製造業からマッサージロボまで 中国・協働ロボット最大手のAUBOが日本に本格進出
協働ロボット市場でいま大きくシェアを伸ばしている中国企業がある。2015年に創業されたAUBO Robotics Technology(AUBO)だ。2021年頃から急激に成長を始め、既に23,000台以上のロボットをグローバルで販売している。AUBOは2023年4月に日本法人を設立。本格的に日本国内に進出を始めた。武器は価格競争力、導入前サービスやアフターフォローだ。
■伸び率31%で成長中の「協働ロボット」市場
■AUBO最大の強みは価格競争力
■安定性と精度で大手顧客からも大量採用
■中小企業でも導入しやすい「パッケージ」も用意
■5,000台出荷のマッサージロボット
■医療や農業用にも既に展開中
■本社と連携し素早いレスポンスが可能
■伸び率31%で成長中の「協働ロボット」市場
国際ロボット連盟(IFR)が2023年9月末に発表した2022年のロボット市場動向の統計によると、協働ロボットのシェアがついに1割を超えたとのこと。伸び率は31%。グラフはこちらにある。
「協働ロボット」とは、適切なリスクアセスメントを行って安全性を確保すれば、人と同じ空間で使える産業用ロボットのことだ。動作が遅い、力は出ないといった弱点はあるものの、価格が相対的に安いこと、ティーチングが楽で運用コストが低く、そして産業用ロボットでは必須の「安全柵」で区切る必要がなく、限られた空間しかない狭小な現場でも使えること等から、人手不足を背景に徐々に普及しつつある。
主な用途は、色々な加工機に部品を投入したり取り出したりする「マシンテンディング」や、段ボールケースをパレットに積む「パレタイズ」あるいは下ろす「デパレタイズ」など。AGVやAMRのような移動台車と組み合わせる使い方もある。工作機械へのロード・アンロード作業にロボットを使えば、一人の作業者が十台の機械の面倒を見ることができ、そのぶん人件費が浮くだけでなく、人により高い付加価値の作業をやってもらうことができる。他にも「ねじ締め」や「検品」、熟練者が必要な「溶接」に「研磨」など、より高度な作業にも使われつつある。
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基本的にアンカーで床に固定して、大量生産に用いる従来の産業用ロボットと違って、協働ロボットは多品種少量生産の現場にも柔軟に対応しやすい。また狭い場所でも使えることから、製造業だけではなく、サービス分野でも使われている。どの分野でも共通するメリットとしては、ロボットを使うと生産性だけではなく、製品の質が安定することから歩留まりも向上するという点もある。ロボットも道具なので、どういう場所でどう使うか、要するに「使いこなし方次第」だ。
特に全く新しい現場を1から作るのではなく、これまで稼働している現場を動かしたまま徐々に変えるためには、人作業をそのまま置き換えることができる協働ロボットが向いている。いきなり大きなコストをかけるのではなく、まずは自動化を始めるための「最初の一歩」として使えるという面もある。自動化しなかった工程の人の作業の質も変化したという話もときどき耳にする。
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■AUBO最大の強みは価格競争力
協働ロボット市場で、およそ半分のシェアを持っているのがデンマークの企業・ユニバーサルロボット(UR)だ。協働ロボット市場を切り拓いたパイオニアであり、トップを走っている。そして特に2021年以降、急激に存在感を増しつつあるのが中国の遨博(北京)智能科技股份有限公司、AUBO Robotics Technology(AUBO)である。
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2022年の段階で、ロボット出荷台数は23,000台。同じく中国発のJAKAと並んで、シェアと存在感を伸ばしつつある。MIRインダストリー調べによれば、中国での出荷台数はURやJAKAを抑え、5年連続1位。2021年時点の市場シェアでも3割を占めてトップとなっている。なお中国市場では、2025年には協働ロボットが産業用ロボット全体のおよそ14%を占める見込みだという。
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AUBOが設立されたのは2015年。創業者は北京航空航天大学 教授の魏洪興(Wei Hongxing、ウェイ・ホンシン)氏だ。現在の社員数は550名くらいで、年間30%以上の収益成長を維持している。
