「私も最初はそうでしたが、ロボットのアプリケーションエンジニアが、リモートでの遠隔操作システムの開発にも詳しいというわけでは必ずしもありません。Remolink for Developersはロボットのリモート制御をドラッグ&ドロップを中心にした簡単なGUIで実現できるサービスだと感じました」
そう語るのは、業界でも人気が高い人協働ロボット「COBOTTA」のエンジニアとして一線で活躍しているデンソーウェーブの天春氏。
「Remolinkプラットフォーム」は、リモートロボティクスが提供するリモートロボットで事業者とワーカーをつなぐサービス。完成品の外観検査、選別作業、溶接・研削などワーク・品種・作業内容などのばらつきが多く完全ロボット化が困難な幅広い分野で注目され始めている。
リモートロボティクス株式会社は、2023年2月8日と9日の2日間、「第12回 次世代ものづくり基盤技術産業展 TECH Biz EXPO 2023」に出展し、デンソーウェーブの人協働ロボット「COBOTTA」でリモートロボットシステムを構築する方に向けたサービス「Remolink for Developers」を活用したリモートロボットのデモを公開した。
公開された2つのリモート操作ロボットのデモ
会場では「COBOTTA」を活用したリモートロボットシステムのデモが2種類展示された。
ひとつは遠隔から人が傷の有無を判断し、「COBOTTA」を操作する金属部品の外観検査システム。もうひとつは「Remolink for Developers」のノーコードツールが体験できるシステム。いずれもデンソーウェーブのエンジニアがリモートロボティクスの「Remolink for Developers」を使って開発したものだ。
デモ1 金属部品を遠隔から検品するリモートロボットシステム
「COBOTTA」のアーム上部に装着したカメラを使って、金属部品の外観を遠隔から人が検査し、OKとNGの製品を仕分けする。システムを開発したデンソーウェーブの天春氏は、ロボットシステムのリモート化経験はなかったものの、「Remolink for Developers」を使った場合、要する時間はわずか1~2時間程度だという。
遠隔からロボットとカメラで検品を行い、OKとNGの箱に仕分ける作業デモの動画は下記を参照。
■「Remolink for Developers」で開発したリモートロボットシステムデモ
デモ2 「Remolink for Developers」のノーコードツールを体験できるデモ
もうひとつは、「Remolink for Developers」のノーコードツールを体験できるデモ。アプリビルダーを使うことで、簡単に操作UI上の選択肢ボタンの数を増やしたり、どの選択肢にどのロボットプログラムを紐づけるのかを変更できる。天春氏はシミュレーションソフト「WINCAPS III」と「Remolink for Developers」を使い、自身のPC1台でこのリモートロボットシステムを開発。完成したプログラムをCOBOTTAの実機に当て込んだ。このように、「Remolink for Developers」でのリモート開発は実機のロボットが手元になくてもリモートロボットシステム開発を進めることができる。
■シミュレーターを使った「Remolink for Developers」での開発
簡単かつセキュアにクラウド経由でロボットシステムをリモート化
「Remolink for Developers」の特長は、ロボットを遠隔から操作するシステムを簡単に構築できること。
簡単かつセキュアにクラウド経由でロボットシステムをリモート化でき、メーカーを問わず活用できる。今回の天春氏のようにWebアプリの開発経験がない方でも直感的に遠隔アプリをデザインできるのがポイント。
デンソーウェーブ天春氏が開発した今回のデモは、「COBOTTA」自体を制御する「ロボットシステム」(上図の青い枠内)を用意しておき、リモートロボティクスが提供する「Remolink SDK」でロボットやカメラとシステムを連携した(赤文字の01)。リモートでカメラ映像をチェックしたり、ロボットに指示を送るための「Remolink コントローラー」をノートパソコン(RC端末)に設定(赤文字の02)。ロボットをリモートで操作する遠隔アプリはノートパソコンの「アプリビルダー」(赤文字の03)を使ってドラッグ&ドロップを中心にノーコードで開発した。完成したアプリは、タブレットからクラウド「Remolinkサーバー」にログインし、でロボットを遠隔操作した。
