「ロボデックス秋」「スマート工場 EXPO」などから構成される「第3回Factory Innovation Week【秋】」が2024年9月4日から6日の日程で、千葉県の幕張メッセにて開催された。展示会場では、Preferred Roboticsの搬送ロボット「カチャカプロ」、ugoの点検DXロボット「ugo Pro」、Doogの人追従搬送ロボット「サウザー」シリーズなど、本誌でもお馴染みのロボットが来場者から注目されていた。
会期二日目の5日には、ロボット活用による省人化をテーマとした、ウエノテクニカとレステックスによる「『人手不足対策への挑戦!』事例から学ぶロボット導入の経営的メリットとは」と題した講演が行われた。今回はこちらをレポートする。
■生産性を2倍にしたロボットによる省人化の実際 自動化は段階的に
はじめに(株)ウエノテクニカ 取締役の吉原明氏が「中小企業の救世主:ロボットによる省人化の実践事例」と題して講演した。ウエノテクニカは1956年創業。拠点は群馬県桐生市。現在は自動車部品の量産を手がけるヒロテックグループの子会社のラインビルダー、システムインテグレーターとして、自動車を中心に事業を手掛けている。3次元CADに基づいた設計とシミュレーターを使った「デジタルエンジニアリング」を強みの一つとしている。若年者の技能育成にも力を入れており、技能五輪には同社から6回入賞している。
吉原氏ははじめに「産業用ロボットは救世主になる可能性を秘めている」と語った。そしてウエノテクニカが「国際ロボット展」に出展したモバイルロボット、汎用ハンド、AIロボットソリューションなどを紹介した。ウエノテクニカは、これらの標準ソリューションをカスタムして顧客に導入している。
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今回紹介された事例は、群馬県伊勢崎市の中小企業・松本精機に導入されたフライホイールハウジング加工機、投入自動化システムの24時間稼働を目指した自動化。松本精機は精密切削加工を手掛けている。
自動化対象ワークは重量35-40kg程度の鋳物部品であるフライホイールハウジング。工作機械への出し入れ、工程間搬送、切削油のエアーブローを自動化対象とした。レイアウトスペースはウエノテクニカから提案した。高さは天井制限があるため2.6m以内。ワークストックは20個。これは1勤分に相当し、サイクルタイムは28分なので、9時間20分ぶんに相当する。ワークセットは1工程と2工程で裏返しにする必要がある。
最初に引き合いがあったのは2021年7月。半年くらいのヒアリングを経て、要件と仕様を決定。その間に工作機械とロボットメーカーと仕様について議論を行なった。最終的に2022年10月に導入となった。
自動化は、最初はまず現状作業を現場で観察することから始まる。作業は、2台の工作機械を一人の作業者が掛け持ちしており、1工程目が終わるとホイストクレーンを使ってワークを取り出し、エアブロー、そして再びホイストを使ってワークを2工程目に投入するという工程だった。
そこから自動化後の工場レイアウトを提案する。ウエノテクニカからは、ワークを置くワークストッカーや、反転用の仮置き台の設置、産業用ロボットで反転させてエアブロー後に2台目の工作機に投入するという提案を行なった。外周は安全柵で覆う。最初に作った簡単なスケッチをもとに議論を行い、具体的な構想イメージを作り、シミュレーションも実施した。導入したロボットはFANUCの6軸多関節ロボットだ。
吉原氏はワークストッカーや搬送ハンド、エアブロー&ワーク置き台などについても丁寧に紹介を行なった。ワークストッカーはトータル13台(工程内には5台)、カート式とすることで前後工程への搬送も容易とした。エアブローはトイレの手洗い後の乾燥機のようなイメージだという。完成した自動化システムは、生産量の変動にも柔軟に対応できるものとなった。付着したスパッタをブラシを使って除去するといった細かい作業もロボットが行う。
