
アマゾンは2025年7月8日、報道関係者向けに「第2回 自動車業界におけるAWSの取り組み(SDV領域)に関する記者勉強会」を開催し、AWSが自動車業界のコネクテッド、ECU開発、SDV領域向け等に提供しているソリューションや近況、導入先と活用事例などについて発表した。
勉強会で「クラウド利用が盛んな各社のコネクティッド基盤事例」において、日本の自動車メーカーを含む6社のAWS活用事例も紹介された。
ソニー・ホンダモビリティでも知性を持つクルマ「AFEELA 1」のADAS開発等にAWSが活用されている。
自動車業界を変革する「SDV」とは
AWSの記者勉強会からは話が脱線するが、本題の前に「SDV」とは何かについて簡単に説明しておきたい。
グローバルで見ると、自動車業界では「SDV」(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義型自動車)への動きが活発化している。
従来は主に自動車の性能はクルマそのもの、つまり「ハードウェア」に依存してきたが、SDVはソフトウェアが中心になってクルマを制御し、ソフトウェアのアップデートによって性能の向上や機能の追加が実施される。そのため、今まで原則としては自動車本体の売りきりビジネスだったが、SDVでは購入してからもアップデート(OTA:Over-the-Air)で性能を安定させたり、向上したりすることができ、サブスクでのビジネス展開も可能なことから、自動車産業のサプライチェーンやビジネスモデルに大きな変化をもたらす可能性を持っている。
SDVの事例
最も解りやすいSDVの事例は米テスラだろう。少し古い例では2015年にオートパイロット機能の追加が実施されているが、その前に同車種(オートパイロットなし)を購入していたユーザーは、ソフトウェアのアップデートによってこの機能を追加することができた。
その後も、自動運転機能(フルセルフドライビング)を追加したり、加速性能やブレーキ性能を向上したり、バッテリー管理の最適化によって航続距離を延長するなどもOTAだけで実現している。
SDVの導入はテスラだけでなく、メルセデスやBMWなど、先進的なイメージを持つメーカーは積極的に取り組んでいるが、日本ではまだ活発化していない。トヨタは独自のソフトウェア基盤「Arene(アリーン)」を開発し、同社初のSDV量産車両として新型「RAV4」を発表した。
自動車業界向けソフトウェア開発基盤「AWS for Automotive」
さて、話をAWSに戻そう。
AWSは、「自動車ソリューションの革新、近代化、 スケールを容易に」するため「AWS for Automotive」として既にソリューション・セットを提供している。カバーする領域全体としてはかなり広範囲にわたっていることがわかる(下図参照)。
ソリューション提供先の例
そして、これらのソリューションを提供している自動車メーカーやサプライヤーなどを発表した。自動車メーカーではトヨタ、日産、ホンダ、BMW、フォルクスワーゲン、マツダ、スバル、ダイハツ、ジャガー・ランドローバー、GM、フォードなど、多くの有名な自動車メーカーが名前を連ねている。
ティア1サプライヤーもデンソー、Continental、パナソニック オートモーティブなどの名前がある。半導体事業者はNVIDIAやクアルコム、ルネサスなど。
では、これらの事業者はなぜAWSを選択しているのか。
岡本氏は「自動車業界専用のサービスやソリューションを設定し、品揃えの豊富さ」を強調した。続けて「豊富な業界経験と専門知識。AWSはクラウドコンピューティングのサービス提供を、業界では最も早く、2006年から開始している。長期間の信頼関係を持ち、グローバル展開でご一緒させて頂いている自動車業界のお客様も多い」と語った。そして3点目として「AWS上での稼働実績があり、AWSと共同でソリューション開発してきたパートナーが豊富にいる点にも価値を感じて頂いている」とした。
岡本は「SDV領域では、開発ツール環境、仮想ECU 、コネクティッド基盤の3つの道具立てが重要。AWSはお客様と3つの道具立ての事例を進めながら、SDVによる課題解決に貢献していきたい」と語った。
「AWS for Automotive」導入・活用事例
勉強会の後半には、AWSの梶本氏が登壇し、実際のSDV開発領域について、事例を交えて解説した。
梶本氏はまず、車載機能のハードウェア・ソフトウェア構成(ECU)を紹介。SDVでは車両の機能が、電子制御ユニット(ECU: Electronic Control Unit)にまとめられて、かつECUは6つのグループに分類される、とした。
6つのグループとは「ADAS (Advanced Driver Assistance Systems)」「AV (Autonomous Vehicle)、AD (Autonomous Driving」「Infotainment (In Vehicle Infotainment: IVI)」「Gateway (Central)」「Powertrain / Chassis」「Body」だ。
これらECUのソフトウェア開発に必要なツール環境を「AWS for Automotive」では用意している。
ADAS (Advanced Driver Assistance Systems)
自動ブレーキ、白線認識、クルーズコントロール、 etc.
