東日本電信電話株式会社(NTT東日本)と三菱電機株式会社は、インフラ点検の効率化を目的に、IOWN(アイオン)におけるオール・フォトニクス・ネットワーク(APN)を使って3次元点群データの遠隔閲覧と遠隔解析の実証を2024年10月7日から2025年1月17日にかけて実施し、それに成功したと発表した。
これに伴い、NTT東日本が開催した「地域ミライ共創フォーラム2025」の展示ブースにおいて、三菱電機のシステムを活用した時の点群データの通信デモを、IOWN(100Gbps)とインターネット環境(フレッツ光の模擬:100Mbps/遅延3ms)を比較した内容で公開した。
膨大なデータ容量の点群データ解析に超大容量通信IOWNは有効か
実証実験では、三菱電機の三菱多次元施設・設備管理システム「MDMD」とIOWNのAPN装置を接続し、三菱インフラモニタリングシステム「MMSD」で取得した点群データの遠隔解析・遠隔閲覧の有効性を確認した。
ポイントとなるのは、大容量の点群データの超高速通信。東京調布の「NTT中央研修センタ」にある「NTTe-City Labo」(IOWN Lab)に点群データが保存したPCを設置し、NTT東日本初台本社ビル(新宿区)に設置した解析マシンを、1波長あたり「100Gbps」の大容量かつ低遅延、ゆらぎゼロの特長を持つ「IOWN APN」で接続した。
点群データによる遠隔からの監視・確認、異常の有無の解析をほぼリアルタイムでおこなったり、点群データからデジタルツイン(リアリティな仮想空間)を即時構築する技術として活用できる。
社会インフラの老朽化、点検整備には超大容量・高速通信が必要
背景には、高度経済成長期に集中的に整備された社会インフラの老朽化が急速に進行していること。2020年からの20年間で、建設後50年以上経過する施設の割合は加速度的に増加、特に道路・橋梁においては、約7割を超えると見られている。このため、インフラを計画的かつ効率的に維持し、必要に応じて確認や修復、あるいは再構築が求められている。
安全なインフラ維持の実現に向けて、三菱電機は「MMSD」や「MDMD」によるトンネル等のインフラ点検を支援する計測および解析サービスを提供していて、NTT東日本は、レーザスキャナ・カメラを搭載した計測車両が道路を走行しながら、道路周辺の3次元位置情報を高精度で効率的に取得する車両搭載型計測システム「MMS」を利用し、電柱点検を行うなど、両社は点群データを活用したインフラ維持管理に関する取り組みを進めている。
しかし、点群データはデータの容量が非常に大きく、一般的なPC等では限られた範囲しか解析できないため、高性能な解析マシンを用いて解析する必要がある。しかし、インターネット回線を利用したデータの送信や遠隔での解析・閲覧などの作業は困難で、従来は点群データをSSD(大容量メモリ)等に収容し、「郵送」する方法(下図)がとられ、それが迅速な作業のボトルネックとなっていた。具体的には、点群データで異常個所を再確認したいとき、データ不備等による再計測の対応が必要なときなど、その場でのやりとりで迅速に行えない等が発生していた。
この課題に対し、三菱電機とNTT東日本は、IOWN APNの「大容量」「低遅延」「ゆらぎゼロ」の特長を活かした点群データの遠隔解析・遠隔閲覧の実現に向けて実証を試み、それが実用的であることを確認した。
今後の展開
三菱電機とNTT東日本は、本実証で得た知見を基に、点群データの遠隔解析および閲覧における新たな取り組みを進めていく考えだ。
遠隔で点群データのリアルタイムな解析・閲覧が可能になることで、インフラ管理において、異常を即座に検知し、インフラ設備の補修対応の迅速化、予防保全の効率化に貢献していく。また、街づくりでは、都市の3Dモデルをリアルタイムで更新し、交通渋滞の緩和や新しい建造物の影響をシミュレーションすることで、住みやすい都市設計が可能になる。
今後も両社は協力し、将来的には、IOWN構想における「デジタルツインコンピューティング(DTC)」を支える4Dデジタル基盤を実現し、それによって可能となる高精度3D空間情報の整備における点群データの効果的かつ効率的な活用をめざす。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。