国交省の3D都市モデルを使った作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2022」決勝参加は17作品、初代グランプリは3Dスノードーム

国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備とオープンデータ化のプロジェクト「PLATEAU」(プラトー)。デジタルツインの実現と活用に期待が集まっている。国交省は、3D都市モデルのまだ見ぬ可能性を引き出すため、サービス・アプリ・コンテンツ作品のコンテスト「PLATEAU AWARD 2022」を初開催。最終審査会を2023年2月18日に行い、初代グランプリなどを発表した。



「PLATEAU AWARD 2022」の応募総数は70作品。学生、エンジニア、クリエイターなどさまざまな応募者からサービス・ツール・デザインなど幅広いジャンルの作品が集まった。


この日はその中から最終審査会へと進んだ17作品のプレゼンテーションが行なわれた。

グランプリほか各賞と賞金、審査の基準

応募総数70点の中から、第一次審査を通過した17作品が、最終審査会でプレゼンテーションを行なった。

■「PLATEAU AWARD 2022」ファイナリストのイントロダクションと17作品




初代グランプリにはシマエナガの「snow city」

その結果、初代グランプリにはシマエナガ(チーム)の「snow city」が選ばれた。「snow city」は、お土産や記念品としてかねてより人気の高いスノードームを、「PLATEAU」の高精度3Dデータでデジタル化したもの。


「実在の町をスノードームの中に入れるコンセプトのもとで、デジタル化したスノードームはブラウザ上で鑑賞したり、ダウンロードして他のモデルと組み合わせたり、オリジナルモデルを作成することもできます」と語り、「高級感と鑑賞しやすいデザインにこだわった」と続けた。現在は札幌のみだが、将来は都市や背景を切り換えたり、オリジナルの都市を3Dスノードーム化することができる。

https://snow-city.vercel.app/gallery 「snow city」は既にブラウザで楽しむことができる(スマートフォンでは少し不具合があるとのこと)。BGMが流れるオプションも設定されているので試してみよう

3Dモデルについては、ガラスは環境マップを使って本物のガラスのような質感を再現。雪のパーティクルはランダム性をつけて、できるだけ自然に見えるようにした。更にテクスチャを削減、解像度を下げるなど軽量化にこだわった。また「現在は建物が中心だが、将来は道路など周辺の景観もスノードームの中で再現したい」と今後の抱負を語った。



スノードームは昔からお土産や記念品として人気のアイテム。デジタルで鑑賞することでデバイス内で思い出の記憶を振り返ったり、訪れた場所のスノードームをコレクションして楽しめるようになるかもしれない。また、将来的にはNFTによるマネタイズや、3Dプリンタを使って実物化し、実際に手に取って鑑賞できるようになるかもしれない。審査員からも、それらの可能性を評価する声が聞かれた。

審査員長の川田十夢氏(開発者 / AR三兄弟 長男)と、グランプリを受賞したチーム「シマエナガ」のメンバー


各賞


マッドデータサイエンティスト賞

今回、優秀な作品が多かったということで、「特別賞」として「マッドデータサイエンティスト賞」が即興で設けられ、株式会社大林組の上田博嗣氏の「都市環境を対象としたクラウド解析ツール群『PLATEAU Tools』」が受賞した。


上田氏は「都市のデジタルツインを考えた時に、今後物理情報との融合が重要になると考えています。その情報を得る手段として解析がありますが、様々な専門知識や非効率な手作業が必要となっているのが実状で、手軽な情報を取得という大きな課題を解決したい」と語った。一例として「風環境の評価を気象庁のデータと連携させて全自動解析するツール」等を紹介した。都市の風速を予測するAIツール等と連携するとしている。





イノベーション賞

「イノベーション賞」はORSHOLITS Alexの「PLATONE プラトーン」が受賞した。「プラトーン」は「PLATEAU」データを空間サウンドに活用したユニークな発想が特長だ。3Dモデルが音に及ぼす影響を立体シンフォニーのような聴覚体験として楽しむことができる。


日本橋の麒麟の像が吠えると、高架の反響(高速道路)の影響を受けるなど、リアルな空間オーディオを実現するデバイスも開発した。観光客は麒麟像の咆哮やチャイムの音、昔の馬車の音などをリアル体験できる。