自動化の結果、日勤が24時間稼働になり、生産性は2倍となった。夜間は無人稼働だ。また自動化によって人的ミスがなくなり品質が安定した。高精度が求められる業界で大きな信頼に繋がる。営業面でもプラスで、エンドユーザーに好評で、取引先からの工場見学も増え、企業のブランドイメージも向上したという。
松本精機側からは「自動化が進んだことでさらにやりたいことが増えた。成長するための重要なステップとなった」と言われたとのこと。将来はさらに、最近可搬重量が上がり、やれることが増えた協働ロボットの導入も検討している。さらに効率化と柔軟な生産体制構築に繋げ、競争体力を高めるねらいだ。
導入企業からロボット導入を検討している企業に対してのアドバイスとしては「最初の1台目の導入ハードルは高いが、しっかりした準備と計画を立てることで乗り越えられる」と語った。「色々な導入事例を参考にすることが非常に重要だ」という。また「全ての作業をロボットに任せるのではなく、まずは人の作業の置き換えから始めると自動化は始めやすい。段階的に自動化を進めることで次のステップに活かせられる」という。最後に、自社でやりたいことを明確にすることの重要性をあらためて指摘し「信頼できるSierに相談することが重要だ」と述べた。
■協働ロボットは「制御可能な電動工具」、伝統工芸でも気軽に活用できる
続いて、(株)レステックス 代表取締役の齊藤圭司氏は「協働ロボットの導入敷居をグッと下げる!外注費と購入納期を抑えた新提案」と題して講演した。レステックスは千葉県松戸市のSier企業で、台湾を拠点とする協働ロボット・Techman Robotの代理店。少人数でロボット活用技術の展開、設備設計構築、技術サポートなどを手掛けている。齊藤氏は設計者自身が現場に出ることが重要だと考えていると述べた。Techmanはパッケージ化して販売を行なっている。「4年で80台くらい販売した」という。
なお斎藤氏の講演の要旨は、同社のYoutubeチャンネルでも公開されている。
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齊藤氏はまず、ユーザーがロボット活用で準備すべきところとSIerとの役割分担を紹介した。準備すべきこととしては、目的、選択、期待がある。目的は利益拡大、つまり売上向上だ。手段としてロボットが有効である理由としては、人に頼らない不良低減、品質安定、そして時間をうまく活用できる効率化が理由として挙げられる。そのための仕組みづくりとして「ギャップ分析」が有効だと考えていると続けた。
「ギャップ分析」とは理想を実現するためにやるべき課題を抽出するための手法である。まずは作業分解だ。それぞれの作業を分解し、自動化を検討する。特に「手に負える作業」から、再現性、安全性、連続性を重視することが重要で、「もしかすると全体の2割くらいしかないかもしれないが自動化すべき部分だけにフォーカスして、まずそこを全自動化することが重要だ」と述べた。
具体例として紹介されたのは3台のFANUCロボットを使った鋳物工場での自動化。2台のロボットが前工程で送り出したワークを後ろのロボットが、さらに後工程に回すというものだ。これにも安全構築や周辺機器との連動などもあり、6ヶ月程度かかったという。
協働ロボットの事例として紹介されたのは愛媛県の陶芸工場で、小さな陶芸品に釉薬をかけるという工程。お土産用として「ガチャガチャ」で販売されている砥部焼マグネットに、ピンセットを使ってちょっと釉薬をつける作業だ。これを協働ロボットを使って自動化した。
最初は釉薬を塗る面を重視して作業を自動化したが、現場の人に見せて評価してもらったところ、釉薬はすぐに乾くとのことだったので、最終的には単純に吸い付けて運んで、釉薬をつけて、そのまま置くという作業にした。この最適解はユーザーの意見を聞かないとすぐには見つけられなかったという。
これらの自動化事例から齊藤氏は「日々使う道具に創意工夫をつけて状況を最適化すること、そのためには適度な妥協も必要。すぐに始めてトライアンドエラーを繰り返して使い倒すことが導入の敷居をぐっと下げるのではないか」と提案した。特にSIerに丸投げするのではなく導入企業で社内構築することで創意工夫も進むし、将来財産にもなると指摘した。