リモート化システムのツール構成と作業の流れは次のとおり。
Remolink for Developers開発ツールの構成と機能、作業の流れ
■Remolink for Developers開発ツールの構成と機能
1.Remolink SDK
ロボットシステム制御PC(今回はノートPC)に組み込むためのソフトウェア開発キット(対応言語:C#/Python)
2.Remolink コントローラー
ロボットシステムと「Remolinkサーバー」との通信を中継し、リモート化するためのWindowsアプリケーション。開発時には「Remolink SDK」「Remolink サーバー」とそれぞれ接続テストを実行することも可能。
3.アプリビルダー
遠隔アプリをドラッグ&ドロップで作成するノーコードツール
1).UIデザイン:遠隔アプリの画面デザインを直感的に作成
2).ワークフロー:遠隔アプリからの操作に関わる処理を視覚的に作成
3).テスト実行:作成した遠隔アプリとRemolinkコントローラーを紐づけた動作テストを実行
■「Remolink for Developers」での開発の流れ
インタビュー:「Remolink for Developersがリモート環境を代替してくれるのは大きな利点」(デンソーウェーブ)
今回、「Remolink for Developers」を活用して「COBOTTA」のリモート操作デモを開発したデンソーウェーブの天春氏に、開発の手順や流れの”実際”を聞いた。
編集部
「ロボットのリモート化、人によるロボットの遠隔作業」に対する率直な印象を教えてください。
天春氏
ロボットによる完全自動化が難しい作業はあるし、画像処理・AIを活用したとしても認識が難しい作業もあります。
人が立ち入るのに相応しくない場所や困難な現場もあります。
こうしたケースには、人が見たり判断して、ロボットがその通りに動く、ロボットのリモート化というアプローチはとても有効だと感じています。
編集部
これまで他のサービスや自社開発を通じて、ロボットのリモート化システムの経験はありますか?
天春氏
人の指示を前提としたリモートシステム構築の経験はありません。ロボットが基本的にスタンドアローン(単体)での自律動作するケースが多く、人が介在することを前提としたシステム、それもリモートとなると初めてです。
編集部
今回、Remolink for Developersで開発したシステムの内容をひと言で教えてください。
天春氏
今回のデモは、鋳物部品の外観検査(検品)プロセスを想定し、カメラでワークを撮像し、傷の有無を人が遠隔から判断して、ロボットに仕分けを指示するというものを最初に作りました。
編集部
リモートロボティクスから提供された「Remolink for Developers」の内容を教えてください。
天春氏
開発ツールとしては、ロボットを制御するPCに組み込むSDK、Windowsアプリケーション、ノーコードのアプリビルダーとそれぞれに関わるガイド・ドキュメントが提供されました。初めて使用したので、トライしながらわからないところはテクニカルサポートに質問しました。
編集部
リモートロボットシステムの構築はどのように進めましたか。
天春氏
まず、カメラは2つ必要などロボット側のシステム構成をイメージした上で、遠隔指示のアプリ画面の画像表示エリアや必要なボタン類の配置などを考えました。実際に作り始めたのは実は遠隔アプリからで、曖昧なイメージだけでもカメラやボタン配置などのUIは創ることができました。
次にワークフローに取り掛かり、各ボタンを押した時の動作を組み立て、信号が送れることを確認しました。その後、遠隔アプリからの指示やメッセージを想定しながら、ロボット側の動作プログラムを作りました。
そして、最後にロボット制御システムにRemolink SDKを含んだ形でプログラムを作り、ロボットのシミュレーター上で一連の動作テストを行ないました。
編集部
作業時間はどのくらいかかりましたか?
