生成AI、そしてAIエージェントの登場は、もはや一過性のトレンドではなく、産業構造や働き方そのものを根底から変えつつある。更に、2040年には汎用人工知能(AGI)、その先には人工超知能(ASI)さえ視野に入り始めているとされている。
「2030年、日本の産業はどこまでAIレディーになっているのか?」「AIと共生する社会に向けて、いま企業が備えるべきこととは・・」そんな問いかけのもと、報道関係者向けの合同セッションが2025年9月4日(木)に開催された。
AGI時代に備える日本企業──産業・医療・インフラの最前線から見えるビジネス機会
生成AIの普及を契機に、AIは研究開発の段階から社会実装のフェーズへ移りつつある。だが、日本企業の対応スピードは世界に比べて遅れがちだ。産業・医療・インフラの領域で事業を展開するプレイヤーが一堂に会し、AI時代の市場機会と戦略を議論した。登壇したのは、さくらインターネット取締役の前田氏、AI医療機器協議会の会長であり、AIメディカルサービスの代表取締役でもある多田氏そして、Laboro.AI代表取締役 CEO 椎橋氏だ。
「2030年にはAI前提経済が到来」Laboro.AI
椎橋氏は、AI進化の時間軸が急速に短縮していることを強調した。かつては2045年頃と予測されたシンギュラリティ(技術的特異点)は、2030年、場合によっては2027~28年にも到来する可能性があるという。
背景には、AIが人間の知能を模倣する段階を超え、自律的にタスクを実行する「AIエージェント」や、物理空間を制御する「フィジカルAI」が急速に普及しつつあることがある。
「AGIやASIが現実味を帯びれば、産業構造そのものが再編される。対応が遅れれば、日本企業の競争力低下は避けられない」と椎橋氏は警鐘を鳴らした。
「インフラ企業の新収益源」さくらインターネット
この変化を収益機会ととらえ、事業展開を進めるのがさくらインターネットだ。同社は北海道・石狩に大規模データセンターを構え、GPUを活用したクラウド基盤を提供している。
「かつては学習需要が中心でしたが、現在は推論利用が急拡大しています。これは社会実装の兆しです」と前田氏は述べる。推論環境は、企業のアプリケーション開発や業務効率化サービスに直結するため、今後の利用拡大が確実視される。
実際、同社のGPUクラウド関連売上は前年比で倍増。大手企業からの引き合いに加え、スタートアップや学生まで幅広い層にユーザーが広がっている。課題は「実証止まり」から「本格導入」への橋渡しであり、前田氏は「日本全体のスピード感を高める仕組みが必要」と訴えた。
「医療AI市場は30兆円規模へ」AIメディカルサービス
AIの活用が特に期待されるのが医療分野だ。AIメディカルサービスの多田氏は、内視鏡診断支援AIの事業展開について説明した。
消化管がんは世界の死因の約3分の1を占めるが、早期がんの見逃しが課題となっている。同社のAIは検査中に疑わしい病変をリアルタイムで提示し、診断精度を向上させる。2024年に第1弾を上市し、2025年には改良版を投入した。
「AIを使った医療機器市場は2030年に30兆円規模に達する」と多田氏。すでに製品化を進め、協議会を通じて業界ルール整備にも取り組んでいる点は、事業としての先行優位性を確立しつつある証左と言及できる。
今後は国内市場にとどまらず、アジアを中心とした新興国展開も視野に入れる。医師不足や地域格差の解決手段としてAI診断の需要は高く、日本発の技術が世界市場で存在感を発揮する可能性がある。
日本企業が直面する課題とチャンス
議論を通じて共通していたのは、日本企業の「社会実装の遅さ」だ。研究・技術開発の成果は多く存在するが、収益化・事業化への道筋が不十分である。
椎橋氏は「AGI・ASIの時代に1社完結は不可能。エネルギー、半導体、クラウド、医療といった分野を横断したオープンなエコシステムが不可欠」と指摘した。
インフラ企業の収益化モデルと、医療分野での具体的な製品化の動きは、日本にも確実にポテンシャルがあることを示している。残された課題は、それらの取り組みを横串で結びつけ、スケールさせられるかだ。
AIはすでにビジネス機会のフェーズにある
生成AI、AIエージェント、フィジカルAI──これらの進化が重なる2030年、日本の産業は「AI前提経済」へと突入する。さくらインターネットのような基盤企業、AIメディカルのような応用企業が市場での実績を積み重ねる中、日本全体がどうスピードを上げられるかが問われている。
AIはすでに研究テーマではなく、ビジネス機会そのものだ。各社が本格的な事業実装に踏み出せるかどうかが、日本の競争力を左右するだろう。
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