ソフトバンクが「AI-RANアライアンス」設立を発表 NVIDIA・Arm・Microsoft・AWSらとAIを軸に通信インフラ置換えへ

ソフトバンク株式会社は2024年2月26日、Arm、NVIDIAなど複数の企業などと共同で「AI-RANアライアンス」を設立することを開催中の「MWCバルセロナ2024」内で発表した。

「AI-RANアライアンス」の設立メンバー。NVIDIAやArmなどのエッジからデータセンターまでチップとソフトウェア技術を持つ企業のほか、ノキアやエリクソン、サムスンなどの通信機器関連メーカー、AWS、Microsoft、T-Mobile等に、大学も参加し、要所を抑えたメンバー構成となっている

一部で先行報道が出ていたが、発表に先立ってソフトバンクの執行役員も湧川氏からアライアンスの目的や特徴など、報道関係者向けの説明会が行われた。

ソフトバンク株式会社 先端技術研究所 執行役員 所長 湧川隆次氏


「RAN」と「AI-RAN」

湧川氏は冒頭で、今後、スマートフォンの通信事業の基盤となっている基地局の運営や電波の活用が大きく変化していくことをあげ、基地局の運営から「AIインフラとアプリ」活用が収益を生み出すことを説明した。


そこで提唱したのが「AI-RAN」だ。「RAN」とはRadio Access Networkの略で「無線アクセスネットワーク」の意味。狭義では無線機器やシステムを指すこともあるが、ここでは、いわゆる通信事業者による基地局から通信網、クラウド・アクセス等、スマートフォンなどの通信ネットワーク全般を示していると考えた方が解りやすい。
最近、業界の動向としては、RANの仮想化(ソフトウェア化)と、コンテナやクラウドネイティブのRANへの移行が積極的に進められていて、標準化団体として「O-RANアライアンス」がオープンRANインタフェースの業界標準の検証や策定を進めているニュースを耳にしたことがあるだろう。ただ、「AI-RANアライアンス」は「O-RANアライアンス」とは全く別ものだ。今後、「AI-RANアライアンス」で研究・検証してきた技術を「O-RANアライアンス」に提案していくような接点はあり得るとしている。


では「AI-RAN」とは、具体的にはなにか?


「AI-RAN」とは?

湧川氏によれば、「AI-RANアライアンス」が提唱していく「AI-RAN」とはRANにAI技術を活用するもので、大きく3つに分類して「AI-and-RAN」「AI-on-RAN」「AI-for-RAN」を掲げた。



AI-and-RAN

RANとAIの設備の共通化を一例として、通信基地局やデータセンターなどプラットフォーム全般で、RANで使用している設備をAIでも活用するというコンセプト。
設備の利用効率の向上をめざすもので、判りやすいところで言うと、通信事業者が通信のために使用してきたハードウェアとしての設備を、RANのソフトウェア化によって、通信での使用が少ない深夜から明け方にかけての時間帯などをAI推論等の計算資源として運用しようというものだ。通信のために使用していたリソースはコストだが、AI推論などの計算資源として活用すれば収益を生む、という考え方だ。



AI-on-RAN

湧川氏は「5G」のキラーアプリケーションが未だ登場してこない実状を課題としてあげた。その要因のひとつとして、現在、普及が進んでいる「5G」は、高速性や低遅延性などを有しているものの、ユーザーが体感として感じる機会が少ない。それは、モバイル通信の部分が5Gで大容量高速化しても、クラウド接続などのインターネットの関連インフラが従来の環境と変化がなければ、そこが結局はボトルネックとなり、高速性は享受できないのが実状だ。「AI-RAN」ではAI推論などの高機能演算が必要なリソース部分をインターネットではなく、できるだけエッジ接続環境に変えることで「5G」の高速性を最大限発揮できるように環境を変えていく、とした。


こうした高速化、低遅延か技術と連動したアプリケーションやサービス提供を行うことで、5Gの特性を活かしたキラーアプリケーションの登場にも繋がると、その可能性を示唆した。




AI-for-RAN

無線機としてのRANを、AIによって性能の向上をはかるもの。これが実現すれば、周波数の利用効率が上がり、AIによる通信性能の効率化によって同じ基地局数でもトラフィック性能が向上した快適な通信環境に繋がるとしている。


具体的な例としては、基地局の通信をレイアーごとにAIで最適化したり、欠損した通信部分をAI推論によってリカバー(チャネル推定)したりが考えられるという。また、5Gでは特に有効な分散MIMOや、複数の帯域を束ねることで通信速度を高速化するキャリアアグリゲーション(CA)などもAIでの効率化に有効ではないか、とした。


マイルストーンやロードマップはこれから

マイルストーンやロードマップはこれから検討していく段階のようだ。湧川氏は「ソフトバンクは、通信環境をAIを軸にしたインフラに置き換えていくことを、テレコム業界に浸透させたい。そして、そこをリードしていくための組織としてこの「AI-RANアライアンス」を立ち上げ、パートナーと協力して運営していきたい」と語った。活動の軸はグローバルで行っていくという。
今後の展開に注目したい。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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