パナソニックと中央大学、つかんだものを落とさずに回し続けられるロボットハンド制御技術「インハンドマニピュレーション」を開発

パナソニック コネクト株式会社と中央大学 梅田教授研究チームは、把持した対象物の位置や姿勢をハンド内で変更する動作「インハンドマニピュレーション」技術を開発した。ロボットハンドにおいて困難とされている、手の中でモノを持ちかえる作業に取り組んだもので、IEEEの世界的なカンファレンスで研究成果として発表した。


ロボットハンドにおける持ちかえ作業の課題

ロボットによる作業自動化が加速する中で、ロボットに求められる動作も高度化している。そして、ロボットハンドによる高度な動作の一つとして注目されている技術のひとつに「インハンドマニピュレーション」がある。インハンドマニピュレーションとは、ロボットハンドで把持した対象物の位置や姿勢をハンド内で変更する動作を指す(持ちかえる作業は人は普通に行うがロボットが自律的に行うのは簡単ではない)。

インハンドマニピュレーションをスムーズに行うために、表面にコンベアベルトを巻いた複数のフィンガで構成されるロボットハンドが多く研究されているという。

フィンガー同士で対象物を把持し、その状態でベルトを動かすことで、対象物の並進と回転が可能となる。この機構を使用することで、対象物の位置姿勢変更が可能な範囲の拡大を図ることができる。しかし、特に姿勢変更のために対象物をハンド内で回転させる際、対象物の形状や姿勢によっては、掴み続けることができずにハンドから落下させてしまうという課題があった。


画像:ベルト制御とフィンガー制御の課題




インハンドマニピュレーション技術

この課題に対して、パナソニック コネクトでは、ロボットビジョン技術を活かし、対象物の形状や姿勢に応じてフィンガーとベルトを制御するシステムを開発した。
対象物を落とさずに把持するためには、対象物の表面とロボットハンドとが接触しつづける必要がある。接触を維持するためには、対象物の形状や回転中の姿勢に合わせてフィンガー同士の幅を調節する必要がある。しかし、フィンガーが必要な幅の分だけ開閉しない状況もあり、その場合に対象物を掴み続けられなくなってしまう。そこで、この状況を引き起こす2つの原因に対してアプローチする手法を開発した。



対象物とハンドの接触点の切り替わりをカメラ画像で予測

まず、対象物の形状や姿勢によっては、回転中に、対象物とハンドとが接触している部位が変化する。これを接触点の切り替わりと呼ふ。そして、接触点が切り替わる前後において、必要なフィンガー幅は急激に変わりやすくなる。急な幅変化が起こると、フィンガーの制御が追い付かずに対象物を落下させてしまうことがある。
一方で、対象物の回転速度が遅い場合には、接触点が切り替わる前後であっても、この変化が小さいこともわかっている。そこで、カメラ画像を基に、接触点がいつ切り替わるのかを予測し、その前後において対象物の回転速度が最も遅くなるようにベルトを制御することで、幅変化を抑えるのが1つ目のアプローチとなる。




動作の遅延の影響を低減

2つ目の原因として、フィードバック制御による遅延に着目。電子機器を制御する際には、センサにより現在の状態を観測し、観測値に基づいて次の時刻における制御値を決定するフィードバック制御が広く採用されている。フィードバック制御においては、次の時刻までの制御値は現在の観測値に基づく。
インハンドマニピュレーションによりハンド内で対象物を動かし続ける場合、現在観測している対象物の位置や姿勢と次の時刻での状態は異なる。従って、現在に観測している幅の分だけフィンガーを開閉させても、次に必要な幅とは差が生じ、対象物を落下させることが予想される。
そこで、次の時刻における対象物の位置や姿勢を予測し、次の時刻で必要となる幅の分だけフィンガーを制御することで遅延の影響を低減するのが2つ目のアプローチとなる。


この技術を用いて、22点の対象物(形状11種・サイズ2種)に対して実施した実験においては、10点を1回転させることに成功したという。また、提案手法を使用しない条件に対して、大きい対象物を落下させる割合が14.5%改善し、小さい対象物を1回転させる割合が6.4%向上した。
この技術により、インハンドマニピュレーションを実行できる対象物の種類および位置や姿勢の変更範囲の拡大に繋がることが期待できる。

開発した制御システムにおいては、各フィンガ表面を無限循環するベルトを備えた2指ハンドと、ハンドに正対する位置に設置したステレオカメラを用いる。


共同研究の成果を発表

この技術は、パナソニック コネクト株式会社と中央大学理工学部の梅田 和昇教授が率いる研究チームが開発にあたった。
10月1日から5日に米国ミシガン州で開催された電気・情報工学分野で世界最大規模の学術研究団体IEEEにおける「IROS 2023/IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems」にて“Vision-Based In-Hand Manipulation of Variously Shaped Objects via Contact Point Prediction”のタイトルで、ロボットハンド制御技術についての共同研究の成果を発表した。
また、2023年9月11日から14日に仙台で開催された「第41回ロボット学会学術講演会」においても、“接触点の予測に基づく画像を用いたIn-Hand Manipulation”注2を発表した。
この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業の結果得られたもの。

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ロボスタ編集部

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