手術支援ロボット「ダビンチ」で中咽頭がん切除術を上尾中央総合病院が実施 経過良好であることを発表
中咽頭がんには、切除範囲が広い場合には、「声を出す」「飲みこむ」などの機能が損なわれることがあるため、医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院(所在地:埼玉県上尾市)では、「がんの制御」「機能温存」「整容面(見た目)の満足」に重点をおいて診療にあたっている。
患者の暮らしは治療後も続く。同病院は、「がんを確実に切除すること」「極力機能を温存すること」を両立させ、会話や食事を楽しむ日常を1人でも多くの患者さんに送ってもらいたいとの思いより、耳鼻いんこう科・頭頸部外科で、内視鏡手術支援ロボットダビンチによる経口的ロボット支援手術(Transoral Robotic Surgery:TORS)を開始。
中咽頭がんに対する手術支援ロボットを用いた経口的切除術(Transoral Robotic Surgery ; TORS)は2022年12月より開始しているが、術後の経過も良好なことより、同状況について2023年2月に発表した。
中咽頭がんのロボット手術【TORS】
ロボット支援手術では、口にロボットアームを入れてがんを切除する。いままでの経口的切除術よりも、込み入った動作がスムーズにできることが最大の利点だ。狭い口腔内が拡大され立体的に見えること、360度自由に動くロボットアームが微細な動作を行えることから、がんの周囲に適切な安全域をつけて切除でき、今まで以上にのどの機能を温存できる可能性が高まる。
中咽頭がん以外には、下咽頭がん、喉頭がんもTORSの適応となるが、「リンパ節節外浸潤がない」「放射線治療を受けていない」ものに限られている。リンパ節節外浸潤とはリンパ節に転移しているがん細胞が、リンパ節被膜を越えて広がっている、または、リンパ節周囲の軟部組織(筋肉や血管、脂肪組織など)に浸潤している状態のことであり、現在では、TORSはすべての患者に提供できるものではないものの、同病院ではTORSを一人でも多くの患者の選択肢にできるよう、早期発見・早期治療にむけて他の診療科や近隣医療機関との連携をより一層深めていくと述べている。
中咽頭がんとは
中咽頭がんは、扁桃や舌の付け根、口蓋垂(いわゆる“のどちんこ”)のあたりにできるがんを指す。中でも扁桃にできるものが多い傾向にあり、日本では、毎年2万4千人ほどが中咽頭がんと診断される。原因は「過度の喫煙や飲酒」「HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染」に大別される。HPV関連がんの多くがp16タンパクを過剰に産生する(陽性となる)ため、治療にあたっては、p16陽性かp16陰性かを調べる。p16陰性(喫煙や飲酒が原因)の中咽頭がんは、中高年の男性に多く見られる一方で、p16陽性(ウイルス感染が原因)の中咽頭がんは、比較的若い方や女性にも増えている。
自覚症状は、初期にはほとんどなく、がんが大きくなってくると、「首のしこり」や「扁桃腺の腫れ」という自覚症状があらわる。扁桃腺の腫れは、片側のみである方が多い。飲み込むときの違和感や、長く続くのどの痛み、耳の痛み、声の変化などで気づく人もいる。歯科健診や胃カメラ検査で発見されることもある。しかし「のどに違和感がある方」は多いものの、実際には「がんが違和感の原因である」ことはそれほど多くない。また、中咽頭がんをはじめとする頭頸部(頭から首、のどにかけての部位)がんの専門医は全国でも500名ほどしかおらず、中咽頭がんは早期発見・早期治療が難しいがんのひとつとなっている。
中咽頭がんの治療法
おもな治療法は手術と、化学療法(抗がん剤による治療)と放射線治療を組み合わせた「化学放射線療法」だ。中咽頭は「話す」「飲みこむ」ために重要な役割を果たしているため、がんを取り去ることと同時に、機能を残すことも重要視されている。どの治療法にもメリット・デメリットがあるので、患者の状態にあわせ、丁寧に検討する。また、中咽頭がんは、「食道がんや胃がん、肺がんと重複して発生することが多い」ことがわかっており、治療計画を立てるにあたっては、他の部位にもがんが無いかしっかりと検査をする。
中咽頭がんの手術
がんが小さく、表層にとどまっている場合には、口から器具を入れてがんを切除する手術(経口的切除術)を行う。がんが進行していると、首の外側からがんを切除する手術(外切開手術)となる。切除する範囲が広くなるため、必要に応じて、太ももやおなかから筋肉と皮膚を移植して外見や機能の改善をはかる(皮弁形成術)。中咽頭がんは頸部リンパ節(首のリンパ節)に転移することが多いがんのため、リンパ節に転移している場合や、転移の可能性がある場合などには頸部リンパ節も切除(頸部郭清術)する。
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医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院