審査員長の川田氏からイノベーション賞を授与されたチーム「ORSHOLITS Alex」のおふたり



エモーション賞

「エモーション賞」はきっポジ@KITPOSITIONの「マルチプレイ対応VRAR連動アプリ「VARAEMON」」が受賞した。「とにかく現実の世界でロボットを操縦したい」という思いから、ロボットの3Dモデルを「PLATEAU」の3Dデータで構成した街に登場させ、VRの仮想空間でロボットが対戦したり、ARで実際の街で対戦することなどができる。




ロボットの操縦者の視点をリアルに意識したり、オクルージョン(手前にある物が後ろの物体を隠して見える:プラトーのデータをマスクに使用して、ロボットが建物の陰に隠れる)などの工夫を行った。

審査員の千代田 まどか:ちょまど氏(IT エンジニア兼漫画家)から授与されたきっポジ@KITPOSITION氏



データ活用賞

「データ活用賞」はHollowByte合同会社 米田将氏の「情報加算器」が受賞した。米田氏は「プラトーが提供しているデータは箱としてとても魅力的ですが、更にもっとオープンデータなどの情報を追加していけないかなと考えて、アプリにすることでプログラミング不要のツールとしてできあがったのがこの情報加算器です」と語った。


最寄り駅や郵便番号、近くにある施設など、プログラミングができない人でも、プラトーのデータに追加することができる。

審査員の小林 巌生氏(Code for YOKOKOHAMA 共同代表)からデータ活用賞を授与された米田 将氏




UI-UX賞

「UI-UX賞」はシマエナガの「snow city」がグランプリとW受賞となった。




PLATEAU賞

「PLATEAU賞」はPLATEAU Window’sの「PLATEAU Window」が受賞した。


「PLATEAU Window」ができる機能は現状で6つ。例えば「あの場所から見える景色はどんなだろう?」「このお店はどこにあるんだろう?」などの思いを3Dビジュアルと付加情報で可視化することができる。



また、時間と空間の移動というところをコンセプトに入れた。「時事閲覧」ではWikiの情報を時系列に反映できるとしている。


川田 十夢氏からは「展望台などで、即実用化したいコンテンツになっている」と評価を受けた。


国土交通省のProject PLATEAUを担当する内山裕弥氏から「PLATEAU賞」を授与されたPLATEAU Window’sのおふたり。


ファイナリストに残った全17作品


ちなみに、ロボスタ編集部としては、「snow city」はもちろんだが、株式会社ティアフォーの「PLATEAUで日本全国の自動運転シミュレーションを可能にする」に注目した。自動運転の課題である都市や道路データの不足、収集にかかるコスト、シュミレータの環境の開発、天候や時間を切り換えて多くの街の道路の走行を学習させるなど、社会課題に正面から向き合った実用化して欲しい作品だと感じた。特に同社のAutoWareはオープンな自動運転プラットフォームなどで、プラトーのオープンデータを活用したコンテンツの充実は、自動運転車やロボットタクシー、自動配送ロボットにも非常に有効に活用できるはずだ。



審査員

今回の審査員は、川田 十夢氏(開発者 / AR三兄弟 長男)、千代田 まどか:ちょまど氏(IT エンジニア兼漫画家)、小林 巌生氏(Code for YOKOKOHAMA 共同代表)、松田 聖大氏(Takram Japan 株式会社 デザインエンジニア/ディレクター)、内山 裕弥氏(国土交通省)がつとめた。

国交省の内山氏は「プラトーがはじまって約3年が経過して、これまでハッカソン等も開催してきました。当初は参加者も”使い方がわからない”などと感じていることが伝わってくる作品も多かったのですが、今回の70作品すべてがプラトーのデータの使い方を正確に理解し、実用的な提案も多く、レベルアップを感じています。今日、参加して頂いた皆さんが、まさにこのプラトーのデータを今後もどう活用していってくれるか、ナレッジやノウハウを日本中に広めていってくれる主役だと思っています。それによって日本のDXや経済力が高まっていくと感じています。」とコメントした。

関連サイト
PLATEAU AWARD 2022

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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