
ソフトバンク株式会社は、Nokia(ノキア)と協力し、「6G」(第6世代移動通信システム)向けの周波数として検討されている「7GHz帯の電波(センチメートル波)」を利用した屋外実証実験を、2025年6月に日本の通信事業者で初めて(※1)開始したことを発表した。
この実証実験では「6G」の実用化に向けて、東京都心部に7GHz帯の実験用基地局を3局設置し、「Massive MIMO技術」を活用することで、都市部において「5G」と同等の6G通信エリアを形成するための検証を行う。
(※1)2025年6月13日時点(ソフトバンク調べ)
センチメートル波および7GHz帯について
センチメートル波とは、波長が1~10cm程度、周波数では3~30GHzの電波のこと。「5G」では6GHz未満の周波数帯域「サブ6」が知られているが、「6G」では移動通信システムの国際標準化プロジェクト「3GPP」で「FR3」(Frequency Range 3)と呼ばれる7~24GHzが次の新しい周波数として期待されている。
今回の実証実験で利用する7GHz帯(特に7,125~8,400MHz)の電波は、ITU-Rの2027年世界無線通信会議(WRC-27)において、将来の6G向けの周波数帯として議論される予定だ。7GHz帯なので比較的サブ6に近い周波数帯になる。
7GHzと「5G」の違い
5Gで使われている周波数帯は、大きく分けて「Sub6」と「ミリ波」(28GHz帯など)がある。電波は高い周波数になるほど高速性に優れるが、通信の範囲が狭くなり、回り込みが苦手になる傾向が強い。一般に「Sub6」は3.7GHzや3.9GHz帯、4.0GHz帯、4.5GHz帯などが使用されている。もう一方の「ミリ波」は28GHzなど高い周波数のため、高速大容量には優れるが、電波が届く範囲が狭く、障害物の影響を受けやすい。
その意味では、「7GHz帯」は「Sub6」周波数帯に近く更に高速性が期待でき、「ミリ波」より届きやすく実用性が高い帯域になる可能性が高い。
【参考】
サブ6 | ~6GHz(3.7や3.9、4GHz帯等)[5G] |
---|---|
センチ波 | 7GHz帯付近 [6G] |
ミリ波 | 28GHz [5G] |
テラ波 | 1THz前後 [研究段階] |
AIの普及でモバイル通信のデータ量は更に増加
モバイル通信のデータ量は増加傾向にある。今後はAIの普及などにより、さらに通信データ量が増加すると予測されている。こうした中、人口が集中する都市部では、ビルが密集していることにより電波が届きにくい場所があるなど、通信エリアの形成が難しいという課題がある。
「6G」では、増加し続けるデータ量に対応するため、「通信容量の確保」と「エリア形成」の二つの観点でバランスが取れた新しい周波数帯の電波として、7GHz帯の利用が期待されている。
2025年6月に銀座エリアで屋外実証実験を開始
ソフトバンクは「7GHz帯の実験試験局免許を取得」し、2025年6月に東京都中央区の銀座エリアで屋外実証実験を開始した。
この実験では、7GHz帯によるエリアの広さや電波の特性を5GのSub6と比較して検証するため、ビルの屋上に設置されている3.9GHz帯の商用5G基地局と並べて、7GHz帯の実験用基地局を設置した。さらに、Massive MIMO技術を活用することで、周囲に連続した通信エリアを構築することを目指す。
今後、実証実験エリアの屋内外で測定を行いながら、6Gの実用化に向けた研究開発を進めていく予定。
実験の目的 | 7GHz帯の通信サービス性能(エリア、通信速度など)と実用化に向けた有効性の検証 |
---|---|
実施場所 | 東京都中央区銀座エリア |
利用する電波の周波数帯 | 7,180~7,280MHz |
実験用基地局数 | 3局 |
各社の役割 | ソフトバンク:実証実験の実施 ノキア:基地局・実験用端末の提供 |
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神崎 洋治
神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。