南相馬のロボット・製造業 人機一体とロボコム・アンド・エフエイコムが語るロボット熱

福島県南相馬市UIターンセミナー「自動化・機械化で、南相馬から製造業とロボットの概念を変える」が2023年12月14日にオンラインにて行われた。主催は南相馬市役所 商工観光部 移住定住課。「ロボin南相馬」を掲げる南相馬市では製造業に焦点を当てたセミナーを開催しており、今回が第4回目。これまでのセミナーのダイジェスト・アーカイブも公式サイトから見ることができる

第4回は「身体拡張」と「ファクトリー・オートメーション(FA)」をテーマとして、株式会社人機一体ロボコム・アンド・エフエイコム株式会社が登場した。司会はラジオDJの藤原カズヒロ氏と「ミナボくん」。





■人と機械を一体化し、危険・重筋作業からの解放を目指す人機一体

2023国際ロボット展での人機一体ブース

まずは両社の設立経緯の紹介から。人機一体 広報 / 採用担当の梅田幹太氏は「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」という人機一体の理念を紹介。同社は創業者の金岡博士が東日本大震災時にロボットが活躍できなかったことを悔しく思ったことから、ロボット技術の社会実装を目的として、活動している。

人機一体 創業者で代表取締役 社長の金岡博士。「マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)」の提唱者。

対象分野は重作業やインフラメンテナンス。人による臨機応変な判断が可能な遠隔操作ロボットを使って、人手作業を機械化しようとしている。

人機一体 広報 / 採用担当 梅田幹太氏(左)と知財開発部 ロボットエンジニア 花岡宏匡氏(右)

人機一体 知財開発部 ロボットエンジニアの花岡宏匡氏は、同社の社名「人機一体」は「Man-Machine Synergy」をもとにしていると紹介した。福島県相馬地方で行われている「相馬野馬追」で見られる「人馬一体」のように、人と機械が一つの体になったかのように巧みに操れるロボットの実現を目指している。

2023国際ロボット展での遠隔操作ロボット同士のパーツ受け渡し

要するに、機械が感じる力を、操作している人が自分自身の体で感じることができるロボットシステムだ。同社では人とロボットやハイテク重機などをうまく繋げるための各種要素技術を開発し、ロボットへと組み上げている。

2023国際ロボット展の展示の一部。人機一体では機械が感じる力を操作者が感じられるシステムや自由に力の大きさを変えられるシステムを作っている

多くの過酷作業を今でも人が行なっている理由は、繊細な力加減が必要だったり、現場での臨機応変な対応が必要な作業が存在するからだ。それらの作業を安全な場所から力加減しながら遠隔操作できるロボットがあれば、少なくとも危険はなくなる。花岡氏は、このような技術で世の中を変えていきたいと考えていると述べた。

2023国際ロボット展に出展された「人機械操作機 ver.3.2」。両手両足で力制御でロボットを動かすための装置




■ロボコム・アンド・エフエイコムのデジタルファクトリー

ロボコム・アンド・エフエイコムのデジタルファクトリー

ロボコム・アンド・エフエイコムについては総務部 マネージャーの山口仁氏が紹介した。同社は金属加工の現場で変種変量生産を実現することを目指している。南相馬工場ではロボットシステムのパッケージ化、精密加工、金型依存からの脱却、海外エンジニア教育事業などを掲げている。変種変量に対応するためのデジタルファクトリー、エネルギーマネジメント、販売から生産設備まで連動した生産システム、ネットワークセキュリティを売りとしており、これは稼働すればするほど改善が進み最適化される工場だという。

