
NTTは、ドローンを使用した雷を誘発・誘導する実験に世界で初めて成功し、ドローンの耐雷化技術、および電界変動を利用した雷誘発技術の有効性を実際の雷で実証した。
今後は、本成果を通じ、未だ解明されていない雷の発生に関する研究に寄与するとともに、街や人への雷被害の低減に貢献することが期待される。
背景
落雷は人類社会に大きな被害をもたらす自然現象の1つである。
NTTグループの通信設備をはじめとする重要インフラにはさまざまな落雷対策が施されているが、今日においても落雷被害はなくなっておらず、その被害額は国内だけでも毎年1000億円から2000億円と推定されている(電気学会技術報告第902号:2002年より)。NTTは、これまで培ってきた、通信設備を雷から守る技術を大きく発展させ、重要インフラや街への落雷そのものをなくす技術の実現をめざしている。
従来の雷対策としては避雷針を用いる手法が広く使われているが、避雷針によって雷を受ける範囲は限定的であり、また、風力発電の風車や屋外のイベント会場といった避雷針を設置すること自体が困難なケースも存在する。
NTTでは近年発展著しいドローンを用い雷雲の位置に合わせてドローンを移動させ、積極的に雷を誘発した上で安全な場所に誘導する「ドローン誘雷」について研究を進めている。
今回、ドローンに雷が直撃しても誤作動・故障を発生させない「ドローンの耐雷化技術」、および積極的に雷をドローンに落とさせる「電界変動を利用した雷誘発技術」を実証するため、実際の雷雲下でドローン誘雷実験を行った。
実験概要と成果
2024年12月~2025年1月の期間、島根県浜田市山間部の標高900m地点でドローンを使用した誘雷実験を実施した。
実施した実験では、フィールドミルと呼ばれる装置を使用して地上電界を観測し、雷雲の接近に伴って付近の電界強度が高くなったタイミングで独自の耐雷ケージを具備したドローンを飛行させ、雷の誘発を試みた。
2024年12月13日の雷雲接近時、フィールドミルで観測した電界強度が上昇したタイミングで、ワイヤをつけたドローンを高度300mまで飛行させ、地上に設置したスイッチで、ドローンと地上を導通させました。
その結果、ワイヤに大電流が流れ、同時に周囲の電界強度が大きく変化することを確認しました。さらに、雷誘発の直前にはワイヤと地面の間に2000V以上の電圧が生じていることを確認しており、急激にドローン周囲の電界強度を変化させたことで、ドローンに雷が誘発された。ドローンを使用した誘雷の成功は世界で初めてとなる。
技術のポイント
ドローン誘雷を行うためには、雷が落ちてもドローンが飛行し続ける必要がある。さらに、雷雲下にドローンを飛行させるだけではドローンへ雷を落とすことは困難であるため、雷を積極的に誘発する必要があり、以下の技術を提案し実証した。
1:ドローンの耐雷化技術
ドローンに雷が直撃しても誤作動・故障しない、かつ、市中のドローンに具備することができる耐雷ケージの設計手法を考案した。
耐雷ケージは金属製のシールドで、ドローンに雷が直撃した際に流れる大電流を迂回させることでドローン本体に雷電流が流れることを防止する。また、雷電流を放射状に流すことで、大電流により発生する強磁界を互いに打ち消しあい、ドローンへの磁界影響を低下させる。
さらに、耐雷ケージを具備したドローンについて、人工雷の印加試験を実施。その結果、自然落雷の98%以上をカバーし、自然落雷の平均値の5倍に相当する150kAの人工雷を印加した場合においても、ドローンに故障や誤作動が発生しないことを確認した。
2:電界変動を利用した雷誘発技術
雷を誘発するため、飛行させたドローンと地上の間を導電性のワイヤで接続し、その地上側に高耐圧スイッチを取り付け、スイッチの操作によってドローン周囲の電界強度を変化させる手法を考案。
スイッチによって最適なタイミングでドローンと地上を接続し、急激にドローン周囲の電界強度を上昇させることで、雷の誘発を促すことができる。
今後の展開
NTTは、雷が直撃しても故障しないドローンを、高精度に予測した雷の発生位置に飛行させ、雷を誘発し安全な場所に誘導することで、街や人を雷被害から守ることをめざしている。
今後は、今回実証したドローン誘雷の成功率を上げるため、高精度な発雷位置予測、および雷の発生メカニズムに関する研究開発を推進していくとしており、さらに誘雷した雷のエネルギーを蓄積・活用することもめざし、雷エネルギーの蓄積手法の研究開発にも取り組んでいくとのことだ。
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