるキャラ「マルケン」の人形は、今回の実験の拠点でもある「Have a Nice TOKYO!」(丸の内2-5-2 三菱ビル1F)にあるクレーンゲームでゲットできる。
ゲームセンターにあるような厳しいクレーンゲームではなく、やさしいクレーンゲームなので、比較的簡単だ。筆者も一発で取ることができた。家族で丸の内を訪れる人も多いだろうが、お土産にちょうどいいので、ロボットを見に行ったついでに足を運んでみるといいのではないだろうか。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!