マクドナルドやカルフールもAI技術を活用 急拡大する小売業のAI導入事例をNVIDIAが紹介 無人レジ店舗/需要予測/注文の自動化/来店客の行動分析/万引き防止

小売業界は、市場の需要と販売機会にリアルタイムかつ柔軟に対応するために、今後AIでビジネスを変革することが不可欠と考え、海外を中心にAIソリューションの導入が加速している。IBMと全米小売協会の調査によると、現在小売業界におけるAIの導入率は40%、3年後には80%まで成長すると予測。リテールテックはAIに最も大きく投資している分野のひとつとされている。
こうした状況を背景に、NVIDIAは小売業界向けのAIソリューションのユースケースや具体的な事例、導入されているシステムを説明するセミナー「小売業の課題に挑むNVIDIAのAIとデジタルツイン」を開催した。AIカメラを活用した具体例、レジなし店舗など、小売業界が抱える課題と解決策が示され、北米マクドナルドや仏カルフールなど具体的な導入先も公開した興味深い内容となっていたので、その一部を紹介していこう。

NVIDIAエンタープライズ事業本部 リテール担当 ビジネスデベロップメント マネージャー 中根正雄氏

登壇した中根氏は、小売業においても「AIへの期待」が増えていることを海外の情報をもとに作成したグラフを使って明示した。中でも機械学習を使ったものが急増しているイメージだ。





小売業が抱える課題とAI活用のトップ4

働き方の改善や販売予測、物流など、多くの課題を抱えているが、アジリティ(俊敏性)重視で解決に取り組む必要がある。

中根氏は課題の事例としてAI活用のトップ4を紹介した。「インテリジェントストア」「インテリジェントQSR」「インテリジェントサプライチェーン」「オムニチャンネルマネジメント」の4つ。


「インテリジェントストア」(スマートストア)
在庫切れと棚割の改善、店舗分析、自律型ショッピング、資産保護などをAIを活用することで、より深く詳細に、例えば時間帯別に解析や予測することができる。

「インテリジェントQSR」
QSRはクイックサービスレストランのことで、ファーストフード店などが代表例として含まれる。ドライブスルーでの音声認識/自動入力(ドライブスルーの受付の自動化)、マルチモーダルレコメンダー、生産品質の検査、需要予測、レジ待ちの改善。

「インテリジェントサプライチェーン」
倉庫、配送に関する最適化。需要予測、インテリジェントな倉庫、ラストワンマイル配送など。

「オムニチャンネルマネジメント」
販売対策にAIを活用したり、デジタルツインの構築と活用など。


インテリジェントストアの施策の例

インテリジェントストアでは一体どのようなことに取り組みが行われているのか。中根氏は海外事例を元に作成した図を引用した。赤枠は日本でも事例が増えてきている例。


カメラとAIを活用して来店客の導線を分析したり、ユーザー属性に合わせた店内広告を表示する。万引き防止(資産保護)など。

資産保護は万引きだけでなくバーコードの付け替えなどの犯罪の監視をAIカメラが行う。ストア分析は店内の導線(動線)や立ち止まりによる商品への興味などを解析する。また、最近では無人レジでの活用事例も出はじめている。
中根氏は「AIカメラの映像を使って映像を解析して洞察を得るという手法が増えている」と語った。


「Retail AI WorkFlow」

NVIDIAでもアプリケーションとして提供も開始している。「Retail AI WorkFlow」は万引き被害抑止、マルチカメラ連携による来店客のトラッキング(複数のカメラで来店客の解析)、商品販売分析のワークフローをパッケージ的に提供する。





インテリジェントQSR

ファーストフード店を含む「QSR」のスマート化が進められている。ひとつの例がドライブスルーでのAIカメラ映像の活用がある。ドライブスルーでは音声認識を導入して受付を自動化したり、ナンバープレートからVIPの顧客を判断してスタッフに通知したりなどが行われているという。また、ナンバープレートから予めのモバイルオーダー(注文内容)を表示して待ち時間を短くすることもできそうだ。
レジでも顧客の待ち時間の短縮や、属性分析などが活用されているという。



北米マクドナルドがメトロポリスのエコシステムを活用

そして、具体的な事例として、北米マクドナルドがメトロポリスのエコシステム活用を紹介した。メトロポリスはNVIDIAが提供しているフレームワークで、AIビデオカメラを活用してスマートシティやリテールテックに導入されている。


北米マクドナルドは、メトロポリスのエコシステムを活用したIKARA社のビデオ解析ソリューションを統合することで、業務効率と安全性を向上させ、サービス提供を迅速化、カスタマーサービスのレベルアップを目指しているという。