販売しているのは6軸の垂直多関節型の協働ロボットで、ラインナップはiシリーズ、Cシリーズ、iSシリーズに分けられている。コーポレートカラーのオレンジ色のスタンダードな「iシリーズ」は可搬重量3kg〜20kgのモデルがある。白と青に塗られた「Cシリーズ」はサービス業や小売業向けで可搬重量は3-10kg。繰り返し位置精度はやや落ちるが、より低コストで導入でき、3-9ヶ月程度で投資回収できるとしている。より高性能な「iSシリーズ」は7kg、10kg、20kgの可搬重量モデルがあり、特に精密製造や塗装などに適しているとしている。
AUBOは2023年4月に日本法人としてAUBOロボティクス株式会社を設立し、国内にも本格的に進出し始めている。導入前サービスやアフターフォロー体制に力を注ぐ。最大の強みは価格競争力である。AUBOロボティクス株式会社 営業の永倉賢次氏は「安価に高品質のロボットを提供できる」と語る。掲げているミッションは「知能で世界を変え、協働で未来を切り拓く」。話を伺った。
■安定性と精度で大手顧客からも大量採用
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AUBOのロボットは、AUBO自体の製造ラインでも減速機の組み込みラインやネジ締め等で使われている。同社の製造ラインは中国・常州と山東にあり、製造に関わる社員は25名。生産台数が増えたときには、特殊な技術がいらない作業については派遣社員で補うかたちをとっている。メインの製造ラインの隣に半自動化ラインを追加で作り、ロボットを100台以上使って、人がやるところは人がやり、ロボットがやるところはロボットで切り分けて作業を行なっている。そのほか各社の大規模製造ラインにも数百台単位で導入されているという。
AUBOのロボットは中国チェリー自動車のエンジン製造ラインには200台導入されており、さらに大量に追加導入される予定があるという。同じく電気自動車大手のBYDのラインには850台、車載バッテリー企業のCATLにも数百台単位で導入されているとのこと。
協働ロボットは日本メーカー含め、各社から販売されている。力覚センサーやカメラの有無といった違いを除けば、できることや性能は、特にカタログ値で見るとだいたい同じだ。後述のような簡単導入パッケージを用意している会社もAUBOだけではない。各社スペックがカタログ上は横並びのなか、大手顧客からAUBOが選ばれている理由としてAUBO永倉氏は「触ってみたらわかる品質の違いはある。安定性と精度が違う」と語る。
さまざまな用途がある協働ロボットだが、AUBOでは研磨やバリ取りに使うことは推奨していない。むしろ、ロボットのギアに負荷がかかるため「できるだけ避けよう」と言っているという。得意不得意があるので、もともと得意としない領域に無理して適用する必要はない、故障を招くだけだという考え方だそうだ。
コア部品は全て内製。ブレーキは他社の一般的な協働ロボットとは違うタイプを採用。コア部品を全て自社で内製している理由は、コストダウンができることと、中国サプライヤー独特の事情で、外注すると品質が安定しにくいため。改善もしやすい点もメリットだ。最近も関節部の構造を改善し、より安定して稼働できるようになったという。また以前は低速動作するとビビりが出るため溶接やシーリング動作は苦手としていたが、今では低速でも綺麗に動けるように改善されたという。
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部品はモジュール化されており、必要に応じて交換することで修理対応ができる。日本子会社でも各部品の在庫を持って、即応できるようにする。故障や修理については通常は一ヶ月程度だが、必要に応じて本体入れ替えで対応することもできるのでラインを止めることなく対応できるとしている。
協働ロボット市場は伸びているが、いま、中国は景気が悪化している。特にアメリカからの中国向け投資が無くなり、一気に減速していることは周知のとおりだ。中国メーカーということで日本からの撤退を懸念する顧客も多いが、永倉氏は「AUBOは3年間黒字。可能性は低い」という。部品も全て内製なので、供給も安定していると語る。品質保証期間は2年間。「サービスやアフターフォローを優先した上で、お客様に迷惑がかからないようにしていきたい」という。
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■中小企業でも導入しやすい「パッケージ」も用意
