日本電信電話株式会社(NTT)、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)、日本電気株式会社(NEC)は、共同で、IOWN APNに光ファイバセンシング機能を付与する接続構成を考案した。
既に地下に敷設してある複数ルートの通信用光ファイバ(NTT西日本管内:大阪市内)にこの構成を適用することで、光ファイバセンシングによる面的なエリアの交通傾向の把握および交通状況のリアルタイム可視化・トレンド分析ができることを実証した。
光ファイバーセンシング機能は以前から交通量の推定、交通や工事による振動の計測、降雪量の有無の測定などに使用する研究開発が進められている。IOWN APNと組み合わせることで、より広域に計測範囲を展開することができる。
光ファイバセンシングによる交通流モニタリングとは
「光ファイバセンシング」とは、光ファイバケーブルをセンサーとして活用する技術。中でも地下に既に敷設してある通信用の光ファイバケーブルを活用して、振動・歪み・圧力・温度・音などを感知してAI分析することで環境モニタリングする技術が注目されている。具体的には、特定の道路の交通量を測定(推定)したり、工事や車両通行による振動や歪みを計測したり、降雪の有無を公道を走る車両からの振動によって検知することなど、現地を見回らならくても一次的な状況把握に活用できる。
NECはこれらの開発に注力していて、光ファイバセンシング装置を光ファイバの片端に取り付けるだけで、最大100km以上にわたって、約50㎝ごとの振動・温度・音などをセンシングする技術を確立している。
NTTが推進している「IOWN APN」での光ファイバセンシングとNECの技術を組み合わせることにより、都市モニタリングの面的な展開が低コストかつ迅速・フレキシブルに実現可能となる。
通信用光ファイバをセンサとして活用するこの「光ファイバセンシング」を使い、工事振動の検知、道路除雪判断の支援、通信設備保守運用の効率化に関する実証実験や技術導入が進み、新たな社会的価値を創出する技術として期待されている。
IOWN APNと光ファイバセンシングを組み合わせることで、IOWN APNによる大量データの高速転送を生かした、高度なデータ解析が可能となり、センシングデータの活用を更に促進できると考えた。さらに、IOWN APNを構成するAPN-Gatewayの光パス選択機能を利用することで、一つの光ファイバセンシング装置でAPN-Gに接続された既設の複数の通信用光ファイバからのデータが測定可能となる。
このように、IOWN APNと連携した光ファイバセンシングは面的、低コストかつ迅速・フレキシブルな都市モニタリングが実現する可能性を備えており(下図)、これらのメリットは、IOWN Global Forumの発刊文書にも記載されている。
今回4社は、IOWNを利用した光ファイバセンシングの社会実装に向け、APN-Gを介して光ファイバセンシングを実施可能にする接続構成を構築。一般道の広域かつ面的な交通流モニタリングを実施した。光ファイバセンシングによる交通流モニタリングはこれまでいくつかの例が報告されているが、複数の一般道に沿って広域かつ面的にモニタリングした実施例は今回が初めてとなる。
技術のポイント
APN-Gに光ファイバセンシング機能を付与可能な接続構成を実現
光ファイバセンシングは光の往復伝搬を利用して測定するため、IOWN APNの光パス上に配置される一方向にしか光を通さないデバイス(光アンプ等)を回避する構成で光ファイバセンシング装置を接続する必要がある。
そのため方向性結合デバイス(光サーキュレータ)を用いて、APN-Gの一方向にしか光を通さないデバイス(光アンプ)を回避して往復したセンシング光を取り出すことが可能なAPN-Gと光ファイバセンシング装置の接続構成を考案・構築した(下図)。
地下管路に敷設された通信用光ファイバを活用
通信光ファイバケーブルや地下管路などには何も手を加えず測定が可能であるため、既存の設備を有効活用して、広域エリアからセンシングデータの取得が可能となる。
一般道向けに最適化した車速解析
高速道路などの長い直進道路とは異なり、交差点などが多く存在する一般道の短い直進道路でも速度・台数を検出できるよう解析を実施した。
共同実験の成果
5台の振動センシング装置をAPN-Gに接続し、既設の通信用光ファイバケーブル(大阪市内の道路地下に敷設)5ルート(延べ37km、8km四方範囲に配線)に対して交通振動を面的に同時測定した。
この交通振動を車速解析アルゴリズムで解析し、一般道の通行車両の平均車速、道路の交通量とその時間変化を200mメッシュの精細な粒度でリアルタイムに可視化できた(下図)。
また、車両の速度と台数の解析結果は5地点で現地測定した正解データと一致する傾向を示すことも確認できた。
一般道の交通流計の場合は、主要幹線のみに数km間隔で設置されるため、膨大な数のセンサの恒久的な設置・運用が必要となり、それが大きな課題となっていた。
一方、APN-Gと連携した光ファイバセンシングでは、都市の隅々まで張り巡らされた光ファイバルート上の任意地点を柔軟にモニタリングできる。広域から収集する交通情報を活用した渋滞検知・予測や、都市交通計画への適用など新たな社会基盤としての活用が期待される。
なお、今回用いたAPN-Gへの光ファイバセンシング装置の接続構成はIOWN Global Forumの発刊文書で採用されている。
なお、実証実験期間は、データ計測が2023年12月~2024年1月。解析・有用性の検証は2024年2~7月に実施された。
各社の役割
NTT:IOWN APNへセンシング機能を付与する接続構成の考案と構築
NTT東日本:車速、台数カウント位置の校正の実施
NTT西日本:交通振動モニタ地点の選定、実証実験に用いる設備の選定・提供
NEC:APN-Gの提供、光ファイバ振動測定及び車速解析の実施
今後の展開
この実証の成果を踏まえ、4社は今後もIOWN Global Forumでの議論など各社と連携しながら、IOWN APNでの光ファイバセンシングの市場展開を図っていくとしている。また「IOWN APNの全国展開とともに、光ファイバさえあればどこでも任意の地点を柔軟にセンシングでき、恒久的なデバイスの屋外設置・構築が不要な、低コスト、広域かつ面的な都市モニタリングの実現をめざします。将来的には、インフラ監視、防災などへの活用や都市計画における自然を取り入れたインフラデザインの実現など都市モニタリングを通じたさまざまな応用展開も見据え、光ファイバセンシングの社会実装による社会/地域課題解決をめざして研究開発と共創活動を推進します」とコメントしている。
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