浜通り地域にロボコム・アンド・エフエイコムが進出を決めた理由は二つ

ハイスペックの加工機を多数備え、近隣企業への二次加工の発注や、地元雇用も創出している。「南相馬から世界に技術を発信していきたい」とのことだった。

近隣企業とも連携




■「知識製造業」としての人機一体

2023国際ロボット展に出展された「零式人機ver.2.0」と「零式人機ver.1.3」

続いて、各社の事業が具体的に紹介された。人機一体といえばもはやお馴染みの「零式人機ver.2.0」は、高所作業者のブームの先に大型上半身ロボットがついていて、いわゆる「高所重筋作業」を機械化するためのロボットだ。「人だけでも、機械だけでもできない作業の自動化」をねらいとおり、JR西日本、日本信号と共同開発を行なっている。

2023国際ロボット展ての人機一体ブース。多くの来場者が集まった

11月末に行われた「2023国際ロボット展」では、「零式人機ver.2.0」のほか、汎用単腕重機「零二式人機 ver.1.0」など、様々なロボットを出展。ロボット同士が連携して、モノを運んだり、受け渡したりする様子をデモで披露し、多くの来場者たちやメディアからの注目を集めた。

*動画

なお、人機一体で行なっているのは研究開発まで。製品化は行なっていない。製品化そのものは日本信号で行なっており、人機一体社から知財を提供して、開発してもらうというビジネスモデルだ。製品化も順調に進んでおり、「2024年度中には線路工事にロボットが活躍する時代が来る」という。

日本信号の多機能鉄道重機の製品試作機。2024年度に製品化予定で進行中

「人機一体は製品を作るわけではないので『製造業』ではない。自らを『知識製造業』と位置付けている」と梅田氏は語った。技術を体系化してメーカーに提供して販売・活用することを目的として活動している。

人機一体は自らを「知識製造業」と位置付けて、他社に知財を提供

人型ロボット以外にも、クレーンやバックホウのような油圧重機の電動化も進めており、タダノや椿本チエインと研究開発を進めており、油圧シリンダ代替の力制御電動シリンダの開発等を進めている。

力制御電動シリンダ「人機並進駆動ユニット」。詳細はリリース参照 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000070266.html

また、現在のショベルカーは複雑なレバー操作が必要だが、人機一体の技術を使うことで、一つの操縦桿でアームを自在に扱えるようになるという。

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■人機一体は汎用の遠隔操作ロボット開発を目指す

ツールを使った作業も可能

人機一体・梅田氏は「人型は好きだが、必然性はない。作業に合わせて片腕だけのほうが良かったり、フォークリフトの形がふさわしいこともある。『零式人機ver.2.0』の場合は、作業を考えていくなかで結果として人型になった」と語った。

零式人機ver.2.0は人との協調作業も実験中

そして「専用ロボットはたくさんあるが、人機一体は汎用型をテーマとしている。一つの作業専用だけだと、ベンチャーとしてはビジネスを進めづらい。様々な作業ができるロボットをスタンダードとして開発して、様々な道具を持たせて、色々な作業を行うことが重要だと思っている」と述べた。

人型にはこだわらないとしながらも、ヒューマノイドならではの二足歩行の開発も進めている。これには川崎重工業が開発しているヒューマノイド「Kaleido(カレイド)」を活用している。成人男性くらいのサイズを活かし、人が生身でやっている作業のうち、危ない環境で行う作業を遠隔操作で実行し、人の作業を代替させる計画だ。

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梅田氏は「災害現場や工事現場、インフラメンテナンスなど未知環境では、現場に行ってみないと、その場がどうなっているかわからない状況がある。いまのロボットでは判断ができないので、人が行って判断しないといけない。臨機応変な対応をすることが重要」と語った。


■ロボット操縦のうまい「ニュータイプはいます!」

ロボットの操作がうまい「ニュータイプ」のような人はいるとのこと

人機一体では力制御技術をベースとしつつ様々なロボットを開発しているが、「完全な自動化」ではなく遠隔操作による機械化を目指している。将来は「ロボットパイロット」という仕事も生まれると考えており、花岡氏は操縦もうまいという。花岡氏は「操縦はすごく簡単で、割と直感的に動かせるですが、やっぱりうまい人はいるので、ニュータイプはいます!」と語った。