天春氏
初めて「Remolink for Developers」を使ったときは、JSONの知識も十分になかったので、ドキュメントを読んだり、悩んだりもし、最初は12時間くらいかかりました。ただ、実質的には6~7時間でも使いこなすことができる人は多いと思います。ロボットもシミュレーター上で動かしながら確認できたのですべて在宅でできました。Remolink for Developersを理解した状態で開発した今回の展示デモは1~2時間で完成しました。
編集部
Remolink for Developersを使ってみて、どのような所がよいと感じましたか?
天春氏
アプリビルダーのデザイン(GUI)は、複数のテンプレートが用意されていて、画面のレイアウトが簡単なこと。また、もしも自社でリモート用のサーバーを用意するとなると、時間や手間がかかるので、そこを「Remolink for Developers」に代替してもらえるのは大きな利点だと感じました。
また、ロボットシステム側とリモート化システム側と、別々に開発を進めて、挙動のテストも各々でできて、最後に連携する開発方法が可能なこともとても便利でした。
実際のロボットシステムをリモートで動かすのは、ロボットシステム側の構築やSDKの組込み、C#やPythonなどのプログラミング言語が必要となりますが、「こういう風に動かしたい」というイメージさえあれば、プログラミングのスキルがない人でも使いこなせると思います。
完全自動化が難しい領域に「ロボット+遠隔操作」という提案
一般的に、作業のばらつきが少ない領域においては、ロボットや専用機、自動機の導入が普及しており、AIを駆使してロボット化による完全ロボット化が実現できるシーンも増えてきた。
一方で、ワークや作業内容の変動が常にあるような「作業のばらつきが大きい領域」では、今なお人による作業が行われている。リモートロボティクスは、この人による作業の領域で「人とロボットのハイブリッドオペレーション」が活用できるのではないかと提案する。
また、重労働や繰り返しの作業が多い現場では、従業員の平均年齢は年々上がる一方で「自動化には取り組んでいるが、技術的な課題で進んでいないのが現状」「数年後には働いてくれる人がいないかもしれない」と、深刻な人手不足になることを心配する声をよく耳にするようになってきた。
「リモートワーカーとの連携やマッチングにも期待」(デンソーウェーブ)
リモートロボティクスは、リモートロボットを導入・活用する方、リモートワークを行う方に向けたサービス「Remolink」、リモートロボットシステムを構築する方に向けたサービス「Remolink for Developers」といったプロダクトだけでなく、ロボット技術パートナーや人材パートナーとのマッチングなども含めたRemolink プラットフォームを展開していくことを目指している。
デンソーウェーブのFAシステムエンジニアリング部 部長の澤田洋祐氏は「人がロボットをリアルタイムにリモート操作をすることで、自宅からでも工場などの現場でロボットを介して作業に参加することができる、そんな作業環境を目指したい。実現に向けては、まずは “人が遠隔で判断をし、遠隔地にあるロボットに単純なタスクだけを与える” ところから始めても良いのではないかと思っています。リモートロボティクスさんには「Remolink プラットフォーム」上で提供を予定しているリモートワーカーとの連携やマッチングにも期待しています」と語った。
リモートロボティクスは、ロボットメーカー・ロボットSIer・研究開発やアカデミアなどロボットシステムのリモート化による可能性を検討したい方に向け、期間限定で「Remolink for Developers」の無償トライアル提供を行っている。これまで「人」か「完全自動化」の2択が当たり前だった中に、人とロボットがリモートで働く第3の選択肢を広く普及させていきたい考えだ。
■Remolink for Developersのポイント
1.簡単かつセキュアにクラウド経由でロボットシステムをリモート化できる
2.メーカーを問わずロボットシステムをリモート化できる
3.Webアプリの開発経験がない方でも直感的に遠隔アプリをデザインできる
■期待できるメリット例
・リモート化のためのクラウド環境の開発にかかる初期費用削減
・ロボットシミュレーターや既存ロボットの活用
・遠隔アプリ開発の手間削減
・遠隔アプリを自由度高く短期間に作っては試せる
・ロボットの活用範囲が広がり顧客への提案や業務領域が拡大