立命館大学がマイクロデバイス内の電場や静電エネルギー分布の可視化に成功 マイクロマシンの性能向上に期待

立命館大学理工学部の小西聡教授、坊野慎治講師らの研究チームがマイクロマシンのモデルシステムである微細加工電極上に分散させた小さな液晶滴の回転運動や輸送挙動から、デバイス内の電場や静電エネルギー分布を可視化することに成功。日本時間2023年3月16日に米科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された。これによりマイクロマシンのコスト削減や寿命延長などさらなる性能向上が期待される。



実際のデバイスの性能が設計値とは異なっているという課題が

電子デバイスはMEMS(Micro ElectroMechanical Systems)技術を利用しマイクロメートルスケールの複雑な電場分布を制御しているが、近年、デバイスの小型化による内部への電極、センサやアクチュエータの集積化が加速し、電場分布はより複雑化している。

これまでマイクロマシンのような微細な構造物内部において、電気特性の分布を実測できなかったことから、デバイスの設計時、実際のデバイス構造が設計内容と一致しているという仮定のもとシミュレーションを行い、その結果から設計指針を立て作製していたが、作製プロセス時に発生する欠陥や使用に伴う劣化等はシミュレーション条件には含まれていないため、実際のデバイスの性能が設計値とは異なっているという課題が発生していた。


アレイ状に配置した液晶滴を利用し電気特性をリアルタイムで2次元的に可視化

マイクロマシンのモデルシステムである微細加工電極を検出対象として、電極直上に大きさ数10μm程度の液晶滴を分散。通常、電極から発生する電気特性を光学的に観察することはできないが、液晶滴が電場や静電エネルギーに応答し回転・輸送される性質を可視化原理として利用。

液晶滴の回転挙動はデバイス内の液晶滴が分散する電場に対応しており、液晶滴の回転挙動を画像解析すると、電場分布を可視化できることが分かった。液晶滴の電場分布検出精度を調べたところ、液滴サイズと同じくらいの高い空間分解能を保ったまま、数μV/μm の微弱な電場を検出できることが分かった。さらに、静電エネルギーを周期的に変調したマイクロデバイス内に液晶滴を導入すると、液晶滴は周期的にアレイ状に配置することが分かった。

アレイ状に配置した液晶滴。明るい領域が液晶滴を、暗い領域が液体相をそれぞれ示す。デバイス内の静電エネルギー分布を周期的(~40μm)に変調。

これによりアレイ状に配置した液晶滴を利用して、電気特性をリアルタイムで2次元的に可視化できることを示した。


デバイスの電子特性が明確に

現状、マイクロマシンは作製後に動作確認を行い一定の基準を超えたものだけが市場に流通される。市場に流通しているマイクロマシンにはメーカーの保証期間が設定され、この期間を超えて使用すると当然ながら劣化・故障が発生する可能性が高くなる。

今回の研究結果を新しく設計するデバイスに適用すると、駆動時における電気特性分布が高い空間分解能と検出精度で両立してセンシング出来、この知見を従来の数値計算による設計にフィードバックして再度製作を繰り返すと、これまで考慮することが難しかった作製プロセス時に発生する欠陥や使用に伴う劣化等の情報も含めたデバイスの電子特性が分かることにつながり、さらなるマイクロマシンの性能向上が期待される

例えば、どの部分に欠陥や劣化が発生しやすいか、またそれらがデバイスのパフォーマンスにどのような影響を与えるか等、実際のデバイスに特有の課題点の解明につながると期待されている。デバイスの作製プロセス中の欠陥の発生頻度を低減することができるようになるため、資源の節約や価格を下げることにもつながる一方で高い作製基準を設けることもできる。また、劣化しやすい構造や作製プロセスを事前に特定し、より安定性の高いものに置き換えることで持続的な使用につながることも期待される。

論文名 Rotation and transportation of liquid crystal droplets for visualizing electric properties of microstructured electrodes
著者 Shinji Bono, and Satoshi Konishi
発表雑誌 Scientific Reports
掲載日 2023年3月16日(日本時間)
DOI 10.1038/s41598-023-31026-8
URL https://www.nature.com/articles/s41598-023-31026-8

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