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AUBOでは、専門のエンジニアがいない中小企業でもより導入しやすいようにパッケージも提供している。日本でもロボットと昇降リフト、専用架台などをパッケージにした「パレタイジングパッケージ」を販売中だ。パレットの寸法、積み荷の寸法と重量を計測して入力、荷姿を選択すればパレタイズしてくれるというもので、可搬重量20kgのロボットならば、ハンド部分の重さを引いた14kg程度のケースをパレタイズできる。
■5,000台出荷のマッサージロボット
AUBOのロボットは4割はOEM出荷で、それらはコーポレートカラーのオレンジ色以外で塗装されていることもある。AUBOのロボットはサービス分野にも使われている。しかもその使われ方と規模がいかにも中国だ。もっとも特徴的なのが大手マッサージチェーンの「秀域」というグループのマッサージロボットである。カメラと力覚センサーを組み合わせたロボットで、なんと 5,000台も出荷されているという。
たとえば7床くらいあるマッサージ店だと、施術者が二人しかおらず、ロボットを設定し、あとはロボットがマッサージを行うというかたちで使われている。「コロナ前は全員人が行っていたものですが、コロナが始まって人が来れなくなったときにこのロボットを開発して、利益6倍になったと聞いています」(永倉氏)ということだそうだ。なお日本ではマッサージ機は医療機器となるので、現在は販売はできない。だが大きな潜在ニーズがありそうだ。
マッサージロボットは、マッサージ用の手持ち機器をロボットのエンドエフェクタとして使ったものだ。いわば、溶接ロボットなどと同じである。せっかくなので筆者もマッサージしてもらった。マッサージのためには上半身を脱ぐ必要がある。機械が背中を認識すると、その上にロボットが動く経路が自動生成される。必要に応じてタッチパネルを使って、手直しすることも可能だ。あとはオンにすればいい。マッサージ中は本体から楽しげな音楽が流される。
実際にやってもらった感覚は、思ったよりもやさしい感覚だった。もっとも、強度は設定を変更できる。温度刺激も加えることができ、温度が上がってくると、少しチクチクするような感覚もあって面白かった。中国ではモグサを入れた筒などを使って温度刺激を与えたりもしているそうだ。もともと、筋肉の奥まで刺激が与えられるよう十分な強度で施術するというのが人手で行うマッサージでも基本となっていて、そういった動きを再現できるようになっているとのことだった。このあたりは国による違いが大きそうだ。
■医療や農業用にも既に展開中
そのほか、電機産業はもちろん、自動車の自動充電、農業分野でも使われている。医療分野や検査などでも使われているという。
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このあたりの展開のスピードには、ただただ驚くばかりだ。展示会に出展すると、その間にも実際に数台売れていくそうだ。
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色々な動画を見せてもらったが、美容化粧品「HARMAY」の高さ3F分の立体倉庫で使われている様子には唖然とさせられた。中を鏡張りにして、より広く見せるようにしているせいもあるが、立体倉庫のなかで多関節ロボットをわざわざ使って商品をピックアップして梱包している。デモンストレーションの意味も強いのだろう。
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■本社と連携し素早いレスポンスが可能
「AUBO」という社名には、「技術で自由に羽ばたく」という意味が込められているそうだ。日本国内でも製造業だけに囚われることなく、サービス業も含めてさまざまな分野に対応したいという。中小企業へのパッケージ導入はもちろん、大企業に向けた導入も行いたいという。
国内代理店は今のところ株式会社三機だけだが、今後は「AUBOのロボットをきちんと気に入ってもらって、愛して売ってもらえるような会社とパートナーを組んでいきたい」という。エンドエフェクタ(ハンド)のメーカーとも提携を進める。現在は日東工器とSMCがパートナーとなっているが他社にも広げていきたいという。国内拠点を構えたことにより、本社の技術とも連携し、レスポンスの早い技術フォローやトラブル対応が可能な点をアピールしていきたいとのことだった。
AUBOロボティクス
ロボットの見方 森山和道コラム
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!