■ロボコムの工場では人機一体のパーツの開発も

ロボコム・アンド・エフエイコムの加工工場

ここでいったん、ロボコム・アンド・エフエイコムの話に移った。工場は5つのブロックに分かれている。一つ目はほぼ無人の「ロボット自動化エリア」。二つ目は「大物加工エリア」。3つ目は「小物加工エリア」。4つ目は「3Dプリンタエリア」。5つ目は品質管理を行う「QCエリア」だ。専門家なら大盛り上がり間違いなしの各種加工機械が揃っており、人機一体の花岡氏も工場長と大いに盛り上がったそうだ。

ロボコム・アンド・エフエイコムはロボットシステムインテグレーター

同社はロボットにハンドやセンサー、各種周辺設備などを組み合わせて提供する「ロボットシステムインテグレーター」だ。ロボコム・アンド・エフエイコムは、一社が全工程を行うのではなく、水平分業で導入を進める進め方を提唱して進めている。案件の早期解決、競争による価格の低減といったメリットがあり、それをパッケージ化するマスカスタマイゼーションを進めている。

ロボコム・アンド・エフエイコムの加工品の一部。中央のパーツは人機一体・花岡氏の設計

人機一体とロボコム両社は一緒に仕事をすることもあり、人機一体の新しい電動アクチュエータの試作機の天板の加工などもロボコムで行なっているそうだ。人手不足は各社抱えている課題だが、花岡氏は「細かい相談にものってくれる。大変助かっている」と語り、「組み立てたあとのちょっとした悩み、細かい泥臭いところの苦労も、物理的に近い距離感で協力してくれる。昔ながらの町工場で見るような距離感のコミュニケーションが存在している」と語った。ロボコム山口氏も「熱い思いを持っている人が南相馬市には多い。最後は人」と述べた。




■余白の多い南相馬から見る「未来のロボット社会」

ロボコム・アンド・エフエイコム 総務部 マネージャー 山口仁氏

続けてトークは、これからのロボット社会について、そして南相馬市のこれからについてというテーマに移った。ロボコム山口氏は「ロボットや自動技術が普及してくると、今とは時間の使われ方が変わってくる。家庭を重視したり長期休暇を取る欧米に近い仕事のやり方になるのでは」と述べた。

人機一体・花岡氏は「ロボットもスマホのように必須になり、未来の新しいスタンダードになる。スマホは人間の情報処理能力を拡張させた。人機一体の技術を使えるようになると労働に使う『力の拡張』が行える。重労働現場でも、操作するロボットがどんどん使える世の中になるはず。車が生まれて新しい職業が生まれたように、ロボットがあることで、ロボットならではの職業、ロボット操縦がうまい人だからこそできる仕事や、余暇が増えたときにロボットを操縦する人によって新しい仕事も生まれると思うし、可能性は尽きない」と語った。

なお「個人的にはどんなロボットがあったらいいか」という問には花岡氏は「見た目がかわいくて話し相手になってくれるロボットがあったらいいな」と答えた。人機一体のロボットは「敢えて見た目はフレンドリーではないようにデザインしている」とのこと。ロボットは人とは違うし、人と一体になりえるものであり、「危ないもの、大きな力をコントロールしているということを忘れてはいけないと考えているから」だという。




■ものづくり企業やロボットテストフィールドが集積している南相馬

南相馬には熱い人と技術を持った企業が集積しているという

「南相馬の事業環境の良いところは」という問いについては、ロボコム山口氏は「人がとにかく熱いので、横の連携でやりたいことがすぐにできる」、そして「一企業では為し得ないことを速やかに連携して進められる」と述べた。

