東京工科大学工学部の野田龍介講師らの研究グループは、トンボが素早く逃げる様に飛行する機動飛行時の流体力学メカニズムを世界で初めて解明した。トンボ固有の優れた機動飛行メカニズムの解明は、次世代の羽ばたき型飛行ロボット開発への応用も期待される。
本研究論文は、流体力学分野におけるトップジャーナルである「Journal of Fluid Mechanics」オンライン版(現地時間:2023年7月20日)に掲載された。
逃走飛行時の翅の運動を世界で初めて計測
自然界に見られる飛翔能力を有する多くの昆虫は、羽ばたき運動、サイズなどの特性から低レイノルズ数(慣性力と粘性力の比で表される無次元数で流体現象の特性。昆虫は飛行機などの一般的な人工飛行体と比べ、粘性力が支配的な低いレイノルズ数領域での飛行を行う)領域での優れた飛行性能を有し、新たな小型飛行ロボットの設計指針としても注目されている。
中でもトンボは地球上で最も成功した空中での捕食者の1つとして、古来より生存し進化を遂げてきた。
多くの昆虫が前翅と後翅を1つのペアとして羽ばたき運動を行っていることに対し、トンボはこれらの翅を独立して制御できる点にある。
本研究では、トンボの通常飛行時における翅の運動と、世界で初めて計測された逃走的機動飛行(逃走飛行)時における翅の運動を用いて、それぞれの羽ばたき運動がどの様な空気力を生み出すかを数値シミュレーションにより検証した。
新たな流体力学メカニズムにより局所的な空気力を増加か
数値シミュレーションの結果、逃走飛行では通常飛行に比べて後翅が大きな迎角(流体の中にある物体が、流れに対してどれだけ傾いているかを表す)を取ることで、飛行効率を犠牲にして局所的な空気力の増加を生み出していることが世界で初めて明らかとなった。
また、この空気力の増加は、トンボが前翅と後翅の羽ばたくタイミング(位相)を上手く変更することで、前翅の羽ばたきにより生じる空気の流れを利用し、後翅の翅表面に生じる空気力生成に大きく寄与する渦の安定化を促して実現していることが示唆された。
これは、従来の研究で示されてきたトンボの機動飛行時における前翅と後翅の羽ばたくタイミングとは異なり、新たな流体力学メカニズムにより逃走のための局所的な空気力の増加を実現している可能性を示している。
社会的・学術的ポイント
近年、回転翼型のドローンが物資の輸送や農薬の散布、インフラ設備の点検など様々な分野で社会実装に成功しており、今後より人間に近い環境での調和と共存が求められると考えられている。
古来より人類の生活圏で共生してきたトンボなどの生物の飛翔を模した羽ばたき型の飛行ロボットは、これを実現するための安全性や騒音といった問題を解決した上での社会実装が期待されるとしており、今回の研究成果はその設計指針となり得る重要な要素となるとしている。
論文情報
論文名 | The Interplay of Kinematics and Aerodynamics in Multiple Flight Modes of a Dragonfly |
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著者名 | R.Noda, X.Liu, C.Hefler, W.Shyy, H.H.Qiu |
掲載URL | https://doi.org/10.1017/jfm.2023.471 |