AV (Autonomous Vehicle)、AD (Autonomous Driving」
L2: Hands Off, L3: Eyes Off, L4: Brain Off, L5: BO anywhere
Infotainment (In Vehicle Infotainment: IVI)
カーナビ、 AV 機器、ラジオ、スピードメータ、 etc.
Gateway (Central)
車内外通信、セキュリティ管理、車載ソフト構成管理、 etc.
Powertrain(パワートレイン) / Chassis(シャーシ)
車内外通信、セキュリティ管理、車載ソフト構成管理、 etc.
Body
エンジンやモータ制御、ステアリング、アクセル、 etc.
Hondaの事例を紹介
続いて梶本氏は具体的なクライアント事例をいくつか紹介した。
まずはホンダの「Honda Digital Proving Ground (DPG)」事例。
2025年1月に発表したAWSのプレスリリースにおいて「DPGにより Honda は、物理的なハードウェアへの依存を減らし、自動車のエンジニアが自動車を製造する前にクラウド上で設計・テストを行う ことを可能にし、生産工程全体に要するスケジュールを短縮する見込みです。そして、DPG の仮想環境における開発は、実環境での開発に比べて大幅なコスト削減も期待できます」としている。
また「Honda は、車両の品質、安全性、そして自律性の向上に向け、クラウドの接続と管理に AWS の IoT サービスを活用して継続的なソフトウェア開発とアップデートを提供します。加えて Honda は、ビデオ処理および分析アプリケーション構築の検討を進めるため、デバイスからライブビデオをストリーミングするマネージドサービスである Amazon Kinesis Video を活用します。これにより、インフラ管理を必要とせず、カメラ映像の保存、分析、そして機械学習を可能にします。これらは、車外の不審な動きの検知や衝突や車の破損を避けるためのドライバーへの警告などの実現に役立つと考えています」とも説明している。
「仮想ECU」ソリューション
続いて梶本氏は、「仮想ECU(V-ECU)」を紹介。「仮想ECU」とは、実際のECUの機能をソフトウェア上、デジタルツインなどで高精度にシミュレーションすること。実際のハードウェアがない場合でも、ソフトウェアの動作確認や性能をシミュレーションできるため、開発期間の短縮やコスト削減がはかれる。
なお、2018年からAWSは、ARM社製CPUを採用したデータセンター向けLSI「Graviton」を自社で設計。ECUで使われるARM社CPUの「Cortex A / M / R」シリーズの命令コードをAWS Graviton上でそのまま動かせる「ARM on ARM技術」を搭載しているため、高精度な「仮想ECU」ソリューションが展開できる。
ECU向けのARM社製CPUの命令コードをAWS Graviton上で動かすためのSDKを提供している。
ソフトウェアエンジニアの開発時間を最大70%短縮(マレリ)
続いて「仮想ECU」の効果について、マレリ社のプレスリリース(2023年4月)を引用。「マレリのデジタルツインは、ソフトウェアエンジニアが開発時間を最大70%短縮し、プロトタイプ開発のコストを最大30%削減することを可能にし、より効率的かつ費用対効果の高い方法でソフトウェアの進化を実現」したことを紹介した。
パナソニックの事例
更に、顧客の事例としてパナソニックオートモーティブシステムズの「デジタル コックピット (IVI) 仮想開発」(Virtual SkipGen/デジタルツイン)、そのほか同社とは多数のプロジェクトで連携活用事例があるという。
ソニー・ホンダモビリティ「AFEELA 1」ADAS 開発
Sony Honda Mobilityが開発中の知性を持つクルマ「AFEELA 1」のADAS開発にもAWSが活用されている。各車両からのデータを収集、匿名化、認識ラベル付けを行いデータレイクに集約して管理、「Amazon SageMaker Hyperpod」を用いてAIの学習を効率的に実行、学習済のモデルは推論エンジンとして「Amazon EC2 (DL2q)」を「仮想ECU」として用いて、シミュレーションで推論結果を検証しているという。
この事例は、2025年6月に開催された「AWS Summit Japan 2025」に展示された。自動運転の開発・検証がクラウド上でできるため、修正と検証を高速に繰り返し精度を高められるというメリットがある。
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神崎 洋治
神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。