人機一体・花岡氏も南相馬市の支援の厚さを評価し「ロボットは動かさないといけない。東京ならロボットを試しに動かすのも大変。福島テストフィールドなら雨も気にせずに色んな評価ができる。トンネルや街の交差点もあり、いろんなテストをしてイメージを膨らませることができる」と語った。

そして、「巨大ロボット専用施設はないが、いろんなテストを安全に行うことができる。まだまだ土地は広がっているので、大きなロボットを作っていくにあたって拠点を広げていくこともできるだろう。余白がたくさんあり、『発展性』という意味でもそれがまた強みだと思う。失敗できることは財産。安全にいろんなテストができ失敗ができる点で非常に世話になっている」とと述べた。

南相馬の地元製造業との可能性についても、ロボコム・アンド・エフエイコムとの縁を繋いでもらった南相馬市産業創造センターの役割を評価。「我々はゼロを1にすることに特化している企業。特許だけでは伝わらないのでロボットを作っている。それをさらに広げる過程は、多くのものづくりの企業が担っている。うまい流れができているのではないか」と述べた。

ロボコム・山口氏も同意し、「すぐにアイデアをかたちにするには互いの距離の近さは重要」と答えた。そして「金属加工だけでなく自動化・省力化でも地場企業に貢献したい」と語った。「製造業は技術が集積していることが強み。今後は地方から技術発信していく時代になっていく」と述べた。

花岡氏は「南相馬市でなくてもできたかもしれない。だが、ロボットに力を入れることについては無視できないし、東北の震災にロボットでリベンジしようとしている我々としては、その聖地にしていきたい。『だから、ここなんだ』と行き着くものはある」と述べた。




■今後は開発したロボットが流通・運用される時代へ

司会のラジオDJの藤原カズヒロ氏と「ミナボくん」

司会からの最後の質問は「これからの南相馬のロボット産業はどうなっていくか」。山口氏は技術集積はもう理解してもらえていると思うと語り、「今後は実証、ロボットがともにある街という点でもっと尽力していきたい」と述べた。

花岡氏は「南相馬市に来た人は、ギョッとするような光景を見ることになる。たとえば工事現場では色々なロボットが使われている様子が見られるようになるだろう。いまは試行錯誤している段階。今後は開発したロボットが流通して運用されるようになる。そのための職業が各地で出てくる。新しい開発も進む。そうなるとまだ世の中に出回っていない新型ロボットが、ここなら見られるようになる」と語った。


■南相馬のロボット企業に来てほしい人材とは

人機一体は「新しい技術・ビジネスに前向きに取り組める人」に来てほしい」とのこと

最後に人機一体・梅田氏は「新しい技術・ビジネスに前向きに取り組める人」に来てほしいと語った。同社ではいわゆる理系の人間だけではなく、文系の人も半分くらい在籍しているという。梅田氏自身もロボット企業で働くとは思っていなかったとのこと。社員の性別は男性に偏っているが、多様性の観点からも女性にも参加してほしいと述べた。

なお人機一体には一ヶ月に一回、「人機・特別休暇」なる制度があるそうだ。これは「休むときは休むべきだ」という金岡博士の考え方によるものだという。花岡氏は休暇ではゴーグルをかぶってVR空間に没入しているとのこと。

ロボコム・アンド・エフエイコムは「柔軟な発想で、お客様の立場に立って一歩上の最善を」

ロボコム・山口氏は「柔軟な発想で、お客様の立場に立って一歩上の最善を」と呼びかけた。製造業の人気は高いとは言えないが、日本製のデジタルファクトリーは外貨獲得の手段になるし、今後は「ファクトリーデザイナー」のような仕事があってもいいという。新しい発想で「顧客の改革」ができるくらいインパクトのある仕事をしたい人、人の意見を柔軟に吸収できる人を望むとのことだった。

なお、2024年2月3日(土)には、南相馬のロボット関連企業が集合するイベントが予定されている。会場は新橋APビルとのこと。詳細は公式サイトをチェックしてほしい。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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