クローガーはセルフレジの設置と有人レジの監視を導入

また、米国スーパーマーケットの大手、クローガー(Kroger)社ではセルフレジの設置と有人レジの監視を導入し、万引き抑止の監視ソリューションを導入している。北米では万引きが多いため、万引き抑止のニーズは大きく、監視ソリューションの市場としては伸びているという。



仏スーパー大手カルフールとAiFi

レジ無し店舗の需要も急増しているが、そのユースケースとして仏スーパーマーケットの大手、カルフールとソリューションベンターのAiFiソリューションの事例を紹介した。いわゆる商品を来店客は棚から手に取ったり、エコバックに入れてそのまま店舗外に出てもAIカメラによって決済されている方式。レジでの行列に並ぶ必要がなく、レジのスタッフの人材不足をカバーする。



AiFiは無人店舗を実現するソリューションベンター

AiFiは無人店舗(レジなし店舗)のソリューション開発・提供している米スタートアップ企業。国内でも展開を開始している。AIカメラだけで来店客の商品購入をトラッキングするシステムと、AIカメラとセンサーを組み合わせて商品購入を管理する2つの方式が主に知られているが、AiFiは前者のAIカメラだけで実現できるソリューションとなっている。


既に実績として、職場の店舗から小規模ストア、スタジアムなどで導入事例がある。

AIカメラは骨格検知技術も組み合わせて、商品を棚から取り上げたり、返したりする動作をトラッキングしているという。もちろんAIカメラの画像解析の肝となっているのはJetsonなどのエッジAIコンピューティングを含めたGPUとそのエコシステムだ。

中根氏はレジなし店舗のメリットに触れ、これから更に需要が伸びていく可能性を示唆した。2023年時点で既に600店舗もの、AIベースのレジなし店舗が実現されているという。


AiFiはセキュア社との連携も進めていて、「SECURE AI STORE LAB」を開設。顔認証で入店や決済できる新体験型ストアとなっていて、手ぶらで決済が行えたり、手に取った商品の口コミを確認したりも可能だ。新宿住友ビルで2023年春にも一般公開が予定されている。



「Jetson Orin」の導入でコストを4分の1に

また、北海道の事例として、サツドラ(サッポロドラッグストアー)では「NVIDIA Jetson Orin」を導入して、NVIDIA Jetson Orin 1台で10台以上のカメラ映像の解析を処理している事例を紹介した。これにより、開発や機材の導入コストを著しく削減し、AI導入コストを4分の1にできているとした。


エコシステムとしては、ヘッドウォータースが「Jetson Orin AGX」を活用して開発している、個人情報をカットした上で混雑の可視化や人数カウント、行動解析などを行うソリューションも提供が始まっている。



大型オンラインイベント「GTC23」でもセミナーを予定

日本時間の2023年3月21日~24日、ディープラーニングとGPUの大型オンラインイベント「GTC23」が開催される。そこでも小売業のAI活用を紹介するセミナーが多数予定されている。下記がその一覧(いずれも日本時間)。事前登録をすれば無料で聴講できる。店舗でのAIソリューションの導入を検討している場合、情報収集してみてはどうだろうか。

【小売業やデジタルツイン関連セッション】
3/22 5:00 AM – 5:50 AM
Leveraging Omniverse and Metropolis Microservices Platforms to Optimize Warehouse Operations [S52063]
Tarik Hammadou, Senior Developer Relationship Manager, NVIDIA
Alpen Patel, eComm Senior Automation Manager, Pepsi Co
Ying Feng, Director of Data Science & Analytics, Pepsi Co

3/22 6:00 AM – 6:50 AM
Improving the Guest Experience Using Multimodal Learning for Fashion [S52266]
min wang, Lead Data Engineer, Target
Anupama Joshi, Senior Director for High Performance Computing, Target

3/23 4:00 AM – 4:50 AM
Enabling Frictionless Checkout for Retailers and Beyond [S51863]
Kevin Howard, CEO, AWM
Azita Martin, VP & GM Artificial Intelligence for Retail and CPG, NVIDIA
Steven Anderson, RPDM- NA/Asset Tracking System/Tool Solutions, United Rentals

3/23 4:00 AM – 4:50 AM
Using Transformers for Personalized Search and Recommendations in the Home Improvement Domain [S51767]
Ian Matthews, Lead Data Scientist, Lowe’s
Surya Kallumadi, Director of Applied Research, Lowe’s
Zaid Alibadi, Lead Data Scientist, Lowe’s

3/24 5:00 PM – 5:50 PM
Kaggle の機械学習コンペ、OTTO – Multi-Objective Recommender System における準優勝解法 [SE52413]
Kazuki Onodera、シニアディープラーニングデータサイエンティスト、 NVIDIA

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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