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SIerとの作業分担については「さまざまな会社があるので、どう質問するかが重要だ」と述べた。つまり、結果だけを聞こうとするのではなく、「手伝って」といった心構えで質問したほうが良い答えが返ってきやすいし、なるべく社内でやるようにしたほうが、短期立ち上げ、そしてコスト低減にも繋がりやすいと繰り返した。
協働ロボットのコスト感としては、協働ロボットは安全を強化しているぶん高くなっているが、「制御可能な電動工具」として使い倒すことが重要だと語った。細かいところを全て自社でできるのであればパッケージだけで済む。だが全部外部にお任せにすると「ざっくり倍くらい」の金額になってしまう。そこで、最初はある程度外部の力を借りつつも、できるところは自分たちでやることが重要だと目安となる金額を示しながら紹介した。また、SIer側から見て請負見積もりが難しいのは「フォロー訪問回数やデバッグの回数」であり、「それらがなければ比較的リーズナブルになる」と述べた。
そして特に重たい仕事、身体的苦労をロボットにやらせると人に空き時間や余裕が生まれるので、まずは「楽する」ことが重要だと述べ、パレタイジングの自動化事例を紹介した。
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また、「たまに行う作業」は案外失敗することがあるので、それもロボット任せが良いという。紹介された事例は成分分析だ。分析器のボタン操作をロボットが行う。人がやると忘れがちな抜けがなくなる。協働ロボットなので邪魔ならば簡単にどかせられる。検査機とロボットは配線通信は行なっておらず、ロボットは物理的にボタンを押してカメラでランプ点灯を見て作業する。キーボードを打つ記録作業もロボットが行う。
夜間の工場活用もロボット向きだ。たとえば夜間に3次元測定器を動かすことで、資産活用も可能になる。3次元測定器は改造せず、ロボットが自らがタッチペンを持って、パネル操作なども行う。製品や棚の認識もカメラで行う。毎日夜間作業を行わせているという。
レステックスでは、パッケージを活用しながら、このような作業をなるべく早く安価に導入して改善していくということを提案しているという。とにかく使い倒すこと、創意工夫で他者と差別化し、価値創造することが重要だと語った。
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■SIerの敷居は高くない
このあと、日本ロボットシステムインテグレータ協会会長で、三明機工(株)代表取締役社長の久保田和雄氏がモデレーターとなり、パネルディスカッションが行われた。ディスカッションでは省人化やコストの考え方、導入する上でのポイントなどが改めて議論された。
ウエノテクニカ 取締役の吉原明氏は「単純作業の置き換えからスタートするのが良い。そういった作業を自社工程の中から見極めることが重要」と指摘した。コストについては中小企業では一般に「1000万円の壁」があると言われるが、「予算を提案してもらえればできることはある」と述べた。レステックス 代表取締役の齊藤圭司氏も「優れた電動工具としてのロボットを活用して、省人化しようと思うのではなく『楽をしよう』と思うとうまくいくのではないか」と述べた。
三明機工の久保田氏はロボットを導入しようと思っても最初のハードルとなるSIerの活用方法・相談方法についても話を振った。ウエノテクニカの吉原氏は、「SIerと聞くと敷居が高いと思う人もいるかもしれないが、我々も街の鉄工所上がり。気軽に相談してもらえばいい」と述べ、SIer協会のホームページの一覧から相談してもらってもいいし、普段から出入りがある商社もネットワークを持っているだろうと語った。久保田氏も「SIer協会のホームページに自動化相談の書き込み欄があるので、そこに書き込んでほしい」と呼びかけた。
ロボットの見方 森山和道コラム
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!