
ソフトバンク株式会社は8月21日(水)、AI-RAN(AIを活用した無線アクセスネットワーク)のコンセプトの一つである「AI for RAN」の研究開発において、高性能AIモデル「Transformer(トランスフォーマー)」を活用したAIアーキテクチャーを新たに開発したと発表した。
実環境での実証で大幅な性能向上を確認
今回の実証では、5G(第5世代移動通信システム)の通信速度(スループット)を約30%向上させることに成功している。本アーキテクチャーをGPU(Graphics Processing Unit)上で動作させ、実際の無線環境(OTA:Over-the-Air)での検証を行った結果、リアルタイムの動作確認に加えて、通信品質の大幅な向上や超低遅延処理を実現した。
具体的には、アップリンクチャネル補間(通信リソースの一部から伝送路全体の特性を推定・補間する技術)により、CNNと比較して上りスループットが約8%向上し、ベースライン方式と比較すると約30%のスループット向上を達成している。これは、AIモデルの継続的な進化が実環境での通信品質向上につながることを実証した重要な成果である。
高性能化と超低遅延処理の両立を実現
5Gのリアルタイム通信では1ms(1ms=1,000分の1秒)を下回る処理が求められるが、Transformerを活用した今回の実証では、平均約338μs(1μs=100万分の1秒)という超低遅延処理を実現した。CNNを利用した場合よりも処理速度が約26%高速化し、一般的にAIモデルは高性能化に伴って処理速度が低下するという課題を解決している。
シミュレーション環境でも大幅な改善を確認
本アーキテクチャーを活用したサウンディング参照信号(SRS)予測のシミュレーションでは、下りスループットが時速80kmで移動する端末において約29%、時速40kmで移動する端末において約31%向上した(ベースライン方式との比較)。これまでのMLP(多層パーセプトロン)を用いた研究では約13%の向上にとどまっていたが、AIモデルの高性能化により改善率が2倍以上になることが実証された。
新アーキテクチャーの3つの特長
今回開発されたアーキテクチャーには、以下の3つの主要な特長がある。
(1)無線信号全体の関連性を把握
Transformerの「自己注意機構(Self-Attention)」を活用し、無線信号が持つ周波数や時間などの広範囲の相関関係を把握することで、軽量化しながらも高いAI性能を維持する。
(2)無線信号の物理情報を保持
通信品質を示す重要な物理情報である「無線信号の振幅(大きさ)」を保持するため、正規化処理を実施せずにそのまま利用する独自設計を行った。
(3)さまざまなタスクに対応できる汎用性
共通設計をベースにしており、出力部分のわずかな変更のみでチャネル補間・推定やSRS予測、信号の復調など、性質が異なるさまざまなタスクに対応できる。
将来の通信インフラ革新への準備
今回の実証結果は、5G-Advancedや6G(第6世代移動通信システム)時代に求められる高度な通信性能の実現には、Transformerのような高性能AIの活用とGPUが不可欠であることを示している。GPU上でRANを制御するAI-RANは、一度ハードウェアを導入すれば、将来さらに高性能なAIモデルが登場してもソフトウェアの更新のみで継続的な性能の向上が可能となる。
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