ドローンに搭載可能な小型軽量ミリ波レーダで建築物の外壁内部の欠陥検出実験に成功 大阪大学とJFE商事エレクトロ二クス

JFE商事エレクトロニクスは、大阪大学と共同で、ミリ波レーダ技術を使用した非接触・非破壊によるタイルとモルタル層の間の空隙やコンクリート躯体とモルタル層の間の空隙等建造物外壁内部欠陥の検出実験に成功したことを発表した。

2021年の1回目の実験後、2回目となる今回の実験では、ミリ波レーダの小型軽量化や1点あたり測定時間を1/1000以下の1ミリ秒で検出するなど大幅な改善を確認することができたという。


ドローンを活用した非破壊検査の実証実験

ドローンを活用した非破壊検査

マンション・オフィスビルなどの高層建築物の外壁点検作業では、打診や目視による調査が主流となっている。技術発展に伴い、ドローン等を活用した高精度カメラや赤外線によってより精緻な調査も可能となったが、内部欠陥を可視化できる方法ではないため測定結果の信頼性がひとつの課題に挙げられていた。

この状況を受けJFE商事エレクトロニクスでは、以前から交流のあった大阪大学と協力し、物質に対する透過能力を持つマイクロ波・ミリ波を用いた新たな点検方法の開発プロジェクトを始動。2021年に第1号機を発表し、煙突内壁のライニング材の肉厚を非接触・非破壊で透視に成功。そして今回、レーダ部分の技術改良により、建築物外壁の内部欠陥の直接可視化に成功した。

第2回実証実験の概要

第1号機から今回主に改善された内容は、「重量」「感度」「測定時間」の3点。


1:レーダ部重量は1/3以下、小型ドローン化も実現

第1号機では1300gだったミリ波レーダ部の重量を、技術改良によって435gまで軽量化に成功。これに伴い、前回の実験では大型ドローン(6.3kg)でなければ実現できなかった機能を、小型ドローン(1.4kg)で実現できるようになった。


2:近接距離向上による高感度

ドローンが浮上するためには揚力が必要となりますが、一般的にドローンが大型化するほど大きな揚力が必要となる。このため、大型ドローンで外壁に近接させた場合、ドローン自身が発生する風によって安定した飛行が困難になる。小型ドローンは大型ドローンよりも必要とする揚力が小さいことから、ミリ波レーダのアンテナ部を壁面10cm〜30cm程度まで近づけることに成功。これにより内部欠陥の検出を、より高感度でおこなえるようになった。


3:測定時間を1/1000まで短縮

第1号機では測定箇所1点あたり数秒かかっていた測定時間を、技術改良によって1000分の1以下の1ミリ秒で検出可能とした。一般に空中のドローンは静止状態でも微小に揺らぎますが、数ミリ秒はこの揺らぎよりも十分に短い時間のため、より精密な測定が可能となる。


技術詳細

ミリ波レーダについて

モルタルやタイル内部の欠陥をレーダーで検知

本プロジェクトにおけるミリ波レーダ技術は、光通信技術を活用したレーダシステムであり、電波の周波数差分を確認することで外壁内部の欠陥位置を把握するもの。

光通信波長(1.55μm)帯で、2つの異なる波長の光信号を発生させ、光ファイバで伝送し光信号を光電変換器に与えることで電気信号化。これにより、2つの光信号の波長差に対応した周波数の電波を発生させます。光波長を精密にコントロールすると、およそ4GHz〜40GHzの範囲において、任意の帯域で電波を作ることが可能となる。

この電波の周波数を変えながら、対象物に照射。対象物から反射して戻ってきた電波と、元の電波との振幅相違関係を計算することで、外壁内部の欠陥位置を把握できる。


前回実験からの主な変更点

ドローンを活用した非破壊検査 仕組みのイメージ図

今回の実証実験では、4GHz〜40GHzの周波数範囲を高速で変化させる技術を新たに開発。これにより、1点あたり1ミリ秒以下でレーダ照射したポイントの欠陥情報の取得が可能となった。

加えてドローンのペイロード(搭載機器)は、光電変換器、レーダ回路、そしてアンテナ(送受信用)のみとすることで大幅に軽量化。光信号の発生や信号処理をおこなうための制御機器は地上に置き、ドローンとは軽量の光ファイバケーブルと低周波電気信号ケーブルでつなぐ形式により機能の実現を図った。

尚、本研究成果は、2023年12月5日(火)~8日(金)に台湾で開催されている国際会議「アジア・パシフィックマイクロ波会議(Asia-Pacific Microwave Conference: APMC2023) 」で発表された。


大阪大学大学院基礎工学研究科 永妻忠夫教授氏コメント

大阪大学大学院基礎工学研究科 永妻忠夫教授氏

今回の実証実験では、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の大型電波暗室を使わせていただきました。ドローンは、GPSが届かない環境下におかれ、プロの操縦士によるマニュアル制御での飛行となりました。今後、自立飛行型ドローンや遠隔ロボット等と、開発したレーダ技術とを組み合わせることにより、実用化に向けて研究開発を一段と加速したいと思います。


今後の展望

現在、建設業界内では、全体的な労働人口の減少や、技術職の高齢化・引退による技術伝承・調査人員の不足などが慢性的な課題のひとつ。そのような環境の中、ドローンを活用した点検は効率と安全性から市場のニーズも高く現在の数百億円規模から2027年には1000億円規模以上まで成長すると見込まれている。

今後は、ミリ波レーダを搭載したドローンやロボットを建築物に対して2次元平面で広域走査するための技術開発、ならびに様々な構造物やインフラ設備の診断への実利用化を進めていくとしている。

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ロボスタ編集部

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